問題、1 始まり
照りつける夏の日差しの下、11歳の三又湊は歩き続けていた。父の怒鳴り声が、まだ耳の中で反響している。
「出て行け!」
その言葉は母に向けられたものだった。母は黙ったまま立ち尽くし、父は玄関のドアを激しく閉めて出て行った。湊は自分の存在が、この家族の不和の原因のように感じられて、気がつけば走り出していた。
日が傾き始めた頃、疲れ果てた湊は駅前の小さな公園のベンチに座っていた。財布もスマートフォンも持たず、後悔が押し寄せる。
「あの、大丈夫?」
声をかけられて顔を上げると、若い女性が心配そうに覗き込んでいた。二十代くらいだろうか。
目の下には疲れの色が濃く、黒のタイトスカートは流行を意識した可愛らしいものだったが、パンプスは所々擦り切れている。コンビニのバイト帰りらしく、エプロンを腕に抱えていた。
「迷子?」
湊は首を振った。「家出です」
女性は少し考え込むように湊を見つめ、そっと微笑んだ。
「私は美雪。あ、23歳。怪しい人じゃないから」
そう言って美雪は、コンビニで買ったらしいおにぎりを差し出した。
「もし良かったら、うちで休んでいく?実家じゃないけど、一人暮らしの家」
湊は迷った。しかし、この人になら話せるかもしれない。そんな直感が、疲れ切った心の中に芽生えていた。
美雪の軽自動車は、郊外の住宅街へと向かった。車内は柔らかい香水の香りがした。ラジオから流れる音楽に合わせて、美雪は時々鼻歌を歌う。その仕草には、無理して大人を演じている若さが垣間見えた。
「お腹減ったでしょ。何か食べたいものある?」
Q1 .▶︎ファミレスに行く
お姉さんに作って貰う