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7 刑事 vs 建築家

 家宅捜索は30分ほどで終わって、たくさんの段ボール箱が運び出されてきた。

「あれ? 尾和利さん、まだいたんすか?」


 この若い刑事の尾和利さんに対する扱い、何なんだろう?

 先輩に対して、失礼だよね?


 尾和利さんが元は刑事課にいたらしいことは、さっきのやり取りから推理できたけど、なんでこんな若造にここまで言われなきゃなんないわけ?

 わたしはこの若い刑事の胸ぐら掴んでやりたくなったが、そこはわたしも一応大人だ。自分の立場をわきまえて、その衝動をぐっと抑えた。

 わたしは輝子先生の弟子で、尾和利さんはその輝子先生の施主さんなのだ。


「ああ、俺はね、こちらの『市民』の方から『生活安全課』としてお話を伺ってたんだ。まあ、そこで得た情報を刑事課の君たちに伝えてもいいんだが・・・日寄見ひよりみくん。」


 あ、日寄見ってのがこの若い刑事の名前か。


「このまま黙ってて、君たちが裁判で大恥かくのを高みの見物って手もあるな。何しろ、部外者だからねぇ。」

 そう言って尾和利さんは、にやりと笑った。押しが効いている。


 あれ? 尾和利さん、なんかちょっとカッコいいんですけど?

 でも、それじゃ・・・。侑さんを助けるためにわたしたちは相談してるのに・・・。


 輝子先生は? と見ると、いつもの、ほにゃ、とした顔をしてそれを眺めている。

 それでいい、って感じなんだろう。


「おい、なんか聞き捨てならないこと言ってるな。尾和さん。」

 尾和利さんと同年輩くらいの顔の丸い刑事が、車から離れてこちらに歩いてきた。少しくたびれた背広を着てやや背は低いが、アメフトでもやっていたようなガタイのいい人物だ。


「どういう情報だって? 昔のよしみで教えてもらうわけにはいかないかな?」

「相変わらず耳がいいなぁ、蜂辺はちべさん。もちろん教えますよ。同じ警察内部で意地を張り合ってたってしょうがない。」

 そう言って尾和利さんは相好を崩した。


「え? もう刑事部は出ていった部外者なんでしょ?」

 若い日寄見刑事が、ちょっと不服そうに口を尖らせる。

「お前は部長の言うことを鵜呑みにしてるようだがな——。」

と、蜂辺刑事が小さな目を日寄見刑事に向けた。


「刑事部長とケンカして生活安全課なんかに出てっちゃったが、この人は『聞き込みの尾和さん』って言われた伝説の凄腕なんだぜ?」

なんか(・・・)、はないでしょ。蜂辺さん。」

「いや、わりぃ。お前はそこ希望したんだったよな。・・・で? 何を聞き出せたんだ?」

「真犯人の逃走経路ですよ。」

「なんだと?」

 蜂辺刑事は小さい目をまん丸に見開いて、身を乗り出した。


「も・・・目撃者なのか? この人たち!」

 それから後ろを振り向くと車の側で待っている捜査員たちに手を上げて、ハエでも追うような仕草をした。

「おい。お前たち、先に署に戻ってろ! 少し聞き込みをしていく。おい、日寄見!」

「はひ!?」

「マスコミを遠ざけろ。」


 日寄見刑事がマスコミに離れるように指示を出している間に、蜂辺刑事は背中を丸めるようにして輝子先生に顔を近づけた。

「何をご覧になったんです?」

 打って変わって真剣な目をしている。小さいが、獲物を狙う猛禽類の目だ。


「見たのはこれだけですわぁ。」

 輝子先生は、ほにゃ、とした顔のまま、ブロック塀の傷を指さした。

「あとは推理ですの。」

「は?」

 蜂辺刑事が一瞬、間の抜けたような顔で口を開けた。


 輝子先生はお構いなく話を始める。

「この傷は、真犯人がここを上って逃げる時、何か硬いものをぶつけた痕だと考えられます。」

 先生は淡々と説明を続ける。

「真犯人はこのブロック塀の上を走って、北側の道路まで逃げたんです。それで防犯カメラには写っていないんですの。」


「そ・・・それは、ただの憶測でしょう?」

 蜂辺刑事はちょっと笑いかけた。

 ・・・が、輝子先生は意に解さない。

「その可能性はツブしました? この傷は、捜査員の誰かが発見してます?」

「う・・・それは・・・」


「それでは、北側の道まで行きましょう。そこでわたしの推理をお話しします。」

 そう言って輝子先生は歩き出した。蜂辺刑事と日寄見刑事があっけにとられた顔で、そのあとに続く。

 尾和利さんが、にやにや笑いながらそのあとに続いた。


「あなた方警察は、その推理が当たっていない(・・・・・・・)ことを証明しなくてはなりません。」

 先生は歩きながら、さらにたたみかけた。

「でないと、わたしは裁判で弁護側の証人としてこの可能性を証言しますよ。合理的な疑いが残る——と。」


 うわっ。

 輝子先生・・・。本格的に『名探偵』やってる——。

 わたしは設計事務所に就職したことなどすっかり忘れて、ちょっとわくわくしてしまう。



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