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世界で二番目に強い猫と女の子  作者: ひなたひより
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第6話 忠雄の計画

 山田風香の意中の少年、二宮君が引っ越すまで一週間を切った。

 フラリと恭子の部屋を尋ねてきたトラオに、ベッドの上のミースケがたいして興味も無さそうに口を開いた。


「それでどうだ? 進展はあったか?」


 トラオは両腕を上げて、不自然なポーズを取った。お手上げだと言いたいのだろう。


「あのチビ、自分のこと棚に上げて、早く願い事を叶えろってそればっかりなんだ。つきあってらんねーよ」

「愚痴を言いに来たのか? だいたいお前が安請け合いして来たんじゃないか」


 そこに風呂から上がって部屋着に着替えた恭子が部屋に戻ってきた。


「あら、トラオ、来てたんだ」

「ああ、この前はすまなかったな」

「それで進展はあった?」

「ない。キョウコもこいつと同じことを聞くんだな」


 何だか投げやりな態度だ。まあ気の短いトラオにはこういった役は荷が重いに違いない。


「んー、どうすりゃいいんだ……」


 器用に腕を組んで首を傾げるトラオに、ミースケと恭子は意外そうな目を向ける。


「なんだ、てっきり匙を投げたのかと思ったぞ」

「私は愚痴を言いに来たのかと思った。文句を言いながらも前向きに考えてるなんて偉いじゃない」


 ちょっとだけトラオを見直した。本当にちょっとだけだが。


「うーん、俺は人間のことはあんまし解らないし、ミースケは頭の固い所があるし、キョウコは恋愛に関心がある割に腰抜けだし」

「腰抜けで悪かったわね」

「あのじゃじゃ馬のチビを二宮君とくっつけるのは二宮君に申し訳ない気もするが、約束は約束だからな……」


 トラオの割には一応考えている。しかし、恭子には全くあの風香と二宮君が結ばれている画が浮かんでこなかった。


「そうだ。カトリーヌは男を手玉に取るのが上手いそうじゃないか。なあキョウコ、あいつに相談してくれないか?」

「あのね、如月さんのやり方は圧倒的な外見力があることが前提なの。風香ちゃんどころか、誰にも真似できないの」

「そうか……」


 トラオはガックシと肩と呼べるほどもない肩を落とした。


「キョウコ、忠雄に相談してみたらいいんじゃないか?」


 いきなりそう発言したミースケに、トラオの元気がちょっとだけ回復した。


「野村君に? 彼も恋愛に関しては奥手でしょ。ちょっと無理があるんじゃない?」

「そうかな、行動は起こせずとも、あいつは机上の空論にかけては一級品の腕前を持っていると俺は見ている。キョウコにまつわる色々な想像を何万回もしているはずだ」

「いやらしい! 色々って何よ!」

「ん? なんでいやらしいんだ? どうやったら仲良くなれるかを何度もシュミレーションしているはずだって言ってるんだが」


 恭子は頭から湯気が出そうなくらい真っ赤になった。

 その様子に、トラオがヒヒヒと薄気味悪い笑いを浮かべた。


「いやらしいのは、どっちなんだろうなー」

「帰れ!」


 恐らく悪戯心で誘導したことなのだろう。とっても恥ずかしい感じに勘違いした恭子は、その腹立たしさをトラオにぶつけて追い出したのだった。 


 しかしその翌日、恭子は忠雄に風香のことを相談し、貴重なアドバイスをもらって帰ってきた。

 そして再び作戦会議を開き、具体的な計画を披露した。


「風香ちゃんのことを相談したところ、野村君は男子目線でアイデアを出してくれたわ。そして、恋のライバルがいることを前提に草案をまとめてくれた」

「ほう、それはどんな?」

「まず二宮君の心に刺さるイベントを起こす。心に刺さるにはありふれたものでは駄目なわけ。野村君が言うには心に刺さる最大のものは、思いがけない優しさなんだって」

「は? なんだそれ?」

「予見できないような優しさを見せられたら、男子は恋に落ちてしまう。野村君はそう言ってたわ」

「具体的にどうしたらいいのかさっぱりわからん」


 トラオもそうだが、ミースケも理解し難いようで、難しい顔をしている。


「まあそうよね。それでここからは、わたしなりの具体案をまとめてみました」


 恭子は自信たっぷりにトラオを指さした。


「ねえトラオ、もしあのお転婆な風香ちゃんが、しおらしい感じになったらどう思う?」

「あーナイナイ。あいつに限ってそんな感じにはならない」

「でしょ。そこが狙いなのよ」


 恭子はトラオがそう答えるだろううと、分かっていたようだった。


「つまり風香ちゃんは根っからあんな感じなの。気に入らなければ実力行使に出る。あんたたちと似た感じなわけよ」


 トラオと一緒くたにされたミースケは、すぐに不満を口にした。

 

「トラオはそうかもだけど、俺は違うぞ」

「いいえ、ミースケだってしょっちゅう気に入らない犬や不良を殴ってるよね。まあそれは置いといて」


 余計な話を省いて、恭子はここで今回の計画に関する中核の部分を発表した。


「ここで野村君の言ってた思いがけない優しさに立ち返ってみるわね。つまり風香ちゃんが女の子らしい感じになって、二宮君に優しくするだけで……」

「そうか、元があんなんだから、意外性が半端ないわけだ」


 ミースケはその意図を理解して、成る程と感心を示した。


「そうゆうこと。いわゆるギャップ萌えってやつね。もう日にちも無いことだし、一発逆転を狙うにはこれしかない。そう思わない?」


 二匹の猫は揃って首を何度か振って頷いた。

 トラオは感心しつつ、一つの疑問を誰に言うともなく口にした。


「うーん。忠雄は凄いやつだな。ここまで頭が回るのに、どうして自分のことだとからきしなんだ?」

「それが野村君のいい所なのよ」


 そのひと言で片付けて、それから恭子は具体的な大逆転計画の全てを二匹に聞かせたのだった。

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