凡人転生者、異世界で平凡に稼ぐ事に専念する
「おつかれ」
迷宮から出て、仲間に声をかける。
「おつかれ」
「おつかれさん」
「おつかれさまです」
様々な返事がくる。
それを聞きながら、男は今日も無事に帰ってきた事を喜んだ。
世界中にあらわれた迷宮。
そこから出てくる怪物。
これらを相手にする仕事として、迷宮探索者が生まれてかなりの時間が経つ。
そんな探索者を男は生業にしている。
最初に知った時には驚いたものだ。
この世界にはこんなものがあるのかと。
地球の日本での前世を持つ男には、本当にファンタジーだなと感動したものだ。
そんな転生者である男は、生活のためにやむなく探索者になった。
職業選択の自由なぞない身分社会の世界である。
唯一自由に選べる職業はこれしかなかった。
仕方なく命がけのこの仕事で食っていく事になった。
そんな転生者は迷宮に挑むにあたってただ一つの事を守ってきた。
「必ず生きて帰る」と。
その為に様々な事を切り捨てた。
無理して先を急がない。
無理をして稼ぎを追い求めない。
生活の分は稼がねばならないが、それ以上は無理に追求しない。
とにかく身の安全を最優先にする。
これだけを徹底していった。
前世の記憶から考えた事でもある。
無理や無茶を重ねても、どこかで失敗する。
そして、そういう時のしくじりは再起不能になりかなねいほど大きい。
自分でやらかした事はないが、そういう破滅に陥った者は何人か見てきた。
だから、転生者自身は無理も無茶もしないように心がけた。
無謀な挑戦は、才能のある奴に任せればいい。
才能があれば無謀に思えることもこなす事ができる。
だが、そうではない凡人には無理だ。
凡人は自分の出来る範囲で無茶せずに頑張るしかない。
そして、無理や無茶をしないで平々凡々にやっていれば、それなりにやっていける。
大儲けはないが、大損もない。
小さくても着実に稼いでいける。
その積み重ねはバカに出来ない。
続けていれば、莫大な成果になる。
そのかわり、長くやらねばならない。
休息はいれるにしても、途切れること無く続けていかねばならない。
一度に出来ることは少なく小さい。
だからこそ、継続して続けていかねばならない。
継続は力なり。
転生者はこれを自分の生きる道と定めた。
そのおかげで転生者は10年の長きにわたって探索者を続けてこれた。
最初は大して稼げず、ひもじい思いをしていた。
同じ頃に探索者になった者達にどんどん追い抜かれていった。
後から来た者にも抜かれていった。
それらは転生者よりも早く、もっと深い所まで潜り、より強力な怪物と戦うようになっていた。
多くの者からバカにされるようになった。
それでも転生者はやり方を変えなかった。
成果があらわれてきたのは3年目頃からだった。
ようやくレベルがある程度上がり、多少の無理や無茶が出来るようになった。
稼ぎがその頃から格段に上がるようになった。
そこからは少しだけ順調に物事が進むようになった。
稼ぎが増えて、幾らかまともな生活が出来るようになった。
経験値も増えて、レベルも上げやすくなった。
人を集めて迷宮探索に出るようにもなった。
それまでは、声をかけても誰もよってこなかったのだが。
レベルが上がり、3年間の実績もあってか、少しずつ同行しようという者があらわれるようになった。
そんなこんなで10年。
いまだに死ぬ事も大きな怪我をする事も無く生きている。
勤続年数だけなら熟練・古参・ベテランと言える。
ここまで長く活動を続ける探索者は少ない。
長続きしてるのは、上位に名を連ねてる者達くらいだ。
他はここまで長生きする事無く死んでいく。
実際、転生者の同期や追い越していた後輩のほとんどは死んだ。
生きてる者も再起不能の状態で道ばたに頽れている。
いずれも無理や無茶をして先に進んだからだ。
実力以上の所まで進み、歯が立たない敵に出会って敗北した。
そういった実例を見てきた事から、転生者はより慎重になっていった。
今の自分で出来る事に専念した。
決して無理や無茶はしないように心がけた。
目安としては、日々の生活が無理なく出来る分を稼ぐ事。
それ以上は望まないし求めない。
老後のことを考えて貯えも作っていく。
庶民感覚での豊かな生活が出来れば良い。
そんな生活を老後まで続けられるようにしておきたかった。
そんな転生者を評価する者は残念ながら少ない。
無駄に長生きしてるだけ、と言う者もいる。
やってる事を認める者は小数派だ。
だが、自分をみとめない連中の事は無視していく。
そういう声を聞いても何の得にもならない。
特に探索者でそう言ってる連中は全く相手にしない。
絡んでくれば撃退するが。
転生者のやってる事が理解できてない愚か者だ。
そういう連中はたいてい早死にする。
人知れず迷宮で死ぬか、瀕死の重傷で戻ってきて、そのまま再起不能になるかだ。
かろうじて生きているそういう連中のうち何人かは道端で生活している。
そんな連中を見る度に、転生者は侮蔑の言葉を投げかける。
かつて自分を詰った連中である。
容赦をする理由は無い。
哀れみも同情もしない。
ただただ無様なだけだ。
他人を蔑んだのだ。
蔑まれても文句をいう筋合いはない。
これがもし、真っ当に接してきた者だったら、転生者もこんな事はしない。
だが、そうではないのだ。
相応の対応を取るのが当然である。
こんな実例を幾つも見てきた。
無理や無茶が悲惨な結末に直結するこの世界ではなおさらだ。
だから転生者はよりいっそう強く心がける。
無理して先に進まない。
毎日を穏当に生きていけるだけの稼ぎがあれば充分と。
それ以上は、それを得られるだけの能力を身につけてからで良いと。
今回の迷宮探索も、こういった事を心がけて行動していた。
無理なく倒せる怪物のいる場所で活動していった。
おかげでそれなりの稼ぎを安全に得ることが出来た。
ではレベルが低いのかというとそうではない。
今の転生者はレベル27。
上位にいる最高峰の探索者と、活動を続けてる下層探索者の間くらいだ。
同じレベルの者はほぼいない。
才能のある者は、このレベルをすぐに通り越してもっと先に進むから。
才能のない者は、このレベルになる前に死ぬか再起不能になるから。
そして、後者ほど血気盛んでやる気にあふれている。
無理や無茶を通して無謀な事をしでかす。
そしてレベルを上げる事無く死んでいく。
その活動期間、勤続年数は3年にも満たない事がほとんどだ。
これらを見れば、転生者がいかに長期間にわたって活動してるのかがわかる。
レベルも決して低くは無い事も明白だ。
そんな転生者にケチを付けるとなると、考え無しか何も知らないかになる。
そういった者がどんなに言いくるめても、レベルの低い者達の戯言にしかならない。
それに耳を傾けたり同調してる者も同類だ。
転生者はしっかりと示している。
才能のない凡人のやり方を。
それを学べない者に未来は無い。
その事を今日もまた転生者は示した。
無事に生きて帰るという事実を見せる事で。
ここから大切な事を感じ取れないなら先は無い。
その程度の才覚しかないという事なのだから。
これからも転生者は無理なく活動を続ける。
求めるのは生活。
名声ではない。
栄達ではない。
世界最強でもない。
普通に暮らしていけるだけの稼ぎだけを求める。
それがあれば良い。
それを手に入れる事ができれば、それなりに幸せに生きていけるのだから。
「凡人にはこれくらいで充分だよ」
誰にともなくそう呟きながら、次の迷宮入りに向けて準備を進めていく。
やがて迎える老後に備えて。
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