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シンデレラのような娘【ガラスの靴はいらない】

作者: 小兎

  

 とある地球とは違う世界に(いわゆる異世界ってやつです)継母とその連れ子に使用人のような扱いを受けている娘がいた。

 実母が生きていた時は伯爵家の嫡子としてそれはそれは大切に慈しまれ育てられていた。

 金色の髪にエメラルドの瞳。娘は貴族の色彩を持ち跡取として誰もが認める存在だった。


 この国において貴族は決められた色彩を受け継ぎその色は尊ばれた。

 そして跡継ぎは女性が最も良しとされた。これは貴族家の衰退を防ぐものだ。跡取の娘に優秀な婿を迎え領地経営を安定させる合理的な方法であった。


 この家の娘も16歳で成人を迎えたあかつきには婿を迎え伯爵家を正式に継承する。

 実父がいるが彼は婿であり、正式な伯爵家当主ではない。

 実父は継母の連れ子である男子を娘の婿にしようとしていた、実は連れ子と言っているが継母の子は実父の子であったのだ。

 実父と実母は完全な政略結婚であり、実母と結婚する前から実父は継母と内縁関係にあったのだ。

 そして、実母とその両親(先代伯爵)は王都から領地に向かう道中で盗賊に襲われ逃げる最中馬車ごと谷底に落ちて亡くなった。娘が7歳の時である。


 以来娘は王都のタウンハウスで学院にもデビュタントも行かせて貰えず使用人のような扱いを受け続けた。

 実父は娘の事を病弱で家の外に出せないと嘘をでっち上げていた。

 もはや真っ黒である、誰がどう見ても実父が伯爵家の乗っ取りを計画している事は明白だ。


 そんな中屋敷の裏、勝手口の側の井戸でシーツを洗濯している娘の前に魔法使いが降り立った。


「娘さんこんな夜になってまで洗濯かい?」


 娘は魔法使いをボンヤリ見上げた。その顔色は青白く、髪も肌もカサつき、手はアカギレて腫れていた。


「えぇ、仕事が終わらないので」


 声にも力なく上げた視線をうつむかせて洗濯を続けた。


「今日はお城で舞踏会が開催されているのは知っている?」


「はい、義妹達のお仕度をいたしましたから」


「君は行かないの? 行きたくない?」


「私の衣装はこの1枚だけです。お察し下さい」


 娘は苦笑する。


「私が衣装の準備をしてあげると言ったら、君は行きたい?」


 まるで誘惑するように魔法使いは囁く。


「いいえ、貴方様にそのような事をしていただく理由がございません」


 娘はキッパリ断った。魔法使いはちょっと驚き思案する。


「私達魔法使いは人智を超えた力を持っているんだ。魔法使いは人と共存するために全員が一年に一度善行を施さないといけないんだけど、協力してくれないかな?」


 娘は今一度魔法使いを見ると


「私は舞踏会も綺麗なドレスも必要ないのです」


 ため息まじりでそう答えた。


「別にそれでなくてもいいのだよ? 何か願いはないのかい?」


「願い··· 私の願いは独りでも生きていける力が欲しいです」


「ふむ、生きていく力ね。君一応貴族のお嬢様でしょ?貴族として生きていく力なのかい?」


 娘は首を振ると


「私は来月18になり成人します。このままだと義兄と結婚させられ多分子を産んだら程なく殺されると思います。母がそうでしたから。貴族を辞め平民として生きていけるすべが欲しいです」


「ナルホド、中々ヘビーな話だね。そう言うことなら私の力で叶えてあげよう」


「私には対価としてお渡し出来るものは何も持っておりません、それでも貴方様は私の願いを叶えるのですか?」


「〘善行を施す〙という魔法使いに定められた約定を私が履行できる。それが対価だよ。私にも得で君にも得だ」


「そう仰るならお言葉に甘えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「もちろん、但し我々魔法使いの制約の中でだけど」


「解りました」


「では、話しを詰めていこうか。君は独りで生きていける力が欲しいということだけれども、どうやって生活を維持していくのかな?」


「働いて金銭を得ていきたいと思うのですが私に出来る仕事等はあるのでしょうか?」


「そうだね~ 君何が出来るの?」


「今は使用人のような扱いですので、家の中のことでしたら一通り出来ます」


「じゃあメイドか家政婦は出来るね。ただそういう職は富裕層と関わりが出来るから下手をするとこの家の者にバレるかもね。この家と縁を切りたいのだろう?」


「はい、どうしたらいいでしょうか。なにぶん世間というものとの接触が無かったものですから」


「狩りをしたり解体をすることに忌避感はある?」


「いえ、食材として兎や鳥などでしたら解体しておりましすから大丈夫です」


「なら冒険者とかどうかな? 採取や獣を狩って賃金を得るなんでも屋だよ」


「私に務まるでしょうか?」


「読み書き計算は出来る?」


「はい」


「なら大丈夫だよ。冒険者は8歳から登録できる、つまり8歳程度でも出来る仕事があるんだよ」


「そうですか、では私は冒険者を目指します」


「そうなると、まずは装備だな。定番の冒険者の服に靴。手袋とマント、それと採取用ナイフに解体用ナイフ。それとショートソードと防具。胸当てとレックガードとガントレット」


 魔法使いが空中から品物を次々出して娘の前に積み上げる。


「えーっとここまででいくらだ? 冒険者の服が25,000、靴が13,000、手袋が5,000。マントが30,000。採取用ナイフが3,000、解体用が10,000」


「ショートソードが150,000、胸当てが30,000、レックガードが25,000、ガントレットが25,000」


「あと予算は684,000か」


「えっと、その金額は?」


「あぁ、善行における金額ってのが決まってて、一律1,000,000って決まってるんだよ」


「取り敢えずの生活資金に200,000だからあと484,000ね、鞄とテント寝袋なんかもあったほうがいいな。冒険者鞄が300,000とテントが15,000、寝袋が10,000。それと水筒な10,000」


「水筒はそんなに高いんですか?」


「あぁ、これは水が湧き出る魔道具の水筒だから」


「確かにどれも相場より高いけど、全部に自動修復、不破壊、清潔、使用者限定譲渡不可、付いてるし、鞄は容量を荷馬車2台分に広げてる」


「あの、それって普通なんでしょうか?」


「魔法使いが用意する道具なら普通だよ」


「あとは〜 スキルブック剣術中級100,000。ホントは魔法のスキルブックも付けたいんだけど予算オーバーなんだよ。君さすがに色彩は売りたくないでしょう?」


「色彩とはなんですか?」


「色彩は貴族色の事だよ。君は嫡子だから金色と蒼碧色を宿してる。魔法使いはその色を色移しって魔法で余所に移す事が出来る」


「色が無くなったらどうなるんですか?」


「どうにも? なんの影響もないよ。ただのステイタスの現れ。この国だけのアホな伝統」


「売ります、むしろ買い取って下さい」


「おk,おk。属性は何がイイ? 火、水、土、風、光、闇、雷、空かな」


「水でお願いします」


「水で特級と、まだあまるな。使い切りの転移魔法陣を付けてあげよう。これを使えば一足飛びにこの国を出てしまえるよ。どこに行きたい?」


「では西のサハルト国へお願いします」


「構わないけど、それはなぜ?」


「水魔法のスキルブックをいただけるという事ですのでサハルト国では水魔法が使える者は優遇されると聞いたことがありますので」


「なるほど、理にかなってるね。では行き先はサハルト国。そうそう新しい身分証明書を作ってあげよう。名前は?」


「····魔法使い様が付けていただけますでしょうか?」


「ふむ、私でいいのかい?」


「はい、今日わたしは魔法使い様によって新しい人生を得ることが出来ました。言わば魔法使い様は新しいわたしの生みの親かと」


「なるほど。···では君の名前は『※※※※』だ」


「はい! ありがとうございます」


 娘は晴れやかに笑った。


 その後髪と色彩を魔法使いに売りもらった装備を身に着けた娘が魔法使いの前に立つ。


「準備はいいかい?」


「はい。魔法使い様ありがとうございました、この御恩は一生忘れません」


「では送るよ。君のこれからの人生に幸あれ」


 娘の足元に現れた転移魔法陣が光ると娘の姿はこの場からかき消えた。



 娘は眩しさに目を閉じてしまいそして眩しさが消えた後目を開けるとそこは巨大な壁の前だった。

 左右を見渡すと左側に大きな門があり人の列が伸びている。

 娘はその列の最後尾に並び入場を待った。


「次!」


 呼ばれて前に進み出る。


「名は? 身分証明はあるか?」


「アッシュです。身分証明はこれです」


「確認した。入国料は3000クロームだ」


 娘改めアッシュは入国料を払うと大門をくぐった。門の中はすぐに露店が立ち、今日の宿を探す者と客引きの威勢のよい掛け声、雑多な賑わいを見せている。


 強い風が吹き向けてアッシュの灰色の髪を巻き上げた。乾いた砂埃の混じった風に彼女は異国に来たのだと実感した。


「サハルト国にようこそ!」


 何処からそんな声が聞こえてアッシュは新しい人生の第一歩を踏み出した。









 













    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 彼女が魔法使いに綺麗なドレスやかぼちゃの馬車よりも願ったことは、


 冒険者になることでした。


 搾取されるだけの人生や旦那のステイタスに頼るような人生じゃなく自分の才覚で自立し生きていける人生を願ったのでした。


 この国や周辺国は女性が当主となるのが慣例とされている。以前は男子継承だったが能力の無いものが当主となる事で国力が落ちた。

 その為女子を当主とし、優秀な男子を婿に据えたほうがハズレがないということに落ち着いたのだった。


 無論政は能力優先、男女の区別なし。女性の社会進出は目覚ましく産休、育休は勿論。保育施設等も充実。



 魔法使いは年に1回奉仕行為をしなければならない。世論から脅威と見なされないように親切安全良心的で太っ腹な魔法使いであると世論を誘導するため。


 彼女への親切行為はその為。


 奉仕行為の予算は100万である。

 本来ならドレスや宝飾品、馬車などレンタルでまかない、ガラスの靴は参加記念品であると。


 100万の予算で初心者冒険者道具一式と水魔法スキル書、剣術中級スキル書と当座の生活費をGETした。


 ついでに乙女の髪と貴族の色を売り、少年の偽装をした。色を売ったので灰色になった彼女は灰色(アッシュ)と名のる。





 

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