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後日談・5

 こんにちは、オーレリア・ステラヴェルチェです。お姉ちゃんの世界に肉体を授かってから、数年が経過しました。

 ことの発端は、バビロン様がお姉ちゃんの世界で活動出来る肉体を得たことでした。バビロン様は特別だから仕方ない、レジェンド認定されたお姉ちゃんの特権だから仕方ない、他の人はそのことを胸の奥にしまって言い出しませんでした。

 でも、私はそれがズルいと思ったので、しっかりと『バビロン様だけズルい!』と言いました。その結果、紆余曲折はありましたが私もお姉ちゃんの世界で活動できる肉体を授かったというわけです。

 お姉ちゃんの世界は基本的に灰色か黒でした。空気は元の世界よりも劣悪で、魔術も使えず、かがく? というものが異常に発達した不思議な世界です。正直、もう来なくてもいいかなーと思って居た時、私がこちらの世界に受肉するために使われた費用を、思いがけず見てしまったのです!


『特別モデル、オーレリア・ステラヴェルチェ。請求額、5億8000万円』


 5億8000万円という数字を見た時、ああーシルバーみたいな通貨のことかー。5億8000万円なら、お姉ちゃんは向こうの世界で沢山お金を使っているし、このぐらいは普通なのかなーと感じました。だって、本当に知らなかったんです。


 ――――まさか、1円がおよそ1000シルバーもするだなんて。


 つまり、58000億シルバー……5兆8000億シルバーってことですよね、私の体。さすがにこの金額は異常だと私でも理解出来ました。思わず腰が抜けて、へたり込んでしまったぐらいです。

 私のワガママのために、これだけの金額を出して貰ったと知ってしまっては、さすがに『もう来なくて良いです』なんて言えません。それに、まだお姉ちゃんの家の周辺しか見ていないのに、それはあまりにも……というわけです。


 どうしようかと悩んだ末、考えついた案が『私を作った分のお金だけでも稼ぎたい』というものです。5億8000万円を稼ぐのがどれだけ大変なのかわかりませんが、私にも出来る仕事をしたいと思ったのです。

 しかし、現実はそう甘くはありません。私に出来る仕事はお姉ちゃんの世界のルール上存在せず、仮に稼げたとしても月に20万円程度。もしも故障などが生じればこの収入よりも遥かに高い金額を支払うことになってしまいます。あ、じゃあ無理だ……と、諦めきれないのがこの金額。どうしよう、どうしようと悩んでいた時に助言を頂いたのが……ハッゲさんでした!


『昔は猫里(ねむり)が、ああ~お昼寝ちゃんだな。あの子は昔、配信業ってのをやっててな。それで収入を得ていたんだぜ。使いきれるかどうかわかんねえぐらい稼いだから、そいつで一発狙えるんじゃねえか?』


 配信業。自分の生活を配信して、その姿が面白ければお金が貰えるという意味不明な仕事です。

 お昼寝さんは昔、一緒にお昼寝配信という内容であったり、寝具の紹介、もしくは私達の世界での活躍を配信したり、いろいろなことをして稼いでいたそうです。

 じゃあ、私にも出来るかなってことでお姉ちゃんに頼み込み、あかうんと? というものを作ってもらって、どんちゃんと一緒に配信を始めることにしたのですが……。


『世界初! バビロンオンラインのNPC、砂漠の王女様の配信がスタート!!』


 ペルセウスさんが、でかでかと広告を打ち出してしまったんです!! ちょっとずつ色々と覚えようと思っていたのに、最初の配信から30万人近い人が集まってしまって、コメントといういろいろな人の言葉が流れてくる場所は、もう視認できないほどのスピードで流れていました。

 初回配信は自己紹介と雑談程度、進行をお昼寝さんに手伝って頂いて、なんとか無事に終えることが出来ました。そして翌日には収益化の許可が下りて、次の配信ではスペシャルチャットという、お金を投じることで特別な枠にコメントが表示されるシステムも追加されていました。


 そして次の配信は、なんでこんなものをという気持ちでいっぱいでしたが……サイクロンゲームというものを、レーナさんと一緒に遊ぶ配信でした。お昼寝さんがルーレットを回して『右手を青に』『左足を赤に』というような感じで、床に記された色のところへ手足を運び、体勢を崩したほうが負けというものを遊びました。

 こんなの誰も見ないでしょ、コメントにも反応出来ませんし……と思いながら配信したのですが、結果は私の想像を遥かに上回る、同時接続43万人。その配信中にチャンネルの登録者が20万人近く増え、スペシャルチャットの総額が、その……1000万円を超えていました。


 ――――正直、お姉ちゃんの世界が怖くなりました。


 なんでこんなものにお金を払う人がいるのか、どうしてなのか、さっぱり理解できないまま次の日の配信へ。この日は『スペシャルチャットの読み上げとお礼、それと雑談』の配信。これは同時接続が7万人と落ち着いて、お昼寝さんやペルセウスさんのお友達がまとめてくれた内容に対して、お礼を伝えるだけという配信……。しかし、このお礼の配信にまたスペシャルチャットが……。

 困惑しながら次の日は『お肉を食べます』という配信でした。こちらは同時接続6万人と昨日よりも落ち、ああ~やっと落ち着いた~と思いながら美味しくお肉を頂きました。ちなみに作ってくださったのはハッゲさんです。

 その次の日は『お魚を食べます』でした。なぜか昨日よりも増えて8万人。今回もハッゲさんが作ってくれて、豪華なお料理を美味しく食べるだけの配信……なんでこんなのにスペシャルチャットが付くんでしょう。ハッゲさんはお姉ちゃんの世界でも有名な料理人さんらしくて、その料理を見るために人が増えたのかなと思っていました。


 問題が起きたのは、お姉ちゃんへのイタズラが思いもよらぬ大損害を生み出してしまった日のことです。


 やってしまいました。ちょっとしたイタズラのつもりで、お姉ちゃんの後ろから急に抱きついたんです。そしたらお姉ちゃんは私を支えきれずに倒れてしまって、顔に小さな傷が出来てしまって……。

 どうしてあんなに強いお姉ちゃんが……と理解不能で、大泣きする私を『大丈夫、大丈夫だからね』と慰めてくれたのが、今でも心の奥でギシギシと痛む記憶です。どうやらお姉ちゃんはこちらの世界ではそこまで強いわけではなく、レベル50ぐらいの新米冒険者と同じぐらいの身体能力なんだそうです。他の人も同じらしくて、それを知らなかった私は謝ることしか出来ませんでした。

 同時に、ええ。これが大失敗でした……。私はお姉ちゃんに、何か罰を与えて欲しいと願い出てしまったのです!


 ――――どうしてもって言うなら、今度の配信はハッゲさんにお野菜の料理を作って貰おうか。


 ゔぇえええ……と顔を歪ませて、それだけは……と言う前にハッゲさんが『お、それは良いな』とか言うものですから、急遽配信が決定してしまいました。お昼寝さんやペルセウスさんもノリノリで、その日の配信に付けられたタイトルは……。

 

『高評価5万件orにんじん料理完食耐久』


 これでした。高評価5万件なら正直、いつもの配信だとサクッと達成出来る数字です。ああ、これならにんじんを食べきる前に高評価が付いて終わりますね! じゃあこれなら良いです! 私はそう言って、余裕のある気持ちで配信を開始して頂きました。


 しかし、事件は起こります。


 いつも通りの配信、爆速のコメント欄、出されるハッゲさんのお料理……なんの問題もない、この調子なら30分後には終わる……。そう思いながら配信をしていたのですが…………伸びない。

 視聴者の同時接続者数はドンドン増えました。初回配信を超えるような勢いで、10万人、15万人、20万人とあっという間に。あの日やったサイクロンゲームよりも視聴者が増えるペースが早く、それなのに…………伸びない。


 高評価が、全く押されないのです!!


 ごろっとにんじんが入っているハンバーグに悪戦苦闘しながら、にんじん入りのチャーハンも涙を堪えつつ頑張って食べ進め、ようやく半分食べたぞ~と思って画面を見ても……高評価、1万件止まり。もう30分以上配信しているのに、一向に高評価が増えないのです!

 どうして高評価が伸びないんですかと涙目ながらに訴えるも、お昼寝さんもハッゲさんもニヤニヤしているばかり。お姉ちゃんもニコニコとして私の食事風景を眺め、同じく受肉しているどん太さんも尻尾を振って待機しているだけ。

 これは、食べきらないと終わることが出来ない。そう確信した私は、にんじんに拒絶反応を示しながら、舌を伸ばしてなんとか口に放り込むと……その時、発見してしまったのです。とある、スペシャルチャットのコメントを。


『にんじんに舌をぺろぺろ伸ばす姿が最高』

『可哀想で可愛い』

『なんだろう、この胸の奥にあるトキメキ』


 変態でした。私にお金をくれている人達は、みんな変態だったのです。私が苦しんでにんじんを食べている姿に、なぜか興奮を覚える変態ばかりだったのです!!

 私、とても怖くなりました。もう60年も生きているのに、これまでの恐怖を感じたのは……そうですね、ステラヴェルチェ奪還の際でしょうか。ミズチの封印のため、この身を犠牲にして皆にお別れをしようとした、あの瞬間以来の恐怖です。


『合法ロリのロリロリしい食事シーン』

『僕の娘です』

『娘 ※60歳』

『年齢はいいだろ、なんなら今年この世に受肉した0歳だぞ、うひょーーーーー!!!!!』


 変態でした。変態しか居なかったのです。

 私の食事シーンを長く鑑賞するため、あえて高評価を押さない変態達だったのです!!

 私、怖くなりました。にんじんよりもこの人達が怖かったので、急いで食べることにしました。しかし、口の中にたまり続けるにんじんに限界を感じ、もぐもぐが停止して……いえ。確かに美味しいのです! ハッゲさんが食べやすいようにと頑張って作ってくれた料理なので、とても美味しい。でも拒絶反応が出るのです!! 仕方ないじゃないですか!!

 2分ぐらいもぐもぐしていたでしょうか。私にとっては2時間か2日ぐらいに感じましたね。やっと全部飲み込んで完食した、とても辛かった……。そう思いながらごちそうさまを口にした瞬間…………。


 ――――高評価、21万件。


 完食した瞬間、この世の悪意が具現化しました。

 あまりにも酷い。こんなことが赦されて良いはずがありません。しかし、悲しいことにこの日の収益は……4000万円を突破していました……。

 お金は欲しい。にんじんは食べたくない。一番辛くない雑談配信、しかしお金は貰えない……。お金が稼げないことに焦りを覚え、私は……私は…………。


「…………今日は、ピーマン耐久配信です」


 定期的に、お野菜耐久配信を、するようになってしまいました……。今日は、いくら稼げるでしょうか……。ああ、また高評価の伸びが悪い。同時接続はいっぱい居るのに、この接続数の数が悪意の数に見えて仕方ありません……。

 もう、ワガママは控えるようにしよう。もう、イタズラはほどほどにするようにしよう。

 これまでどれだけ注意されてもやめなかったことが、こんなに素直に『もうやめよう』と思えるだなんて……。


『――待ってました!!』

『50000円:うっひょおおおおおおおおお』

『50000円:かわよかわよ』

『50000円ヽ('ヮ'*)ノΞヽ(*'ヮ')ノ』

「あ、スペシャルチャットありがとうございます。えっと、はい……今度、しっかりお礼動画で……えっと、ピーマンです……」

「ミニピザのピーマンぐらいでこの萎えっぷりだと、今日はやべえな! ははは!!」

『わう~』

「お前さんの分もあるからカメラに映り込むなって、ははは!!』


 今日も今日とて、私は配信をします。目標、私の制作費が払えるぐらいまで。いつの日にかきっと、完済してみせます……。


「……ところで、今日はいつもの挨拶はしねえのか?」


 あ、忘れてました……。うう、これも恥ずかしいので、やりたくないんですけど……。


「さ、砂漠王国民のみなさ~ん……。にゃんにゃんにゃん、こ、こんにちにゃ~ん……砂漠の王女、オーレリアで~す……」


 挨拶もピーマンも、もう嫌ですー!! ああ、高評価が伸びない!! でも、でも、これが一番評価が伸びるので、やめられないんですー!! うわぁ~ん!!


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