後日談・2
「あの小娘に、今年も勝てなかった!!」
これが昔の彼女だったら、何かに八つ当たりをする破壊行動をしていただろうね。
「今年も負けちゃいましたね~。残念でしたね~、ヘルミナ様~?」
「ユキノ達が私達のチームに入れば勝てるのに、なんで来てくれないのっ!」
「ユキノはもう歳なので~」
「目で追えない動きをするババアが居てたまるかっと、悪いがこれで上がりだ」
「くそ!! ババ抜きでも負けるのか、私は!!」
メルティーナ、かつて光の女神として君臨し、ほぼ満場一致で存在を消し去るべきと言われた女。今では光速の魔女の名で呼ばれ、破壊的救世主としてこの世界で崇められている存在……。
面白いものだよ。かつて世界を破壊しようとした女が、別の世界では救世主!! 世界を救った大魔女!! 本当に面白いよ、君がここまで変わるなんてね。
「さあ、引いてくれよメルティーナ。君の番だ」
「お前だな? ジョーカー、持ってるだろ」
「どうかな?」
「偽母様、まだ7枚も残っているんですか?」
「黙れジュエリア、そんなに運がないと言いたいか!!」
「はい。運がなさすぎます」
「ぐうっ……!! 返す言葉がない!!」
第2ワールドのラスボス、災厄の魔王アダムを倒した理由なんて酷いもんだった。なんせ倒すことを目的とされて倒されたのではなく、手段として倒されたのだからね。
あの時、最高に面白かった。なんせ『アダムとやらをぶっ殺せば、あの小娘をガトランタで殺せるんだな!?』って理由だからね、メルティーナが世界を救ったのは。
「かあああああああ!!」
「わかり易すぎますね~」
「あれは絶対ジョーカーを引いたわね」
「おっと、揃ってしまった。僕も上がりだ」
「だあああああああああ!!」
「ユキノも上がりでーす」
「後はジュエリアちゃんと、ヘルミナ様と、いっぱい持ってるメルティーナ様だけですね~」
いやあ、メルティーナ……弱すぎるだろ、ババ抜き。そのすぐ顔に出る癖をなんとかしなよ。そう言っても彼女の生まれ持った癖だからな、仕方ないか……。
それにしても、今思えばジュエリアの選択にも驚かされた。まさかメルティーナとヘルミナの監視のために、第2ワールドまでついてくるとは思わなかったからね。本当の母親はエクリティスだとわかっているのに、偽物の母でもおかあさまと呼ぶのは……わからないな、この歳になっても。
「それにしてもお前、本当にリンネちゃんと戦うためだけによくやるな」
「つくねちゃんこそ、ヘルミナの様子が気になる親友を放っておけなくてずーっとくっついているじゃないか。それと同じさ」
「まあ、わっちはこれが伴侶だし……」
「可愛い可愛い奥さんが一緒で、ユキノは嬉しいですよ~? 夜に2人っきりだと、もっと可愛いんですけど~」
本当、いつまでも可愛らしいお嬢さんだ、この2人も。
「だ~馬鹿、やめろ!! 45にもなってババア同士の夜の話をしてもキモいだけだ!!」
「え~??」
――――人造女神計画、あの恐ろしいプロジェクトを始動させた僕の母が作り出した、最強の遺伝子を持つ女性達。その存在を知ったのは、20年前のことだ。
若返り装置と呼ばれるあの機械、リフレッシュカプセルのことを調べて辿り着いてしまった。僕の母が立ち上げた、恐ろしいプロジェクトに。
そしてその時同時に知ってしまった。男を作ると高確率で失敗するから、成功例が1件しかないということも。それが…………僕だった。
「――はい、上がりです」
「やっぱり最後に残ったのは、私達みたいね」
「勝負だヘルミナ!! 絶対に負けん!!」
自分が作られた生命体だと知ってショックを受けた。立ち直れないぐらいボロボロになって、人生を終了させようかと思い詰めた時もあった。だが、そんな時も!! 我が女神ッッッ!! 君はッ!! ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛……ッ!!
リンネもまた、人造女神計画で作られた命の1つだった。しかも彼女はそれを知っていて、やりたいようにやるし、自分は自分だと、既に答えを出していた!!
やはり彼女は全てにおいて僕の先を行っている。最強で、最高で、至高の存在だ!! まさに、女神!! あ、ゲーム内ではもう神じゃなくなっているけどね。
「――――女神と呼ばれなくなってから31年、どんな気分だい?」
「あぁ!? あっ!!」
「メルちゃんの負け!! 上がりよ!!」
「くっ……!! はぁ……女神と呼ばれなくなってどんな気分か、だと?」
「ああ、聞いたことがなかったなと思ってさ」
プレイヤーは名声やPvPのランクによって、『God > King > Master > Diamond > Platinum > Gold > ………… > Iron』と階級があって、ワールドシナリオをクリアすると発生するシステムだ。
シナリオクリアと同時にプレイヤーからは神性が失われ、代わりにこのシステムへ置き換わるわけだ。だから神って呼ばれてるのは、このGodランク帯のプレイヤーのことになる。
「…………楽になった」
「ほう? 意外な答えだね」
「自然体で居られるようになった。どうしてこれまで、あんなにも全てが憎かったんだろうと、正直過去の自分が恥ずかしい。むしろ過去の自分を憎んでいる」
「ふむ……」
「…………と、答えれば満足か? あの小娘のせいで全部失ったんだ!! 絶対にあの小娘だけは、赦せん!! 来年こそぶち殺す!!」
「ははは……」
そんな嬉しそうな笑顔で言われてもね。口ではあーだこーだ言っているが、メルティーナはリンネに感謝しているんだろうな。やり直すきっかけを与えてくれたことに、この世界に追放してくれたことに。自分はやり直せたという証明をしたくて、認めて欲しくて、毎年必ず宇宙一決定戦に出ているわけだ。まったく、素直じゃなくて……面白いな。
「ヘルミナ様~? 子供はまだですか~?」
「ひゃあ!? へえ、なななな、何!? 何言ってるの!?」
「ユキノ達はもう、子供が立派に成人して働いていますよ~?」
「ジュエリアにも、ボーイフレンドが居るねえ?」
「認めん!! 認めんぞ、お前なんぞがジュエリアの……か、か、彼氏……!? 絶対に認めん、変態!! ジュエリアもこんな変態のどこが良いんだ!!」
「偽母様を大事にしてくれるところです~」
「あ、ひょ!? そ、しょ、そう……?」
大事にしているかな……。しているかも……。いやどうかな、自信がないな。この前もヘルフロッガーのゲロ攻撃の盾にしたしな……。
「いや!! 私に拳で勝てるようになるまでは、絶対に認めん!!」
「憂さ晴らしがしたくてウズウズしているんだろ? 仕方ないな、相手になるさ」
「あーあー外でやって!」
「ご飯の前なので、軽めでお願いしますねー。マーゾさん、頑張って!」
「さて、今のところ僕が勝ち越しているね。3勝差だ」
「拳だけだ!! 魔法は厳禁!!」
「それで勝って嬉しいかい? 本気を出していない相手に勝って、まさか声高に勝利宣言をするつもりじゃないだろうね?」
「…………全力でかかってこい、気障男ぉ!!」
「やっぱりそうこないとね」
来年こそ、勝てると良いねぇ……。ああ、楽しみだ。来年はどんな手札で来るのかな? その前に……。性懲りもなく直球勝負を仕掛けてくる、うちのリーダーの……!!
「はぁああああああ!!」
「フォオオオオオウ!!」
憂さ晴らしに、付き合ってやるか!!