後日談・1
『リンク中……。ようこそ、リンネ様。ワールドを選択し――ケテルが選択されました』
『おかえリンネ~♡ 連続ログイン11,220日目よ~♡ や・り・す・ぎ♡』
ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛……。最高のログインボイス…………。
『わう~ん! (おかえり~!)』
「ただいま、どん太。お前はいくつになっても落ち着きがないわね~」
『わん、わう。 (困った旦那ですの。おかえりなさい、リンネさん)』
「ただいま~モッチリーヌちゃん」
どん太は相変わらず落ち着きがない。帰って来るだけで大はしゃぎ、お前自分のデカさをそろそろ自覚しなさい? 31年目よ? 家が壊れるわ。
「あら、今日は早かったですわね」
「そっちこそ早いね~ペルちゃん。今日も可愛い」
「45にもなって可愛いと言われるのは、おっほほほ……」
「いくつになっても可愛いよ」
『わふっ! (ぐるぐる赤くなってる!)』
『ガウ! (こら、茶化すんじゃありません!)』
『ぴー……ぴー……! (うわーん、ママが怒ったー!)』
『あうーん! (ママを怒らせないで!)』
どん太ファミリーも相変わらずデカいしうるさいわね。そろそろ親離れしなさいよ、20は過ぎたでしょうが。人間ならとっくに成人して、1人で生活してる年齢よ?
「千代ちゃんは?」
「今日は秋姫ちゃんと稽古をしてますわよ」
「…………なんの?」
「お蕎麦の早食いですわね」
「はぁ、そう……」
千代ちゃんと私の子供、秋ちゃんは私達に……似なかった。いや、ある意味似た。
とにかくご飯を食べるのが大好きで、食事のことを考えている以外でじっとしているのは苦手。武の道を極めようって気はなくて、お母様の活躍を見て満足しちゃうタイプ。
その代わりに極めたのは、世界を渡って食レポをするグルメマスターの道。千代ちゃんと一緒に別ワールドまで行って早食い大会に出場したり、大食い大会に出場したり……。またある時は、珍味を求めて山でも海でも古代遺跡でも……。とにかくどこへでも旅に出かけるのよ。
「あー……。宇宙一大食い王選手権……」
「そう、出るそうですわ」
「胃袋がブラックホールだもんね……」
「黙々と綺麗な所作で食べ続ける秋姫ちゃんの配信は大人気ですのよ?」
「そっかそっか……」
どうして私達の子供がこんな風に育っちゃったのかなぁ~……と思うこともあったけど、何かを極めたくなる私の性質と、食べるの大好きな千代ちゃんの性格を引き継いだら、確かにそうなってもおかしくはないのよね。
「リンネ様~! お料理がそろそろ出来ますよ~!」
「ママ、今日ご飯要らないから」
「あ~! ダイヤちゃんってばまたそんなこと言って~! ちゃんと食べなさ~い!」
「だって、美味しくて食べ過ぎちゃうし、太るのやだ……」
「今日はピーマンの肉詰めでーす!」
「ちょっと! ちょっとだけでいいから……」
あの純粋無垢なティアラちゃんは、将来どうなっちゃうんだろうって心配だったけど……。純粋なまま、お母さんになっちゃったね……。
娘のダイヤはちょっと生意気に育った感じがしたけど、ティアラちゃんがまっすぐ過ぎて反抗期のイヤイヤ攻撃が効かなくて、最終的に毎回こうやって折れるのよね。太るからって、私からすると凄く細いように感じるんだけど。
「ん、話は聞かせて貰った。ピーマンの肉詰めを要求する~」
「あらお姉ちゃん、いらっしゃい」
「妹の嫁の飯が美味い~。ふんふふ~ん」
レーナお姉ちゃんは変わらないね。今ではトップデザイナーとして業界で引っ張りだこ……なんだけど、仕事を放ってゲームを優先してくるのよね。悪い癖だよって注意するんだけど、サボれば時子ちゃんの方に仕事が行くからって更に悪いことを言い始める。
「にゃ~ん? にゃ~ん、にゃ~ん?」
『んぅ~!!』
「ひひひ……」
こらこら、子猫状態で寝てるリアちゃんを起こさないの……。本当、いたずらっ子に拍車がかかってるわ……。
「あ、そうだリンネ。水着コンテスト、出る?」
「無理無理無理無理!! 自重しろババアって言われるわ!!」
「絶対言われない。全員大興奮、ふんすふんす、ぷしゅーっ」
「義姉様こそ出ませんの?」
「無理、もう56。還暦近い、死ねって言われる」
「今年も、美しいロリータランキング1位でしたわよ?」
「無理無理無理無理~。む~り~」
レーナお姉ちゃんも、見た目が30年ぐらい変わってないものね……。やっぱりあの計画が原因なんだろうけど、本当……。人間じゃなくて化け物なんだなって現実を突きつけられてるみたいで、胸が苦しくなる時があるなぁ……。
「お昼寝さんが出るなら私も出ます」
「無理、あいつ隠居してる。ザ・ご隠居」
「ご淫居のほうは絶対出ますわよね」
「出る。エリスはまだバリバリ水着モデルやってる」
まあお昼寝さんとエリスさんも、かなり若々しいんだけどさ。娘さんが第8ワールドでGOD帯プレイヤーに入って、大喜びしてたなぁ~。よし、今年団体で当たったら揉んでやるか。
「あ、そうだ。レイジの30回忌、どうする?」
「勝手に殺すなドアホ、生きとるわボケ!! 誕生日や誕生日!!」
「ぶっ……!! あっははは!!」
「それを目の前で言う根性、見習いたいですわね……」
「ぺるぺるは昔なら絶対言った」
「言いませんわよ、そんな縁起でもない」
「言うたことあるで、7回忌や~言うてたやろ!!」
「お~よく覚えてる~」
レイジさんは順当に老けたけど、いやぁ……。渋い老け方したよね。それでもまだまだ若者には負けんって感じで、ツッコミもキレッキレよ。
「おう、結構集まってるみたいだから来たぜ。お、ピーマンの肉詰めか。1つ貰い!」
「あ~!! ハッゲさん、それはダイヤちゃんにあげるやつだったんですよ!!」
「お、わりいわりい。じゃあ作るの俺も手伝うか」
「うわ出た、レジェンドプレイヤー」
「伝説さんこんばんは~」
「リンネちゃん差し置いて伝説はねえだろ、なあレイジ? ああ、あいつ死んだんだっけか」
「生きとるわクソハゲ!! お前までワイを殺すなドアホ!!」
「はっはっは!! 全然元気じゃねえか、参ったな!」
ハッゲさん……! 第1ワールドから第10ワールドまでの全てのワールドで、レベル1000……しかもRank帯は全てがKing以上を達成した、正真正銘生きる伝説のプレイヤー……!! 凄いよね、私は第2ワールドに行きたくないから達成出来ないけど、全ワールドでこれを達成するなんて!!
まだ見ぬ食材と出会うためだって、秋ちゃんと一緒に世界各地を飛び回っているのよね。食への執念が凄いわ。リアルでも世界一と言われる料理家だけあるわ……。
「ダイヤ~。ハッゲの料理出るって、最高だね~」
「おばさ」
「伯母さんって言ったら撃つ」
「レーナさんみたいに綺麗な女の子でいたいから、私はちょっとでいいから!!」
「ん、よく食べてよく遊んでよく寝る。そうしないと綺麗にならない」
「絶対嘘!! なんか、凄い努力してるって、ダイヤ知ってるんだから!!」
「特に? 何も? リンネも別にやってない」
「お母さんも絶対何かやってる、嘘つかないで!!」
ダイヤちゃんはレーナちゃんっていう、56歳になっても美少女のままのヤバい存在がいるから、ご飯イヤイヤって言うのよね。難しい年頃ね~……私もダイヤちゃんぐらいの時に両親を完全拒絶したなぁ~。
「え~? 毎日1時間ぐらい運動をするだけよ、それとバビロン様の崇拝?」
『ワタシのこと大好きだもんね~♡ きゃああああ~!?』
バビロン様の声がした。抱きしめた。ここまで1秒未満、絶対にお姉ちゃんより先に抱きついた。私の勝ちよ!!
「リンネに負けた……」
「勝った……んんんん……細い……。しなやか……。あ、バビロン様香水変えました? 髪のふわふわ感も違いますね。靴も変えたんですね!! あ、こんばんは!」
『細かいところまで見過ぎ~♡ はいはい、こんばんは~♡』
バビロン様のちょっとした変化なら、縦ロールの数が1個違うだけでも当てられる自信があるわ。私はバビロン様のマスターであり、バビロン様マスターでもあるのだからね!!
「おう、ピーマンの肉詰めだぜ。ティアちゃんとどっちが美味いか食っていってくれ」
『わう~!! (僕のは~!!)』
「おめえさんのも作ってあるに決まってるだろ」
『わう~!! (やった~!!)』
「ピーマンの肉詰めに御座いますか!!」
「わ~秋も食べたいです~。いただきま~す」
いくつになってもほんっと、食欲の衰えない奴らねぇ……。子供じゃないんだから……。秋ちゃんは子供だけど。
「はいはいはいはい、出来ましたよ~! ティアとハッゲさんの、どっちでしょ~か!!」
うーん、ごめんねティアちゃん! ハッゲさんのやつのほうがすんごいこう、輝いてるっていうか、オーラが出てるわ!! アイテムの詳細表示すると、ギッラギラした虹色の枠がついてるから一発でわかるわ!!
「それじゃ、みんなで食べて当ててみようか!」
「義姉様、肉だけ器用に外すのやめてくださいませんこと!?」
「え、そそそそ、そんなことしてない。レイジがやった」
「ワイの皿にピーマンだけ押し付けんなや!! 一緒に食うからバランスがええんやろが!!」
『全く、毎日毎日飽きないわね~♡』
「はい、ダイヤちゃん。あ~んして、あ~ん!」
「ママ、そういうの恥ずかしいからやめて! あ、あ~ん……」
今日もバビロンオンラインは平和だわ……。あ、リアちゃんがシレッと起きてきて席に座ってる。しかもハッゲさんのほうだけパクパク食べてる……。本当、悪い子だよ君は……。
あ~あ、毎日こんなだったら良いんだけどなぁ~。今日もなんだかんだ、仕事が増えるんだろうなぁ~……。第1ワールドって、想定されているアフターシナリオも全部終わってるのに……。
「――やっほ~。うわ、丁度ご飯タイムか~」
「お~お~やっとるね~」
「トラブルね」
「トラブルねさんだ……」
「トラブルだ~やっほ~」
「今回はなんや!!」
ああ、お昼寝さんと嫁様が来ちゃった……。もう終わりだ、おしまいだぁ……!!
「じゃあ、ご飯が終わったら、ヴェルフェミ大陸の方でドンパチやり始めるっぽいから、ちょーっくら様子を見に行かな~い?」
「なんでまた戦争始めんねん、アホかあの国!!」
「もう滅ぼすべき」
「んぁ~!! ティアちゃんのピーマンの肉詰め美味しい~!! 聞こえない~!!」
「あ、そっちはティアのです! リンネ様当たりで~す!!」
「ママのも食べたい」
「はいはい、今取ってあげますね~」
「此方にも1つ」
「秋にもお願いします~」
もうずっとご飯食べてたい!! いやそんなに食べられないんだけど、そういう意味じゃなくて!! うわーん、平和な日常が欲しいよぉー!! もうドンパチはこりごりだよー!!
『やっぱり、あんた達と居ると退屈しないわね~♡ はいリンネ、あ~ん♡』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!」
うわぁん!! いつもの666倍ぐらい美味しいです、ありがとうございますバビロン様ぁー!! バビロン様サイコーー!! あ、もちろん皆も最高だよ?
「はむっ!!」
「あ゛あ゛!?」
『あ~あ♡ ざ~んねん、レーナに取られちゃったわね~♡』
お姉ちゃん最低!! バビロン様のあーんを横取りするなんて、赦せない……!! ヴェルフェミで派手にドンパチ始める奴ら、後で覚悟しとけよ!! ぶっ飛ばしてやる!!