エピローグ
「――主任、ほら早くしてください。始まっちゃいますよ」
「ん~? ああ、そうか。今行く……。よっこい、せっと……」
今、ふと思い出したことがある。あの時、管理AIは『バビロン陣営の勝率は0%』だと言っていた。実際はリンネ達の勝利で、シンギュラリティが起きたなんて大喜びしていたものだが……。
よくよく考えれば、冥界に属していたプレイヤーがお昼寝したいただ1人だったんだよな。あいつだけ、冥王の娘とか独自のルート突っ走ってたわけで。
だから、あの時勝利した陣営は『冥界陣営』だったんじゃないか? 冥界の主、ティティエリティスが討伐したってログにも残ってたしな。えーっとつまり、だ。実は、1人勝ちだったわけか?
「なあ、聞きたいことがあるんだよ。メガリス」
『はい、なんでしょう……おや? 管理AIと呼ばないのは珍しいですね』
「たまには良いだろ。なあ、バビロン陣営の勝率が0%だって言ってたの、覚えてるだろ?」
『…………さあ、記録に御座いませんね』
「嘘つけ、絶対あるだろ」
『便利なワードランキング第1位に選ばれた言葉でお返し致します――――乙女の、秘密です』
「だーー!! お前は乙女じゃねえだろ!!」
まったく、バビオンスラングばっかり覚えやがって!! 回答の優先度が低い場合、内緒にするってことが多くなってきたなぁ、こいつは!!
「それよりほら、始まるんですから!! 大決戦ですよ!!」
「ああ、おっと。このコーヒーは」
「いつものですよ」
「サンキュー」
さてと、ついに大決戦が始まるのか。さてさて、お手並み拝見……だな!!
『――皆さん!! お待たせ致しましたァー!! 実況は毎回恒例のわたくし、第1ワールドケテル出身のエルフ族、ロージと!!』
『はい、私も同じワールド出身のドワーフ、解説役のポポルと申します。ロージさん、今回も宜しくお願いします』
『ポポルさん、今年も宜しくお願いします! さてポポルさん、今回は記念すべき第30回目の宇宙一決定戦となりました!!』
『そうですねぇ~。決闘惑星ガトランタとして独立した宇宙大国家になってから、もう30回目ですか~。早いですねえ~……』
ああ、もう30年目かぁ……。ガトランタが第1ワールドと第2ワールド間での決闘を可能にするため、決闘惑星ガトランタとして独立して貰ったんだよなぁ……。本来は2年か3年後のはずだったのに、翌年には独立したんだっけか。つまり、サービス開始からは31年目だな。早いもんだ……。
『今年も錚々たる顔ぶれが集まりましたね! 昨日の第30回、ロボッ闘魂宇宙一トーナメントの熱も冷めやらぬ会場には、今回も満員御礼で御座います。ああ観客の皆さん、ありがとうございまーす!!』
『実はロボッ闘魂トーナメント、第1ワールドケテルでプレイヤーが独自に立ち上げたトーナメントなんですよ。これ知らない人多いんじゃないですかね~』
『ポポルさんが毎年言っているから、もちろん皆さんご存知でしょう!! 今年の優勝も、オメガリス・アーマードトロイV4でしたね!!』
『今年は第7ワールドネツァク代表、グレートゴリアテくん8号が惜しかったんですけどねー!!』
『次回の大会に期待したいところですね!! えー雑談が多くなってしまいました。それでは、個人! ペア! 団体の選手達に、入場して頂きましょう!!』
アーマードトロイ、負ける度にバージョンアップしているが……。むしろまだ3回しか負けていないのか? いやいや、強すぎるなぁ……。まあ人型兵器の完成形、仕方ないっちゃ仕方ないか。
『まずは東門より第1ワールドの猛者達が入場して参りました!! もう見慣れたメンツですね!』
『はぁい。個人代表は無敵の大剣豪レイジを含め4名、ペア代表には猛毒と幻影コンビのお昼寝大好きとエリスら8名、団体は……まあ言うまでもないあの人ですよね~』
『無敵超人リンネ率いる、不死身の従者達!! いやぁ、今日もどん太君が可愛い!』
『あ、贔屓はいけませんよ~? 可愛いのは事実ですけど』
第1ワールド、30年連続無敗のチャンピオンの入場だ……!! まさに生きる伝説、今年もう45歳だろ? いやぁ、どうみても10代後半か20台前半だ。リアルモジュールって老いも反映されるはずだよなぁ? どうやってあの美貌を維持してんだ、化け物か? リアルでも不死身なのか?
『さあ西門からは第2ワールドの代表達が入場!! こちらもさすがの古参ワールド、いつも通りのメンツに近いですね!!』
『個人代表は全能の賢者ブリザーマンら4名、ペア代表は激昂する雪月花ことつくねとユキノのペアを含む8名、そして団体代表は……あ~』
来たか……。来たか、今年もこの瞬間が……!!
『おーっと第2ワールドコクマー代表、やはり今年もやるのかぁーー!?』
『あー絶対やりますねこれは、あー走り出した!!』
『――――小娘ぇええええ!!』
『メルティーナァアアアアア!!』
『あーっと入ったぁあああ!! 顔面ストレーーーートッ!!』
『場外乱闘は禁止ですよ、禁止。まあもはやこれ毎年恒例なんですけどね』
「ぶっ……!! あっははは!! 今年も懲りずに開始前でぶん殴ってますよ!!」
「全く、本当に困った奴らだ……」
いやぁ、これだよ。これ!! 開始宣言前にリンネとメルティーナが顔を合わせたら、まずはぶん殴る!! これが見たいがために、開会式を見てるまであるからなぁ~!!
毎回これだもんで、第3ワールド以降の連中がドン引きするんだよな。え、自分も誰かにぶっ飛ばされたりしないよね? なんてキョロキョロしてる奴も居るし。第10ワールドに至っては新参しか居ないから、何が起きてるのかわからないって顔をしてるしな。
さて、今回リンネとメルティーナは決勝で当たるとして……。うわあ、リンネ達と当たるのは第10ワールドの新参か。こりゃあ可哀想だなぁ……まあ、いい経験だ! デカい胸を貸して貰え。
『――さて、第10ワールドの選手まで全員入場完了しました!』
『開会宣言と誓いの言葉は、第1ワールド代表のプレイヤーリンネと』
『第2ワールド代表、メルティーナ選手に』
『――誓い!! 我々は、第30回宇宙一決定戦という記念すべき大会の開催に感謝し!!』
『決闘惑星ガトランタにて、正々堂々!!』
『『こいつをぶっ飛ばすことを、誓います!! くたばれぇえええ!!』』
「ぶ!! あは!! あっはははは!!」
「あいつら……」
あーあ、遂に今年は開会宣言と誓いの言葉までやらかしやがったよ……。見ろ、バビロンとヘルミナが呆れて笑ってるぞ……。
『あーあ、リンネ酷すぎ~♡ せんせぇ~い♡ ワタシ達、選手一同はー?』
『決闘惑星ガトランタにて、ルールに則り、正々堂々戦うこと』
『誓いまぁ~す♡』
『ち、誓います……はぁ……ほら、メルティーナ、起きて……』
『ぐ、あの馬鹿……! 鼻血が……!』
『リンネ~? 起きなさぁ~い? あっちでお仕置きよ~』
『はい!! バビロン様、ありがとうございます!!』
この調子じゃ、後30年経ってもバビロンオンラインは安泰かもしれんなぁ~……。まあ、もしかしたらメルティーナが優勝で命名権を獲得して、メルティーナオンラインになる可能性も……あるかもしれないがな。
「ところで、団体優勝の特典の命名権。リンネ以外に覚えてる奴居ると思うか?」
「あー居ないんじゃないですかね。31年バビロンオンラインのままですし、名前を変える権利があるの、覚えてないと思いますよ」
「だよな」
「ですねー」
いつまで続くんだろうな……。いつまでも、続くと良いな……。
だが、いずれ必ず終わりは来る。俺が歳を取ったように、リンネも歳を取り続ける……。
「サービス終了が早いか、リンネが負ける日が先に来るか、どっちに賭ける?」
「えーそんなの決まってるじゃないですかー」
その日が来るのは、いつになるか……。ああ、楽しみだな。楽しみだ……。
『――それでは、個人の部Aブロック第1回戦を開始します! BブロックからFブロックも同時開催となります。会場をお間違えないよう、ご移動願います!!』
『初戦開始の合図は毎回恒例、ガトランタ王にお願い致します』
『うむ……』
まだまだ俺達に、楽しい夢を見させてくれ。
これからもバビロンオンラインに、伝説を作り続けてくれ……。
これからも、ずっと……。ずっと…………。いずれ、その日が訪れるまで。
本作をご愛読の皆様、最後までご覧頂きありがとうございました。
以上で、『ガイド役の天使を殴り倒したら、死霊術師になりました ~裏イベントを最速で引き当てた結果、世界が終焉を迎えるそうです~』は最終話となります。
いざ終わってみると、様々な感情が込み上げて来て、あまり書けないものですね。
非情な言葉を投げかけられ、挫けそうになる時がありました。怒りに身を任せ、作品を投げ出してしまおうと思ったこともありました。それでも今日この最終話に辿り着けたのは皆様の応援と…………。
『俺の最後までやり通すという、鋼の意思だぁああああああああああああああああ!!!!』
ということで、これまで様々な形での応援……本当に!! 本当に、ありがとうございました!!
速報!! 次回作!!
『鋼鉄の機神 ~立てば芍薬、座れば牡丹、戦う姿はメスゴリラ~』
この後すぐ公開!!!! どうぞお見逃しなく!!!! 次回作もイカれた女を、どうぞよろしくお願い申し上げます!!!!