585 終焉る世界・7
◆ ◆ ◆
『あらあら? バビロンちゃんとリンネちゃんだけで、内緒のお話なの~?』
『ええ、お姉ちゃまにはナ・イ・ショ♡』
『うん。でも、お姉ちゃまもその時が来たらわかると思う』
『あらあら、カレンちゃんまで知っているの? お姉ちゃんだけ仲間外れなんて、悲しいわ~』
あの時のお話は、メルティスとの決戦のお話だったのね。
リンネちゃんとバビロンちゃんの戦いを見ていて、痛感するわ。私は……ずーっと、皆に守られて過ごしてきただけなんだって。
役立たずのお姉ちゃんで、ごめんなさい。バビロンちゃんのお荷物で、ごめんなさい……。
リンネちゃん、どうかお願い……。バビロンちゃんを……私達を、勝利に導いて……!!
◆ ◆ ◆
『メルティスが【ライトニングキック】を発動』
『【魔神襲撃脚】を発動、相殺!』
『メルティスが【破壊する剛腕】を発動』
『【ジェットストレートパンチ】を発動、相殺!』
――――互角だ。
『メルティスが【ライトニングガトリングナックル】を発動』
『【魔神爆裂拳】を発動、相殺! 相殺! 相殺!』
実力や能力は、ほぼ互角。完全に拮抗している。
なら、私が……私達だけが持っている長所を、叩きつけていくしかない。
『(蹴りよ! メルティスには癖がある!!)』
『メルティスが【ライトニングキック】を』
「っらぁああああああ!!」
『【魔神天破昇龍拳】を発動、クリティカル!』
顎を捉えた!! こいつを、このまま……!!
『ごぁっ……!』
『メルティスが【サマーソルトキック】を発動、クリティカル!』
「がっ!?」
『(焦りは禁物よ、髪の毛引っ張り倒してやんなさい!!)』
「ぐっ、らああああああああ!!」
『離せ、この、クソ小娘……!!』
『【叩きつけ】を発動、クリティカル! クリティカル! クリティカル――』
くたばれ、くたばれ、くたばれ!! くたばれええええええ!!
『メルティスが【破壊する剛腕】を発動、クリティカル!』
「ぐっ、うっ……!!」
『離……せ……!!』
「離す、かぁあああああ!!」
『【魔神襲撃脚】を発動、クリティカル――――』
『メルティスが【ライトニングアッパー】を発動、クリティカル――――』
意識が、遠くなる……。脳が、揺れる……。
これしきのこと……!! これしきの、こと……!!
『【魔神拳】を発動、クリティカル!』
『ごっ……!』
『【魔神拳】を発動、クリティカル!』
「くた、ばれぇえええええ!!」
『【魔神拳】を発動』
『メルティスが【かみつき】を発動』
「がぁ、あああああああああああ!?」
『ふぃほろひへひゃう、んぐぁあああああああああ!!』
この、左手を食いちぎる気か、この!!
『(目ん玉ぶっ潰してやりなさい、リンネ!!)』
『【魔神爆裂拳】を発動、クリティカル! メルティスが【目潰し】状態になりました』
『ぎぃい、ぐ――――がぐぅぅうううぎぃいいいいい!!』
また離さないか、こいつ!! そんなに欲しけりゃ、左手ぐらいくれてやる!!
「うらああああああああああ!!」
『【魔神天破昇龍拳】を発動、クリティカル!』
『メルティスが【かみちぎり】を発動』
『ごぉ、お――――』
くたばれ、ゴキブリ女ぁああああ!!
『お、ひ……へ、はははは!! はははははは!!』
「これで終わり、だ……ぁ……?」
『(リンネ!!)』
『かみ、ひぎって、ひゃった……くへ……!! へひゃ……はは……!!』
体から、力が抜ける……!? いったい、どうしたっていうの……!! 足が……立てない!!
『アラート:メルティスの【神千切り】により、【バビロン】との憑依が千切られています! 貴方の神性が一時的に剥奪されています!』
『ひぃい、ひひ、いっははははは!! いひひひひ!!』
「まさか、バビロン様を……!!」
『リン、ネ……!!』
『元より、こいつが狙いだ!!』
『メルティスが【ソウルコレクト】を発動、【バビロンの魂】が捕縛されています!』
神千切り……!? あの噛みつきで、バビロン様の憑依を引き剥がされた!? マズい、今のバビロン様は霊体……!!
『砕けろぉおおおおおおおお!!』
「バビロン様ぁああああああああああ!!」
『リン――』
『メルティスが【バビロンの魂】を砕き、究極神技【ソウルブレイカー】を発動! 砕かれた魂が刃となり襲いかかる!』
そん、な……!! バビロン、様まで……!! 刃が、来る……!!
『――――MISS……。ダメージを受けませんでした』
『ぁ……? あぁあ……?』
『ざまあみろ。今のねえねは神じゃない。神格不足の刃じゃ大した威力にならない!!』
『カレンが【波動掌底波】を発動、クリティカル! メルティスに致命的なダメージを与え、大きく吹き飛ばしました』
『お、ご、うげごぁっ!?』
バビロン様が、神性を捨てていたから……? ソウルブレイカーの威力は、その魂の神性が高ければ高いほど上昇する……つまり、これを見越して魔神の神格すらも破棄していたってこと!?
『か、ひゃ……ひゅっ……!! お、のれ……おのれ……おのれ……』
『これで、終わりよ!! お姉ちゃま!!』
『きひゃああああああああああああああああああああああああ!!』
『メルティスが【覚悟】を決めました』
「うっ……!?」
『この、衝撃波は……!?』
この期に及んで、まだ何かを隠し持っているというの……? ソウルブレイカーは使い果たし、虫の息のくせに……!! まだ、抵抗する気でいるのか!!
『わ、私が、居ない……! こ、こんひゃ、世界、ぁ……!!』
『メルティスが最終神技【ワールドブレイカー】の発動スタンバイ! 大いなる力と天界を犠牲に、世界に破滅を齎そうとしています!』
『天界を犠牲に、全てを破壊する気……!?』
ああ――――なんて、なんて往生際の悪い奴。
『は、はははは!! 全て、全て壊れろ!! 全て、全てぇええええええ!!』
自らの持つ大いなる力と、天界の全てを犠牲にしてでも、そこまでして私達を……この世界を、破壊しようというのね。本当に……最後の最後まで、往生際の悪い奴……!!
「ティティエリィ様、魔界を……!!」
『お姉ちゃま!! 魔界をぶつけて!!』
『え、え!? ええええ!? いきなりそんなこと言われても~!!』
『出来る!! 門を開くのは、お姉ちゃまの得意技!!』
「魔界は既に、全員退避済みです!! ティティエリィ様なら、必ず出来ます!!」
世界を壊す力には、世界をぶつけて相殺するしかない。大いなる力と天界を犠牲にするのであれば、こちらも大いなる力と魔界をぶつけるしか、方法はない!!
『む、だだ、だだ、ぁあ!! 魔界の、主は、神性を封じたぁああああ!!』
『お姉ちゃま!!』
「ティティエリィ様!!」
出来る。必ず、ティティエリィ様なら……出来る!!
『……開け! 魔界の扉よ!!』
『ワァアアルド、ブレイカァアアアアアアアアアアアアアアア!!』
『メルティーナが最終神技【ワールドブレイカー】を発動!! 大いなる力が、世界を滅ぼす!!』
『魔界よ、お願い……!! 私達の、人々の、この世界の盾になって!!』
出来る……だって……貴方は……!!
『ティティエリティスが大いなる力と魔界を犠牲に、神技【ワールドガーディアン】を発動!!』
大いなる力の座を2つを授かりし、魔界と冥界の主なのだから!!
『は……が……!?』
『あっ……!!』
『リンネ、掴まって!!』
ごめんなさい、カレン様……。もう、動けそうにありません。
私はメルティス……いや、今は力を失って本来の名……。メルティーナと共に、此処で消えます……。こいつは必ず、私が……地獄に叩き落としてやらなきゃいけないですしね。
『リンネちゃん!!』
『リンネ、リンネーーーーッ!!』
さようなら。残された人間界と冥界を、どうかよろしくおねがいします……。
『相殺! 【ワールドブレイカー】を【ワールドガーディアン】が相殺し――――』
◆ ◆ ◆
『空間崩壊、これ以上止めることは出来ません……』
「弱音を吐くなトロイ!! まだだ、リンネが来ていないんだ、我らのリンネが!!」
『時空干渉、げげ、限界……』
「アカン、崩れるで!!」
「リンネちゃんはどうした!!」
「もうこれ以上は待てないよ~!! お昼寝も来ないし~!!」
「誰か来よるで、あれは……!!」
天界が崩壊する。これ以上はもう耐えられないと思った矢先、俺達の目の前に現れたのは……。
『お姉ちゃま!! 諦めて!!』
『リンネちゃんが、リンネちゃん!! あああああああああ!!』
ティスティス様と、彼女を担いで走ってきた、カレン様の御二方だけだった。
「リンネは!?」
『…………間に合わなかった』
『空間崩壊干渉、限界……!!』
『時空崩壊干渉、限界……ぷ、しゅぅ……』
『トロイにオーバーロードが発生、過負荷により機能停止しました』
『グリムヒルデにオーバーヒートが発生、熱暴走により機能停止しました』
『エリアアナウンス:天界が崩壊し、時空の狭間に消え去りました……』
残念だが、間に合わなかった。リンネちゃんも、お昼寝も、ちゃっかり居たもってぃも、誰も……。誰も、間に合わなかった。
『ワールドアナウンス:光の女神メルティスが、冥界の主ティティエリティスにより討伐されました!! 世界の統治神が冥界の主ティティエリティスのみとなり、冥界の主に世界の統治権が与えられました!! プレイヤー陣営の勝利です。おめでとうございます!!』
「プレイヤー陣営の、勝利かよ。これが……」
「リンネちゃんが、居ないのに……」
「リンネちゃんやろ!! リンネちゃんが倒したんや、リンネちゃんが……!! 倒したのはリンネちゃんやろがぁあああああああああああああああ!! 運営、運営!! 聞こえてるんやろ、訂正せえ!! 倒したんはリンネちゃんや……リンネちゃんがぁああ……!! あああああ!!」
あまりにも虚しい、プレイヤー陣営の勝利を祝うアナウンスが鳴り響く。
まさに、勝者なきファンファーレだった。誰も、それを祝う気分になどなれなかった。
「…………リンネには、もう会えないのか?」
「もう一度、アバターを作り直せば……」
「そういう問題ちゃうやろ!! なあ、ハッゲ!! ちゃうやろ? なあ……!!」
「レイジ、やめなよ……。お昼寝だって、帰ってこない……!!」
『お姉ちゃま……』
『……カレンちゃん。ごめんなさい、なんて、言ったら良いか……』
もう一度アバターを作り直せば、確かにリンネちゃんは帰ってくるだろう。だがそれは、なんていうか……別なんだ。あの時戦っていたリンネちゃんとは、また……違うんだ。
『お姉ちゃま……!!』
『ごめんなさい、ごめんなさいカレンちゃん……!!』
『違う!! 見て!!』
そんな中での、異変だった。カレン様が妙に騒がしい。何かを指さして、ティスティス様に見るようにと促している。俺達もそれが気になり、指差す先を目で追いかけると……。
「あ、あれは……!!」
「…………ほんまか」
「おいおいおいおい……」
「うそっ……!! うそっ!! ねえ、ねえ!!」
『お姉ちゃま、早く!! あそこに行かないと!!』
『あ、あああ!! あああ、ひ、開け!! 転移の門よ!!』
――――俺達の探している人物が、空から落ちてきているところだったんだぜ!!