584 終焉る世界・6
◆ ◆ ◆
僕がマスターで、本当に良かったのかな……なんて、何度考えたことだろう。
リンネちゃんを見ていると、怠惰な自分に嫌気が差してくる。
ただのんびりと過ごせれば、それで良いと思ってた。好きなことをして過ごせれば、それで。
いつからだろう、尊敬が憧れに変わり、憧れが嫉妬に変わり、もう追いつけないと諦めて。それでも追いかけたいと思って、必死に頑張り始めたのは。
人生の中で、こんなに頑張ったことはあっただろうか? たかがゲームに、なんて……馬鹿にしないで欲しい。世の中には、ゲームに人生をかけている人だっているんだから。
だから…………僕はね。自分のことを諦めずに、ひたすらに頑張ってみようと思ったんだ。
そしたら、いつかリンネちゃんにだって…………。勝てる日が来るかもしれないでしょ?
◆ ◆ ◆
『お前達の仲間は、みぃ~んな消えて塵になった。お前達も、仲間の後を追わせてやろう』
「まだよ」
『ええ、まだ残っているわ』
『はっ、強がるな。もはや有象無象しか残っておるまい。それと、そこで震え上がっているお前の姉妹ぐらいか』
まだ、私達にはとっておきの切り札が残っているわ。お前の度肝を抜くような、最高の切り札がね。
『【死体安置所】から【どん太】を召喚します』
『バビロンが【魔界の恐怖】を召喚します』
『ガゥウウウ……!!』
『ワゥウウウ……!!』
『それが? 犬畜生の2匹、造作もないわ!!』
『メルティスが【破壊と滅びの槍】を発動……失敗! ミーシャ・カーサ・リザの残留思念が槍を離しません』
『【アンデッド憑依】を発動、どん太が憑依し【魔界の恐怖】状態になりました』
『バビロンが【アンデッド憑依】を発動、魔界の恐怖が憑依し【魔狼死霊神】状態になりました』
『なんだと……!?』
たとえ魂が破壊されようとも、その人達の想いは残り続ける。最後まで諦めないという想いが!!
『メルティスが【光の槍】を発動』
『カーミラが究極神技【光を呑む月の闇】を発動、【光の槍】を掻き消しました』
「ふっ……げほっ……ごぼっ……。どうし、ました? 頼りの、綱は……」
『エクリシア、貴様……!! 貴様!!』
『メルティスが【氷の女神の魂】を砕き、究極神技【ソウルブレイカー】を発動! 砕かれた魂が刃となり襲いかかる! カーミラが25,051,221Gダメージを受け、破壊されました……。再起不能です』
――――ねえ、ちゃんと数えてる?
『【魔狼流星斬】を発動』
『バビロンが【魔狼流星斬】を発動』
『メルティスが【光の槍】を発動――失敗!』
『なぜ、まだ……!?』
お前の残機が、どれだけ残ってるのかを!!
『スキルリンク! 【魔狼流星双斬】が発動、クリティカル! メルティスに16,900,155Gダメージを与えました』
『HPブレイク! メルティスのHPが第3ゲージへ突入しました』
『お――のれぇえええ!!』
『メルティスが【破壊する剛腕】を発動』
どん太は魔狼神だ、しかし同時に破壊神でもある!! そんなどん太に……!!
『【爆滅破壊掌】を発動、Block! 【破壊する剛腕】を弾き返しました!』
「バビロン様!!」
『歯を食いしばりなさぁい!!』
『――ッ!!』
破壊勝負で勝てると思ったか!! さあ、ボディががら空きよ!!
『バビロンが究極スキル【魔狼破壊神拳】を発動、クリティカル! メルティスに34,444,666Gダメージを与えました』
『HPブレイク! メルティスのHPが第4ゲージへ突入しました』
『ぶっ……ご、はっ……あ、あああ!!!』
『メルティスが【ライトニングキック】を発動、クリティカル! バビロンに7,470,801Gダメージを与え、大きく吹き飛ばしました』
『究極スキル【魔狼破壊神拳】を発動』
『ぐがああああああああ!!』
『メルティスが【捨て身の頭突き】を発動、クリティカル! 【ライトニングキック】を発動、クリティカル! 8,466,180Gダメージを受け、大きく吹き飛ばされました』
う、がっ!? こいつ、体裁を捨てて頭突きまで……どこまでもどこまでもしぶといやつ!!
『(大丈夫よ、リンネ……! お母様のおかげで、追撃の光の槍は飛んでこない!)』
『(はい、バビロン様!!)』
光の槍は飛んでこない、破壊と滅びの槍も引き抜けない、ならあいつが取る行動は1つだけ!!
『メルティスが【嵐の神の魂】を取り出し――』
『はっ……!?』
「使って、みろよ……。ソウル、ブレイカーを……」
『使えるものなら、ね!!』
『ティティエリィ・ティスティスが【冥の安息】を発動、HP・MPが完全に回復しました』
『カレンが【一死鼓舞】を発動、ステータスが飛躍的に上昇しました』
『頑張って、リンネちゃん! バビロンちゃん!』
『ねえね、リンネ、頑張って!』
ソウルブレイカー。ああ、私達の内どちらかはそれで良い。だけど、残った方はどうする? そうしたらもう、お前に後はない。私のカウントが正しければ、お前はもう……。
「残り、1回」
『ワタシ達を葬るには、ちょーっと足りなさそうねぇ?』
『…………黙れ!!』
『メルティスが【ソウルブレイカー】をキャンセル、【破壊と滅びの槍】を……失敗。【光の槍】を……失敗』
『黙れぇえええええええええええ!!』
『メルティスが【ライトニングステップ】を発動』
私達を倒す手段が、残っていないはずよ!!
『【魔狼流星斬】を発動』
『バビロンが【魔狼流星斬】を発動』
威力とスピードの勝負なら、こちらに軍配が上がる!! 選択を誤ったな、クソ女神!!
『アラート:メルティスが【魔狼流星斬】を見切りました!!』
「なっ」
『はっ!?』
『MISS……。メルティスが【魔狼流星双斬】を回避しました』
『見切ったぁあああああああああああ!!』
ここに来て、まさかの見切り!? こいつのゴキブリ並みの生存本能が、最後の最後で生き残るための本能が働いたというの!?
『メルティスが【ライトニングキック】を発動、バビロンが6,801,504Gダメージを受け、大きく吹き飛ばされました』
でも、この流れならさっきと同じ展開……大丈夫! 攻撃を貰う前に一発でも抵抗して、次の攻撃への一手を稼いで……!!
『――――青ざめろ、小娘』
『(わっ! アレを使う気だよ!!)』
まさか、ソウルブレイカーを、このタイミングで!? 何故、意味が……!!
『メルティスが【嵐の神の魂】を砕き、究極神技【ソウルブレイカー】を発動! 砕かれた魂が刃となり襲いかかる!』
『アラート:どん太が自らの意思で憑依を解除しました』
『ガウウウ!! (させない!!)』
「どん太!?」
『クリティカル! どん太が21,051,210Gダメージを受けました』
どん太、どん太!? どん太が、どん太が!!
『お前さえ!! お前さえ倒せば、魔界の主は消える!! 死霊の神の権能は消え失せる!! あの小娘も力を失い憑依は解かれる!!』
「ッ……!!」
『リンネェエエエエエエエ!!』
『バビロンが【魔狼流星弾】を発動』
どん太……!! だけど、もうお前には砕くものが何も残っていない!! 何も!!
『メルティスが【ソウルコレクト】を発動、【魔狼神の魂】が捕縛されています!』
「まさ……か……」
『青ざめたなぁ!? あっは、あははは!! あっははははは!! 砕けて消えろぉおおお!!』
まさか、あの時トドメを……刺していない……!! どん太の魂を破壊せずに……!?
『メルティスが【魔狼神の魂】を砕き、究極神技【ソウルブレイカー】を発動! 砕かれた魂が刃となり――――』
『リンネ、リンネ!!』
『クリティカル! バビロンの【魔狼流星弾】により3,470,550Gダメージを受け、大きく吹き飛ばされました』
『魔界の恐怖が自らの意思で憑依を解除します』
『クリティカル! 魔界の恐怖が22,064,170Gダメージを受け、破壊されました……。再起不能です』
『メルティスが【ライトニングキック】を発動、クリティカル! バビロンが6,701,774Gダメージを受け、大きく吹き飛ばされました』
憑依を解除するのを読まれて、どん太を……利用された……? もう、何も残っていないって、勝手に思い込んで……!! こんな、こんな……。
『逃さん、お前だけはぁああ……!! お前だけは必ず!!』
『ティティエリィ・ティスティスが【スナイピングショット】を発動、MISS……。メルティスが回避しました』
『カレンが【波動掌底波】を発動、Block! メルティスが攻撃を弾きました』
『くたばれ、魔界の主!! 生意気な小娘がぁあああああ!!』
ここまで来て、もう私には……何も残っていない……? メルティスのライトニングキックは、どん太を憑依していても見切ることは出来なかった。もう私には、何も……!!
『トラップスキル、【ワームホール】が発動! メルティスが落とし穴に引きずり込まれました!』
『な、ぁ――――!?』
「はぁ~い、1名様ごあんなぁ~い……ってねぇ!!」
「後は頼んだよ、師匠ぉおおおおおおおおおお!!」
『もってぃが【ワームホール】を閉ざし――メルティスが抵抗しています!』
『お昼寝したいが究極スキル【ヒュドラボム】を発動、全ての爆弾を起爆します!』
――――もってぃ……!? もってぃが、なんで……!!
『――――伏兵や!! リンネちゃん達はメルティス探しとき、ワイらが――――』
『――――今度こそもってぃ2号の汚名は返上させて貰うよ――――』
『――――えっ』
居た……!! 居た、確かに、居た!! あの時声が聞こえた!! この瞬間を、横槍を入れる最高のタイミングを、落とし穴を作ってずーっと待っていたの!? なんで、こんな……!
『(師匠に褒められた、唯一の連携スキルだから、ね!)』
『(もってぃ2号も、悪くないと思ってさ~!!)』
「もってぃ……お昼寝さん……」
『――ぼーっとしとる場合ちゃうで!! また這い出てくるで、あんのゴキブリ女!!』
「レイジ!! 駄目だ俺とエリスじゃ手が足りねえ!!」
『だーー!! リンネちゃんだけが頼りや、ここが正念場やで!!』
私だけが、頼り……。そうだ、ここが……! ここが、正念場だ!!
『あら? ワタシも忘れて貰っちゃ困るわねぇ?』
「バビロン様!!」
『忘れたのかしら? 誰が、誰の従者だったか……』
「あっ……!?」
そうだ、バビロン様は……初手でメルティスの意表を突くために、従者に……。
従者なら、バビロン様は……つまり…………。
『リンネ!!』
「…………来い、バビロン!!」
『【アンデッド憑依】を発動…………。最高位アンデッド【魔神バビロン】が憑依し――――』
『く、か、が……ぁぁ……!! こ、けに、しおって……!!』
『HPブレイク! メルティスのHPが最終ゲージに突入しました!』
バビロン様も、アンデッド憑依の対象ってことよ!! これが……正真正銘、最後のアンデッド憑依……。ここまで積み上げた全てを、今……出し切る!!
『――――【恐怖の魔界神】状態になりました!!』
『その、姿は……まさかぁぁあ……!!』
「『さあ、フィナーレよ。これで、終焉らせる!!』」