583 終焉る世界・5
◆ ◆ ◆
少し、ほんの少し離席していた間に、監視モニターに信じられない映像が流れていた。
「主任、この段階でメルティスの討伐は、可能なのですか!?」
「……無理だ。奴は正真正銘の最強、弱体化イベントを1つもやっていない状態でのバビロン陣営の討伐成功率は、ゼロだ」
『バビロン陣営の勝率、0%』
メルティスの弱体化イベントを全て無視して、過去に殺した神々の魂のコレクションが全て揃っている状態で、メルティスに勝つことは不可能だ。
大人数で挑んでも光の結界で分断される。少人数では相手にならない。もし、万が一にもソウルブレイカーを攻撃として使われたら――――完全ロストもありえる。
「ソウルブレイカーを吐き出させたら、それは確かに弱体化になるかもしれない……。だが、攻撃として使われそれを受けたなら……」
「ロスト……ですか!?」
『NPCよりメルメイヤ、モッチリーヌ3世、ヒュリエス、えきどにゃ、ヴァルフリート、ドレイクがロスト。プレイヤーよりペルセウス、レーナが能力ロスト状態です』
「たった一撃でこれか……!」
『メルティスは既に、13の魂を消耗しています』
なん……だと……? 30の内の、13も使わせたのか!? たった、これだけの犠牲で、ありえるのか!?
『更に、メルティスは既に食いしばりを切りました』
「最終ゲージだぞ!? 最終ゲージまで、追い込んだというのか!?」
「は、はい! 既に第4ゲージまで回復していますが、それ以上の回復まで手が回らず、拮抗状態が続いています!」
「もう一度確認する!! バビロン陣営の、勝率は!!」
『バビロン陣営の勝率、0%』
馬鹿な、この状態でゼロだと!? 拮抗しているこの状態で、追い込んでいるこの状態で、ゼロなわけがあるか!! 億に一つ、いや万に一つ!! その確率があるだろう!!
「それなら、今回は遂にお前の予想を……超えてくるかもしれないな」
『ありえません』
「管理AIが予想する確率の向こう側……。なんすかこれ、ロマンっすか!?」
「人間がAIを超える、逆転のシンギュラリティ。ありえるのか、こんなことが……!!」
見せてくれ、人類の可能性を……。人間がAIを追い抜き返す、逆転のシンギュラリティを!!
俺は今、歴史の特異点を……目撃するのかもしれない……!!
◆ ◆ ◆
「――お姉さん達はシャーリーに任せて!!」
『頼んだぞ!!』
「おにーさんこそ、頼んだからね!!」
我が神と魔神様は、兎ちゃん……いや、シャルナーデが後方へと運んでくれる。俺達は最後の砦……主君を守る、最後の砦だ!!
『行くぞ!!』
『雑魚共でも連携されるのは面倒だ!! 光の結界よ!!』
やはり使ってくるか、大人数相手は分が悪いとなれば分断してくるのはわかっていたが……!!
『あらあら!! また同じ術式ね、芸がないわ~♡』
『さすがお姉ちゃま』
『馬鹿な、一瞬で……!?』
流石冥の神、確かに光の結界は強力だ。あの魔神様でも解除は難しい……。だが、俺達にも得手不得手があるように、魔神様達にも得手不得手というものがある。
冥の神、ティティエリィ・ティスティスは、結界の術式の扱いが最も得意である。たとえ最強の結界だとしても、一度見た術式ならこの通り!!
『極光連斬波!!』
『小賢しいわ鉄くずが!!』
『鉄くずにも意地がある!! 推して参る!!』
フォルトゥナ二刀流、更にマザートロイより預かりしデュランダル、オートクレール!! 四刀流の極光連斬波を、くらえ!!
『遅い!!』
『オリビエ!』
『恒星、煌めけ、眩い、幾多にも』
『我が力の前に消え去れ!! 光の雨よ!!』
避けられたか! 流石に速い、後ろを狙われている! だが……俺達には仲間が居る!!
「デアタ・ライナ!!」
「か弱き我らの盾となれ、セーフティゾーン!!」
『今度こそ、良いところを見せないと、ね?』
『確実にこの役目、果たして見せましょう』
『天破連斬波!!』
「黄金魔槍驟雨!! やった、相殺ですよっ!!」
俺達の神は立て直す、だがお前はこれ以上立て直させない!! ゴミクズだとか言ったな、ゴミクズにはゴミクズなりの矜持があることを、思い知らせてやる!!
『くっ……! 手数だけは多い……!!』
「にゃんにゃおにゃー! にゃ! お! にゃ! お!」
『やかましい!!』
オーレリアが狙われている、させるか!! フォルトゥナ、モードチェンジ・テュケー!!
『うおぉおおおおお!!』
「さすが隊長、ふっふふ……頼もしいですねえ……」
『お前が最も面倒だ、消え失せろ!! ソウル――』
ソウルブレイカー……!! あれは、さすがにマズいか……!!
「――――ソウルブレイカーを放つ時、隙だらけなのは変わりませんねぇ……メルティーナ」
『お前は……!?』
『カヨコ!!』
「乙女の、秘密です……ノーザンクロス!!」
一撃、入った!! このまま攻勢に出るぞ!!
『エクリシア!! どこまでもどこまでも邪魔をする!!』
「ぐっ……!!」
「カーミラ様が、ふっ飛ばされちゃいました!!」
「ティア、リアに力を!」
流石に単騎の特攻は反撃を受けたか、しかしカヨコはまだ生きている! ならなんとでもなるはずだ!!
「は、はい!! リアさん、頑張ってくださーい!!」
「リアちゃん、頑張って!! マナヒール!!」
『準備は出来たぞオリビエ、アースラ、クック!!』
『懐かしいな。昔かの神を神木に封じた以来か』
『その時僕は居なかったけどねぇ? さあ、行くよぉ?』
『大いなるマナよ、我らの肉体を伝て!! オリビエに力を!!』
『禁呪解放、恒星究極、爆裂魔術――――ギャラクシー』
「にゃっおぉおーん!」
最強魔術師達の一撃を、受けてみろ!!
『――――ソウルブレイカー』
『な――』
待て、今……!! 今、どれだけの量の魂を砕いた……!? どれだけの量の魂を一気に砕いたんだ!? マズい……これは……これは!!
『今度こそ、やらせはしない!! やらせはしないさ!! 俺が、守ってみせる!!』
『滅びろ消え去れ!! 全てを破壊しろぉおおおおお!!』
◆ ◆ ◆
『――――メルティスが究極神技【ソウルブレイカー】を発動! 砕かれた魂が刃となり襲いかかる! 英雄フリオニールが5,051,221Gダメージを受け……鎧が砕け散りました』
『相殺! 【ソウルブレイカー】が【ギャラクシー】を打ち消しました』
『相殺! 【ソウルブレイカー】が【宇宙猫究極爆裂魔術】を打ち消しました』
『英雄フリオニールが【英雄再臨】を発動、復活しました!』
一進一退の攻防、メルティスがしびれを切らしてソウルブレイカーに縋り付いた。でもフリオニールなら……! そんな私の期待に、彼は応えてくれた。しかし……!!
『アースラ・オリビエ・ロクドウ・クックが【ソウルブレイカー】に被弾し――――【ソウルブレイク】状態になりました。再起不能です』
『ああ、そんな……!! アースラ、オリビエ、ロクドウ、クック……!!』
『ティアラが【黄金障壁盾】を発動、ガード……ブレイク! オーレリアが庇い、【ソウルブレイカー】に被弾しました』
さすがにこの数、庇いきれなかった……。リアちゃんが……!!
『ティアラが【ソウルブレイカー】に被弾……フリオニールがティアラのダメージを肩代わりし、4,740,501Gダメージを受けました』
『フリオニールの魂にヒビが入りました』
「フリオニールが……!」
「男の覚悟って奴だ。それにその体で行って役に立つのか?」
「でも、ハッゲさん……!!」
『悪鬼修羅・レイジが【一刀断滅】を発動、メルティス親衛隊(Lv.1000)の首を刎ねました』
『行っても邪魔なだけや!!』
「そういう言い方ないんじゃな~い?」
『エリスが【幻影乱舞マスカレイド】を発動、周囲の敵に平均1,155,740Gダメージを与えました』
あの時仕留めきれなかった私の責任だ……。あの時、焦りを見せなければ……。こんなことには……!
『おっりゃあああああああああ!!』
『魔狼妃サディーナが【剛魔狼襲撃脚】を発動、クリティカル! メルティスに4,700,901Gダメージを与えました』
『ぐっ……はああ!!』
『メルティスが【破壊と滅びの槍】を発動、魔狼妃サディーナが破壊されました……。再起不能です』
『サディーナ……!! 悔しいけど、今行ってもなんの役にも立たないのは事実よ、リンネ……!!』
「くっ……!!」
悔しい、悔しい……! 私が焦ったせいで……!!
『ゼオが神技【アカシックデリート】を発動、消滅の鎌を振りかざしました!』
『見えている!!』
『メルティスが【破壊と滅びの槍】を発動』
『ティアラが【黄金障壁盾】を発動、ガード……ブレイク! ティアラが破壊されました……。再起不能です』
「はぁああああああ!!」
『それでも一手、遅いなぁああ!!』
『デロナが【サクリファイス】を発動』
ティアちゃん……デロナちゃん、ゼオちゃん……!!
『メルティスが【破壊と滅びの槍】を発動、クリティカル! ゼオが6,554,199Gダメージを受け……デロナが肩代わりし、破壊されました……。再起不能です』
「これで、届いた!!」
『こ、の!!』
『ゼオがメルティスの左腕を消滅させました!』
『左腕はくれてやる!! だが命まではくれてやらぬわ!!』
『メルティスが【破壊と滅びの槍】を発動、クリティカル! ゼオが6,554,199Gダメージを受け……フリオニールが肩代わりしました』
「もう、1つ!! もう1つ!!」
『くっ……!! 雑魚如きに……!!』
『メルティスが【斧の神の魂】を砕き、究極神技【ソウルブレイカー】を発動! 砕かれた魂が刃となり襲いかかる! ゼオが25,051,221Gダメージを受け、破壊されました……。再起不能です』
『フリオニールの魂が砕ける寸前です!』
ソウルブレイク状態は、反魂の儀式でも、バビロン様の転生術を使っても、もう蘇ることはない……。完全なるロスト、再起不能の状態……。
『……ッ!?』
「その命、貰い受ける!!」
『姫千代が究極奥義スキル【姫千代一刀流・地獄輪廻】を発動スタンバイ!』
『メルティスが【破壊と滅びの槍】を発動』
『――大丈夫、ね?』
『良いところ、見せないとね!!』
『ミーシャ・カーサが【アビスウォーカー】を解除、姫千代の影から出現しました』
千代ちゃんの影に隠れて、一気に間合いを詰めた……! まさか、ミーシャさん……!!
『あ、ぐっ……』
『ミーシャが【破壊と滅びの槍】をその身で受け止めました。破壊耐性により、破壊が遅延されています』
『カーサが【呪縛糸】を発動、ミーシャと破壊と滅びの槍を縛り付けました』
『こいつ!! く……あああああああああ!!』
右手に持った槍を、体に巻き付けて奪い取った……。今メルティスは左腕がない……千代ちゃんに対して、反撃できない!!
『メルティスが【ライトニングキック】を発動』
『リザが【アビスウォーカー】を解除、究極奥義スキル【剣神一刀流・地獄輪廻】を発動!』
『――悪いのは、この足ね?』
『はっ……!?』
『リザ……!!』
『クリティカル! リザがメルティスに6,700,150Gダメージを与え、右足を切断しました! 【ライトニングキック】失敗!』
足を、切り落とした……!! なら!!
『姫千代が【姫千代一刀流・地獄輪廻】を発動!』
「成敗!!」
この一撃、行ける!! 行け、行け……行けええええええ!!
『調子に乗るな畜生如きが!!』
『メルティスが【弓の神の魂】を砕き、究極神技【ソウルブレイカー】を発動! 砕かれた魂が刃となり襲いかかる! 姫千代が25,051,221Gダメージを受け……フリオニールが肩代わりし、破壊されました……。再起不能です』
「フリオニールが!! 千代ちゃん!!」
「おばけ殿……!!」
『がぁああ……!?』
届く!! その刃はお前の首を……!! 確実に捉えている!!
『クリティカル! 姫千代がメルティスの首を刎ねました!』
「やった……!!」
『いえ、まだよ! 首を刎ねた程度では死なないわ!!』
『HPブレイク! メルティスのHPが最終ゲージへ突入しました』
『――――首で助かったわ、残念だったなぁ畜生が!!』
『メルティスが【サクリファイスバースト】を発動、肉体を犠牲に究極爆裂魔術を発生させます』
そん、な……!? 首だけになっても、まだ生きているというの……!?
『クリティカル! ミーシャ・カーサ・リザ・姫千代が平均14,663,500Gダメージを受け、破壊されました……。再起不能です』
「くそっ! やっと出来たぜ、そらよ!! 10秒以内に飲めや!!」
『ハッゲが神域料理【神の一滴】を2個完成させました!』
出来た、遂に……!!
『メルティスが【本の神の魂】【草の神の魂】【酒の神の魂】【船の神の魂】を砕き、肉体を復元しています……』
「ありがとう、ハッゲさん!!」
『感謝するわ!!』
『【神の一滴】を飲み干しました…………。体中に万能の力が漲ってくる!!』
『バビロンが【神の一滴】を飲み干しました…………。体中に万能の力が漲ってくる!!』
さっき受けた反動のステータス減少を克服……いや!! 元の倍以上の力が、全身を駆け巡る!! 見た目はただの出汁……色んな具材を煮込んで作られた、たった一滴のスープなのに!!
「おし、行って来い!! 俺にはこれぐらいしか出来ねえ!!」
『気張れや!! 雑魚は一切近づけへん!!』
「エリスちゃん達に任しときなって~」
「行きます……!! ぶっ飛ばしてきます!!」
『行くわよぉ~!!』
皆が繋いでくれた、これが正真正銘のラストチャンス……!! 今度こそ、その肉体全てを消滅させてやる、メルティス!!