580 終焉る世界・2
◆ ◆ ◆
『全軍に告ぐ、全軍に告ぐ! 魔族に大規模な動きあり、大至急集結せよ! 大至急集結せよ!』
「先手を打つ! 行動を開始する前に叩いて潰せ!!」
急に魔族のゴミ虫共が騒がしくなり始めた。これだけの大規模な動きを見せたということは、何かをしてくるに違いない……。させん! 先制攻撃の準備!! 不穏な動きは叩いて潰せ!!
『お、お……!? なんだ……!?』
『天界が、揺れている……!?』
「なんだ、なんの騒ぎだ!!」
『わかりません! 揺れているようです!!』
「そんなのは馬鹿でもわかる!! 何故揺れているかと問うているのだ!!」
なんだ、この不気味な揺れは……。天界の門は、いずれも開いている気配はない。では、この揺れは一体どうしたというのだ? ローレイの魔族にも、バビロニクスの魔族にも、大きな動きはないようだが……。
『あ、あ、あれはなんだ!?』
『空間が、裂ける……!?』
「魔族の攻撃か! させるな、空間を塞げ!!」
『空間崩壊、止められません! どんどん広がって、何かが出てこようとしています!!』
空間崩壊……? 天界ごと消し飛ばすつもりか? ふざけるな!! その程度の攻撃で、天界が消し飛ばせるはずなかろうが。それに、空間崩壊を引き起こした地点を天界から隔離すれば良いだけのこと。全く、無駄なことを……。
「……よい、その空間は消滅させる。そうすれば崩壊も止まるであろう」
『は、はっ!』
「全く、無能共が……」
静かに滅びの時を受け入れればよいものを、無駄に抗い煩わせる……。小賢しい……お前達の児戯など、所詮この私の力の前に到底及ばないことを思い知るがよい。
「…………なんだ、この、違和感は」
「――ああ!! 魔族の術だと思い込んでいるその間抜けた表情!! 最高だ、最高で最低だよ、クソッタレの光の女神!!」
「貴様……は……!! 貴様はぁああああああ!!」
マルデマーゾ、貴様……!! 貴様か、この空間崩壊を引き起こしている張本人は!! これは魔族の術式ではない、天の法術!! これは、魔族側から侵略しようとしているのではない……此方側が、どこかと繋がりその地と繋がろうとしているのか!!
「貴様の権能を、剥奪して――」
「――言われなくても、返してやるよ。ただし、全てを放棄するという形でね!! 我が力よ!! 解き放たれよ、今こそ我が全てを捧げよう!! たとえ我が身が朽ち果て消えようとも!!」
「……!? 貴様、やめろ!」
まさか、貴様!! 貴様、ふざけるな!!
「――――聖域展開ッ!!」
『――――術式反転。魔界領域……展開よ♡』
「ああ……許可する!!」
「はっ…………!?」
お前は、魔神……バビロン……!? しまった、これでは……!! くそ、逃げられた!?
「はっ……! ははははは!! 我が、麗しの女神に、栄光あ……れ…………――――」
『く、空間崩壊が……!』
『魔界が、天界に侵食している!!』
『メルティス様、ご指示を!! どうすればよいのですか!!』
『空間が、亀裂が、広がって……!?』
「構えろ!! 今すぐにはこの空間を閉ざすことは出来ぬ!! おのれ、このような捨て身の策、そう何度も通用するものではない!! この場を乗り切れば、活路はある!!」
マルデマーゾめ、捨て身でこの場を聖域化して切り離せないようにし、更にバビロンに領域の譲渡まで許可するとは!! おのれ、おのれ恩知らずが!! ゴミ虫の分際で!!
『あ、あれはなんだ!?』
『亀裂から、何かが……!!』
「何をしている!! 攻撃せよ、押し返せ!! 向こうから這い出る者は敵しかおらぬ!!」
『――――そう、敵しか居ない。ここには、この世に不要な悪しか居ません』
なんだ、この、巨大な手は……。まさか、これは……。
『攻撃、開始。全ての悪を殲滅します』
◆ ◆ ◆
――――メガリスアーマーは、なぜメガリスアーマーという名前なのか。
人間が乗り込み操縦するからアーマーなのか? 否、それならメガリスロボでも、メガリスギアでも良かった。アーマーの名を冠する機体でなければならない理由が存在しない。
アーマーと言うからには、誰かが装着するためにある。だが、こんなにも巨大な鎧を誰が着るのか? そう、存在するのだ。この鎧を装着するのに、ピッタリな者が。
「……トロイちゃん、良いのね?」
『これが、私の判断です』
メガリスアーマーという名の鎧は、まさに機神トロイのために存在すると言っても過言ではない。機械の神が、最強の機械の鎧を身に纏う時、もはやそれは――――最強無敵の巨神兵。
『オメガリス・アーマードトロイ、敵を……悪を、殲滅します』
「さあ、ゲートを開くぞ! もう後には退けない、覚悟は出来たか!!」
「そんなものはとっくの昔に決まってんのよ!!」
「素晴らしい! さすが我が麗しの女神!!」
『リンネも色んなのに好かれて大変ね~♡』
「あまりにも気持ち悪い以外は良い奴ですよ」
「ン゛ン゛ン゛ン゛……!!」
いちいち反応が気持ち悪いなぁ、もう……。
『ワールドアナウンス:マル・デ・マーゾが【秘匿されし天界の門】を開こうとしています! 取り返しのつかない行為です!』
「もはや誰も僕を止めることは、出来なぁい!!」
さあ、扉が開く。もう後には退けない、取り返しのつかない王手を、いざ――!!
「――――聖域展開ッ!!」
『――――術式反転。魔界領域……展開よ♡』
「ああ……許可する!! はっ……! ははははは!! 我が、麗しの女神に、栄光あ……れ…………――――」
『ワールドアナウンス:マル・デ・マーゾが所有していた全て聖遺物・封遺物、更にその身を犠牲に【秘匿されし天界の門】を開き、【聖域展開】を発動! 空中都市メルティナと天界・天上の都市が繋がりました!!』
『ワールドアナウンス:マル・デ・マーゾがバビロンに領域を譲渡! バビロンが領域を支配し、天界の一部が魔界領域となりました!!』
ここから、全てが始まる……。そして全てを――――終焉らせる!!
『――――攻撃、開始。全ての悪を殲滅します。ガトリングは、挨拶!!』
『オメガリス・アーマードトロイが【ヘキサガトリング・オメガ】を発射!』
まずは開きたてのゲートから、ヘキサガトリングで挨拶よ!! 敵がわーっと出てくると思って身構えてた? 残念!! 出てくるのはガトリング砲の銃身だけよ!!
『領域、拡大開始』
『これまでで最も早く仕事をしなさい、グリムヒルデ!』
『ん。バビロン様の、仰せの、ままに~』
『全く、誰のせいなんだ、その緩い返事は……』
そして領域を拡大して、もはや塞ぐことの出来ない大きさまで広げて、第二陣の私達が乗り込んでメルティスを討つ!! もう何処にも逃げ道を与えないように、追い詰める!!
『ワールドアナウンス:光の女神メルティスが【天界の門】を開きました!』
「何……!? どういうこと……!?」
『あの女、やったわね……!!』
逆にメルティスが天界の門を開いてきた!? どういうこと!?
『メルティスは天界を捨てて、ローレイかバビロニクスを制圧するつもりよ!! 守りが薄くなったワタシ達の都市を手に入れる気だわ!!』
『させない!! 釘付けにします!!』
「あ、待って、トロイちゃん!!」
トロイちゃんが予定よりずっと早く天界に突撃しちゃった! こうなったら私達も突撃して、メルティスを止めに入らないと!!
「こうなったら突撃します!! 良いですね、バビロン様!!」
『んもう、仕方ないわね!! こっちが動かなければどうにもならないわ!!』
「突撃ですわー!! 突撃はこの、ペルセウスの役目でしてよー!!」
「頼りにしてるよ、ペルちゃん!!」
ここでじっとしていても仕方ない、突撃!! この土壇場で思わぬ機転を利かせてくる……やはり侮れない。これまでしぶとく生き残り続けてきただけのことはある。簡単に滅ぼせる相手なら、もうとっくの昔にバビロン様が滅ぼしてるはずだものね。
『アラート:天界へ入場します。天界の気運により、魔族は能力が減少します』
『システム:天界への耐性により、天界の気運をレジストしました』
天界の気運なんて、耐性ガンガン積んでる私には効かないのよ!
『メルティスが居ません! くっ、天族の相手で精一杯です! そちらで捜索を!』
「ありがとうトロイちゃん!! トロイちゃんが天族を相手している内に、メルティスを探そう!」
「なんやこの土壇場で尻尾巻いて逃げ出したんとちゃうか!」
「え、逃げたの……?」
「ん……?」
『いいえ、居るはずよ! 姿は隠せても、気配までは隠しきれていないわ!!』
『――おのれ!! 地獄の悪魔どもめ!!』
「伏兵や!! リンネちゃん達はメルティス探しとき、ワイらが相手になったる!!」
「今度こそもってぃ2号の汚名は返上させて貰うよ~!!」
「えっ」
「お昼寝さん、レイジさん!!」
「エリスちゃん達だけで十分よ~」
「そら、行きな!! 探してぶっ飛ばしてこい!!」
「ありがとうございます!!」
お昼寝さん達が伏兵を相手にしているうちに、メルティスを探し出さないと……! くっそ……トロイちゃんみたいな巨大娘だったら、一発で何処に居るかわかるのに!!
『奥の方で門が開いているわ! きっと向こうに居るはずよ!!』
『バビロンちゃん、急ぎすぎよ!』
『逃げられたら、全てが台無しになってしまうもの!!』
ここで逃げられたら、今回の計画の全てが水の泡になる……。それは確かなことだけど、でもここで追い詰められなくても、メルティスの戦力を大きく落としていずれ追い詰められる一手となるのは間違いない。だから、焦りすぎるのは……!
『メルティスが【光の結界】を発動しました』
『これは、結界!?』
『くっ……はっ……! はっはっは……!!』
「メルティス……!!」
結界!? 閉じ込められた!! まさか、扉を開いたのは……ブラフ!? 私達をここにおびき寄せるための、餌だったというの!?
『お前達は愚かだなぁ……。なあ、そう思うだろう? 魔神バビロン……!!』
『……ワタシだけ、分断されたってワケね』
「バビロン様!! ティアちゃん、この結界なんとかならない!?」
「ん~……!! 凄く頑丈で、複雑過ぎて、それに能力的な差が……」
『ティアラが【黄金結界】を展開――失敗。レベル・8の結界は上書き出来ません!』
ティアちゃんですら上書き出来ない、レベル・8の結界……!? 侮っていたわけではないけれど、バビロン様が過去に倒せなかっただけはある……!! 実力だけは、本物ということね……!!
『お姉ちゃま、早く解除』
『ちょっと時間を頂戴、私でもすぐには無理なのよ~……!!』
『ワタシが結界を解除するのが苦手なの、覚えていたのね~?』
『覚えているに決まっている。何が苦手で、何を得意としているか。どのような戦い方をするのか……その全てを記憶している。お前の姉がこの結界を破るまで何分だ? 5分か? 10分か? お前など、2分もあれば十分だ!!』
『言うわねぇ……!!』
メルティスとバビロン様の戦闘が、始まってしまう……。目の前で起きているというのに、指を咥えてみていることしか出来ないなんて……!!
「誰か、この結界を壊す、良い方法を思いつかない!?」
『わう~……』
「お姉ちゃん、流石にこの結界は……」
「此方の剣も、全く刃が立ちませぬ……」
『マズいな……』
「ヴァルさん!」
『無理だ……それに、この密閉空間で使えば、こちらがただでは済まんぞ』
「悔しいが、今はティスティス様の解析を待つしか選択肢はないようだ……。一応、アルテナにも解析をさせているが……」
『術式、不明。解除方法、不明。欠点、検出されません。再度解析を開始――』
「今は出来る限りの準備を、来たるべき時に備えるしかありません」
『ぴゃうっ!!』
早く、早く結界を……結界の解除を……。早く……早く……!!
『バビロンが【破壊する右手】を発動』
『遅い遅い!! 生っちょろいぞ小娘!!』
『メルティスが【光の槍】を発動、クリティカル! バビロンが700,955Gダメージを受けました』
『ぐ、ごはっ……!!』
「バビロン様!?」
『勝てる!! 魔神バビロンに!! 忌々しいエクリティスの娘に!!』
『か、借り物の体の分際で、調子に乗ってんじゃ、ないわよ!!』
『バビロンが【ブラックホールパンチ】を発動、Block! メルティスが攻撃を弾きました』
『ぐっ……!?』
『言っただろう、覚えていると。その拳が以前私に!!』
バビロン様……?
『メルティスが【森の神の魂】を破壊しました』
『癒えぬ傷を与えたのを、忘れたと思うたかぁあああ!!』
『あ、あ!! 解除するわよ、バビロンちゃん!!』
「バビロン様ぁ!!」
『メルティスが究極神技【ソウルブレイカー】を発動! 砕かれた魂が刃となり――――』
嫌だ、嫌……。見たくない、見たくない……!! ログも、目の前の光景も、嫌……!!
『ぁ……がっ……に……ゅ、き――』
『ねえ、ね……』
『嘘、バビロンちゃん……?』
『ティティエリィ・ティスティスが【光の結界】を解除しました!』
『くっ……ふっ……はっははは……!! あっははははは!! あっははははははははは!!』
『――――バビロンが1,590,570Gダメージを受け、破壊されました……』
『ワールドアナウンス:バビロンが光の女神メルティスにより撃破されました』
あ……。ああ……!! ああああ……!! バビロン様、バビロン様が……あ、あ……!!
『くっ……! ふはっ……!! 私が、今度もこの技を出し惜しんで手傷を負うとでも思ったか? 甘い、甘すぎる。神の魂を破壊し生じる魂の刃、神技……ソウルブレイカー。此度は最上位神、流石のお前でも、肉片1つ残らなかったようだなぁ? はっ! あっははははは!!』
そんな……バビロン様……。
『どうした? 魔界の主が死んだぞ? もはやお前達に加護を与える神は、魔神は!! この世に存在していない!! 残るはお前達、カスのような雑魚のみよ。さあ、来るが良い。私に殺されるために、かかってくるがよい。望み通り、この世から存在を消してくれよう』
どうして、こんな……。
「…………本当に」
『ああ、本当に魔神バビロンはこの世から消えた。見たであろう、木っ端微塵。いや、塵すら残らず消え果てた。お前達のその絶望の表情! はっはっは!! 堪らぬなあ……』
本当に、バビロン様の言った通りだった。
「…………1人では、お前には勝てないと」
『なんだ? 死ぬ前に何か言い残すことでもあるなら、せっかくだ。聞いてやろうではないか』
「光の女神の力は、伊達ではないと……。バビロン様は言っていたわ……」
『今頃理解したか? それで、どうする。私の足でも舐めて、命乞いでもするか? そうだな、愛玩動物としてなら生かしてやっても構わんが……』
究極神技、ソウルブレイカー。光の女神メルティスが扱う、強大な力。絶対にして最強、同じ格の魂を砕かれた刃による一撃は、絶対破壊の一撃となる……。
「――――残り、29よね。バビロン様が最後に教えてくれたわ」
『ああ……? 何をブツブツと……』
「お前の残弾。残り、29よねって言ってんのよ」
『……それを知っていてどうする? 私の持つ神々の魂の数が残り29で、お前達はその半分にも満たない。だからどうだというのだ』
「間違えないように、よぉーく数えておくのね」
『くだらぬ。弱者の戯言に――』
その数字は……最後にお前が縋り付く、破滅へのカウントダウンが始まる、最初の数字よ……!! 間違えないように、しっかり数えておけ!!
「不死なる者よ、永劫の時を破り、今一度この世へ目覚め給え!!」
『ふん、今更何を……』
「――――青ざめろ、クソ女神」
『……まさか』
そのまさかだよ、クソ女神!! 青ざめたか? だがもう、遅い!!
『【反魂の儀式】を発動、【バビロン】が復活し、再召喚されました』
『ワールドアナウンス:死霊神リンネがバビロンを復活させました!』
『くっふっふっふ~……!! はぁ~い、バビロンちゃんふっか~つ♡ あら~? あらあら~? 随分と顔色が悪いわねぇ!! メ・ル・ティ・ス・ちゃ・ん♡』
『なん、いや、どうして、そんなはずは……!! 出来るはずがない!! 出来るはずがない、上位神の復活など!!』
『誰が、誰の上位なのかしら~?』
『ま……さか…………』
「今更気がついた? 無駄撃ちご苦労様……後29回よ。よぉーく……数えておくのね!!」
ああ、やっと気がついた? 魔界の主が、バビロン様ではなくなっていることに!! 私はバビロン様の従者じゃない。バビロン様が、私の従者になってるのよ!!
『メルメイヤ以外の従者を納棺しました』
「来い、メルメイヤ!!」
「はい、リンネ様!!」
『【アンデッド憑依】を発動、【メルメイヤ】が憑依し【ニンジャマスター】状態になりました』
『集え眷属!! ワタシに力を貸しなさい!!』
『バビロンが【アンデッド憑依】を発動、【モッチリーヌ3世】が憑依し【ワールドチャンピオン】状態になりました』
『お姉ちゃま、後方支援。ねえね達の邪魔は絶対にさせない』
『え、ええ! リンネちゃん、頼んだわよ!!』
『逃がすか!!』
逃がすか? 追いかけられるとでも……思っているのか!!
『【風魔手裏剣・乱舞】を発動、MISS……。メルティスに回避されました』
『邪魔を……ッ!?』
『バビロンが【ロケットアッパー】を発動、クリティカル! メルティスに604,704Gダメージを与えました』
『ぐ、ぼはっ……!?』
『あんたの顔面はね!!』
「絶対にぶん殴るって、決めてたんだよ!!」
『【伊賀流忍術奥義・天破剛掌】を発動、クリティカル! メルティスに847,499Gダメージを与えました』
『ご、ぶっ……がはっ……!!』
絶対に、絶対にここで!! ぶっ倒してやるぞ、クソ女神!! お前の死に場所は、此処だ!!