579 終焉る世界・1
◆ ◆ ◆
あれから、どれだけの時間が経過した? 何処にも居ない。マルデマーゾがこの世から消え失せたかのように、尻尾すら出さない!!
「何処だ……!! 何処に行った……!!」
『メルティス様!! 空中要塞からの抵抗激しく、先遣隊は……全滅、致しました……!!』
「敵は!! どれだけの規模だ!!」
『それが、2人と2匹です……!!』
「なんだと……?」
2人と、2匹……? そんな少数相手に、誰も黄金の結界内部に入れていないと言うのか!! ゴミクズ共め!! ええい、この私が直々に仕留めてくれる!!
「このように、殺すのだ!!」
多少天族が巻き込まれようと関係ない。敵さえ殺せれば、あの結界さえ破壊できれば何も問題はないのだから。お前達には思い切りが足りないのだ!!
『お、おお……!! 素晴らしいです、メルティス様!! 高速で飛び回る機械を纏った女が、最も面倒な存在でして! 残すは龍族の女と、ドラゴンが2匹のみで御座います!!』
「お世辞はいい!! 早く結界内部に侵入し…………」
おかしい……。確かに今、白銀の機械を纏った魔族を……殺したはずだ。では、私の目に映るあの魔族はなんだ……? 今、殺したはずの……魔族……。
『い、今確かに、殺したはず……!!』
「……世界の理を捻じ曲げる、神器すらも超越したものが、この世には存在する」
『メルティス様の、滅びと砕きの槍のようにですか……!?』
殺したはずだが、再出現している。幻影だったという感覚はない。間違いなく実体だったが、何度か再出現出来る類だろう。問題ない、その数だけ殺せば良いだけのこと。
「だが、その能力にも限度はある。何度も当たれば再出現も出来まい!!」
狙いは完璧。一度ターゲットに選べば、この槍の一撃から逃れることは出来ない。ましてや、そこらの魔族の小娘なんぞに……。
『はっ……!? は、外れた……!?』
「…………馬鹿な」
何故だ、狙いは完璧……手応えもあった。天界と地上界、いくら離れていてもこの槍は命中する……はず……!! それが何故だ、何故当たらぬ!!
「おのれ、馬鹿にしおって……!!」
マルデマーゾの前に、この小娘を是が非でも殺す。必ず殺す。そうでなければ、私のプライドがそれを赦さぬ!! 死ね、小娘!!
◆ ◆ ◆
『システム:コア以外への命中により、【ハンテイサギ (SW)】が発動しました』
「はい、セーフ。ふんふんふ~ん。ドルスよりよわカス」
く、口で強がりを言っていないと、いつ当たるかわからない分だけドルスよりキツイ。むしろ、ドルスとは比べ物にならないほど、速い……!! 上から降ってくるってわかっているのに、回避が全く追いつかない。しかも、天族も倒さなきゃいけないし……ぬわ~!!
原初へと続く大穴、あれの最大難易度をソロクリアのご褒美で行ける秘宝殿。そこでショーケースの飾りとして貼り付けられていた『サギのシール』、これ可愛い~なんて貰ってきたのがまさかのセミワールドアイテム、ハンテイサギ……!! これの効果で当たり判定を誤魔化してるから生きているだけで、本来ならもう滅多刺しで残機ゼロになってるぐらい、攻撃がキツイ!!
【ハンテイサギ (SW)】(セミワールドアイテム・補助装備・お守り)
・自身でコアとなる部分を設定する
・コア以外へのダメージ無効
・動作ズレ0.5〜1秒ランダム
・相手のカスリダメージ無効を無視する
・攻撃判定が巨大化、ややズレていてもクリティカルとなる
・HPが11以上ある場合、この効果は発動しない
【シューティングソウル・フルパワー】(ユニーク・特殊装備・空きスロットなし【●】)
・【呪】攻撃に当たった時、問答無用で撃破される
・【呪】HPの最大値が10になる
・【呪】残り残機・9
・HPを残機として設定する
・通常攻撃、射撃スキルの命中時に独自の得点が加算される
・5万点毎に残機が上昇する
・現在:544,000点
・【□力のカード】復活時に武装・能力を最大の状態で復活する
大丈夫、天族を倒しまくったから残機が元に戻ってる。あの槍に9回、しかもそろそろエクステンドするからプラス1回当たっても良い。遊撃手としてしっかり仕事が出来てる!
『(ラーくん、がりゃるん、私が狙われてる! 近付かないで!)』
『(そんな恐ろしい攻撃、近付きたくもないが)』
『(がりゃるんをやめろ!!)』
このまま引き付けて時間を稼げればそれでいい。この仕事は、私が最も適任だから。
天族が攻め込んで来たのは、リンネの予想より相当遅かった。その分楽になったんだから、この仕事は必ず……!!
いけない、次は当たる気がする!! 当たる前に、全弾発射しちゃえ!!
「ふんぬーっ」
『【フルオープンアタック】を発動します』
『あの機械の女をなんとかし、う、うわあああーー!!』
『メルティス様ァーー!!』
『クリティカル! 【滅びと砕きの槍】が貴方を滅ぼしました』
『チャリーン! 残機を1消費し、残弾MAX・フルパワーモードで再出撃します!』
『テッテレー! エクステンドにより残機が1増えました!』
ふっふっふ、私は何度でも蘇るのだ~。残機がある限りだけど……。お願いだから、雑魚の天族をもっと送り込んでくれないかな。攻撃を当てないと、残機が増えないから……。
「ゴァアアアアアアアアアアアアア!!」
『つくねが【ドラゴンシャウト】を発動、周囲の敵が【気絶・レベル7】状態になりました』
さすがつくねん、ナーイス。この調子で、まだまだ時間を稼げそう~。私の残機にな~あれ。
◆ ◆ ◆
『マザー!! マザー!! 俺はこいつらに協力するのは嫌です!!』
『文句を言わずに手を動かしなさい。またゲンコツが良いのですか?』
『ぐううううう!! お前達のためにやるんじゃないからな!!』
『やーい、母ちゃんに怒鳴られてやんぶびゃぁああ!!』
「フリオニール!! 余計なお喋りをしてないで、さっさと材料を運ぶ!! 腕が4本あっても、1本も動いてなきゃそんなにある意味ないでしょ!!」
『(´;∀;`)』
『…………やーい!! ゲンコツ食らってやんのぐぎゃああ!!』
『ヘクトール!!』
なんなんだ、この相性の悪い奴らは……。今時、小学生でもこんな低レベルな喧嘩をしないよ……。なんだか頭が痛くなってきたわ。
「手足を修理して真っ先にしたのが、ヘクトールへのゲンコツとはなぁ……」
『マザーというより、かーちゃんだ』
「そっちは改造進んでるの!?」
「うわ、飛び火してきたぞマグナ」
『大火傷する前に、さっさと完成させよう』
どうしてこう、緊張感のない子達ばっかりなんだ……。まあ、自然体で居られるのは良いことよ? 変に緊張して、いつもはやらないようなミスを連発するよりずっと良い。だけどね、上空ではつくねちゃん達とレーナちゃんが戦ってくれてるのよ? メルティスも遂に重たい腰を上げたみたいだし、本格的な衝突が――。
『――イカれ女~♡』
「ん゛わ゛あ゛あ゛あ゛!! バビロン様ぁあああ~!!」
『あ~ん、イカれ女の熱烈歓迎ハグ~♡ ちょっと苦しい~♡』
「あ!? 申し訳御座いません、バビロン様!!」
『やっほっほ~』
『はぁ~い♡ まあまあ、凄く荒れてるわね~!』
うぉおおおっほほっほ♡ バビロン様に、カレン様とティスティスお姉ちゃまも来た~♡
「ば、ばっびゅぼっぶっ!? バビロン様ですわ!?」
「ここ、こんなところまで、どないしたんや!?」
「まさかとは思うが、リンネちゃんが……」
『ぴ~んぽ~ん♡ 天界に攻め込むって聞いてたもの~♡』
『遂にこの時が、来た~』
『ええ、今度こそ決着をつける時よ~!!』
「お昼寝~!! お昼寝、バビロン様達がいらっしゃってるよ!!」
「んえええ!? 嘘ぉ!?」
そうよ……。天界に攻め込むって話をね、バビロン様に伝えてあったのよ!! ああ、バビロン様とお揃いの大鎌……♡ お揃い、お揃い……♡
「せやけど、いつ伝えとったんや!?」
「ん? 飛空艇を飛ばす前ですけど」
『すっごく急な話だったんだから~♡』
「そうか……! 天界侵攻前にバビロン様達を消耗させないように、俺達だけで倒す作戦だったわけか。だからあんなに高いレベルを要求してたわけだな!」
「え? あ、ああ~そうです。そうなんです」
「……おい、ありゃあ、絶対違う時の反応だよな」
「せやな。違うけどそうですって言っておこうって顔やな」
ギクッ……。ハッゲさんとレイジさんに心の中を見透かされてる!! 私って、そんなに表情に出やすい方だったっけ……。出やすいかな、出やすいかも……。
「そうだ、リンネ」
「ん? どうしたのマリちゃん」
「前から聞きたいことがあったのだが、今聞いても良いだろうか?」
「およ? うん、別に良いけど」
およ、聞きたいことがあるって? 大体のことは自分で調べるから、私に聞いてくるなんてよっぽどのことだよね。珍しい~……なんだろう?
「今回、メガリスULTは弾切れを起こしてしまったわけだが」
「うん」
「…………ミミッキュんを弾倉に使ったら、ダメなのか?」
「は?」
「いや、それと倉庫もだ。あれはなんでも入るし、どれだけ詰め込んでもパンクしないんだろう? あれこそ弾倉に使ったら良いじゃないかと思ったんだが、動かしてはいけないのか?」
う……ん? 弾倉に、倉庫かミミッキュんを……? いや、確かに、ダメってわけではないと思うんだけど……。え、倉庫を?
「……ちょ、ちょっと、えーっと」
『あっははは~! リンネが答えられなくて呆然としてるわ! お姉ちゃま、記念撮影よ!』
『珍しい表情、頂きよ~♡』
『うん、凄く激レア。キョトンとしてる』
ごめん、倉庫を……なんだって!?
「マグナ、見たか? やっとこの我が、リンネから驚く顔を引き出したぞ」
『全くそのためだけに一芝居とは、お前も悪い奴だな……』
「というわけでリンネ、見てくれ。倉庫を弾倉として直接繋いだ。ちなみに正常に稼働するのは既に確認済みだ。倉庫からその都度引き出すのは上手くいかなかったが、倉庫から引き出し続けるようにすれば根源なく引き出せたぞ」
「は、は……? じゃあ、弾切れは!?」
「もう二度と起きないということだ」
おお……。マリちゃんに驚かされる日が来るとは……。私の発想を超えてきたね。凄い進化だ……! もしかして、従者の中で一番成長率が高かったのってマリちゃんだったりしない?
「それじゃあ、わざわざ実弾じゃなくてエネルギー兵器も良いってことだよね!」
「え?」
「ほら、エネルギー兵器はエネルギー源が巨大な割に持続力がないから、実弾のほうが良いって言ってたじゃない! つまり、エネルギー源を無限に引き出し続ければ、実弾よりも強力な兵器が使い放題ってことじゃない!」
『……どうだ、馬鹿弟子』
「…………いや、確かに、そうかもしれないが、試したことはなかったな……」
『あっははははは!! あんた達、こんなやり取りをずーっとやってるの~? 毎日が楽しくて仕方ないじゃな~い♡』
『そうね~♡ でもエネルギー兵器は放熱が追いつかないから、無限には撃てないと思うわよ~?』
「放熱も利用して別の兵器として運用すればどうでしょうか!」
『…………どうだ、馬鹿弟子』
「いや、確かに、それも可能かもしれないが……いや!! リンネ、今からでは時間が足りない! 実弾を出来る限り作り続けたほうが、絶対に良い!!」
「マリアンヌお姉さ~ん!! シャーリーばっかり働いて疲れた~!! リンネお姉さんとのお喋り代わって~♡」
「我も手伝いに行くから待っていてくれ! ではな、リンネ! さらばだ!!」
あ、逃げた。これから天界に攻め込むっていう時に改良点をスルーするとは、おのれマリアンヌ。赦さんぞマリアンヌ……。いやまあ、確かにもう時間がないのは事実だね。どちらも中途半端になるより、確実な方を完璧に仕上げたほうが良いか……。
『――俺の剣のほうが格好いい!!』
『お前のビームブレードはナンセンスだ。男ってのは無骨でシンプルな方がべぎょぉ!?』
「フリオニール?」
『(´;∀;`)』
『やーい、ざまあみげぎゃぁ!?』
『ヘクトール!! 何度言ったらわかりますか!!』
『だって……』
『だって、じゃありません!!』
あーもう、アレじゃいつまでも材料運搬が終わらない! 倉庫に入らないどデカいサイズだから手作業しかないし……しょうがない、私が付きっ切りで手伝うしかないか!! んもう、世話が焼けるんだから!!
『わう~ん!(僕も手伝うよ~!)』
「此方も、力仕事は得意です。手伝わせてくださいまし」
「おお、やっぱりどん太と千代ちゃんは頼りになるねえ……」
「――どいてくださいまし~!! 大きいのが通りますわよ~!!」
『わう!? わうぅ~ん!(わあ!? ぐるぐる、力持ちだ~!)』
「此方も負けられませぬ!」
あーあーあー……。千代ちゃん、そのプリンセスに力で張り合おうだなんて、無理は禁物だよ……。皆張り切ってるのはわかるけど、本番前に張り切りすぎないようにね……。大変なのは、ここからなんだから。