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578 特異点

◆ ◆ ◆



「そうか、ローレイは滅びなかったか」

『はっ……! 空中要塞都市、及びトロイ率いるトロイアスは完全に制圧され……』

「して、その後の動きは? そこでどいつもこいつも報告が途切れているが」

『強力な黄金色の結界により、ふ、不可視の領域を……』

「そんなものは見ればわかる。なぜ誰もこの領域内部に潜入して様子を探りに行かぬ?」

『魔神勢力の、強力な抵抗が予想され……』


 予想され? 予想されるだけで怖気付いているのか、この無能共は。


「行け」

『は、はっ……!?』

「行って私に状況を伝えよ」

『し、しかし、行けば命は』

「ここで死ぬのも、魔族に殺されるのも、どちらも一緒だろう? 素直に言うことを聞けば、お前のことは目にかけてやっても良いが……」

『っ……! た、直ちに、向かわせて頂きます!』


 最初からそうすればよいものを……。全く、無能は発破をかけねば動かなくて困る。


『――メルティス(・・・・・)様!!』

「騒々しい」

『だ、大至急、報告が御座います!!』


 全く、次から次へと……。体がようやく絶頂期の力を取り戻し、能力も何不自由なく扱えるようになったと言うのに、こうも周りが騒がしくては気分が下がる。不快だ。


『メルティス教、法王候補のマルデマーゾが、魔界都市ローレイにて発見されました!!』

「何……?」


 なんだと? 今、なんと言った? マルデマーゾが、魔界都市に……? そうか、直接乗り込んで場を荒らそうということか。面白い!!


「して、戦況は?」

『は……は?』

「戦況はと言っている。マルデマーゾはどのように戦い、何を殺し、何を封じた?」

『い、いえ、マルデマーゾは…………魔族と共に、談笑しておりました』


 は…………?

 待て、意味が、意味がわからない。理解が追いつかぬ。マルデマーゾは、魔族は心の底から憎んでいると、必ず黒き神を倒すと忠誠を誓い、メルティス教へ莫大な寄付も行い、十二王の試練も乗り越え……。


「裏切った……?」

『そのようで、御座います……』

「何を企んでいる、一体、何を……。マルデマーゾの直近の行動を調べよ!!」

『す、既に! 封印の異空殿より、封遺物を一点持ち出していることまでは、突き止めて御座います!』

「何を持ち出した!!」

『それが、龍族の女と盲目の剣士の強襲により、記録簿と目撃者が……消されております』

「おのれ!!」

『ご、がぁ……!?』


 なんだと、なんだと!! 最初から私を裏切るために、メルティス教の頂点まで上り詰めたというのか!! おのれ、おのれぇええええ!!


「誰か!!」

『は、はっ……ひっ!?』

「この死体を処分せよ。それと、マルデマーゾを殺せ!! 八つ裂きにせよ!!」

『しょ、承知致しました……!!』


 マルデマーゾめ、バレぬとでも思ったか? そなたの権能、今この場ですぐに剥奪してくれるわ!! はっ! 何を企んでいたのかは知らぬが、最後の最後で油断したな!


「む…………? なんだ、これは、この、感触は……」

『――――あら、やっと気がついたのねお馬鹿さん♡ アッカンベー♡』

「お……のれ……!! おのれ、おのれ小娘ぇええええええええええええええ!!」


 バビロンが!! あの小娘が、邪魔をしてくる!! おのれ、おのれ!! おのれええええええええええ!! おのれええええええええええええええええええええええ!!


「誰か、槍を持って来い!! 私が直々に、マルデマーゾの位置を割り出しこの手で殺す!!」

『た、ただいま!!』


 殺す、殺す殺す殺す殺す!! 我が怒りに触れた罪を償え!! 殺してやる、殺して生き返らせて八つ裂きにしてやる、この世から消し去ってくれる!! おのれ、何処に……!!



◆ ◆ ◆



『何故だ……。何も記憶がない……。どうしてこんな、どうして……』

「はいはい、文句を言わずに手を動かしなさい」

『ぐ、ぐう……。マザー、申し訳ありません……。この狼女に、手も足も出る気がしません……』

「ほら、泥化した金属を避けるなり吸収するなりして。早く下に掘り進みなさい」

『くぅ……』


 あー、なんかネメシス君がカーミラさんにこき使われてるわ。どうやったらここまで心をバキバキにへし折れるのよ。どうせ聞いても無駄なんだろうなあ、だって返ってくる答えがもうわかりきってるもん。まあとりあえず聞くんだけどさ……。


「ねえ、カーミラさん。どうやったら」

「乙女の秘密です」

『ぴゃう~!(ひみちゅ!)』

「めーちゃん」

「申し訳ありません、リンネ様。これに答えた場合、メイヤの秘密も漏れてしまうのです!」

「めーちゃん?」

「あら、良いのですよ? 内緒で、冷蔵庫から」

「あー!! あーー!! ほら、リンネ様! お忙しいのですから、どうぞ自分のお仕事に戻ってください!! あーー!!」


 はい、乙女の秘密ね。ついでにめーちゃん、多分それはもう私が知ってる秘密かな。リアちゃんのプリンを食べた犯人2号、めーちゃんなんだよね。マズいと思って新しいのを買って補充してたけど、これじゃないってリアちゃんがずっとむすーっとしてた事件の犯人ね。まあ、結局めーちゃんが買ってきたやつも美味しいって機嫌を直してたから未解決事件のまま終わったんだけど。めーちゃんがわかりやすいぐらい冷や汗をかいてたから、流石にわかってたよ。


「はいはい……。しかし、どうやってこの分厚い床をぶち抜いて中央制御室まで貫通させたの?」

「乙女の秘密、と言いたいところですが。実は、お昼寝さんの沼地化爆弾で簡単に」

「沼地化爆弾!?」

「んお~……。リンネちゃん、助けて~。もう作るの疲れたよ~」

「うるせえ大戦犯。早く作れ!」

「手を止めとる場合ちゃうで! 全部纏めて相手にしたん誰やと思ってんねん!!」


 あ、地下の巨大兵器を初手で起動させちゃった大戦犯マスター……。事後報告を聞いた時は思わず、お昼寝さん何してんのよって頭を抱えたね。マスターってちょっとおっちょこちょいなぐらいが務まるのかもしれない。きっとそう、たぶんそう。


「沼地化するのは表層のみのようですが、連続で起爆すればより深くなるようでして」

「あーなるほどね。それで鋼鉄の床もズブズブ抜けるんだ。だから量も必要と」

「そうなります。作れるのがお昼寝さんだけですので、頑張って頂きませんと」

「お昼寝さん、頑張ってください! お昼寝さんにかかってます!」

「そんなぁ~……!! 僕、もう休憩したいし、おトイレいきたい……」

「トイレは代わりにエリスちゃんが行ってきてあげま~す」

「そっか、ありがとう助かるよ~……」


 トイレは代わりに行ってくるとかいうのはないと思うんだけど……。まあとにかく、その沼地化爆弾ってのを使ったら簡単に床がぶち抜けたのね。それなら良かった! 思ったよりも早く進行出来そうだし。


「――リンネ様~!! ローレイとこちらを黄金回廊で繋ぎました~!!」

「お、ご苦労様~。よく頑張ったね~ティアちゃん」

「えっへへ~。もっと撫でてくれても良いんですよ!」

「いやぁ~ずっと撫でてたい……」

『わう~(僕も~)』

「こらこら、お前はいつも撫でてるでしょうが」


 まったく、一度撫で始めると全員寄ってくるんだから、忙しい時にこれは困るんだけど……。


「…………」

「……カーミラさん?」

「はい?」

「えっと、どうして頭をこちらに……?」

「はい」


 は、はいじゃなくて……。ああもう、撫でれば良いんでしょ! 撫でれば!!


「あ~!!」

「あっ!!」


 ほら、猫ちゃんとドラゴンちゃんが気がついたじゃないですか、やだ~!! もう、こうなると全員大集合して、まーた狐耳の子がぺしょーんってなるんだよ? 湿度が高めになって、じめーっとし始めて、此方は後で良いです……とか言い始めるんだよ!!


「なるほど、一段落して一家団欒というわけだね」

「うわキモい声がした!!」

『ガウー!!』

「即戦闘態勢を取らないでくれよ」


 しょうがないじゃん、なんか脳が拒絶反応を起こすんだもん! それで、マーゾはいつからこっちに……ああ、黄金回廊を繋いだとか言ってたっけね。いま来たわけね。


「んぁ~! 最後、ほら最後! 出来たよ~!! 僕、トイレ行って良い!?」

「起爆してから行かんかい!!」

「それで、この先の中央制御室には何があるのさ~!! リンネちゃん、そろそろ教えてよ~!!」


 あ、そういえば未だこの先に何があるのか説明してなかったわ。まあ、どこから情報が漏れるかわからなかったし、皆に説明したのはメルティナ侵攻までの話だしね。正直、これだけならレベル900ちょいのプレイヤー総掛かりで押し込めばなんとかなると思ってたところで、レベル970以上欲しいと思っていたのは……この先にあるものが原因なのよね。


「じゃあ、最後の壁を破って貰いましょう」

「ん~!! トイレに行きたいけど、気になるし見てから行く!! それ~!!」

『お昼寝したいが【泥沼化爆弾】を起爆しました』


 お昼寝したいのかトイレに行きたいのか、どっちかにしてくださいって突っ込みたくなるメッセージですね……。さて、それはともかく。この先が遂に、トロイちゃんがマスター権限で立ち入りを封じられている開かずの間、中央制御室があるのね……。


「これは……?」

「え、あれ、どういうこと……?」

「ふぅん……。なるほど、設計図で見たよりも、随分と……」


挿絵(By みてみん)


「これがメルティナの中央制御室……名ばかりの、ね」

「名ばかりの……?」

「天族に接収された空中要塞は、天族とメルティス教の選ばれし信者達が暮らす楽園として君臨していた。しかし実情は食糧難が続いたり、人間と機械が争ったり、トラブルが耐えなかった。それなのにもかかわらず、飢えに苦しんだという記録もなければ、生活が破綻したという記録もない。ルナリエットと、メルティシア法国に残された記録によれば、だけどね」


 中央制御室、なんてのは名ばかり。だってメルティナの制御はトロイちゃんがやっていたのだから、こんな場所は必要ないはずなのよ。じゃあなんのためにこんな場所が存在していたのか。


「じゃあどうやってメルティナの民は暮らしていたのか? これがその答えよ」

「こいつは、一体……なんなんだ?」

「ゲートさ! 天界とメルティナを繋ぐ物資補給路! 緊急脱出装置!!」

「プライドの高い連中はね、こいつを使って逃げてきたなんて言い出せなかった。機械の暴走で空中要塞都市を追い出されましたなんて、口が避けても言い出せなかったのよ。だって、楽園よ? そう言い張ってイキって居たのに、その高貴な身分の自分達が、まさか追い出されたなんて」

「だから封遺物として、設計図を隠したのさ。廃棄しなかったのは、戦車などの兵器の設計図も載っているからだろうね。ほら、メルティシアで使っていただろう? あれがどこから出てきたものか、考えてごらんよ。これさ……。このゲートが、その答えなのさ」


 本当に、極一部の特権階級しか出入りを許可されていなかったんだろうね。だって、頻繁に出入りしていたならバレてしまうだろうし。楽園が故郷から物資を運ばねば暮らしていけない場所だと知られたら、恥ずかし過ぎて耐えられないだろうからね。


『アラート:アクセス権限がありません』

「まあ、そうでしょうね。私にアクセス権限があったらビックリよ」

「なんや、開けへんのか……」

「なるほどな。メルティナの奴らは、ここからこっそりと天界に行き来してたわけか」

「はえ~……なるほどね~……。でもアクセス出来ないんじゃ、使い物にならないね~」

「お昼寝、今のうちにトイレ行ってきたら!?」

「そうだね、いってきまーす!」

「行っといれ~……」


 エリスさんとお昼寝さんは、この状況でもマイペースだね~……。そうね、アクセス権限がないんじゃ、使い物にならないよね。実際そうなのよ……私達がここに辿り着いたところで、な~んの役にも立たないのよ、このゲートは。


「お宝でもあるんかと思ったら、拍子抜けやなぁ」

「役に立たねえんじゃ仕方ねえな」

「そうですね。私達にはアクセス権限がないので使えませんね」

「そうだね、君達には使えない。君達にはね」


 ――――そうよ、私達……魔族にはアクセス出来ない。でも、マーゾなら……どうかな?


「…………え、まっさか~?」

「そういう、ことかいな……!!」

「まさかお前、だからメルティス教に……!?」

「メルティナを見てから考えてたんだよ! どうやって奴らが生活を成り立たせていたのかって、どう考えてもどこかに繋がる転移装置があると確信していたさ! しかし、プライドばかり高い能無し(天族)達が、地上の食料を恵んで貰っていたとは微塵も思えなかった!! ある、あるはずだと、確信していた!! ここに、天界に繋がるゲートが!! 見ろ、これがメルティス教の恥!! 負の遺産!! 甘え、腐敗し、朽ちた歴史に埋もれた癌細胞だ!!」

『システム:マル・デ・マーゾは【天界の門】にアクセス可能です』


 ああ、そうでしょう。そうでしょうね。だから、マーゾを無事にここまで到達させる必要があったのよ。このために戦闘へ一切参加させず、バビロン様達に守って貰うようにお願いをしたのよ!

 

「僕はいつでもこのゲートを開くことが出来る……。天族はこの忌々しい門を歴史から消去し、誰も見張っていない。見張っているはずがない。視界の端にすら入れたくないほどに忌々しいものだ。ここから……いつでも、天界へ殴り込みをかけることが出来る!!」

「だけどよ、前みたいに天界の一部を切り捨てられて、逃げられたらどうするんだ!?」

「そうはさせない。させないさ、やらせないために僕が居る!! いいか? ミザリ・アブラミという男が居た……。僕達プレイヤーしか覚えていない、この世から名を消した偉大な男だ」


 居た。メルティシアで門を開いてくれた、メルティス教に属していた人間で唯一私が尊敬する男よ。そうね、彼でさえ……天界の門を開くことが出来た。


「覚えとるで、せやけど……」

「僕は、何レベルだ? 彼と比べて、どれぐらい強い? 同じだけの権能も持っているさ。どうだ? どう思う? 僕は――――強いか?」

「まさか、お前……」


 じゃあ、マーゾならどう? 法王候補、まだ法王に至っていないけれど、実質的に同じだけの権能を持っている。扱うことが可能な、唯一のメルティス陣営のプレイヤー。それも、レベルはカンストしている。


「…………全ての準備が整ったら、ここに来てくれ。君達を待っている」

「ありがとう……」

「ああ!! もう一度言ってくれ!!」

「あ、ありがとう……マーゾ……」

「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛……」

「まさかお前、その言葉を聞くためだけに、それだけの苦行に手を出したのか!?」

「当然ッ!! 当たり前、だっ!!」


 そして変態性もカンストしてるわ……。本当、私から感謝の言葉を聞きたいだけのために、ここまでやったなんて……。どうかしてるよ、頭がオカシイんじゃないの?


「今、顔に出ていたね……。君が思っている言葉を、そのまま伝えてくれ!!」

「どうかしてる。頭がオカシイ」

「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!」

「あ、リンネちゃんこりゃ相当ヤバいよ、エリスちゃんをも超える変態だよ、近付いちゃダメ」

「近付きたくないんですけどね……」


 近付きたくはないんだけど、恐ろしいほど有能な男なのよね……。困ったことに、とんでもなく優秀で……。はあ、せめて変態じゃなければ、いや……男の人じゃなければなぁ~……。


「……それじゃ、私は準備があるから。また後でね」

「ゆっくり準備をしてくれと言いたいところだが、メルティスから横槍が入った。恐らくこちらの動向に薄々気がついている……用心してくれ」

「完全に気がつく前に、やってやるわよ」

「ブラーヴォ!! では、よろしく頼む」


 困ったわ、こいつに褒められても微塵も嬉しくない……。とにかく、準備を進めよう……。


「リンネちゃん、あのな? ちょっと聞きたいんだが……」

「どうしたんですか、ハッゲさん?」

「まさか、トロイちゃん達との戦いは……」

「ああ! そうですね、これのための……前哨戦ってところですね」

「……だから、デカい手札を出すのをあんなに渋っとったんかぁあああ!!」

「やべえ、あれが本番だと思って全力を出しすぎたぜ……」

「大丈夫ですよ。ティアラちゃんが出し惜しみなくクールタイムを削ってくれますし、地下工場にエーテル貯蔵庫も見つかりましたから。全員、それで装備を出来る限り強化しましょう!」


 この戦いで全員レベルが上がったし、地下工場のエーテル貯蔵庫を利用して、装備もバンバン強化して貰おう。なんせ、ここからが……本番なんだからね。


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