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577 神々の黄昏・12

◆ ◆ ◆



『――降参です。私の、いえ……私達の負けです』


 どこで選択を間違えたのだろう。どこから私の負けが決まっていたのだろう。

 黒き神の仲間達が駆けつけた時? 白き巨人の上陸を許してしまった時? デイポボスが自爆した時? 飛空艇の上陸を許してしまった時? それとも、そもそも勝ち目のない戦いだったのでしょうか。

 今、動けるのはヘクトールだけ。そのヘクトールも片腕を落とされ、相手は四本腕の巨大な赤き騎士。倒したはずの従者達も蘇り、ネメシスは依然として消息不明。戦闘モードを解除し、一気に流れ込んできた情報を分析したところ、どうやら地下のファクトリーと、我々が立ち入ることの出来ない中央制御室も占拠されてしまった様子。


「よかった、降参してくれて。完全に破壊なんて、したくなかったから」

『……手加減をしていた、と?』

「ううん、手加減なんてしてたら負けてたよ。出来るなら死んで欲しくなかった(・・・・・・・・・・)だけ」

『私は機械ですよ。生きていませんから、死ぬという表現は正しくありませんね』

「トロイちゃんは、生きてるよ。感情があって、表情豊かで、思慮深くて、慈愛の心がある。人間よりも人間らしいよ」

『…………人間よりも、人間らしい? わからない。だって私は、人間をよく知らないから』


 そんなことを言われても、私は人間ではないので、わかりません……。


「わからない、と疑問に持つこと自体が人間らしいですわね。わたくしだって、人間らしさなんてよくわかりませんわ! 言われたことに疑問を持つ、命令よりも自分の感情を優先する。機械ではありえない行為でしてよ?」

「まあ、それもそうね。本来答えるべき明確な回答があるのに、答えに迷っちゃうぐらいだもんね」

『…………』


 この、感情というものが、今回の敗北に繋がったのでしょうか……。


『人間らしさが、あったばかりに……』

「トロイちゃんがただの機械なんだったら、私は迷わず破壊一択だったけどね。正々堂々乗り込んだりせずに、空中から引きずり落として殲滅戦を仕掛けてたよ。偵察に来てたネメシスって子が、どうにも人間臭い感じだったから、じゃあ親玉のトロイちゃんはもっと人間らしい感じなんだろうな~って思ってさ」

『ネメシスが、バレて……?』

「そりゃあ白昼堂々バビロニクスに侵入したり、みのりん」

「レイヴスラシルですわ!!」

「……レイヴスラシルの一件でも、黄金領域の内部に入ってきてたしね。機械生命体が侵入してきてたら、そりゃあ一発でバレるよ」

『は……はぁ……はは……そう、ですか……』


 まさか、そんな素振りさえ見せずに泳がされていたなんて……。偵察が原因で、こちらが人間らしいとさえ察知していたなんて……。


「そうなって欲しかったんじゃないかな。考えて欲しかったんだと思うよ、トロイちゃんのマスターは」

『…………考えて、欲しかった?』

「メルティスこそが悪だという先入観を与えずに、天族と魔族のそれぞれにどう感じるか、考えて欲しかったんだと思う。そりゃあ、魔族は天族に苦しめられているからメルティスは悪だよ? でも、メルティスに救われた人間や天族も、ひょっとしたら居るかもしれない。だから、どちらに手を貸すのか、どう武力介入するべきなのか、それを考えて欲しかったんじゃないかなって」

『…………』


 メルティスは、何もしていない。最もそれは、私が観測を開始してからの話ですが……。だから、何もしていないメルティスに対して、魔族が非常に攻撃的だったから、私は魔族こそが世を乱す根源だと判断したに至ったのですが……。


「この子はね、兄をメルティス教の大司祭に唆されて、その兄が蘇らせてはいけない邪悪な大蛇を復活させ、国民を動く死体に変えられ自らも殺されてしまった砂漠の王女」

『…………』

「この子は、メルティス教が密かに進めていたキマイラウイルスの実験場として故郷を侵略され、民をモンスターと無理矢理融合させられ、兵器として利用されそうになっていた国のお姫様」

『人と、モンスターを……無理矢理……』

「あのデカい騎士はね、メルティス教に全てを奪われ、歴史から名を消した英雄。仲間も、恋人も、守るべき信念も……何もかも失って朽ち果てる寸前だったところを、私が拾ったのよ」

『どうして、メルティスは、そこまでして何も罰を与えないのですか?』


 知らない、私が知らない情報ばかりです……。ただ、争っていた。そうとしか記録にないことばかりで……。


「あそこで元気にぴょんぴょんしてる赤い服の王女様はね、記憶喪失で行き倒れていたところをメルティス教に捕まって、使い捨ての奴隷として扱われていたの。隙を見て逃げ出して、行き着いた村で英雄の真似をして、本物に勘違いをされて殺されてしまった。でも、それを恨んだりせず、むしろ本物が帰ってきてくれたことに喜んでいたわ。今では記憶を取り戻して、エルドリードの女王の座を継いでいるのよ」

『…………』


 一切、嘘偽りを検知できない。どこかに作り話があればすぐにわかるはずなのに、一切それが、検出されない。これが……すべて、嘘偽りではないと、言うのですか?

 では、なぜ、メルティスは……! こんな、こんな悪行に、一切の罰を与えないのですか?


「他にもね、あの子は――――」


 ――――もう、もう、聞きたくない。いいえ、聞かなければならない。知らなければならない。

 メルティス教によって食い潰された国を、故郷を追われ滅ぼされた者達を、その腐敗の根源がオルヴィスという悪女であったことも、それに目を瞑り好き放題にさせていたメルティスのことも……。家族を、仲間を、国を、恋人を――――尊厳までも。ありとあらゆるものを奪われ、それでも尚、必死に抵抗する彼らの過去から、目を背けてはならない。耳を閉ざしてはならない。


『――――貴方達の戦う理由が、よくわかりました』

「だからどうして欲しいって、私からはお願いしないよ。これを嘘の情報だ、信用できない情報だと思ってくれても良い。それは、トロイちゃんが判断することだから」

『…………少し、時間をください』

「じゃあ、私はやることがあるから……。あ、そうだ。倒したトロイちゃんの子供達は全員コアが無事だから、修理してあげてね。それからどうするかも、トロイちゃんに任せるから」


 なんと……。皆、無事なのですか……!? コアから狙いを外して、全員を無力化したというのですか!? 本当に、倒したいだけで殺したいわけではなかったのですね……。


『はい……。ええと……その前に』

「どうしたの?」


 修理しても良い、と言われたのですが……。ええと……。


『せめて、手足を直して頂けると……』

「あ゛」


 き、気がついておられなかったのですね。申し訳ありませんが、手足がなくては流石に何も出来ませんので、最低限こちらを修理して頂けると助かります……。


「マ、マリちゃーん! マグナさんも乗ってきてるんでしょ、手伝ってー!!」

『嘘だろう? どうしてバレた?』

『ほら、馬鹿弟子(マリアンヌ)。やはり乗ってきたのがバレていたぞ』

「あ、やっぱり居た!」

『やれやれ、こっそり近づこうと思ったんだが――――』


 なんでしょう、あの赤い髪の方を見ると、なぜか落ち着く(・・・・)……? どうして、これは一体……。


『やあ。初めまして、だね。もしかしたら子供の頃に会ったことがあるかもしれないけどさ』

『初め……まして……?』

「よっと……。どれ、修理を始めよう。困ったことに時間がないのでね」

『はい。宜しくお願いします』


 この世には、私の知らないことばかり。知りたい……。知りたくないことを含め、全てを。黒き神が何処を目指しているのか、その行く末を……。だから……!


「あ、トロイちゃん? そういえば言い忘れてたんだけど」

『は、はい』

「ヘクトール君、止めてくれる? おにーちゃんに煽られてバチクソにキレてるから、いくところまでいきそうなんだよね」

『あ!? ヘクトール、我々の負けです!! 剣を収めなさい!!』

『――マザァアアアアアアアアアアア!! こいつは、こいつだけは、絶対に倒す!!』

『かかってこい尻尾付き!! 背中ばっかり狙う奴のどこが正々堂々だ、恥を知れ恥を!!』

『キェアアアアアアアアアアアア!!』

「あ~…………」


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………。



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