574 神々の黄昏・9
◆ ◆ ◆
なぜこの私が、たった2人を相手にこんなにも時間を取られているのだ。
『また分身か、小賢しい!』
「――……」
「残念、それもハズレです」
『――ピヨッ』
またか、またこのヒヨコ型爆弾か!! 雌鶏の本体を潰さない限り、無限にこのヒヨコ型爆弾が足元で爆発し続ける!! 小賢しい、小賢しい、小賢しい!! 豆粒のような攻撃を飛ばしてくる桃髪と、ただ軽い一撃を放ってくるだけの狼女との組み合わせが、なぜこんなにも手間取るのだ!!
『おのれ! おのれ、おのれ!!』
「それもハズレ、それも違います。ふふっ……では、また増やさせて頂きましょうか」
『おのれええええええええ!!』
かすり傷程度しか与えられない雑魚が、何十何百と増えよって!! 我が影の領域を展開して支配しているはずなのに無限に増える雑魚が、こんなにも……ええい鬱陶しい!!
『この領域の支配者は私だ!! 私なんだぞ!!』
「空中要塞メルティナから隔離されたこの亜空間、影の領域と言いましたか。確かにとても――……」
「――……厄介な領域ですね。外部との連絡は取れず、出口も――……」
「――……存在しない。貴方を撃退しない限り出ることは――……」
『これもか、これも違うか!! クソッ!!』
爆弾が押し寄せてくる、液化して退散するしかない……。どうしてだ、私が支配する空間のはずなのに、なぜ私が追い詰められているのだ。なぜ私が逃げなければならない?
外の様子を見に行くにも、桃髪か狼女のどちらかが妨害しているのか領域から出るのに強烈な抵抗が生じる。マザーと連絡がつかないのも心配だ、一刻も早くこいつらを始末しなければならないというのに……。
『――ピヨッ』
『先回りだと!?』
段々と知恵をつけてきている!! こちらが液化して逃げた先をピンポイントで当てられている!! 無限に分身が増える桃髪、無限に幻影が増える狼女、どちらがこの爆弾を作っているのかすらもわからない。このままでは本当に追い詰められる……。詰む前に、領域を拡張せねば……。しかし領域の拡張は現実世界にも影響が……。
『ピヨ、ピヨ、ピヨピヨピヨピヨピヨ』
『数が多すぎる!!』
先回りはあくまで今回たまたま当たっただけかもしれない。次はきっと外すか、追いついてこないはず……。もう一度影の領域の溶け込み、別の地点に再出現を試すべきだ。領域を拡張して逃げ回っては、マザーや兄弟達の迷惑になってしまう。もう一度、今度は比較的手薄な場所へ最速で逃げれば……!!
『――ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ』
『……ッ』
な、なぜだ……! この場所に再出現するであろうと予測される可能性は一番低かったはず! それが、ピンポイントでここだけに爆弾が移動してきている!! 完全に、読まれている!! この狭い空間では、もはや逃げ切れないというのか!! 爆弾を処理して仕切り直すか、それとも拡張か……。いや、あの爆弾は連鎖して更に数が増えてしまう! これ以上分身や幻影を倒すのも、爆弾を爆発させるのも避けなければならない。だが、しかし……!!
「カーミラ様、更に数を増やします!」
「ええ、もっと増やしなさい。もっとです。確実に追い詰めなさい」
『それが本体か!!』
「忍法――……」
「――……分身の術!!」
『クソオオオオオオオオオオオ!!』
増える、減らない、狭い、追い詰められる……!! いつまで続ければ良い、大量破壊兵器が欲しい!! パリス、カサンドラ、救援を……しかし、ここから出るのは、こいつらを野放しにしては……!! どうすれば、どうすれば良いんだ!! 今の武装では、レーザーブレードとショットガンだけでは対処しきれない!!
『領域、拡張……!!』
もはや耐えられん、領域を……拡張する!!
◆ ◆ ◆
『領域、拡張……』
『ネメシスが【影の領域・拡張】を発動、失敗……。カーミラが【トータルエクリプス】を発動中しているため、領域の拡張は偽装されました』
『邪魔な、分身が、おのれ……』
『ネメシスが【オメガショットガン】を発射、TR-01型が50,400Gダメージを受け、破壊されました』
これは……? 何が、起きてるの……?
「――おや、お昼寝さんにティアラ達も来ましたか」
「ど、どうなっとるんや!? なんであの黒いのは、仲間を撃ち殺しとるんや!?」
「彼は非常に頭が良いようですから、夢を見ることも可能なのですよ……。うっふふふ……」
『また、増えたのか……』
「それは援軍です。領域を拡張した時に取り込んだのですよ、ネメシス」
『そう、か……。援軍……が……』
『ネメシスが【オメガショットガン】を発射、TR-01型・量産軽装歩兵が51,400Gダメージを受け、破壊されました』
頭が良いから、夢を見ることも可能……? それが仲間割れと、どういう関係が……。
「まさか、洗脳されとるんか……!?」
「おや、洗脳とは人聞きの悪い言葉ですね。夢を見て貰っているだけです」
「それよりも手が空いている人は、工場の破壊を手伝ってください! さっき青い巨人が再出撃してしまったんです!」
「なんだって? 青い巨人って言えば、デイポボスってやつじゃねえか!」
「さっき、自爆してたよねえ? エリスちゃんの見間違い~?」
「コアだけ無事ならば、回収機によってここへ運ばれ、新たなボディを手に入れて再出撃出来るようです。ここを潰さなければ、無限にアレを相手にしなければなりませんよ」
ええ!? そんな、苦労して倒しても無駄ってこと!? それはヤバいじゃん!!
「大変だ、リンネちゃんに伝えないと!」
「待ってください。リンネさんの心労を増やしてどうするのですか? 今のリンネさんに、トロイ以外の対処もしろと? 地上ではマリアンヌが秘密兵器を起動し、地下では激闘していると思われているネメシスがこの状態。地下の様子を知る方法があると相手にバレるということは、すなわち我々の優勢を敵に知られるのと同じ。理解できますか?」
ええっと、えーっと……? うん、どういうこと?
「……なるほど、せやから一切連絡を入れてへんのか」
「こいつがさっき使っていた影の領域ってスキル、そいつに取り込まれた相手は本来別のエリアに連れて行かれる状態になる系のスキルだろ? 薔薇の領域だの、死の領域だの、ティアちゃんは黄金領域があったな。領域系スキルに閉じ込められた場合、外部と連絡がつかないはずだもんな」
「あ~そっか! 閉じ込められてるはずの人から情報が入ったってことは、ネメシスの劣勢が一発でバレるってことか!」
「そういうことです。それにパリスとヘクトール、それに先ほど再出撃したデイポボスを相手にしているのはフリオニール……。マリアンヌが駆けつけて1体ぐらい持っていく時間を作れるでしょう。それに、ただでやられる男ではありませんよ」
それは、フリオニールさんのことを信用しすぎじゃない……? 流石に誰か、フォローしに行かないと、3対1はキツイんじゃ……。
「理解出来たら、地下施設の破壊をしてください。中枢部へ繋がるこの通路は、私とネメシスで逆防衛をしますので。ほら、また分身が増えましたよネメシス」
『カーミラが【ナイトメア】【マリオネット】を発動、ネメシスの洗脳強度が上昇しました』
『また、分身……。また、分身かああ……!!』
『ネメシスが【オメガショットガン】を発射、TR-02型・量産重装歩兵が48、400Gダメージを受け、破壊されました』
『エラー……エラー……。ネメシスノ、コウドウ、リカイ、フノウ……』
『マザートロイヘ、レンラク……』
『エラー……マザートロイ、ビジー……レンラク、フカノウ……』
大丈夫、なのかなぁ……。確かに、リンネちゃんへこの状況を伝えても、ただ情報が増えるだけでどうすることも出来ないし……。僕達がなんとかするしかないのは確かだけど……。
「さあ、早く行ってください。工場エリアは大小様々あり、合計10箇所もあります。これはメルメイヤだけでは破壊しきれません。警備兵も相当に手強いですから、注意してください」
「ほ、ほな、ここは頼んだで!」
『ティアラが【黄金魔槍驟雨】を発動、TR-11型・防衛型軽装警備兵が170,400Gダメージを受け、破壊されました』
「ゼオちゃん、ティアと倒した数で競争でーす!!」
「あ! ずるい、もう壊してる! 今から競争!!」
「もう始めちゃいまーす!!」
「ぶー!!」
今からデイポボスを追いかけていっても、僕達じゃ相手にならないほど強いのも事実……。考えていても仕方ない! 僕達は僕達でやれることをやらないと! とにかく、このファクトリーを破壊すればいいんだね!! まずは一番大きいエリアから攻め込んで……。
「あ、そのエリアは」
『侵入者、確認! 排除! 排除! 排除! 排除! 排除! 排除! 排除!』
『TR-00型・殲滅型超合金多脚戦車・リムーバーくん(Lv.1300)が【ロックオン】を発動、貴方がロックオンされました!』
「え゛」
「どう見てもクソデカい奴がおったやろ!! そこは最後やろが!!」
「お昼寝~!! 何やってるの~!!」
「もってぃ2号って呼ぶぞ、お昼寝……」
「2号は嫌だ~!! ここは僕がなんとかするから、皆は違う部屋に行って!!」
「戦犯が何を格好良いセリフ吐いとるねん!! ほな頼んだで!!」
『排除! 排除! 排除! 排除! 排除! 排除! 排除!』
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……。うーん、もってぃ2号だけは嫌だから、死ぬ気で頑張ろう……!!
『リムーバーくんが【デストロイ・ガンハザード】を発動、全武装を発射します!』
「うわ、うわ……!? うわあああああああああああああ!?」
もってぃ2号は、嫌だぁああああああああああああ!!
3巻が発売されました!
どうぞ宜しくお願いします!!





