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570 神々の黄昏・5

◆ ◆ ◆


「あっ! あっ!! リンちゃんがうちの作った服着てくれてる!! 着てくれてるよ!!」

『水着? 水着? 水着? 水着?』

「水着のほうじゃなくって! 本気の時の衣装だってば!!」

『重畳、重畳、重畳、重畳』

「チョウジョー……?」

『あ~嬢ちゃん、そりゃあ大変に喜ばしいって意味の言葉だな。加賀利の方で使われる、大変喜ばしいって意味の最上級だぜ』

「うん! 凄く嬉しい……泣きそう……!」

『いやいやそれもう泣いてる~☆』


 彼女はえーっと? 確か、リンネさんのお抱えの仕立て屋だったっけか。名前は、ツァイトさんだったかな。確か時間を意味する言葉だけど、何か由来でもあるのかな。教官NPCやプロの生産職NPCに囲まれて、鼻水垂らしながら泣いてる……。そんなに、嬉しいんか……。


「ほら、ねえねえ! 見て!! あれ、うちが作ったんです!!」

「え、ああ、ああ! 凄いね……!?」

「そうですよね、凄く映えてる……!! うええええ……!!」

「ほら、推しに自分の考えた渾身の衣装を着て戦って貰ってるんだよ? 嬉しいに決まってるじゃないか~」


 あ~。ダメぽに言われて理解出来たわ。そりゃあ嬉しいなんてもんじゃないな! 嬉しくて月まで飛んでいけそうなぐらいの有頂天だわ。見知らぬ他人にも自慢したくなるってもんだよね、わかるわかる……! 俺も馬鹿みたいなプレイスタイルで最初は誰にも相手にされなかったけど、リンネさんに認められてからはこれ一本でいこうって覚悟が決まったもんなあ。


挿絵(By みてみん)


「あれで15歳なんだもんねえ……」

「15歳の出して良い色気じゃないですね」

「こ゛れ゛か゛ら゛、と゛う゛な゛る゛の゛ぉ゛お゛お゛お゛」

「どうなるって、もうなんていうか、美の魔女っていうか、美の化身っていうか……」

「リンネちゃんの全国生配信の大舞台を彩る衣装を作ったなんて、これから先ずーっと自慢出来そうだわ~」

「一生、自慢、し゛ま゛す゛!!」


 いやはや、ツァイトさんみたいに嬉しくて感動で有頂天になってる人は幸せだね……。こっちはそれどころじゃない……。一般プレイヤーからすればこの配信は……。


「次元が違うわ……」

「造反者、あんなのと戦おうとしてたわけ? あれに喧嘩売ったわけ? マジで馬鹿以外の何者でもないわ」

「勝てないでしょ……」

「上陸したのは良いけど、どこも戦況が厳しいみたいだ」

「どっちが押しててどっちが押されてるのかもわかんねえよ」

「神々への挑戦でいつも瞬殺されてるからわからなかったけどさ、拮抗してるとこんな戦闘になるのなぁ……」

「なんでこの戦闘についていけてるの? 全員頭おかしくね?」


 絶望的な()を見せつけられている。俺達の知っている戦闘じゃない……遥か格上の、神々の戦いを見せつけられている。

 だから、上空で繰り広げられている戦いに比べたら、地上に居る俺達の戦いは……児戯だ。オママゴトと称するのが正しいのだろう。


「リンネちゃんって、死霊術師……いわゆる、後衛職だよね?」

「最前線で大鎌を振り回して、ビームを真っ二つにしながら突撃する後衛職とか、聞いたことないっすね」

「ついでに言うと、死霊術師は支援職だよね?」

「魔狼神と同じスピードで走りながら、飛んでくる瓦礫を拳一つで粉砕しつつ突撃する支援職とか、聞いたことないっすね」

「人間だよね?」

「それはうーん、どうなんですかね……」

「神!! リンちゃんは、神!!」

「神だそうです」

「神か~。まあうん、称号はそうなんだけど。同じプレイヤーなんだよね……?」

「神!!」


 神……か。俺も投擲神なんて称号を持ってるけど、同じ神でも神格の差がね……。


「まあモロトフ君、君も神プレイヤーの1人だ。そう落ち込むんじゃないよ~」

「いやあ、でも格の差が……」

「そりゃ当然だ。くぐり抜けてきた修羅場の数が桁違いなんだ、当たり前だろ? でもね、リンネちゃんには君ほどの投擲スキルはない。投擲極振り、全てを投擲に捧げたプレイはリンネちゃんですら到達していない。それは間違いなく真実であり、これは君にしか出来ない大仕事なんだ。ほら、自信を持って!!」

「……うっす」


 そうだな……。自分にないものに絶望するよりも、自分だけが持っているものを誇るべきだな。


「おーい、こっちは完成したぞー! ウォーミングアップを頼むよー!」

「ほら、ゴリアテ君達もこんなに早く仕事を終えてくれた。期待に応えないと!」

「……うっす!!」


 よし、俺にしか出来ないことをやり遂げよう。これは、俺にしか出来ないんだ。あの人(リンネさん)に任された、重大な任務なんだ!!


『おい小僧、わざわざ俺達の国からドワーフとダークエルフ最高の技師が来てやったんだ。やっぱり出来ませんでした~じゃ承知しねえぞ!!』

『本当にこの男で大丈夫なのか?』

「モロトフ君、支援要請だ! 頼んだよ!!」


 お? なんだ? 今更になって不安になってきたかよ、舐めるなよ……投擲神を……!! そして……!!


『システム:警告! 【解放・投擲の神】は、現在のステータスでは不足しており、発動出来ません!』

「リミッター、解除……!!」

『システム:警告! 【リミッター解除】の発動により、肉体の限界を突破します!!』

「俺達の筋肉を、受け取ってくれえええ!!」

「うおおおお!! マッスル、ビーム!!」

「マッスルビーム!!」

『複数の筋肉から【マッスルビーム・ストレングスアッパー】を受け、【STR】が急激に上昇します!』


 ウオオオオ……!! きた、きたきたきた……!! きたきたきたきた!!


『な、なんだ、この小僧、体が膨らんで……!?』

『なん、これ、こ、これは……!?』

『【ルナ・ベルセルクポーション】【冥神の超特能エッセンス】【不死身ポーション13号】を使用しました。スキル【死狂遊戯】【素晴らしきテロリズム】【圧倒的な破壊の美学】【オーバースロットル】【アルティメットスロー】【オメガパーマネンス】を発動』

『システム:【解放・投擲の神】の発動条件を満たしました。発動可能です』

「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」

「うわ、な、なんだ!?」

「化け物!?」

「うわあああああ逃げろおおおおおお!!」


 この瞬間だけ、俺は今、誰よりも……強い!! 見ろ、STRなんて500万を突破した!! もはや誰も、俺のパワーを止めることは出来なぁい!!


「上手くやれよモロトフ君!! 確実にやれよ!!」

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」


 見せてやるぜ……投擲の神の、力を……おおぉおお……!!



◆ ◆ ◆



『キシャアアアア!!』

『くっ!! 船を守るまでが勝負と思ったが!!』


 ――強い。今まで戦ってきたどの敵よりも、正確で残忍で冷酷で、狡猾だ。

 黄色の戦闘兵器、勇敢なるヘクトールと名乗るこいつはずば抜けている(・・・・・・・)。全ての能力が他の戦闘兵器よりも高く、一切の隙が見出だせない。狐ちゃんと兎ちゃんに援護して貰って尚、一切押し返すことが出来ない……。それどころか、だ!!


『ヘクトール!! どけ、俺様の獲物だぁああああ!!』

『ヘクトール、俺達は厄介な兎からやるぞ。連携すればあのズレ(・・)もどうにかなる』

『ああ、わかった!! 厄介な方から先にやるぞ!!』

『ヒュリエス!! 狐ちゃんを守れ!!』

「えっ、しかしシャーリーさんが――」


 こいつらは、正確で残忍で冷酷で、狡猾なんだ!! 狙っているのは兎ちゃんじゃない、狐ちゃんのほうだ!! 俺達に聞こえるように狙いを変えるはずがない。間違いなく、狙っているのは……!!


「――にゃんだぁあああああ!!」

『雷撃!? デイポボス!!』

『サンダーバリア!!』

『ちぃ!! 厄介だな、あのチビの魔術師!!』

「ほえ? シャーリーを狙ってたんじゃないの?」

「此方が狙われているように感じ申した!!」

『潰せる相手を確実に潰すつもりだ、やらせるな!! 連携してフォローに回れ!!』


 その瞬間に潰せる相手を定めて、連携してトドメを刺しにきやがる。いがみ合っているような口ぶりだが、連携には一切の迷いがない。

 巨体のパリスが無鉄砲に突っ込んでくるだけかと思いきや、意外にもこいつが撹乱担当だ。デイポボス、槍持ちの青い奴が司令塔。ヘクトールが最強のアタッカー……。そして、なんとか後方で釘付けにしているカサンドラとドルス、あれが狙撃と支援担当だ。あいつらがこっちに合流してきたら、終わる……! 簡単に拮抗状態が崩れて、あっさりと潰される!!


『耐えてくれよお昼寝、カサンドラとドルスをなんとしても……!!』

『まさか、あの雑魚共で倒せると思っているのか? そりゃお笑いだ!!』

『キシャアアアア!!』


 ヒュリエスはデロナちゃんがついているからギリギリで耐えているだけ、狐ちゃんと兎ちゃんはヘクトールとデイポボスを相手するので精一杯。お昼寝やレーナ達は総出でカサンドラとドルスに釘付け……。俺が踏ん張らなければ、リンネとどん太君に余計な心配を与えるわけには……!!


「(デロナが隙を作るから!! なんとかして、どれかやっつけて!!)」

『(何!? 待て、早まった行動は――)』


 デロナちゃん、それはいけない!! 今飛び出したら、ヘクトールの攻撃が君に向く!! しまった、間に合わない!!


『そこだ!! 貰った!!』

「うっ……!! く、きゃあああああああ!!」

「きゃああああー!! でろなんが、でろなんがー!!」


 直撃、これは……!! 崩れた、拮抗状態が……!!


「う、ぐ、ああああああああああああ!! ペイン、バーストォオオオオオオ!!」

『仕留め損ねた!?』

『ヘクトール、退け!! くそ!!』

『何やってんだぁ、ヘクトール!!』


 ペインバースト……。受けた苦痛を何倍にも増幅し、衝撃波として放出する究極奥義……!! 根性で一撃耐えて、それを丸々返そうという作戦か!! 無茶な作戦だが、初めて向こうが焦りを見せたぞ!! デイポボスが、ヘクトールを庇おうとしている……。この隙は、見逃せない!!


『うおおおお!! シールドアサルト!! 青いのを必ず潰せ!!』

『しまった、デイポボス!! うわあああ!!』

『クソ、あの騎士野郎、ヘクトールをぶっ飛ばしやがった!! おっらぁああああ!!』


 パリスが瓦礫を巻き上げて妨害してくるが、それで止まるほど……うちの精鋭は甘くないんだよ!!


「いまだ!! にゃんだーはりけーん! しゅーとっ!」

『サンダー、バリア……ア……!?』

「シャーリーわかっちゃった~!! これがバリア発生装置でしょ~!!」

『か、返――ッ!!』


 得意のバリアは、もう張れないようだな。ここまでだ、デイポボス!!


『――ただでは死ねぬ!! 後は頼んだぞ、ヘクトール!! パリィイイイス!!』

『まさか……! 自爆する気か!?』


 自、爆……? まずい、それはまずい!! 兎ちゃんは動きにズレがある、しかし2秒だ!! 2秒で自爆から逃れることは――ッ!?


『ウォオオオオオオオオオオ!! マザートロイに、勝利をー!!』

「は、え、にゃ!?」

『しまった!! 狙いは、オーレリアとデロナだ!!』


 ニャンダーハリケーンの着弾より、自爆のほうが早い……!! 俺がヘクトールを押し込んで陣形を崩したから、ガードが空いた隙を突かれたのか!! くそ、間に合うか!? ぐおおっ!? こいつ、こいつ!?


『離せ、くそっ!! くそっ!!』

『痛み分けだ、フリオニール!! お前も仲間を失う痛みを知れ!!』

「あっ……あっ……!」

「にゃんにゃんうぉーる、ダメ、間に合わな――」


 やら、れた……!! やられた、畜生……!! クソ、クソッ!! 我が神から皆のことを任せられて、なんてザマだ……!! また、俺は仲間を守れないのか……!!


「(フリオニール、シャーリーも巻き込まれた……怪我が酷い。姫千代はエスを抱えて逃がしてくれた。戦えるのは、エスと姫千代とフリオニールだけ)」

「(おばけ殿!! 此方達でそのへくとおるを止めてみせまする!! おばけ殿はぱりすを!!)」

『ヘクトール!! そいつをこっちに投げろ!!』

『シャアアア!!』

『ぐ、うぉお……!!』


 止められるのか、俺達3人だけで……。パリスと、ヘクトールを……。

 マリアンヌ、ティアラ、ゼオ、あちらもほぼ3人で奮闘しているんだ……。ここで俺が、弱音を吐くわけにはいかないだろ!!


『う、おおお! うおおおおお! 更に、巨大化するぞ!!』

『こいつ、まだデカくなりやがるのか!!』

『気をつけろ! デカくなっても動きはすっとろくならない!!』

『わかってんだよンなことはよぉおおおお!!』


 出来れば5倍の巨大化だけで乗り切りたかったが、15倍の巨大化を使う!! それでもパリスの巨体には少し足りないが、体格だけはほぼ同程度だ!!


『来い!! 相手に、なってやる!!』

『デカくなっただけで調子に乗るんじゃねえ!! でけえのは、俺様の特権なンだよ!!』

『キッシャアアアアア!!』

「姫千代、参る!! エス殿、援護を!!」

「暗黒の力よ、我らに勝利を。ダークネスエナジー!!」

 

 やるしかない、やるしかないんだ。ここで下がれば、兎ちゃんが死ぬ……! マリアンヌ達も、我が神も、全員が!! もうこれ以上、何も失うわけにはいかない!!


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