568 神々の黄昏・3
『マザー、正体不明の巨大戦艦がこちらへ急速接近中です!』
『ぶっ壊そうぜ!!』
『危険因子は排除すべきでしょう!』
『マザー、指示を』
来た。間違いない、このプレッシャーは黒き神……!! やられる前にやろうというのですね。まだ貴方のことを全ては知らないけれど、このタイミングで仕掛けてくるとしたら貴方しか居ない。私の予測システムが99.999%以上の確率でそうだと告げている。
「撃墜しなさい。木っ端微塵に、完膚なきまでに叩きのめしなさい」
『イエス、マイマザー』
『あれだけのデカブツだ、通常兵装じゃ落ちねえぞ!!』
『マザー、対巨大兵器用の大型武装の使用許可を』
生半可な攻撃では撃墜出来ないでしょうね。あちらも撃墜されれば後がないという覚悟で、あの巨大戦艦を飛ばしてきているのでしょうから。大型兵装の使用を許可しましょう。
「ドルス、巨大戦艦の弱点を探り狙撃しなさい。重波動ブラスターの使用を許可します。動力確保とドルスの防衛にはパリスが回りなさい」
『了解』
『ちんたら歩いてんじゃねえ! さっさと行くぞドルス!!』
『うお――』
相変わらずパリスは乱暴ですね……。少し動きの遅いドルスと組ませて丁度いいと思いましたが、ドルスの負担が大きすぎるでしょうか……。
「デイポボス、搭乗員を狙って攻撃しなさい。ヘクトールはデイポボスが集中して攻撃出来るように防御と援護を」
『承知した』
『了解!』
デイポボスとヘクトールは真面目で素直。命令を確実にこなすでしょう……。しかし、今ひとつ融通が利かないのがネックですね。お互いに足りないところをフォローし合うことが出来るはずですから、この戦いで大きな変化があると良いのですが。
「カサンドラは私と共に防衛システムの操作、ネメシスは状況の確認と敵に怪しい動きがないかを監視しなさい。地上制圧用の兵器も発進しなさい」
『マザーの仰せのままに』
『イエス、マイマザー』
さて、融通が利く上位の2体を私の側に置きましたが、実は既に敵戦艦の分析情報は上がってきています。この司令塔から扱える武装だけでも十分に撃墜可能な装甲、バリアも展開しているようですが、あれでは紙切れ同然ですね。以前は見せなかった重武装と大型兵装の力、見せつけてあげましょう。
『ドルスが重波動ブラスターにて攻撃を開始。敵戦艦のバリアに阻まれています』
「紙切れ同然と思いましたが、まさか重波動ブラスターで抜けないとは……。妙ですね……」
『分析完了、特定の属性のみダメージになる特殊なバリアのようですわ。聖なる力に弱いようです』
紙切れ同然のバリアには理由がありましたか。しかしその程度の小細工では数十秒の時間稼ぎにしかなりませんね。
「なるほど、考えましたね。ネメシス、ジャッジメントバスターを発射しなさい」
『ジャッジメントバスター、発射スタンバイ。照準、誤差修正完了。エネルギー充填……3……2……1……』
「発射!!」
『ジャッジメントバスター、発射』
『ジャッジメントバスター、弾着……今。命中、敵戦艦のバリア消滅を確認』
「たわいない。これであの戦艦は裸同然、大型兵装を出すまでもなさそうですね」
バリアが消失したのであれば、もはやあの戦艦に防御性能はないということ。こんなにあっさりとバリアを抜かれるとは、さすがの黒き神も予想外だったでしょう。優れた兵器である我々を倒すためには、些か稚拙な防御装置でしたね。
『バ、バリア再展開!』
「何?」
『また特定属性貫通のバリアと思われます。解析妨害が激しく、属性を特定出来ません』
「全属性の砲弾を全門発射しなさい。時間稼ぎが向こうの目的です。時間を与えてはいけません」
『イ、イエス、マイマザー。全属性砲弾、全門発射!』
『エネルギー充填開始、エネルギーの全体残量、90%』
もうエネルギーを1割も使ったのですか。しかしこれで落とせるなら何も問題ない……。何も問題がないはず……。なんでしょうか、この戦闘演算プログラムに走る、不快なノイズは……。
「発射しなさい」
『発射!!』
『弾着、今! 命中、敵戦艦のバリア再消失を確認。敵戦艦、右舷前方からの出火を確認!』
『効いているようですわ』
「効いている、ではいけない。すぐにでも落とさなければ……!」
『現在の損傷と減少した運動性から、およそ3分12秒で完全に能力を失い墜落すると思われます。こちらへの上陸は不可能です』
おかしい、私の予測している結果と全く同じはずなのに……。あの船は99.999%以上の確率でこちらへ到達する前に墜落すると出ているのに、なんなのですか、この……不快な……ノイズは……!!
『ドルスが重波動ブラスターにて再度攻撃を開始、敵艦損傷拡大中』
『デイポボスから通信ですわ。敵艦、搭乗員の姿が確認できず、とのことです』
「まさか、あれは……ブラフ……?」
まさか、いやそんなはずは……。あの船が墜落するまでに、こちらへ到達出来るような船や生命体はどこにも感知出来ない。ブラフなはずがない。
『我々6機の予測は、あれが100%本命の船であると出ています』
「私も同じ結果が出ています……しかし……」
この子達の演算能力は、それぞれの性格によって差が出るように設定してある。全員が100%を出し、私の予測結果も100%この船が敵の母艦であり切り札だと告げている……。なのに、どうしてもそうは思えない。何かある、何か重大な落とし穴が……。
『敵戦艦、損傷率50%を超えました。航行能力が激減しています』
『高度低下を開始、墜落モーメントを検出。墜落は秒読みですわ』
「…………」
ノイズで……頭が痛い。嫌な予感がする。ありえない、機械の私が計算を信じず、感情を優先するなんて、そんなことはあってはならないのに……!
『ネメシス、あれは?』
『わからない、今調べているが、出火の黒煙が激しく良く確認できない』
「……ブラフ、まさか……殻……?」
『マザー? カラとは、何を……ッ!? そうか、殻か!!』
殻だ、あの戦艦は殻だ!! 本命には違いない、しかし殻!! しまった、間に合うか……もう遅いか……! いや、まだ間に合う!! 95%以上の確率で、まだ間に合う!!
「全機へ告ぐ!! 敵戦艦はブラフ、あれは殻です!! 本命の戦艦は内部にあります!!」
『敵戦艦内部に、更に戦艦を確認!! 全機へ共有する、必ずあれを落とせ!!』
「全砲門、内部の戦艦に照準を合わせなさい!!」
『強力な照準撹乱により、照準が定まりませんわ!』
「デイポボス、ヘクトールに通信! 最も強力な砲台へ急行、手動照準にて敵戦艦を狙い撃ちなさい!!」
『既にやっているそうです!』
やってくれた、黒き神……!! 巨大戦艦の中に更に戦艦を隠すとは……。これは、うふふふ……!! もう一隻ある。間違いなく、もう一隻!! 今現れた黒い戦艦が本命と思わせておいて、もう一隻あるに違いない!! それが本命、私の予測プログラムも100%そうだと告げている。直感と予測が重なった、一切ノイズのない完璧な結果だわ。ああ、スッキリする……思考がクリアになった。不快なノイズが消えて、頭の痛さも消え去った。後は黒き神の船にも、消え去って貰うまで!!
「黒き戦艦の内部に更に戦艦があります。間違いなく、それが本命です」
『もう一隻あるというのですか!?』
「間違いなくある。あれもブラフ……とにかく、撃ち落としなさい!」
『エネルギーの全体残量、55%……! このままではローレイへの終焉の火発射には、エネルギーが足りませんわ』
「…………」
まただ、また……ノイズ。今度は何が原因なのですか? 不愉快、不愉快、不愉快、不愉快、不愉快、不愉快……!!
もしや、こちらのエネルギーを削るのが目的……? ローレイへの壊滅的な攻撃を防ぐために……?
「迷っている場合ではありません。エネルギーを使いなさい!! 終焉の火がなくとも、ローレイは落とせます!」
『黒い戦艦の損傷拡大、左舷出火。運動性能減少。高度低下、僅かな墜落モーメントを確認』
『赤い戦艦が下部より出現!』
「あれが本命です、必ず撃ち落としなさい!! 必ず!!」
『イエス、マイマザー!!』
来た、第三の矢!! 私の予測通り、もう一隻が……!! 速い、あれで特攻を仕掛けようというつもりでしょうが……そうはさせない。それは出来ない。それだけは許可できない!!
「オメガウェーブバリアを発動しなさい!!」
『エネルギー残量が30%を切ります! この地域からの離脱が難しくなりますわ!』
「あれが到達したらどの道厳しい戦いになります。絶対、撃墜しなさい!!」
『了解……!! オメガウェーブバリア、展開スタンバイ! 各員衝撃に備えろ!!』
オメガウェーブバリア、どんな攻撃でもこのバリアなら必ず止められる。あの日見たメルティスの投槍、あれが何万本降ってきたとしてもピクリともしないであろうこのバリアで、あの赤い戦艦を……止める!!
「止まりなさい……!」
『オメガウェーブバリア、展開!!』
『くっ……!』
「止まれ!!」
墜ちろ、墜ちろ……! 墜ちろ! 墜ちろ!!
「墜ちろぉおおおおおお!!」
『オメガウェーブバリア、赤い戦艦が直撃します!! 直撃、うわあああああ!!』
『この、衝撃は!!』
オメガウェーブバリアが破れるほどの衝撃!! この威力、途轍もない出力を出すために、どれだけの量のエネルギーを!! 信じられないほどの大爆発でした……が!!
『赤い戦艦、轟沈!! 上陸不可能、残骸が地上へと落下中!!』
『マザー、やりましたわ!!』
「やった……やった……!!」
こちらにもエネルギー的には大損害が出ましたが、これは時間が解決してくれる問題。ローレイを制圧するまでには問題が綺麗サッパリなくなることでしょう。さあ、空中戦は私が貰いました。今度は地上戦、こちらも私達が頂くとしましょうか。
「全機、地上戦の準備をしなさい。これよりローレイ制圧作戦を」
『ヘクトールより緊急通信!!』
『――マザー!! マザー!! 船が、黒き神が!!』
頭が、痛い、胸が、裂ける……!! この、このプレッシャーは……!?
『こ、広域通信!?』
「回線を繋ぎなさい!!」
『――――ハロー、トロイちゃん。盛大な歓迎、感謝するわね。これから会いに行くわ』
「ひっ……! ひっ……! ひひ、ひっははは……!! 来た、どうして、なんで……!! あっはははは!!」
『マ、マザー……!! 黒い戦艦が……!!』
『巨大戦艦、轟沈……。赤い戦艦、轟沈……。黒い戦艦が……健在です……』
黒い戦艦が……? あれは、でも、赤い戦艦が……。赤い戦艦が、ブラフ……? こちらのバリアを読んで、爆薬を大量に積載して突撃させた……?
は、はは……!! じゃあ、黒い戦艦が本命だったと!! それが、お前達の大本命だと!! 三の矢は念の為、二の矢が大本命!? わかるか、そんなのわかるか!! わかってたまるか!!
違う、過ぎたことに怒りをぶちまけている場合じゃない。黒い戦艦は、まだ撃ち落とせる。まだ間に合う!!
「全エネルギーを、最低限能力を維持出来るまで全エネルギーを、あの黒い戦艦に砲弾を叩き、きゃあああ!!」
『地上からの攻撃です!! と、都市が……!! 都市が、地下から凍りついています!!』
『砲台、強力な妨害と凍結により照準が合わせられません! 防衛機能が能力を失っていますわ!!』
『マザー、指示を!! マザー!! マザー!!』
――やられた。地上なんて、取るに足らない戦力しかいないと、黒い戦艦からの攻撃しか警戒していなかった。
やられた。やられた……。やられた……!! しかし、ローレイにも地上制圧兵器が攻撃を仕掛けていたはず。黒き神が不在ならば、大した戦力は教官達しか……。
「地上の様子を、出しなさい……」
『ローレイには、大規模な守護方陣が敷かれているようです……。ローレイの制圧は、全く進んでいません。北門を押してはいますが、押し切れていないようです』
「弱き者でも、団結すれば……ですか……なるほど……」
『黒い戦艦が、こちらに接近してきます……。ドルスの砲撃だけでは、もう止まりません……』
「ドルス、下がりなさい。迎撃戦の準備に入りなさい。それ以上の攻撃は、逆に狙い撃ちにされます」
『――了解……』
「パリス、デイポボス、ヘクトール、カサンドラ、上陸してきた敵を迎撃しなさい。パリス、ネメシスは各機の援護。私は……大将の相手をします」
『……イエス、マイマザー』
『ご武運を、マザー』
「運など、そうですね……。今は運にすら、縋りつかねば。この戦い、必ず押し返しますよ!!」
『『イエス、マイマザー!』』
黒き神……貴方はいったい、あとどれだけの数の矢を持っているのですか? もはや、私の予測プログラムは全くあてにならない。ここからは未知の領域、予測不可能な世界……。でも、ああ……なぜでしょうか。どうして私は今、一切のノイズを感じていないのでしょう。不思議……不思議ですね……。教えて下さい、貴方は私にとって……なんなのかを。
「――――確かめさせて貰います」