566 神々の黄昏・2
「は……? どういうこと……?」
「言葉の通りだ、リンネ! トロイは造反者の攻撃を魔族による攻撃とし、魔族を危険な存在だと判断してこちらへ宣戦布告をしてきたんだ!!」
「私達が攻撃したわけじゃないのに!?」
「トロイからすれば造反者だろうがバビロン陣営だろうが知ったこっちゃない、魔族は魔族って括りなんだろうさ!!」
トロイちゃんって、こんなに喧嘩っ早い子なの……!? いや、それより問題なのは完全な貰い事故なのに、トロイちゃんのヘイトがこっちに向いてることだよ!! 2時間後にローレイへ攻撃を仕掛けるって、本気で言ってるの!? うん……本気じゃなきゃ宣戦布告なんてしちゃ駄目だよね。した時点で本気なんだよね。
「なんで私達がご飯へ行ってる間に、こんな大変なことに……」
「んやぁ~どうやら、僕達が居ないのを察知して、横槍の心配がないから突っ込んだみたいだよ~」
「だって、トロイちゃん馬鹿みたいに強いってわかってるじゃないですか! それに平均レベル600台で突っ込んでも、竜巻の中にハンググライダーで突っ込むようなものだってわかるじゃないですか!!」
「トロイの最終情報は推奨レベル500ってところで止まっとる。攻撃を仕掛けてきた機械の兵隊もレベル不詳、絶望的に強いことはわかっとるがどこまで強いかまではわかっとらんかった。それに、2000人もおったら気が強くなってしまうんも無理はないやろ」
「いずれにせよ、トロイが攻撃を仕掛けてくるのは変わらねえ。大人しく白旗を上げてローレイへの攻撃は勘弁してもらうか、それとも……」
「断固として!! 徹底抗戦します!! しましょうね!!」
「リンネさんなら絶対抵抗するに決まってますわ~!!」
「ん、リンネも喧嘩っ早い」
「売られた喧嘩は買わないと!!」
マリちゃんに集めて貰ったNPC視点の情報と、お昼寝さん達がせっせと集めているプレイヤー視点の情報を合わせると……。
メルティシア法国での戦いで勇者から造反者へと変わった勢力が、自分達の勢力拡大と形勢逆転を狙ってトロイへと奇襲を仕掛けた。総勢2000人以上での攻撃、というのもハルピュイアっていうローラちゃんをもっと『鳥ッ!』って感じにした種族に、デカい籠で運んで貰って上陸するって作戦だったらしい。
当然トロイちゃんは迎撃。2000人以上が一瞬で木っ端微塵に吹き飛び、『魔族は攻撃的で危険だから大人しくさせるのに攻撃するね』ってことで、まさかまさかのこちらにヘイトを向けてきた。もうね、完全に貰い事故!! 確かにさ、最初にちょっかいを出したのは私だ。それは認める……認めるけど、敵の正体というか所属が同じかどうかぐらい確認しようよ!
これに対してバビロン様は『ワタシの陣営の攻撃じゃないわよ~♡』って説得したけど、トロイちゃんからは『問答無用、悪魔は嘘をつく』と回答がきた。もうね、聞く耳を持たずって感じ。あと2時間ぐらいで、トロイちゃんからの攻撃がローレイに対して開始されちゃうのよね!!
「こうなったら、大型飛空戦艦ティティエリーナ号を出します!! 戦闘飛空艦バビリーニ号、プリティーヌ号も発進用意!!」
「リンネ、あの子達はまだ試運転すらしていないんだぞ!?」
「いずれにせよ、試運転なんかして姿を見られたら対策されて終わりよ! ぶっつけ本番しかないでしょ!!」
「わかった、ああわかったよ。それしかないな……では、我は転送の段取りに向かう」
「お願いね!!」
飛空艇の段取りはマリちゃんに任せておけばいい。私が下手に口を出しても現場は進まない……こういうのは、専門に頼むのが一番なのよ。
「あーあー、リンネちゃん? その、ティティエリー……なんだって?」
「ティティエリーナ号、バビリーニ号、プリティーヌ号です!!」
「なんでカレン様の名前、ないの……?」
「カレン様は英語でプリティーなのでプリティーヌ号です!!」
「あ、命名、リンネだ」
『)ヽ´ω`(』
「我々のシンギュラリティ号が……」
もうぶっつけ本番でやるしかない。せめてちゃんと飛ぶかどうかぐらいは確認したかったけど、そんな時間はもうないからね。急がないと……。マーゾも呼ばないと!!
「――もってぃ! せやからはよ来い言うてんねん!! 飯が美味いとか言ってる場合ちゃうねんぞお前!!」
「レイジ、個人チャットの声が口に出てるぜ」
「悠長に飯を食ってるアホがおるからやろが!!」
「腹が減っては~って言うからね~」
「その前にあいつ、獄行くべきじゃねえか……?」
「ん、獄に行くべき。ご飯、獄、トロイの順番」
「どうやって後から合流する気ですの!?」
「もってぃだし、デカいアヒルさんで飛んでこられるやろ!!」
「ふっ……ぐっ……」
レイジさんの『デカいアヒルさん』にちょっと笑っちゃった……。ご、ごめんなさい、今のは笑うところじゃないんですよね。ちょっと熱くなってましたし、冷静さを取り戻せたからこの笑いには感謝しないと……。でももっと、言い方があるじゃないですか。デカいアヒルさんって……!
「それで? 俺達はどうする、シンギュラリティ号じゃなくって……えーっと……」
「プリティーヌ号へ移動しましょう! その前に、バビロニクスへ移動します!」
「え? バビロニクスに移動するの?」
「はい。各都市のドックで飛空艇を建造していましたが、今はマリちゃんが段取りをしているのでバビロニクスに行けば大丈夫です」
「リンネちゃん、全員を集めたほうが良いか~い?」
「現場に到着してから……いえ、30分後にエマージェンシーコールをお願いします!」
「了解~。それまでは各々準備をするようにって伝えておくよ」
「お願いします!!」
エマージェンシーコールは30分後に設定しよう。バビロニクスの地下ドックにも大型倉庫はあるけど、地上での買い物とかは出来なくなっちゃうからね。その辺りに配慮して、30分……そうだ!! 私はやらなきゃいけないことがあるじゃない!!
「あーあー、どうしよう……」
「お姉さ~ん♡ シャーリーね、お引越し終わった~♡」
ああ、シャーリーちゃん。貴方はなんていいところに現れたのかしら。私の救いの女神ね、ちゅーしてあげよっか。今日のうさみみもふわふわで、色々とゆっさゆっさしてて可愛いね……。
「きゃ~ん、いきなりハグして貰った~!」
「シャーリーちゃん、凄く良いところに来てくれたわ。このお姉ちゃん達を、バビロニクスの地下ドックに案内してくれる? プリティーヌ号に案内して欲しいの」
「あ!! じゃあじゃあ、アレをやるんだ~!! 早くいこ~っ!?」
「わあわあ、ぐいぐい引っ張られてるけど、ギルドポータルでバビロニクスに行くからね? そこから案内してくれる!?」
「シャーリーちゃん、ゲーセンルートで向かって」
「はぁ~い♡ おひるね~さん? 早くいこ~?」
「あ゛……。僕、この子好きかも……。今、凄く好き度が上がった……きゅんきゅんする」
シャーリーちゃん、恐ろしい子……!! お昼寝さんを一瞬でデレデレにさせるとは、無自覚なる魔性の少女よ……。成長したらきっと、世の男達どころかお姉様達も全員籠絡しますよ、この兎ちゃんは……。
「リンネさん、どちらへ向かいますの?」
「バビロン様のところへ、出陣の報告に! こういうのは、直接伝えないと!」
「な~る~。いってら~」
「わたくしも同行しますわ!」
「ペルちゃんは装備の確認をしてて! 私は決戦用プリセットを呼び出せば良いだけだから!」
「プ、プリ……? レーナさん……! プリなんとかって、なんですの……!?」
「プリセット、使ってない? 装備とか、スキルのショートカットを記憶して、一瞬で呼び出せる機能」
「使ってませんわ~!?」
まあ、ペルちゃんは最強の一張羅タイプだから、プリセットは使わなさそうだもんね……。私はほら、従者毎にプリセットを設定してるから……。今回は万能型の決戦プリセットで行くけどね。
「それじゃ、皆をお願いね! お昼寝さん、もしもシャーリーちゃんが迷子になったり困ってたら連絡してください」
「はぁ~い!」
「オッケー……。ねえシャーリーちゃん、お耳……ふわふわしていいかいぃいいい!? いだだだ!!」
「お昼寝? 早く、ポータル出そうね?」
「おお、怒らないでよエリス! エリスだって、ロリっ子の前ではこんなじゃん!!」
「でもほら、なんか嫌だから」
よしよし、それじゃあシャーリーちゃん、皆の案内を頼んだよ。お昼寝さん達も、いつまでも婦々喧嘩してないで移動してくださいね? 周りの皆様が『あらあら~うふふ……』って目で見つめていらっしゃってよ? さて、私はやることをやらないと……。
『(もしもし、マーゾ? 居るでしょ?)』
『(ああ! マイスイート――)』
――――うわ、キッショ……。