562 支配者の奏でる"イメージ"
「うおおおお~私、ふっか~つ!!」
「ええ~……」
「リンネ殿、本当に体調は大丈夫なのですか……?」
「絶好調~!! パーニェイナをぶっ倒しにいくぞ~!!」
あの時私に覚悟が足りないとか言ってくれた気がするなあ、パーニェイナァ!! 見せてやるよ、これが私の覚悟だってところをなぁ~!! 今の私は絶好調、そしてあの頃よりも20倍は強い。いやごめん、それは言いすぎたかもしれないね? 多分2倍ぐらいは強い。
「行きたい人ー!!」
「はーい、はいはいはーい!!」
『わうーん!!』
『(*´∀`*)ノ』
「此方も参ります!!」
「デロナも~!!」
あ、あ、あ……。皆積極的なのはいいんだけど、これもしかしてなんだけど……。全員挙手してるな? 1人残らず、全員挙手なさっておられるな? いかん、これはまずい。8人までしかいけないんだよね……。じゃんけん、かなぁ……。
「どん太、じゃんけんカード」
『わう、わう? わん!(これなに~? じゃんけんカードだ!)』
「私にじゃんけんで勝った子を連れていきます!!」
え、なんなのこの殺気は。そんなにじゃんけんで決めるのが嫌なの!? いや、この殺気は私に向いていないな……。まさかこれは……!!
「はい、私はグーを出します」
「デロナはパーを出すもーん!」
「リンネ、我はチョキだ。チョキを出す。意味がわかるな?」
「え、えっと、メイヤもチョキを出します!!」
「ティアは何を出しましょう! 迷っちゃいます!」
「ああ、ティアちゃん……。純粋で真っ直ぐなティアちゃんのままあり続けて……」
「はう?」
はうって何? え、可愛いね。小首を傾げる動作も狙っているわけではなく天然物なのがあまりにも尊すぎる。それに比べてリアちゃんとデロナちゃん、そしてマリちゃんのずるいことよ! あとめーちゃんはそんなずるい子達を見習わないように。それにリアちゃんとか絶対、勝たせてくれなかったら後でぶーぶー文句を言う気満々じゃん!!
「じゃんけんに負けて行けなかったらぶーぶー文句を垂れる気ですね? 考えが狡いですね。脳みそまで幼女になられましたか?」
「あ゛あ゛!?」
「エスちゃん言ったね!?」
「どうしようリンネ、言い返す言葉がない」
「まあ今から何を出すのか宣言するほうが悪いし……」
『わん!!(はやくやろうよ!!)』
『(;´∀`)』
「此方は必ず勝ちまする。ええ、必ず!!」
「うっふっふ……」
『ぴゃう、わっふっ!(カーミラ様、がんばれ~!)』
エスちゃんが即座に裏切って辛辣な言葉を投げつける流れ、割と好きなんだよね。まあどん太の言う通り、早くやろうよって案には100パーセント賛成。それじゃあ諸君、準備はいいかね?
「それじゃあ行くよ~? じゃ~んけ~ん……」
◆ ◆ ◆
『――挑戦者を確認中……。プレイヤー【リンネ】、従者【どん太】【姫千代】【フリオニール】【ティアラ】【ヒュリエス】【カーミラ】【ジャンボ】、以上8名』
はい。見事に何を出すって宣言した奴が負けました。ヴァルさんもさり気なく負けました。ちなみに初手で勝利したのは1人だけで、圧倒的強運の持ち主であるフリオニールとかいうぶっ壊れラッキー持ちが勝ちましたね。リアちゃんは最後まで負け続けてたよ。
こんなのおかしいです、絶対なにかの間違いですってずーっと言い続けてたけど、なんというかこれが因果応報ってやつなのかなって。狡いことを考えた結果、自分にその結果が返ってくるっていうね。まあなんというか、納得の結果ですわよ!!
『30秒後に戦場へ転送されます。パーニェイナが迎撃準備を開始しました』
「それじゃ、出来る限り作戦通りに。作戦が破綻した場合は各自の判断で行動して」
『わん!!(わかった!!)』
「御意に御座います」
『(`・ω・´)b』
「ティアも頑張ります~!!」
「よろしくお願いします、カーミラ様」
「ええこちらこそ、よろしくお願いしますねえ……」
『ぴゃう~!』
アルティメイタムに勝てなければ、トロイに勝つのすら難しい……。これを乗り越えないと!! あの時、牽制射撃で壊滅した私達とは違うってところを思い知らせてやる!! 私がイメージした作戦がどこまで通用するか、試させてもらうぞ!!
『3……2……1……転送』
『カーミラが【憑依】を発動、【ジャンボ】を憑依させました』
『ようこそ、そしてさようなら』
『装甲戦機アルティメイタムが【牽制射撃】の構えを――』
――舐めるなよ財の神。
『フリオニールが【スーパービッグボディ】を発動』
『1人デカくなったぐらいでは話にならん、出直せ』
『装甲戦機アルティメイタムが【牽制射撃】をキャンセル、【バスターシュート】スタンバイ!』
よし、釣られたな。目の前に巨大なタンカーが現れ、それが突っ込んできては鬱陶しい。早めに排除したいから、まずはこいつから倒そう。普通ならそう考えるのが当然の流れ。バスターシュートの発射先は完全にフリオニールに向いていて、私達の動向を気にもしていない。向こうは私達のことを、いつでも倒せるアリか何かだと思っているから。
『ヒュリエスが【サクリファイスリンク】の対象にフリオニールを選択』
ヒュリエスが発動したスキル、サクリファイスリンクの効果は至って単純。自分が受けるはずのダメージをリンク先の相手になすりつける効果。これはパーティメンバーにしか効かないけれど、フリオニールを選択することで実質HPが倍に増える。だけど私が編み出した作戦はこれじゃない。
『ヒュリエスが真覚醒スキル【リベリオン】を発動、効果逆転!』
『装甲戦機アルティメイタムが【バスターシュート】を発射、クリティカル! ヒュリエスが犠牲となり、155,750Gダメージを受けました』
『……何?』
リベリオン、反逆する者の意志。すべての効果を反転し、サクリファイスリンクは逆にディボーション……献身効果へと反転する。これでフリオニールに入るはずのダメージは全てヒュリエスに向かう。この悍ましいダメージを本来なら耐えられるはずがないのだけれど、リベリオンの真に恐ろしいところは『ダメージを反転して回復効果にする』ところよ!!
そして!! ヒュリエスの装備には一切の火力上昇効果を入れず、HP回復効果の上昇、最大HP上昇特化と回復による追加HP獲得効果、更にガチガチの耐性を積ませている!! これがどうなるかわかるか、パーニェイナ!!
『ヒュリエスが【リベリオン】を解除。究極スキル【マイティーガード】を発動、【パーフェクトアーマー】【ストーンスキン】【エナジープロテクション】【ライフアーマー】【ブレイクガード】【パーマネンス】が発動しました』
「ほら、撃ってこい撃ってこい。まあ、そんなへっぽこビーム砲なんて効きやしませんが」
パーニェイナにはわかるまい。今のヒュリエスのHPは、脅威の875,000G!! HPが回復した時に追加のHPを獲得し、更にHP回復効果量を上昇させているから、受けたダメージの5倍以上のHPが増える。これはもはやバグなのではないかと運営に訪ねたけど、仕様って回答がきた!!
なら、このHPの暴力は仕様!! そして何よりも恐ろしいのは、このHPは実質フリオニールのHPだということ!! 削りきれるか、お前に……このHPの暴力を!! 圧倒的HPを!!
「ピアリス、クルス、ラーナ……穿て。穿て、穿て穿て穿て穿て穿てぇええええ!!」
『【古き呪いの雨】を発動』
『小賢しい……!!』
『パーニェイナが【マジックシールド】を発動』
イメージだ!! 戦場を支配する我々を想像するんだ。私はそれをリアルのキャンバスに叩きつけるアーティストだ!! イメージを具現化する、戦場を支配するアーティストだ!!
読める、古き呪いの雨が万が一にも機体を貫通すれば呪われる! それを嫌ったマジックシールドで、呪いの効果を回避する。だけどそれは同時に、魔術防御属性を帯びることを意味する。このゲームのバリアにはそれぞれ弱点がある!! 知っているか、そのシールドの弱点を!!
『カーミラが【嘘のルーン】を発動、【古き呪いの雨】の効果を書き換えました』
『装甲戦機アルティメイタムが51Gダメージを受けました。機体を呪いが侵食します』
『マジックバリアが効かない!?』
『パーニェイナが【古の呪い・レベル8】状態になりました』
これがイメージだ!! 戦場を支配している我々の姿だ!! 嘘のルーンは選択した情報を1つ書き換えるチートじみた能力、これで魔術を物理スキル扱いに書き換えた!!
だがもしも嘘がバレた場合は反動により一定時間ルーン魔術の使用が不可能になるデメリットがある。ここでバレても問題はない……それも既にイメージしている。だが呪いの効果で身体能力が麻痺しつつあるお前に、そんな余裕があるかな?
どうだ、これが一匹狼のお前と私達の差だ。連携だ、アリンコは群れることで橋をかけることだって出来る生き物だ! 協力すればいずれ大木だって切り倒せる! さあ、早く回復行動を取れ!
『装甲戦機アルティメイタムが【リフレッシュモード】を起動……』
『フリオニールが【シールドアサルト】を発動、装甲戦機アルティメイタムに17,770Gダメージを与えました。装甲戦機アルティメイタムが体勢を崩し、【リフレッシュモード】の発動に失敗』
「今だ、潰せ!!」
『舐めるなぁああああー!!』
『ティアラが【黄金回廊】を発動、装甲戦機アルティメイタムが脚部を吸い込まれ転倒します!』
『装甲戦機アルティメイタムが【アルティメットビームソード】を発動、クリティカル! ヒュリエスが犠牲となり、205,155Gダメージを受けました』
「うぅっぐ……!」
転倒間際に足掻いてのビームソード。これは流石に効くが、しかしまだ半分どころか3割も減っていない。問題ない、イメージ通りだ。
さあ、黄金回廊の通じている先は空中、それに足を突っ込んだ程度で何も出来ずバカ正直にすっ転ぶはずがない。反撃されることぐらいはイメージしている。しかし、その足が!! こちらの狙いだ!!
『姫千代が【神狐流奥義・一刀断滅】を発動、切断! 装甲戦機アルティメイタムの両脚部を切断しました』
『脚部が……!?』
飛ぶぞ。見ろ、飛ぶぞ!! アルティメイタムがたまらずバーニアを噴かして飛ぶぞ!!
『【アンデッド憑依】を発動、【どん太】を憑依し【魔狼現人神】状態になります』
『装甲戦機アルティメイタムが【フルスロットル】を発動』
『【大跳躍】を発動』
『脚部がないぐらいで……!!』
『フリオニールが【フライングボディープレス】を発動、クリティカル! 装甲戦機アルティメイタムが30,225Gダメージを受けました』
『うわああああああああ!?』
『うわあああ▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂あああああ』
イメージ出来たか、お前に……。この瞬間を見ることが出来たか? フリオニールに押しつぶされて地べたに這いつくばり、敵はまだまだ意気軒昂。ティアラは槍を構え、私は魔狼流星斬を構え、姫千代は山をも真っ二つにするほどの威力をもつ一撃を、カーミラは渾身の一撃を叩き込む準備を済ませている。
ヴァルフリート曰く、私達は数千の強敵達を38時間で屠った。幾多の戦場、幾多の状況、幾多の死線、私は常にイメージし続けた。常に勝利する自分を、我々を! 勝利するまでの過程を!
私は私に酔っている。しかし、そうでなければ。そうでなければいつまでも、私は挑戦者の域を出ない。いつまでもいつまでも私は下なんだ。上に行くためには、支配者になるしかない!
『動け、アルティメイタム!! 動け、動いて……!?』
『【魔狼流星斬】を発動』
『ティアラが【黄金魔槍大驟雨】を発動』
『姫千代が【神狐流奥義・天破星威し】を発動』
『カーミラが【オーラブレイド】を発動』
私はパーティメンバーが誰であろうとも、お前を倒すイメージをし続けた。お前は出来ていたか? 誰が来ようとも問題なく撃退するイメージを。これが、私達の覚悟だ。受け取れ、お前を倒すためにイメージし続けた、私の集大成を……!!