559 37日目の朝、ぶっちぎりで周回しすぎな女
「お姉ちゃん、そろそろリアルに戻って休憩を……」
「休める内に休まないとダメだよ~♡」
「リンネ様、強靭な精神は健全な肉体に宿るのです。今のリンネ様は干物です」
「ティアちゃ~ん!! エスちゃんがいじめる~!!」
「リンネ様~お休みしないとダメですよ~! 泣かないでくださ~い!」
「リンネ様が、まるで子供みたいですね……!」
「子供だもん!! 15歳!!」
「都合の良い時だけ子供だって言い張らないでくださ~い!!」
設計図に心を折られた。そして強化で更に心をすりおろされた。もう私の心は、大根おろしみたいにボロボロよ。どうして設計図が一度に出ちゃうの、箱が無駄に……まあそれはもういいや。
問題なのは強化機の方だった。強化機っていう名称だから、それこそ大きい3Dプリンタぐらいのサイズかなって思ってたのよね。今まで使ってた通常の強化機だってそのぐらいのサイズだしさ。
事態が発覚したのはマリちゃんに設計図を渡した時だった。物凄いしかめっ面をされて、急に焦りだして、どうしたのって聞いたんだよね。そしたら『リンネ、強化機のサイズだが、家が一軒分ぐらいの大きさだ。とんでもなくデカい』って言われて吃驚仰天、想定してたものより20倍ぐらいデカいんだもの。当然素材も20倍ぐらい必要だったわけで……。
このことをギルドチャットで知らせたら、もう凄い勢いでギルドメンバーと同盟メンバーが集まってきたの。強化機が作れるのかとか、こんなに早く集めきったのかとか、何周かかったのとか、色々質問攻めにされたけど応答する余裕がなくて……。結局、マリちゃんやヴァルさんが事情を説明してくれて、何がどれぐらい足りないのかを周知して皆から素材を譲って貰えた。
そしたら生産職の人達がマリちゃんの指示の元で作成……いやあれは建造かな……? まあ、強化機を作るのを手伝ってくれて、私はその間にリアちゃんやデロナちゃんに抱きついて甘え、周回の疲れを癒やすことにしたのよ。
「リンネちゃ~ん、エテ瓶ってどこを周回するのが効率良かった……?」
「29階しか回ってないのでわかんないです。29階です、神木の」
「う、うげええ……!!」
「装備をある程度強化してから行けば楽勝だと思います」
「リンネちゃん、強化するためのエーテル瓶がないんだぜ……」
「大丈夫です。周回しましょう」
「周回するために強化をしたい、強化をしたいけどエテ瓶がない、エテ瓶がないから周回しなければならない……うげげげ……」
「4桁いかないぐらいでうちの子全員の強化分は溜まりました」
「4桁が見えるぐらいは行ってたのかよ……」
チッチッチ、お昼寝さんにハッゲさん。私が今申告したのは29階分だけだよ。他の階層や他のダンジョンも合わせたらもっと行くよ、多分……。数なんて数えてないけど、滅茶苦茶行った。
「+20から上は、現状無理なんだよね?」
「特殊な強化方式の装備なら上がりますけど、それ相応の周回か、上位階層の突破が必要ですね。後はお金に物を言わせてアーティファクト強化ですかね。あれは生命研究所の強化装置で独自仕様なんで、お金さえあればガンガン上げられるはずです。流通少ないんでキツイですけど」
「リンネちゃんがキツイって言うものをね、買える気がしないんだけど」
「参ったな、人数はなるべく少なく。かつスピード重視で周回しなきゃいけないのか? 3分で回れるとしても1時間で20がいいとこ、10時間やっても200だぞ」
「頑張って2分以内に回れば30超えますよ」
「2分!?」
『あの時は間違いなく2分を切っていた。1分と少し、1時間で41周が最高記録であった』
「あ、ヴァルさん数えてたんだ……」
『うむ。合計22時間で748周、それと事前に周回していた分を合わせて1024周だったぞ』
「4桁いってるじゃん!!」
「いってんじゃねえか……」
「すみませんいってました」
『ちなみに29階層以外は数えていない。それも合わせればもっと、であるな……』
「ぎょえええー!!」
えーそんなに周回してたんだ。1分前半で周回してた時は心なんてほぼ死んでたし、時間や数字なんて後からついてくるものだから気にもしてなかったわ。
ただなあ~……+20から先が、設計図のG~Jとかが必要なんだよね……。明らかに増設可能な部分があって、そこに追加の装置を取り付けると+21からの強化が適正素材で可能になるのよね。
「あ、+20から先自体は今でも強化出来ますよ」
「え? え、どういうこと!?」
「素材要求量が10倍になります。エテ瓶30本か、大エテ瓶3本を要求されます。今の強化機の性能では能力が追いつかないので、その分追加で素材を消費する必要があるって表示されますよ。ちなみに+21以降は60本要求されたので20倍、その次は……わからないですけど、40倍とかですかね」
「機械の能力が追いつかないから、素材を10倍とか20倍消費するって、わけわかんないよぉ!」
+20以降は強化機を強化しなければ、素材の量が10倍や20倍になってしまいます。だから、強化機を強化する必要があったんですね。
エーテル瓶自体は一人あたり200本あれば足りるから、通常ボスを2回ぐらい倒せば1本は出るし、それに29階を周回してれば乱入ボスや危険なボスとかが50本とかドロップすることがあるし、あっという間に……あ、そうだ。
「29階は1時間に1回ぐらいは乱入ボスや危険なボスが抽選されたので、それだけ注意ですかね」
「乱入とかあるのかよ……」
「とりあえず、周回しないことには始まらないよね……」
「…………ふへへへへ」
「リンネちゃんが、僕達が底なし沼にハマる瞬間を嘲笑ってるよお!!」
「わかってても突っ込まねえとならねえ沼だな……」
「そろそろレーナちゃん達も起きてくるでしょ、絶対連れて行こう!」
「ありがとよリンネちゃん。その、なんだ……。リアちゃん達が困ってるから、そろそろリアルに戻って休んじゃどうだ……?」
「ママ、困ってるの?」
「ママじゃないです!! 困ってます!!」
そっか、ママ困ってるんだ。ガラガラであやしてくれるし、ミルクも哺乳瓶で飲ませてくれるし、ノリノリだから困ってるとは思わなかったよ。ごめんね、そろそろ立ち直るから。
でも、なんだろう。突然さっきよりも心が、物凄く軽くなった気がする……。お昼寝さん達が、底なし沼にハマるのが確定した瞬間から……? 人の苦しむ様子が、愉悦……? そ、そんな、私はそんな悪い子じゃないはず。今も口角が上がったりなんてしてない、はず……!!
「よっこいしょ……。ごめんね、重かったねリアちゃん」
「デロナも重かった~!」
「デロナちゃんもごめんね、ありがとうね」
「お姉ちゃんはやることやってますし、怒るに怒れません……」
「どうして私は癒やし隊から除外されているのですか? 心外ですねえ……」
「カーミラさんはロリ枠じゃないし」
「オーレリアさん、ろりわくとは、なんですか?」
「ティアにゃんが知らなくていいことです!」
「幼い女の子って意味だよ~!!」
「リンネ様、ティアは幼くないです!! 女王様? なんですからね!!」
んふ……。ぷんぷん怒ってるティアちゃん可愛い、幼女的反応……。あまりにも可愛い……。カーミラさんになりたくて、姿も徐々にカーミラさんに近付いて、未だにピーマンが苦手で知らないこともいっぱいある……。これはもう幼女、幼女ですよ。幼女に違いない。だからティアちゃんはロリ枠、そしてエスちゃんもロリ枠、辛辣ロリ。めーちゃんも頑張り屋のロリっ子、ロリ枠よ。
「リンネ」
「ん、どうしたのマリちゃん……?」
「寝ろ」
「えー……」
「いつも我に口酸っぱく言ってるのに、自分が守らなくてどうする」
「はい……。すみません……」
『わう!!(ご主人、しっかりして!!)』
「はい……。すみません……」
ここまで従者全員から寝ろ寝ろって言われるなら、流石に寝なきゃダメか……。ペルちゃんもずーっとプレイしてる私を心配してるっぽいし、とりあえずVRダイブマシンを出てリフレッシュカプセルに行くか……!! あれで2時間ぐらい寝ると、気分がすっきりするのよね。
「じゃあ、寝ます」
「やっと寝るんですね! お疲れ様です!! 早く寝てください!! しっし!!」
「リアちゃんが酷いよう……」
「じゃあ今度は僕達が周回する番だね~……おやすみ、リンネちゃん」
「おう、よく寝ろよ……」
「お疲れ様でした。また後で~……頑張ってくださ~い」
『ログアウト実行中――イカれ女! 頑張りすぎ!! 寝なさい!!』
バビロン様ぁ!! ごめんなさい、すぐに寝ます!! おやすみなさいでした!!
今は、7時か~……。朝ご飯は物凄く軽く済ませて、さっさとリフレッシュしに行こう。これ以上粘ると、ペルちゃんに強制終了させられそうだしね。ん、疲れた~……!!
リンネちゃんが強化にキレてたのは素材要求量……!!
21からはエーテル瓶要求量が跳ね上がって、現状事実上の強化不可!!
ちなみに素材を全部入れれば確定成功、ケチると成功率が減ります!!