558 ぶっちぎりでイカれた覚悟・6
今、何周目だっけ。時刻は6時って表示になってるけど、これは朝なんだっけ? それとも夜の方だっけ……。ええと、頭がボーっとする。
『アラート:意識レベル低下、ログアウトをして休憩を推奨します』
「あと1枚、残り1枚なんだよ……」
『神器強化機の設計図・Cが必要でしたな。それと、将器のBと超機のDが……』
『(´・ω・`)』
「忌々しい、何故に出ないのですか!!」
「まだ怒る元気がある千代ちゃんは凄いね。お耳をもふもふさせておくれ」
「はい! どうぞ、お好きなだけ!!」
そう、おにーちゃんとヴァルさんの知の間突破速度が尋常じゃない。巨大パズルとか巨大迷路のパターンを覚えちゃったらしくて、ものの20秒ぐらいで突破されてしまうことがある。どうやらそれぞれのミニゲームは全50パターンしか存在していないらしい。現在確認されているミニゲームは10種類だから、20パーセントの確率で20秒以内に突破されちゃうってことだね。他のも1分ぐらいで終わるけど。
「何の話だっけ……。あ~あったか~い……」
「リンネ殿、そこはお耳では御座いませぬ!! 此方の尻尾に御座います!!」
『(*´ω`*)』
『一旦休憩になさいますかな?』
「いや!! いや!!」
「揃えるまでは耐久するつもりで御座いますか……」
『(;´∀`)』
『リンネ殿、貴方は我々とは異なり睡眠や休憩が必要なはず。休むべき時に休むべきかと』
「じゃあ後10回、その間に出なかったらやめる」
『10回……!?』
『(;´∀`)……』
「ではリンネ殿が早くお休み出来るよう、早く10回を終わらせましょう!」
とにかく!! これだけ周回しても神器強化機の設計図が揃わないのはなんなの!? Aばっかり6枚も出やがって、頭にくるわ!! Cがいつまで経っても出ないのよ、他のは全部出てるのに!! 将器のBと超機のD以外は揃ってて、宝具に至ってはもう完成してる。でもデロナちゃんしか使わないから今は後回しにしてるのよね。
全くもう!! 全部どれかが出れば完成なのに、いつまで経っても出ないし……。本当に、人を馬鹿にするのもいい加減にして欲しい。
「じゃ、次。行くよ!!」
『うむ、もはや早く終わらせたほうがリンネ殿のためですな……』
『(`・ω・´)b』
「最後までお供致しまする!」
『29階への再挑戦が選択されました。30秒後――転送短縮要求により、即時転送されます』
あーもう、さっさと10回終わらせて寝よう。お腹減った、頭がグラグラする。いつも通りの即殺コンボで片付けよう。ミズチだといいなあ~!! ミズチ、めっちゃ楽なんだもん。毒とか不死属性には効かないし、千代ちゃんを憑依させてぶん殴るだけで終わるんだよ?
『CAUTION!! 乱入者です!! フィールド【血濡れのゴルゴラ王国エリア】、ワールドエンドボスエネミー【血塗られた薔薇の王女】が選ばれました!』
いやあ、簡単には寝かせてくれそうにないよ、これは……。
『御機嫌よう。貴方達のような美しい女性に会えたこの夜に感謝致しますわ』
『ロゼが【剪定】を自動発動、MISS……。対象者が4人以下のため不発に終わりました』
剪定……植物の枝を切ったりするやつのことだよね。まさか、大人数で挑んできた場合は強制的に排除するスキル……? このゲームに理不尽な即死とかはないし、死を免れたならそれなりの表示になるから、恐らくそういうタイプじゃない。
『もうこの国には綺麗に咲く薔薇が残っていないの。可哀想なあの子が全部、摘んでしまったから。私のような美しい者を彩る薔薇が残っていないなんて、そんなの耐えられない』
可哀想なあの子……? 薔薇、残っていない、ゴルゴラ……。まさか……!! かつて存在していたゴルゴラ王国の、王族……!? こうしてこのダンジョンに出てくるってことは、どこかで出会える可能性があるNPCってことのはず。もしくは、他のダンジョンで……。
『貴方達は私の分の薔薇、でしょう? だから、摘ませてちょうだいね。私も薔薇が欲しいの、私を彩ってくれる真っ赤な薔薇が!!』
「リンネ殿!!」
『【アンデッド憑依】を発動、【姫千代】が憑依し【剣術無双覚醒神狐】になりました』
『ロゼが【ブラッディハリケーン】を発動』
『【神狐流・絶命渦】を発動、相殺! 【ブラッディハリケーン】を打ち消しました!』
来た、速い!! 千代ちゃんに言われて咄嗟に憑依を発動しなきゃ、真っ赤な剣閃に全身を貫かれて死んでたところだった。なるほどね、相手を斬り刻むことで出血させて、その姿が薔薇であると表現してるわけ。狂ってるよ、お前。
『あはは!! 凄い、これを受け』
『【絶命渦・逆転】を発動』
私達はお前を彩るための薔薇じゃない。お前は花を摘む感覚で剣を振っているのかもしれないけれど、私達は命の取り合いのために剣を振っている。その場の快楽のためじゃなく、私達の渇望する未来のために剣を振っている。
『……え』
『クリティカル! ロゼに5,400Gダメージを与えました』
掠っただけ、浅い。絶命渦は高速で回転することによる回転剣舞、威力はあるものの踏み込みはイマイチ。殺魔さんの剣術を真似て編み出したこのスキルだけど、これに頼ってここまで勝ち続けてきたわけじゃない。千代ちゃんの真髄は他者の技にあらず、神狐姫千代流にある!!
『【神狐姫千代流奥義・桜吹雪】を発動』
回転の勢いを踏み込みに変えて、まっすぐに相手の肉体を断ち斬る。つむじ風が花びらを巻き上げながら渦を成し、それが突如崩れて吹雪のようになるような無数の斬撃。これが、千代ちゃんと私が一緒に編み出した奥義の1つ!!
『ロゼが【ブラッディハリケーン】を発動、失敗! クリティカル! ロゼが12,771Gダメージを受けました。HPブレイク!』
『ロゼが【ブラッディジャンプ】を発動、近くに瞬間移動しました』
『【驚天動地】を発動、近くに瞬間移動します』
『ひ……! くっ……!!』
逃さない。相手が引いたなら、こちらは押すまで。立て直す機会は与えない。弱気になった心は徹底的に叩き潰し、相手が最も嫌がる展開にし続ける。今更これが花を摘む行為ではなく、命の取り合いだと気がついても遅い。私は既に、お前の命を摘むための覚悟を決めている。
『ロゼが【ブラッディランページ】を発動』
『【神雷一蹴】を発動、攻勢! ロゼの体勢を崩しました!』
『か……っは……!?』
距離を取るためのタックル、しかし一度後ろに下がったお前の力と、追いかけて前に出た私の力では明らかに私が有利。それにこの行動を完全に予測しきっていたのなら、相殺どころかカウンターで攻勢に出られる展開は容易に想像出来ること。
『【一刀断滅・裏】を発動、即死! ロゼの首を刎ねました!』
下段からの振り上げ、千代ちゃんと出会ったばかりの頃に使っていた一刀断鉄、その逆動作。単純に見える一撃だけど、相手が斬られたことにすら気が付かないほど鋭い一撃まで研ぎ澄ますのに、千代ちゃんから何千何万と指摘を受けて剣を振り続けた。お前に、この一撃が……見きれまいよ!
『【天破斬】を発動、クリティカル! ロゼに11,980Gダメージを与えました』
『……!?』
「ああ、やっぱりね」
思った通りだった。ロゼの首を刎ねたとは表示されているけど、撃退したとは一言も書かれていない。この手の引掛けはもう何度も経験してるから、今更引っかかるような私じゃない。
こいつは人外だ。首を落とした程度じゃ死なない、致命傷にならない掠り傷も同然。いくつかパターンがあるけど、こいつの場合は恐らく……血だ。
さっき蹴り飛ばした時に違和感があった。相手の体勢を崩したとは出たけど、ダメージが表記されなかった。本来なら蹴りを入れたのだからダメージが出るはず、しかしそれが出なかった。そして今も首を斬り飛ばしたのに血飛沫一つ飛ばず、ダメージの表記がなかった。でも天破斬で体を斬った時に血が吹き出し、それはダメージになった。
弱点が胴体、血液を溜め込んでいる場所にしかない弱点がない珍しい人型モンスター。これまで吸い続けた血を吐き出しきらせない限り、こいつを倒すことは出来ないのだろう。
『ロゼが【自切】発動、ロゼが絶命しました……』
『――覚えていなさい……! この屈辱は必ず、必ず晴らしますわ……!!』
『乱入ボス、【血塗られた薔薇の王女】の逃走を確認。記録は1分05秒でした』
『乱入ボス初回撃退を記念して、人数分の特別な報酬が贈呈されます!』
ああ、なるほど……。剪定は他のロゼが相手をしたい奴を選んで転送させるタイプのスキルだったのかな。こいつ、複数いるロゼの内の1人だったんだ。本体のロゼが分身のロゼを自切し、本体は隙を見て逃走ってことね。
『(リンネ殿、これはいったい……?)』
「薔薇は複数の枝があって、それぞれ花を咲かせているでしょ? こいつはそれと同じ……根っこの部分をしっかり駆除しないと、幾らでも湧いて出てくる。それがバレたから、本体がやられない内に急いで逃走したのよ」
『(逃げられたのですか……?)』
「うん、逃げられた。やっぱりこの世界で生き残ってる強者って、どれだけ強くなっても逃走が視野に入ってるのが強いよね。生き残れば次がある、次までに更に強くなれば勝てる。その繰り返しでここまで強くなったんだろうけど……」
『(あのような歪んだ者など、強者とは認めたくありませぬ!)』
「相手を拒絶するには、相手よりも何倍も強くならないとね」
『(では、強くなるためにも残り9回で御座いますね!!)』
「千代ちゃん、9回やっても確定で出るわけじゃないんだけど」
『(あっ!)』
何よ千代ちゃん、あって。まさか10回やったら私が休むって話を、いつの間にか10回やれば設計図が揃うって話と勘違いでもしてた? 千代ちゃん~疲れてるんじゃないの~?
『転送により【剣術無双覚醒神狐】状態が解除されました』
「どれ、報酬報酬っと……。おにーちゃん、ヴァルさんただいま~。なんか変なのと当たった~」
『(;´∀`)……!?』
『む、リンネ殿……! そ、その……』
「ん? 何?」
『いや、その……。あ~……』
何よヴァルさんとおにーちゃんまで、今更報酬を見ても目新しい発見なんてないでしょ? 二重底と仕掛け箱はたまにあるけど、本当にそれぐらいの話だし……。なんでそんなに気まずそうな顔してるの? え、報酬から何か変なものでも出た?
『確か、その……。C、だったか……?』
「そうだけど……え、まさか!!」
『ヴァルフリートから【神器強化機設計図・C】を受け取りました』
「ええええええええ!! やったあああああああああ!!」
『(;´∀`)……』
『うぅむ……!!』
「おお、遂に揃ったのですね! おめでとうございます、リンネ殿!」
やったあああああ!! 凄いじゃん、遂に神器の強化機の設計図Cが出たのね!? 10回やったら休憩って言ってたけど、これじゃあ休憩してる場合じゃないなあ~!!
「いつまでそんな顔してるの! ほら、マリちゃんを起こして作って貰わないと!!」
『それが、その……これが……』
「え? え??」
『ヴァルフリートから【将器強化機設計図・B】【超機強化機設計図・D】を受け取りました』
「え? は? は!?」
『全部、出たようでしてな……』
全部出てるじゃーん!! 今までも設計図4枚抜きとかあったけど、いやいやこれで後はずーっと温めてた設計図選択箱を使えば……ん? 全部出た? 全部出たってことは、全部出たってこと? つまりそれは、全部出たから……。
「あ、あ、あ……あ……!!」
『リンネ殿、お気を確かに!!』
『うわあああ▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂あああああ』
「リンネ殿!? まさか、ずっと温めていた選択箱が……!!」
え、まさか……。選択箱、要らなくなった……? ずーっと、何百周も抱えてて、急に要らなくなった? これなら最初からどれか揃えるのに使えばよかったのでは? そうしたら、こんなに苦労して周回をする必要はなかったのでは?
「りあちゃん。りあちゃん、にゃんにゃんにゃ~ん」
「リンネ殿、此方でしたら幾らでも……!! ご自由になさって構いませんから!!」
「やだ、りあちゃん。わたしね、りあちゃんにみるくあげるの」
『リンネ殿、リンネ殿!!』
『(;´∀`)!?』
こころ、いたい、むねのおくが、ちくちくするの。りあちゃん、たすけて、みるく、あさごはんのじかんなの。かえる、かえる。このだんじょん、きらい。だいきらい。だいっきらい!!
オマタセシマシタ。落雷による損害からなんとか立ち直り、12月に発売されます3巻も非常に良い出来になりそうです。どうぞこれからも応援の程よろしくお願いいたします。