555 ぶっちぎりでイカれた覚悟・3
前回の訂正
30階ボス→27~29階のボス
30階、ここを超えなければ現状の私では勝てない強敵が出てこない。だから無意識に選択肢から外れていたのよね、まだ行かなくてもいいって。
30階に行きたいと最初に言い出したのはカーミラさん。27階から29階の雑魚では満足できなくなったらしく、じゃあそこまで言うならカーミラさんとジャンボだけで行ってみてよと皆から煽られ、私も補助すらかけないことを条件に挑戦することとなったのよ。
『深度30……CAUTION!! フィールド【岩場・凍土エリア】、ワールドエンドボスエネミー【人類の到達点】が選ばれました!』
『2……。いや、3か。どちらも神か、辛いな』
『レギン(Lv.1500)が【勝利のルーン】を発動』
『カーミラが【新月のルーン】を発動、レギンの【勝利のルーン】を打ち消しました』
「ルーンで私に挑むとは」
『……厄介だな』
案の定レギンさんが出てきて絶望したものの、即座に対抗策を打ち出したカーミラさんを見て驚いたね。あるんだ、そのシグルーンとかいうやつへの対抗策……。
「ルーンとは」
『カーミラが【秘匿のルーン】【嘘のルーン】【幻のルーン】【時のルーン】を発動、複数の強化状態になりました』
「このように使うのですよ」
『……はあっ!!』
その上、余裕を見せつけるかのようにドヤ顔でルーンを一気に発動、これはドヤルーンだね。レギンさんもカーミラさんを早く倒さないとマズいと判断したのか、速攻を仕掛けてきた。相変わらず目で追うのがやっと、でも前みたいに一発でやられるってことは私も避けたいので、いつでも対応出来るように構えておくことに。補助は禁止っていわれたけど、死ぬわけにもいかないからね。
『レギンが【絶無】を発動、カーミラとの距離が消滅しました』
「おやおや、気合を入れた割には何も起きませんね。ふふふ……」
『な……? なんだ、どうしたんだこれは……?』
これは……私が顔に出してバレるわけにはいかない。ログの詳細表示を見たら一発でわかる……! 秘匿されている情報として私以外の誰にも開示されていないものだけど、ログには『嘘のルーンが相手との距離を偽り、既にゼロ距離であるとしました』って書いてある。
カーミラさんは嘘のルーンを使って1つだけ情報を偽ったんだ。これは事前の勉強会で得た情報があったからだろうけども、ピンポイントで距離を偽った。そしてそのことは念入りに隠している。
絶無は発動した。しかし既に距離はゼロなので動かなかった。完璧な専用の対策技だわ! 発動しなかったように感じたレギンさんは、もう隙を作るだけの絶無が使えない。次も発動しなかったら確実に殺られると悟っている!
『カーミラが究極スキル【兎詐欺のステップ】を発動』
『ッチ……。身内に似たような動きのやつがいるが、まさか……』
「さあ、どうでしょうね」
『ジャンボが【小犬のワルツ】を発動、カーミラの敏捷性が極大に上昇します』
これだ、これがカーミラさんがバグった原因!! カーミラさんは幻のルーンと時のルーンを組み合わせて時空間歪曲を起こして、兎詐欺のステップを発動出来るようになる。細剣使いのステップ系スキルの究極版、条件さえ満たせば無制限に使えてしまうバグスキル!!
カーミラさんは私の肉眼ではまだ動いていない。でも恐らく、既に――ッ!!
『クリティカル! レギンが744Gダメージを受けました!』
『カーミラが【カットイン】【ノーザンクロス】を発動』
『くそっ!!』
『レギンが【覇撃掌】を発動、周囲に壊滅的な威力の衝撃波が発生します!』
既にカーミラさんは動いていた! シャーリーちゃんと同じ、2秒。その間に急所となる部位を5箇所同時に突く神速の大技、ノーザンクロスが叩き込まれてた! 29階のボスならほとんどが瀕死に追い込まれる威力だけど、やっぱりアーケインの差が……! それにすぐ周囲から追い払うために範囲攻撃をされた。レギンさんも次は時差攻撃に対応するため、何かしらの手を打ってくるはず。
『カーミラが【狼女化】【魔狼流星】を発動、攻勢防御!』
『そこか!!』
「それは1秒前」
『レギンが【百裂脚】を発動、MISS……。対象が存在しません』
『クリティカル! レギンが794Gダメージを受けました! HPブレイク!』
『カーミラが【スラストレイン】を発動』
強い、押してる! そしてレギンさんが苦戦している理由、少しだけわかった気がする!
恐らくレギンさんはシャーリーちゃんの情報を持っているから、時差攻撃に関して対応することは出来る。むしろ対策法を知っているから反撃の手がすぐに出てくる。しかしカーミラさんは決定的にシャーリーちゃんと異なる点が存在している。
それはカーミラさんが細剣という武器を使っているところ。レギンさんは無意識に『この時間差ならこれが当たる!』と攻撃を出しているけど、そこにいるはずの相手は少しだけ遠くにいる。シャーリーちゃんなら格闘戦だから当たっている距離だけど、カーミラさんは細剣の分だけ遠い。
攻撃の出が早すぎるということは、それだけカーミラさん側に対応の時間が増えてしまうということ。カーミラさんは相手の攻撃が出たのを見てから回避し、自分の出したい攻撃を出せば良い。あまりにも強すぎる後出しジャンケン。
最大の誤算は、細剣使いだからと力技には対応出来まいと出した攻撃が、まさかの力技で返されてしまったこと。範囲攻撃は基本的に威力が低くなるのに対して、単体攻撃は基本的に威力が高い。アーケインの差が大きかったとしても、面と点がぶつかれば点が突破してくる。
そしてカーミラさんが狼女化とスラストレイン、獣化した影響により身体能力が増した状態で、突撃しながら横殴りの雨のように鋭い突きを繰り出すこのスキルを出したってことは……やる気だ! あの恐ろしい確殺コンボを!!
『レギンが【大跳躍】を発動、不明な力により跳躍力を失いました』
『カーミラが【ヘーラペタドン】を発動、超重力フィールドが発生します』
『読まれたのか、この俺が!!』
『ジャンボが【レゾナンス・ウルフ】を発動、追撃効果が発生します』
『クリティカル! レギンが1,104G、552Gダメージを受けました。HPブレイク! 最終ゲージに突入しました! 最後の闘志が発動!』
『カーミラが【オーラブレイド】を発動』
生死が分かれる正念場、頼みの綱の絶無は発動するか不明、範囲攻撃で蹴散らすのも悪手、跳躍で逃げ出そうにも捕まった。ここからまだ何か手がある!? 30階以降の門番として立ちふさがるワールドエンドボス、その極地に至った存在の奥の手が見たい!!
『レギンが究極スキル【存在絶無】を発動』
「あっ……?」
『カーミラが【オーラレインストーム】を発動、MISS……。対象が存在しません』
ん……? ん……!?
『――30階ボス、【人類の到達点】の逃走を確認。記録は2分31秒でした』
『30階ボス初回撃退を記念して、人数分の特別な報酬が贈呈されます!』
『ボーナスバフなし、小人数撃破ボーナスを加算して、特別な報酬が贈呈されます! おめでとうございます! 31階以降の選択が可能になりました』
「逃げられましたね」
「逃げたぁ!?」
「ええ、逃げられました。まさかの存在を絶無にして逃げる方法があるとは……。驚きました、一流ですね……。命があれば何度でもやり直せるという心構え、一流の撤退です」
「ええ……。奥の手が、まさかの逃走……?」
「恐らくまた出会うはずです。その時は間違いなく、一度撤退した後の彼が……。最初から本気でしょうね。出会うのが楽しみです、とても」
逃げたぁ……!? いや、逃げることは恥ではあるけれど、死んだら普通はどうにもならないからね。特に神々が相手となれば、存在を抹消させられる可能性すらもある。フェニおまで復活可能だと調子に乗っていたら、まさかの抹消されてしまって復活どころじゃありませんって状態になるよりは……。撤退は、一番有効な手段か……。
「そ、それより!! レギンさんに圧勝するなんて、凄すぎ!!」
「ええ? 誰を見習った結果だと思っているのですか? 私の能力をリンネさんが持っていたら、それこそもっとスマートに。逃がすこともなかったでしょうね。まだまだですよ」
「で、でも……凄いもん……」
「それに、初見ではありませんでしたから。何度も彼の動きを見た結果、完璧な対策をシミュレートした結果ですよ。リンネさんだって、同じ相手に二度負けたことはないでしょう?」
「装備強化機以外には負けたことないかも!」
「それと同じです。さあ、帰って反省会をしましょう。報酬も頂かないと……ジャンボ、よく頑張りましたね。偉いですよ、こしょこしょしてあげましょうか」
『ぴゃうん!!(やってやって!!)』
「こしょこしょこしょこしょ~」
もはや記憶が戻ってるのを隠しもしなくなってきたな……!? ま、まあ、いつまでも隠してる場合じゃないって感じなのかな。記憶が戻った後もジャンボを溺愛してるようで、本当に良かった……。記憶が戻った後に突然、要らないなんて言われたらどうしようって思ってたよ。
それにしても、狼女化したカーミラさん……。思わずスクショ取っちゃったけどさ……!
んふ……♡ メチャクチャ可愛い……♡ 不思議なブロマイドっていうスクショをブロマイド化出来るアイテムにこのスクショを保存しちゃおうかな!? いやでも、バビロン様のレアなシーンを保存するって決めたから! 29階を周回してて、超激レア確定の宝箱からこの不思議なブロマイドが出た時は物凄くガッカリしたけど、今ではどんなシーンを保存しようか楽しみでしょうがないよ! さあ、早く報酬部屋に行って特別な報酬とやらを受け取ろう!!
「――おや、またこのガッカリアイテムですか。リンネさん、気を落とさないでください」
「ん、ふ……ふ……♡」
特別な報酬ね、また不思議なブロマイドだった。当然やるよね? 2枚あるなら当然よね!! そんなわけで【?月狼神カーミラのブロマイド】が出来ました……♡ うっへっへぇ~……私だけが入れるマイホームの部屋に飾っちゃお~!!
あ、もう一個のボーナス報酬は【?設計図ランダムボックス】だった。もう説明とか見ずにガバっと開けましたよ、きたー!! と思って……。
出てきたのはね、あのさ……。【?メガリスシールド設計図・完成】だった……。うん、強化機の設計図って確かに書いてなかったわ。早とちりしましたね、そう甘くないんですよ世の中。やっぱりじっくりとね、30階をほぼソロクリアされて悔しがってる皆と周回をして、頑張って集めようと思いま……。
『Σ(´∀`;)!?』
『フリオニールが【神器強化装置設計図・A】を入手しました』
ッスゥゥゥゥ~……。やるオニール。さすオニール。普通の宝石箱からサラッと出したわ……。とんでもない豪運ですよ、本当に運が良すぎるわ~……!!