551 リアルでは即死耐性がない
「あら、燐音さん。やっと起きてきましたのね」
「おはよ~。まあずっと起きてたんだけど」
「流石に一晩中は疲れているはず、メディカルチェックをすべきですわよ」
「やったよ~? ほら。全部良好、問題なしって診断出たもん。それよりお腹ぺこぺこ~!」
メディカルチェックの機械が故障しているのかしら……。熱中症で倒れて、その日の内に何十時間もVRダイブをしていて体調に問題ないなんて、そんなはずは……。燐音さんのダイブシステムのリアルタイムモニターも全部正常値、なんなら起きる直前に少しストレスを感じたぐらい。
少し倦怠感があるとか、僅かな頭痛すらも記録するはずなのに、何も問題がないだなんて……。空腹以外、本当に何も……? むしろ逆に体調が良くなっているような、回復傾向を示していますわね。燐音さんって、ゲームをやると体調が回復しますの? そんな馬鹿な……。考えられるとしたら、リフレッシュマシンとの相性が物凄く良いのかしら。
「あ、レーナちゃんは? もうご飯食べたのかな?」
「レーナさんでしたらご自身の新作を着て、雑誌の表紙用にと写真を撮影しているところですわね。商業ブースの記念撮影用スタジオを使っているはずですわ」
「わあ、見に行きたい! でも行ったら迷惑かな……?」
「関係者以外立ち入り禁止ですけれど、燐音さんはバッチリ関係者ですわね」
「いってきまーす!」
「わたくしも行ったほうがスムーズに進みそうですし、同行しますわ」
「うん、いこいこ! あ、でも朝食バイキング大丈夫かな……」
「10時までは朝食が可能で、そこからは昼食バイキング会場に移りますわね」
「あ、そうなんだ? 会場別なの?」
「衛生管理的な問題がありますもの。会場を別にしないと、清掃等が行き届きませんわ」
「なるほどね、確かにそれはそうだね!」
活動的で食欲旺盛、心身ともに健康そのもの……。とても良いことだけれど、ここまで良すぎるのもなんだか引っかかりますわね……。
「そういえばペルちゃんは大穴ちゃんと行ってる? 1時間で1周ぐらい出来たよ」
「え? 今更感があって行っていませんわね……」
「パナシーアクリスタルとか、地獄晶石の材料が凄く高いから、リセチケ買ってフルで4回行ってもかなりの儲けになるかも。皆も大穴周回はやらないのかな?」
「あ~。拘束時間やトラップの面倒さから、短縮で鉱石ボックスを貰うだけになっているかもしれないですわね。確かに今なら、全部根こそぎ採掘しても出現するモンスターには勝てそうですわね」
「そうそう! ゼロスとか神格がなくなって、ただの原初の魔狼に成り下がってたよ! 対応する種族とかその神格を超えられたり奪われたりすると、なくなっちゃうみたいね」
「…………つまり、燐音さんも気をつけないと、その座を奪ったり消滅させられる相手に負けると、神格を奪われる可能性があるということですわね?」
「あ……。確かに、それは考えてなかった。紫わかめとかに負けたら、座が消滅したりする可能性があったってことかな。そうなると、メルティスの天使とかに負けても……」
「一発で奪われるということはないとは思いますけど、可能性はありますわね」
神格も負けた相手が悪ければ奪われるかもしれないと、そういった可能性が出てきますのね。恐らく明確に座を奪うことを目的にした相手と戦って負けると危険で、相手もそれなりのリスクが発生するとは思いますけども……。迂闊に負けすぎるのは危険ですわね。
「どうしよう、チャレンジしたい相手がいるけど、やめておこうかな……」
「あら、そんなに負けが続きそうな相手ですの?」
「うん。えっとね、ワイパーニのもう一つの人格と、最上位神の一柱にも……」
「それはどうなるのかしら、悪意を持った相手なら……」
「パーニじゃないほうは喧嘩したっていうか、言い合いになった相手だから、うーん……」
「そういう時こそ、運営に問い合わせるべきではなくって? 神格を奪われる条件がわからなくて、やりたいことがやれないとでも言えば返答がくると思いますわ」
「確かに! ログインしたら聞いてみる! あ、ここのスタジオでやってるのかな?」
「そうですわね。中でしている撮影に立ち会いたいですわ」
「ま、真弓様……!? ど、どうぞ、こちらです!!」
さてと、レーナさんが撮影しているスタジオまで来ましたわね。内容までは聞いていませんでしたけれど、もしかして水着の撮影だったりするのかしら? 過激なものだったら、ちょっと反応に困りますわね。まさかそうではないとは思いますけれども……。
「か……か……!? かっ……あ゛……!」
「え? どうなさいました、のぉお……!?」
「あっ……」
過激な撮影でしたわ!! 過激すぎる、レーナさんがにゃんこになっているなんて、猫とアリスファッションの融合ですの!? こんなの、耐性のない人が見たら死んでしまいましてよ!? ああ、ほら! スタジオの隅っこで悶えながら倒れている人がいるではありませんか!
「ほげっ……♡」
「燐音さん、あちらで倒れましょうね……! ほら、頑張って!」
燐音さんが幸せそうな顔で倒れかけていますわ……! 朝食前に幸せ成分だけでお腹いっぱいになってしまうではありませんか! ほらしっかり、可愛いだけではお腹は膨れなくってよ!
「ユリアさん、何かポーズお願いします! 可愛い系で!」
「……にゃーん」
「お゛」
あ、死んでしまったわ……。猫ちゃんポーズは即死級スキルでしてよ? 燐音さん、即死耐性が足りませんでしたわね。ご愁傷さまですわ……。かくいうわたくしも、そろそろ死にそうですわ♡