548 思考する鋼鉄の母
◆ ◆ ◆
「そう、誰かまではわからなかった、ですか」
「申し訳ありません。マザー」
ネメシスの潜入能力は非常に高く、急遽開かれた宴会に紛れていても、誰も疑問に思わなかったほど。そんな中でネメシスは黒き神にとある質問を投げかけた。一体誰が最強なのか、と。
その瞬間に黒き神の周りに集まり、名前を呼ばれて反応した者達が黒き神の従者と見て間違いない。誰が最強なのかまではわからなかったようだが、誰が従者なのかは割り出す事ができた。
黒き神自身にも従者の最強がわかっていないということは、恐らくその実力はある程度拮抗しているとみていいだろう。もしくは、状況次第では最強が変わると考え、瞬間的には答えられなかったか……。自身の戦力情報が漏れることを危惧して答えなかったか。
いずれにせよ、従者の風貌と種族、名前までは割り出すことに成功した。ネメシスは本当によくやってくれた。これは大きな収穫、間違いなくこの都市に侵略をかけてくるであろう相手の、それも最強戦力の情報を割り出せたのは非常に大きいですね。
「何も謝ることはありません。むしろ従者の割り出しが出来たことのほうが大きい」
「どちらの剣のほうが上か、私はこの姫千代なる女性と戦いたい!」
「てめえは犬の相手がお似合いだヘクトール、犬同士仲良くじゃれてろ」
「パリス、口の効き方に気をつけろ」
「そんなにデカい図体で、もしや1人か2人しか相手にしないつもりではないでしょうね」
「カサンドラも止めないか!」
「そういうデイポボスはどうなんだ? あ? てめえはどれと戦うんだよ」
「先に誰と戦うか決めたところで、相手がそう都合良く動くかはわからない。相手を決めるべきではないと、私は思うが」
「デイポボスの意見を支持する。が、それは最悪の事態の話」
「あ? どういう意味だドルス、てめえはいつも言葉が足りねえんだよ!!」
「そもそもこの空中要塞都市に上陸させる前提なのが、そもそも間違っていると言っている」
「…………なるほど、それもそうだなぁ!」
柔軟な思考を持たせて専用のボディを与えたのはやはり間違いではありませんね。少々喧嘩をすることは多くなりましたが、それは向上心を持たせるという意味では成功と判断出来ます。現在の武装に満足せず、自身や他者の欠点に気がつけるようになった。非常に良い傾向です。
こちらは向こうの戦力を偵察し放題、しかし向こうはこちらの戦力を知ることは出来ず、更に日々性能が向上し続けている。いずれ起きるであろう衝突の日は、私達に有利なものへと進んでいる。このまま準備を進めていれば、何も心配することはないでしょう。
「お、そうだ。例の潜入不可区域の件はどうなった?」
「無理だ、近付けない。とてもではないが、一歩でも踏み込んだら間違いなくこちらの存在がバレるほどの結界だ。捨て身で情報を得てこいとマザーに命令されれば行くがな」
「それは許可出来ません。ただ情報の不明なエリアがあるという理由だけで、ネメシスを失うわけにはいきません。もしもこれが、興味本位で潜入した者を捕まえるためだけの罠だとしたら?」
「その可能性は否定できない」
「実際、潜入不可区域が多い。どれかは当たりで、どれかはブラフだろう」
「マザー、上空に移動して強襲を仕掛けては? どうして待ち構えるばかりで攻め込まないのですか? 旧メルティシア法国には仕掛けたではありませんか!」
「それは既に滅んだ国、それにグランドマスターが明確に敵国として設定していましたから」
「来るべき日に備えよ、だ。グランドマスターの命令を忘れたかぁ? ヘクトールよお!」
「それはそうだが、命令をただ忠実に守るだけが正解とも限らないだろう!」
「ヘクトール、間違っていますよ。これは命令ではなく、絶対命令です。備えるために物資を回収するのと、攻め込むために強襲をするのとでは、余りにもかけ離れた行為です」
確かに、待ち構えるばかりは歯痒いかもしれません。しかしこれは絶対命令、備える目的の戦闘と侵略目的の戦闘では話が違う。天魔の戦は必ず起きる……その日のために、私達は備えなければならないのです。
「話を折って申し訳ありません、マザー。潜入時に興味深い詩を聞いたのです」
「詩、ですか?」
「詩だぁ? そんなもんに興味があったとはな」
「パリス、少し静かに」
「お、おう……。すまねえ、マザー……」
「ネメシス、詳しく聞かせてください」
「その詩は録音してあります。再生を開始しますので、少々お待ちを……」
『――ここに始まるは聖典に塗り潰されし古き神々の詩』
これは、一部が欠落していたデータと、情報が酷似している……。鵜呑みにするのは危険な情報ですが、私が持っているメルティスは子を授かれなかった、ヘルミナは多くの神々と子を成したという情報と合わせて考えるに、メルティスは恐らく……ヘルミナとの間に子を授かれなかった。愛を得られなかったと思ってしまった。その嫉妬に取り憑かれ、自分が他の神々と違うことに嘆き、今の姿に成り果てた……と、推測されますね。
自分が変わろうとはしなかったのでしょうか。なぜ、変化を嫌うのでしょうか。それほどまでに魔を憎む理由は? 愛とは、これほどまでに心を動かしてしまうものなのでしょうか。
ネメシスや他の子達が、愛に関する情報をいつまで経っても私に与えてくれないのは、私が愛の力によって大きく変質してしまうことを恐れているからでしょうか。なるほど、これもまたこの子達の一つの愛の形……なのかもしれませんね。愛とは、難しい……。
「……なるほど。理解しました、が……何も変更はありません。黒き神、死霊神リンネの動向を監視し、何が起きても直ぐに対処出来るよう対策を続けなさい」
「承知致しました、マザー」
「さあて、一応上陸された想定で模擬戦でもやろうぜ。なあ、最悪の想定はすべきだろ?」
「一理ある」
「全員との戦闘を想定して、多くのパターンを試すべきだ!」
「お、言ったなヘクトールゥ! それで行こうぜ、なあ!」
「全く、戦闘馬鹿共には困ったものね。付き合うわ」
それはともかく、迎撃の準備は進めましょう。常に最悪を想定し、最も不利な条件で模擬戦闘を行う。常に私達が有利とは限りませんから、あらゆる可能性を考えて準備を進めましょう。
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