541 水底都市アトランティス・4
「――で? 何も証拠がないのに、その話を信じろってわけ?」
「そうだね、そうなるよ」
デロナちゃんだけが来ると思ってたら、私のことが心配になって従者全員と、ギルドの皆も駆けつけてくれた。今はアトランティスの比較的損傷が少ない広い建物の中にあった大きなテーブルを囲んで、マーゾ1人に対して50人と数匹っていう構図で向かい合ってるところ。
「僕は信じられないなあ。仮にもメルティス側のプレイヤー、それもトップの座を貰えるって状態でそれを……あっさり諦めるなんてさ~」
『信じ難い暴挙だ。なんのためにその座まで上り詰めたのだ?』
「だから言っているでしょう? 最初からメルティスなんかに膝をついてなどいない、と」
「それが信用できないと言っているんだ。本当の目的はなんだ? 吐け!」
「まあまあマリちゃん、落ち着いて……」
「わたくしは、リンネさんが問答無用で殺害していない時点である程度信用していますわ」
「そりゃあ考えなし過ぎねえか?」
「ん、でもリンネは気に入らない相手をすぐ殺す。キモいって言ってるけど多少なりとも気に入ってるのは確か。それに、例え嘘の話でも私達にデメリットが全くない」
「確かに、そうだけど~……」
マーゾ曰く、このアトランティスは神々の声もこちらの声も届かぬ場所。試しにバビロン様へ祈りの声を届けようと思ったら、本当に声が届かなかった。更にティアちゃんの黄金領域でこの建物だけ支配下に置いたため、完全に外部へ情報が漏れない空間になった。
つまり、ここでのやり取りはメルティスにもわからない。だからマーゾはメルティス陣営で起きていることを全てリークし始めた。中には『ああ、それぐらいはやってるだろうな』って悪事から、『そんなことまでやっているの?』というものもあり、さっきから全員が言っている『とても信じられない』という情報まで存在していた。
「そうそう、実はね? 僕はイタリア人なんだ。メルティス陣営で本気を出そうと思った時に名前を変えようと思ってさ、イタリア語にしようと思ったんだけど文字数制限に引っかかって。MARE-DI・MASO、日本語の表記だとなんだか面白い意味になっちゃうけど……これは、僕がメルティス陣営に対して思っていることそのものだよ」
「まるで牧場のようだ、なるほどな。マゾだからその名前ってわけじゃねえのか」
「意図せずダブルミーニングになってしまってね、かなりお気に入りなんだよ」
「マゾなのは認めるのか……」
「そうじゃなきゃソロでレベル999まで上げたりしないさ」
「は……!?」
「ステータスも公開しようか、そのほうが信頼して貰えるだろう?」
レベル999、装備も生半可なものじゃなかった。そしてあの戦闘能力、あれだけの自信はやっぱりブラフなんかじゃなかった。本物の強さ、ただし搦め手にはまだまだ弱い。でもこの人は、相方さえ見つければ恐らく私ぐらいなら……。
【名前】マルデ・マーゾ 【レベル】999
【属性】ワールドボス属性・無属性・人間系・中型 【性別】男性
【メイン】拳闘士 【履修クラス】6種
【セットクラス】アークビショップ・天術師・エクソシスト 【天界侵食度】0
【HP】1,100G*3ゲージ 【MP】750G
【CP】150/150
【STR】75K+100K 【AGI】70K+100K
【TEC】70K+100K 【VIT】250K+100K
【MAG】50K 【MND】50K
【基礎攻撃力】約65M
【基礎防御力】約105M
【ARC】1590
【AARC】1650
【特殊能力】
【禁断】冒涜:遺物破壊吸収
【命】生命限界突破 【精】MP消費攻撃強化
【力】STR100K 【速】AGI100K
【技】TEC100K 【体】VIT100K
【法】全法術 【心】精神系異常完全無効
全枠スペシャル装備可能
スキルコンパクション
バトルジーニアス
ブレインストーム
古代語マスター
【パッシブスキル】
圧縮制約・基礎ステータス上昇
┣スキル枠を圧縮した分だけ基礎ステータス上昇
┗圧縮数【47】
【アクティブスキル】
遺物破壊
┣聖遺物、封遺物を破壊出来る
┣破壊したアイテムに応じて効果を発動
┣破壊したアイテムが属性アイテムなら属性効果発動
┗完全にロストする
全格闘術
┣全ての格闘術が使用可能
┗コストは発動スキルに応じて変動する
【真覚醒スキル】
蘇生の奇跡
┣対象を選択して死亡時に蘇生を発動する
┣対象が死亡している場合、即時蘇生する
┣抹消Lv6以上には無効化される
┗クールタイム3分
【究極スキル】
★ホーリージャッジメント
┣クールタイム20時間
┣上記以外の如何なる手段でも再使用可能にならない
┣【MP77.7%】消費
┣装備効果により特殊変化中
┗天界の四大天使により最後の審判が下される
【装備】
両手:?聖王ダイダオスの篭手+10【ARC+150】【専】
補助:?聖王カナンの錫杖+10 【ARC+150】【専】
頭:?聖王ルテオラの冠+10【O】【専】
体1:?聖王ワーロックのローブ+10【O】【専】
体2:?聖王ゲリュディオンの気合+10【O】【専】
足:?聖王マテオの龍装脚+10【O】【専】
アクセサリー【指】:?封遺物・殺界石+10【専】
アクセサリー【腕】:?封遺物・異端殺し+10【専】
アクセサリー【首】:?封遺物・時を刻む長針+10【専】
アクセサリー【他】:?封遺物・覇の吐息+10【専】
セット効果:ワールドボスクラス付与
特殊装備【1】【2】:?(SW)絶+50
┣【必須】全格闘術
┣【ダブル特殊枠】特殊装備枠をどちらも使用する
┣格闘スキルのクールタイムを無視
┣ARC、AARC+250
┗格闘スキル+5Lv
【アバター】
・非公開
「天界侵食値、ゼロってどういうことや!?」
「見たままさ。メルティスの役に立つことはしているように見せかけ、実は何もしていない」
「何もしていないのに、直接会えるほどの信頼を得ていますの!?」
「所詮、金だよ。金さえ貢げば会える」
「こ、これらの装備は……!?」
「天獄をソロしていれば集められるよ。1人だから全部僕のものだったしね。強化は超高難易度を回っていれば設計図が出るし、出せさえすればなんとでもでも」
「なんやって!? 強化機、作ったんか!?」
「言っただろう? 出せさえすればって。生半可じゃないよ」
な、なんか、段々と皆に溶け込んできてるような……? まあ、ここまで公開されたら信用せざるを得ないよね……。そしてスキル構成、私にそっくりだし……。
使える魔術や大鎌戦術を全部マスターすれば全術系に統括されるから、じゃあ全部覚えて圧縮しちゃおうってなるんだよね。うんうん、わかる~……。悔しいけど、わかる~……。
でも圧縮しすぎじゃない? せめてスキル5個構成でしょ、私でさえ5個は残してるのに。全死霊術、全魔手戦術、軍団指揮、古代禁術、圧縮制約。刻印魔術とかは魔手戦術に入ってるのちょっとずるいけど、装備変更出来ない凶悪なデメリットがあるからまあ、それぐらいはね。
「――さて、どうする? 僕はこの作戦、やるなら今の時期がぴったりだと思っているよ」
「リンネちゃん、僕はやるなら全力でやるよ~。僕達のことは気にせず、リンネちゃんがどう思うかで判断して欲しいな」
「…………うーん」
さて、ずっと悩んでいたけどこれが本題……。マーゾがリークしてきた情報のもとに、とある作戦が提案されたのよね……。正直、私はやりたいと思っているけど、皆にはまだ早いんじゃないかって思ってるところもあって……。
「リンネ、バカにしないで。やるなら、本気でついてく。ううん、追い越しちゃうから。だから私達にはまだ早いかもとか、思わないで」
「…………一週間以内に、レベル970……最低でも950が20人は欲しいと思います。装備の強化機も全種類必要です。強化値も安全圏内から一つ上の5には上げたいです。そもそも、対抗できる装備を揃える必要もあります。自分の扱っているスキルの全種修得による圧縮、圧縮制約も必要だと思います。途轍もない要求量ですけど……」
「この変態紫わかめが出来たんやぞ、ワイにだって出来るわ! 舐めたらアカンで!!」
「これでも毎日20時間はプレイしてたんですけどね」
「そ、そんなにやっとったんか……」
「ある程度道は出来てる。後は繋がってない道をどれだけスピーディに仕上げ、その道をどれだけ速く走れるか……だ。要するに、ここでグダグダやるかやらねえかって話してるぐらいなら、今すぐやれることから解決してこいってこった! そうだろ!」
「ハッゲさんの言う通りですわね! 考えるより行動するほうが大事、まずはここに集まったメンバーから各種無慈悲ダンジョンを踏破してレベリングを完遂! 使える手は全て使ってリンネさんに追いつくこと、リンネさんは設計図の完成のために超高難易度ダンジョンへ挑戦……でしょう?」
そう、設計図。マーゾの情報がこちらもメルティス陣営同様であれば、超高難易度ダンジョンでドロップするはず……。超高難易度と言えば、無慈悲アイアンマンモードや…………パーニェイナ。恐らく、いや間違いなく、それぞれのジャンルの最強NPCに勝って設計図が手に入るはず。
「私はやる。やりたい。この機会を逃したら、次の機会は遠い未来になると思うから」
「ん、だったら私達も本気の本気。正直、今日で大体遊び尽くした。後の日程は全部こっちで良い」
「え、もう飽きましたの!? 酷くありませんこと!?」
「僕は遊び足りないんだけど……。まだウォータースライダーで遊びたい……」
「もってぃはまた水着食われとったらええ」
「毎回こうやって集まるのも面倒だからさ、今度からはリアルで会議しない? ペルちゃんどこか用意してよ~貸し切りでさ~」
「あら、良くってよ? 今からでもまだオフ会の会場に来たい方がいらっしゃれば招待状を送りますわ。七瀬財閥からの呼び出しとあれば、どんなお仕事でも大体はお休み出来る……でしょう?」
うっへ~!? ペルちゃんが珍しく私情で権力を振りかざそうとしてる~!? ほ、本気過ぎない? そこまでして付き合って貰うのは、どうなのかなって……!
「そりゃあ天下の七瀬財閥から呼び出しなら、休めるだろうけど……」
「マジですか? 俺、会社休めるなら休もっかな……。行きます! お願いします!」
「決断はっや!?」
「ちなみに今日お寿司だったよ~お昼。夜は和牛」
「はぁ!? くっだらねえ、仕事してる場合じゃないわ! 絶対行きます!」
「え、本物……? 本物の寿司と和牛……?」
「本物ですよ~。とっても美味しいんです~」
「良いか、お前達もよく考えろよ? この招待状を受け取らなかった場合、猛暑の中で明日も仕事だ。受け取った場合、七瀬財閥と絡みがあると一目置かれた上に、明日からバビオン三昧で昼は寿司で夜は和牛だ。どっちが良い?」
「しかも施設内で使える20万円分のポイント、今から来る方にも差し上げましてよ? 施設内でなら30万円相当になりますわね」
「へえ!? え、それ、参加者の全員が貰って……!?」
「お配りしていますわ。ただし、今から来る方は集める目的が変わりますから、当然! リンネさんが先程申し上げた条件をクリア出来る覚悟があると見做しますわよ!」
ほ、本気だ……。ペルちゃんが七瀬財閥の名前を出して、強権を使って人を集める気満々だ……。ペルちゃんが、いや真弓が強力な権力を振りかざすのを間近で見るの、初めてかも……!
「で、出来なかったら……?」
「七瀬財閥ですこーしだけ、お仕事をして貰うことになりますわね」
「…………なんか、資格取得のための強化合宿みたい」
「わ~、バビオン強化合宿だ~。しかもパラダイスみたいな場所で、お金も貰える~」
「当然僕もその条件でやるよ~。ギルマスなのに達成できなくてもペナルティなしとか、ちょっとね~? まあ、僕はもうレベルは殆ど達してるから、大丈夫だろうけどね~」
「スキル全種取って圧縮すること忘れてへんか? ワイはレベルもスキルも既にクリアしとるで。ただ、装備がなあ……。アカンのよなあ……」
「ミミッキュん、ギルドメンバーに無料で開放します。ただ、定期的にご飯を食べさせてください」
「段々と現実味が出てきたんじゃねえか? ええ、どうだ?」
なんだか、さっき上げた条件……。やれそう、かも……?
「スキルは同系統のメンバー同士で教え合ったらええ。苦戦してるなら全員でサポートや。装備は幻想郷をマッハで仕上げればなんとかなるやろ! なんとかせえ! レベルは、挑戦するボスと相性ええ奴がキャリーしたらええ、未達成ボスを潰してけや! ボス攻略が苦手なんや言うなら、とにかく強く殴ってから死んだらええねん!! 黙って死ぬより何百倍も役に立てるで、この精神は大事や。よく覚えてき、強く殴って死ね!」
「確かに、死ぬ前に強烈な攻撃を放ってから死んだほうが、棒立ちで死ぬよりも何百倍もいいよね~。言葉は悪いけど、大事な精神かも。強く殴って死ね、かあ~」
「現実的な話になってきましたわね。これから参加したいメンバーは申請なさって? 同盟ギルド全員にも同様の説明を直接この場でしますわね。エマージェンシーコールを発動したいですわ!」
「ん~? あ、じゃあもう参加済みの人達は一回出ようか~。席が空いたら使っていいよ~」
「感謝致しますわ!」
「決まりだね。さて、じゃあこの設計図は不慮の事故があってはいけない……。破壊するよ」
「…………はい」
やる、やるんだ……。本当に、よし……。やろう、マーゾの提案に乗ろう。
『マルデ・マーゾが【封遺物・隠者の隠れ蓑】を使用。【冒涜・封遺物破壊】を発動、【(W)空中要塞トロイの設計図・全】を破壊しました』
『――――この破壊は完全に秘匿されました』
始まる……私達の夏イベが……! 他のプレイヤーとは別ゲーをやってる気がするけど、絶対にもっと面白いビッグイベントになるから気にする必要はないね。さあ、やるぞ……!
――――私達の夏イベ! 地獄のバビオン強化合宿を!!