540 水底都市アトランティス・3
『マルデ・マーゾが【冒涜・聖遺物破壊】を発動、【空間圧縮の書】【ド根性の帯】を破壊しました』
『【バキュームコンプレッション】が発動、【虚無の黒猫】が一箇所に集められました。【音無】の効果範囲が極限まで縮小されました』
『マルデ・マーゾに【虚無の黒猫】が直撃、強抹消耐性により抹消を免れました。1,770Gダメージを与えました。ド根性が発動、HPブレイクを免れました』
完全に意表を突いたと思ったのに、まさか対抗策をすぐに打ち出してくるとはね。訂正、確かにこの男のことを甘く見てた。徹底的にやる、情けは無用ね。
『【カーススピア】を発動、マルデマーゾに77Gダメージを与えました。HPブレイク!』
「そう何度も撃てるものじゃない、だろう? 今度は僕の」
『【メガコープスチャージ】を発動、巨大モンスターを消費してメルメイヤのHP・MP・印を完全に回復しました。全ステータスと最終攻撃倍率が強化されました』
「これは、長期戦になりそうだ!」
めーちゃんの分身は健在、全てのバフ効果も切れていない。状況が振り出しに戻ったわけではなく、私達のほうが圧倒的に有利。しかしこのアドバンテージにあぐらをかくのは愚策、一つの奇策で簡単にひっくり返される差しかない。なんせ向こうのHPはこれが最終ゲージと表示されない通り3ゲージ以上が確定、次のゲージを犠牲にゴリ押しで突っ込んでくることも十分に考えられる。向こうに手も足も出させないで叩き潰すべき。
『(聖属性じゃない。四大属性が通るなら風、雷遁で勝負!)』
『メルメイヤが【雷遁・憤怒の雷鎚】を発動』
『マルデ・マーゾが【冒涜・聖遺物破壊】を発動、【雷神の剣】を破壊しました』
『マルデ・マーゾが【風属性吸収強化】の効果によりHPブレイク状態が回復しました。AGIステータスが強化されました。攻撃属性が風属性になりました』
対応が早い……いや、聖属性じゃないとバレた時点で、四大属性で攻めてくると読んでた? 攻撃するどころか、向こうを回復した上に強化までしてしまった。
メルティスの犬にしては、戦い方があまり向こうの陣営的には褒められたものじゃない。聖遺物を破壊して無詠唱で術の効果を発動出来る冒涜スキル、あれはかなり凶悪だわ。しかしリソースを削っているのは間違いない……。ここは逆張りせず、素直に攻めるべき。
『(リ、リンネ様! た、立て直し――)』
『(下がらない。怯まないで土遁)』
『【変異魔手・魔狼斬滅双波】を発動』
『マルデ・マーゾが【神速二段掌】を発動、相殺!』
『メルメイヤが【土遁・砂刃大嵐】を発動』
『マルデ・マーゾが【冒涜・聖遺物破壊】を発動、【大地の大盾】を破壊しました』
『マルデ・マーゾが【土属性吸収強化】の効果により完全に回復しました。VITステータスが強化されました。攻撃属性が土属性に変更されました』
「良いね、凄く良い! 激しめの抵抗、大歓迎だよ!!」
やっぱり近接拳闘型の戦闘スタイルだ。そして属性によって強化されるステータスが変わるのね。どの程度強化されてるのかは不明だけど、アイテムロストによって得られる効果なんだから上昇量はそれなりに大きいはず。何度も上昇させるのは愚策、しかしこれで良い。
マーゾの戦闘能力の高さは理解できた。次々と攻めの手を変える私達に確実に対処できるし、自己強化バフを積みながら確実に反撃の機会を窺うのも悪くない。でも、マーゾは今……間違いを起こした。絶対にしてはいけない間違いをね。マーゾは私ばっかり見ていて、周囲を見ていない。
『(雷遁、即座に!)』
「ん……!?」
『(えっ!? しかし、地の力には……!)』
『(早く!!)』
残念、めーちゃんが私を信じきれなかった。この回では倒せない。次の機会を待とう……。
『マルデ・マーゾが【冒涜・聖遺物破壊】を発動、【水龍の髭】を破壊しました』
『メルメイヤが【雷遁・憤怒の雷鎚】を発動』
『【串刺公】を発動』
『マルデ・マーゾが【水龍の舞】を発動、攻撃を回避しました』
海を割ったのはアトランティスの手前までで、アトランティスの内部はうみのどーくつのように海水で満たされている。火属性の攻撃は地形効果で無効化されるし、風属性の雷系攻撃は弱点属性を突くことが出来る。そして地属性が防御属性の場合は――強烈なスリップダメージを受けて、全ステータスにデバフが発生する。私達の攻撃にばっかり集中し過ぎて、ここが海の中だってことを忘れていた先程の瞬間が殺しどころだった。一瞬迷ったせいでそのタイミングを逃してしまった。
さてと……。ログには表示されていないけど、マーゾはさっき地属性になった影響で全ステータスにデバフが発生したのは間違いない。その瞬間に上昇したステータスはリセットされ、水属性になっただけの今は恐らくフラットな状態。分身があるアドバンテージ以外は振り出しに戻った。
『マルデ・マーゾが【ジェットアクアヴァイパー】を発動』
『メルメイヤが【風魔忍剣・夜叉の影刀】を構えました』
『(正面からの打ち合いじゃ勝ち目はない、退かないと!)』
『(やります! ここで必ず!!)』
めーちゃんが自棄になってる。さっきの失敗を取り戻そうとして自分を犠牲にして一矢報いようとしているけど、マーゾのジェットアクアヴァイパー……強力な突進と直線的なパンチ、まず間違いなく打ち負ける。大型トラックとバイクが正面衝突するようなもの。しかも、恐らく……。
『マルデ・マーゾが【冒涜・聖遺物破壊】を発動、【光の聖典】を破壊しました。【シャイニングボンバー】が発動、メルメイヤが【目潰し】状態になりました』
「うっ!?」
「悪く思わないでくれ……よッ!」
強烈な閃光での目潰し付きの突進よ。この破壊の躊躇いのなさと狡猾さなら絶対やると思った。
マーゾの戦闘スタイルは『とにかく有利に立ち回ろう、ありったけの手を使って戦おう』ってことはわかった。だから一の矢だけでは攻めようとせず、二の矢三の矢を用意して攻めてくる。これ自体は全く悪くないし、むしろ称賛に値する。しかし、ある……。マーゾには致命的な弱点が!
『【天破斬】を発動、相殺!』
「ああっ!? どうして、しかし! 出現ログは!!」
「あんたは視野が、狭いのよ!!」
『【魔神斬滅驟雨】を発動、クリティカル! マルデ・マーゾに1,880Gダメージを与えました。HPブレイク! 【致命的出血Lv,8】状態になりました』
「ぐ、ぁ……!?」
『マルデ・マーゾがスリップダメージによりHPブレイク!』
マーゾはめーちゃんを倒すことに集中し過ぎて、私が潜伏しているのを忘れていた。シャドウダイブは闇属性のダイブ系魔術。潜伏系のスキルは【炙りスキル】によって強制的に解除される。目潰しのために使ったシャイニングボンバーは炙り効果も有している。
その現象を逆に利用して、強制的に出現する瞬間に大鎌スキルを発動すれば、出現しながら攻撃することが可能になる。影の中から発動出来るのは【魔手】による攻撃と【魔術】だけ。これを警戒していたところに本体出現からの大鎌での連撃、攻撃時に視野が狭くなるのがあんたの弱点よ!
『マルデ・マーゾが【禁忌・封遺物破壊】を発動、【聖女の瞳】を破壊し――』
「キュルセド・フォラビデイン・ギロティナ」
「……ッ!?」
『【古代禁呪・禁断の処刑台】を発動、Weak! クリティカル! 頭部失調! マルデ・マーゾが頭部の情報を失い、2,290Gダメージを受けました。HPブレイク! 最終ゲージに突入しました』
禁断の処刑台、キュルセド・フォラビデイン・ギロティナ。不死属性の禁呪で、呪いのギロチンが対象の首へと振り下ろされる術。実際に首が刎ねられるわけじゃないけど、これに当たると一時的に頭部の情報を失ってしまう。つまり……視覚、聴覚、嗅覚、味覚を一度に失う。私でさえこれに当たったらもはや何も出来ないと思う。将来的には対処出来るようにしたいけど……。現状、この状態でも戦えるのはユキノさんぐらいじゃないかな? ユキノさんに弟子入りしようかな。
『個人チャット→マルデ・マーゾ:どう? 降参する? まだやる?』
『マルデ・マーゾ:降参だよ。これじゃもう殺し合えない。お手上げだ』
「リンネ様、こ、これは……」
「ん、降参だって。私達の勝ちよ」
やっと大人しくなったわ。さてと、ここからが問題なんだけどね? 私は呪いをかけることは出来るんだけど、呪いを解くことは出来ないのよね! そういうの、デロナちゃんの仕事だから! そういうわけで、デロナちゃんを呼びます! ここに来て貰うまで、マーゾには真っ暗な世界で孤独を味わって貰おうかな!
「…………この、このっ……!」
『マルデ・マーゾに104Kダメージを与えました』
『マルデ・マーゾ:いや、ログは見えるし感覚もあるからわかるんだが、今……蹴ったかい?』
「うるさい! 紫わかめ! この! なにが、めーちゃんぐらい勝てる、だ! 謝れ!!」
『マルデ・マーゾに115Kダメージを与えました』
「リンネ様!?」
『マルデ・マーゾ:蹴られている、蹴られている!! ああ、最高だ、素敵だ……』
「うわ……!! めーちゃん、15メートルぐらい離れよう。やっぱこいつ気持ち悪い!」
『マルデ・マーゾ:おや、離れていく感じがする!! 行かないでくれ、もっと蹴ってくれ!』
うわやだ、変態なの忘れてた!! 個人メッセージ、ブロックしようかな……。いやでも、設計図の最重要項目はこいつが握ってるんだよね……。とにかく、早くデロナちゃんを呼んでさっさと設計図を渡して貰おう。もうこれ以上、こいつに関わりたくないわ!!
はっぴーばーすでー、作者ー……