536 ハプニング&ハプニング
もってぃのハプニングもあったけれど、そこからもハプニングの連発だった。
ウォータースライダーではユリアちゃんとかえでちゃんが身長制限に引っかかり、拗ねに拗ねまくった末、なぜか代わりにもってぃを流すことにして強制シュート。途轍もない絶叫が聞こえた後、水着がーって叫び声がして私が続いて滑っていったら、もってぃの水着のトップスが途中にあった気がしたね。可哀想に、見事に脱げてたわ。真弓が拾ってくるまでプールの中に沈んでたから事なきを得たけど、どうしてこうもまあ……。
それからのハプニングは猫里さんとナンナさん。最新式のマッサージチェアに腰掛けたら、十秒足らずで爆睡した。ナンナさんが叩いても引っ張っても起きなくて、『仕方ないから起きるまで一緒にいるよ~』なんて言ってたな~と思ってるうちに、ナンナさんもマッサージチェアで爆睡してたね。ハッゲさんが苦笑いしながら起きるまで一緒にいてくれることになったよ。ごめんね、ハッゲさん……。笑い飛ばしてくれたけど、一緒に回りたかったよね……。
あ、それからはえーっと……私。私なんです、ごめんなさい。もうダメぽさんこと都子さんにビーチバレーをやらないかと誘われて、え~初めてだから自信ないですよ~なんて言いながらも真弓と一緒に参加したんだけど――体がね、勝手に動いたんだよね。
レシーブも、トスも、何もかもが体に染み付いてたというか、呼吸をするのと同然に出来ちゃって。綺麗に決まったスパイクはものの見事に都子さんの顔面に刺さって、しばらく悶絶していらっしゃったよ……。本当、申し訳ないです……。しかもその後『こういうのはもってぃの役目でしょお!?』って謎の怒りと共に、何故かもってぃを再びウォータースライダーへ流しに行って…………。今度は、都子さんともってぃの二人共トップスが行方不明になってたよ。あのウォータースライダーは水着が消える魔のスライダーだね、既に水着イーターとか不名誉な異名が付いちゃったよ。
それと、小さな波が起きるプールではユリアちゃんが大きな浮き輪に乗ってぷかぷか浮かんで楽しんでた……。楽しいのかな、ただ浮かんでボーッとしてるだけに見えるんだけど……。ハッゲさん曰く『何も考えずにゆっくり出来る時間が普段はないから、最高のひとときを満喫してると思うぜ』とのことなので、多分楽しんでるんだと思う……。多分、ね。
後は……ああ! かえでちゃんが夢乃さんの泳ぐ練習に付き合ってたね! ちょっと遅れて完全防水の視覚補助装置が届いたらしくって、それに交換して水遊びを堪能してた! 今までは見えなくて怖かっただけの水が見えるようになって、本当に楽しいって大はしゃぎしてたよ。今日は腰ぐらいの深さのプールで練習して、ちゃんと泳げるようになったら明日にでもウォータースライダーに挑戦したいって。水着を食べられないといいね……。
「は゛あ゛あ゛……♡」
「燐音さん、今凄い声が出ましたわよ!?」
「いやあ、猫里さんが十秒で爆睡するのもわかる、う゛う゛……」
そして今、夕食の最上級黒毛和牛フルコースを堪能し終えて、マッサージチェアに揺さぶられながらファイアーダンスショーを見ているところ。ああ、なんて贅沢な一時なんでしょ……♡ 本当、全身で満足を感じられる施設だわ……。
金額設定は全体的にちょっとお高いけど、高すぎるって感じる値段ではないし。逆にもっとお金を出せる人ならプレミアムサポートが受けられてもっと快適に過ごせるし……。それに、オフ会参加者全員に配られた20万円分のポイントってのもミソで、現金をこの施設でしか使えないポイントに変換する代わり、1万円辺り13000ポイントみたいな感じに増えるのよね。つまり、10万円をポイントにしたら、13万ポイントになるってこと。あ、当然1ポイント辺り1円として使えるよ。その分お得ってことだね! ただし施設外では使えないポイントだから、使い切らないと損になるの。
「このマッサージチェア、20分で500ポイントは安すぎない……?」
「あら、燐音さんは幾らまでなら出せるのかしら?」
「1000ポイントでも使うと思う……」
「うふふふ……。燐音さん? 500円は意外とすんなり出せる金額ですのよ。しかし、600以上となると急激に出し渋る人が多くなりますの。1000ポイントともなれば尚更、桁が一つ増えると手が止まりますわ。それにこのマッサージチェアで稼ぐつもりは、全くありませんもの」
「え? こんな、う゛お゛……! 良い性能なの、に?」
「この場所、ショーなどが開催されるイベント会場を見ることが出来て、尚且つ各種売店まで非常に近い。マッサージチェア以外にも寛げるスペースは多く、一日遊んだ後の興奮が落ち着くエリア……。お腹が空いてくる人もいれば、お土産のことを考え始める人もいる。お客様に足を止めて貰うために、ここに設置されていますのよ」
「はあ~……。凄いね、そこまで考えられてるんだ~……」
なるほど、このマッサージチェアはそのために設置されてるんだ……。考えられてるなあ、これが経営者の目線かあ……勉強になるね。あ、でもそれだったら……。
「じゃあ、この二階にマッサージチェアなり売店があるのを見つけて貰いやすくするのに、視線を上に誘導出来る装置があると良いね。夕方を過ぎたらドームの天井にプラネタリウムが映し出されるとか、曇の日でも星空が映し出されてオトクな気分になるでしょ?」
「…………あら、それはすぐにでも採用させて頂きますわね?」
「え、て、適当なことを言っただけだから! 本気にしないで!?」
「いえ、いいアイディアだと思って。ドームの天井をスクリーン代わりにして天体を映す、全く目障りではなく、かつそこまで費用がかかるわけでもない。何もないより遥かに良いですし。それに、夕方以降はプラネタリウムのライトアップがあると知らせれば、夕方から夜のショーまでお客様を引っ張ることも出来る……。実に効果的なアイディアですわ!」
え、ええ……。思いつきの発言だったのに、本気にされちゃった……。どうしよう、これで全然効果が見込めずに費用ばっかりかかったなんて言われたら……。
「あら、余計なことを言ったせいで赤字になったらどうしよう、なんて考えていまして? 大丈夫、最終的にそれが良いアイディアだと判断したのはわたくしですわ。暗い顔をなさらないで?」
「うん……。で、でもね」
「やってみなければわかりませんわ! これからも何かを思いついたら遠慮なく言ってくださいまし? トライアンドエラーは燐音さんの十八番ではありませんか」
「…………うん! ありがとうね」
「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方ですわ……あら、ちょうどマッサージも終わりましたわね」
「だね。じゃあ、私は温泉に入ってからバビオン、やろっかな!」
「VRラウンジで既にプレイ中の方もいらっしゃいますわね。ここにあるのは最新式モデルの機材ばかりですから、最新式のものが欲しくなってしまう人もいらっしゃるかもしれませんわね」
「私はえーっと、今日泊まる部屋に備え付けてあるんだっけ?」
「ええ、A等級以上のお部屋は備え付けになっていますわ。ラウンジでプレイしているのは、ジャックポットの皆様ですわね? なるほど、リアルのカジノとバビオン側のカジノの両方で遊ぶつもりのようですわね……」
「筋金入りだね……」
「ですわね。しかし、大きな賭けをしている人は都子さん以外にはいらっしゃらないようですから、引き際は十分弁えている様子ですわね」
「そこは、流石というかなんというか……」
バビオン側にログインしてカジノに行って、運が回ってきたと思ったらリアルの方のカジノに挑戦するって人がいるのね……。ラウンジからカジノまで近いから、部屋へわざわざ帰らずにそこでプレイしてるわけかあ、すごい情熱だわ。
「ちなみにわたくしと燐音さんは同室でしてよ?」
「え゛」
「あら、嫌だったかしら……?」
「いや! 嬉しいけど、真弓は良いの? 私、夜遅くまでプレイしてるかもしれないし……」
「それはダメですわ! 強制ログアウトさせますわよ!?」
「そ、そうならないようにするね……。うん、気をつけるから……」
私、真弓と同室なんだ……!? いやまあ、そんな予感はしてたけど……! ん、あれ? かえでちゃんと夢乃さんがエレベーターの方に向かってるわ。二人共部屋に行く感じかな?
「ん……? あれって、かえでちゃんと夢乃さんだよね?」
「ええ、そうですわね……? おかしいですわね……。かえでさんは今日、お帰りになると聞いていたのですけれども……? あら、かえでさんが急遽宿泊に変わっていますわ。夢乃さんと、同室……あら、この部屋は……! あらあらあら……!」
「あっ、なるほど。仲、良いもんね……! そっかそっか……!」
かえでちゃんと夢乃さん、同室……!? ふ、ふ~ん……。そ、そうなんだ。なるほどね。
「……大阪の暴龍と呼ばれるかえでさんと、ドラゴンでも食べちゃう爬虫類愛好家の夢乃さん。どちらが捕食者として上なのかしらね……?」
「だ、ダメだよ!? プライバシー! プライバシーの侵害です!!」
「そ、そうね……! ダメよね……!」
気になるじゃん、そんなこと言われたら!! いや、でも……明日になったら二人の様子でわかっちゃうんだろうなあ。バビオンにログインしてきて今日にでもわかるかもしれないけど……。
「とにかく! ほら、温泉行こっ!」
「そうですわね! い、行きましょっ!!」
とにかく温泉よ、一日中色々なプールで遊んだり砂浜で遊んだり、浴びても冷たいシャワーだけだったからゆっくりお風呂に入りたいの! とにかく移動、移動ーっ! あーあ、今日は最後までハプニングの連発だね!