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535 邪魔者の到来

「…………要注意人物が紛れ込んでいますわ」


 別室に到着してすぐに、真弓からそう伝えられた。そんな人がこのリゾートにやってくるなんて、どういうことなんだろう。そもそも要注意人物って誰、なんで私だけが避難させられたの? そんなことを考えていると、別室に備え付けられた防犯カメラの映像で、要注意人物とは誰のことを指しているのかがすぐにわかった。


「こいつら、何をしに来たの」

「わかりませんわ……。どうしてここに燐音さんがいるのがバレているのかも、何が目的なのかも……」

「向こうにおるのは弟や。あまりにも不審な行動をするんっちゅうなら、弟は待ったが出来へんで」

「わかっていますわ慎也。でもね、あの人達は……」


 私が天使嫌いになった元凶、偽りの両親(・・・・・)が画面に映し出されていた。

 会場にはIDを偽装して侵入したらしい。しかし私の写真を持って『この子を見ませんでしたか』って嗅ぎ回ってたからすぐにバレたみたい。恐ろしい形相で、血眼になって私を探している。どこからどう見ても、まともな状態じゃない。


「会います」

「え!? 燐音さん、それは危険ですわ!!」

「守ってくれるでしょ? 真弓の、世界一優秀なボディーガードさん達が」

「遠隔スキャンの結果、武器の携帯はありませんでしたから、容易に制圧出来るとは思いますが……」

「そういう問題ではありませんわ! 燐音さんの心の傷になると」

「私の今後の人生の障害になる。真弓、これは決着をつけなければならない問題なのよ。傷つくことを恐れて真弓の背中に隠れ続ける人生は、絶対に嫌なの」


 だからって、このまま逃げ続けるわけにはいかない。あいつらは私の人生の障害物、排除しなければならない。私の邪魔をするというのなら、立ち向かわなければならない。身に降りかかる火の粉は払うのみ。


「それが、燐音お嬢はんの選択っちゅうなら、ワイは支持するし全力でサポートするで」

「……後悔は、ありませんわね?」

「このまま逃げ隠れる方が後悔すると思う。きちんと向き合った上で、真っ向から否定したい。記憶を取り戻しただけじゃ、私は前に進めないと思うから」

「お嬢様……」

「…………翔吾に連絡を取りなさい。参加者に迷惑がかからないよう、ここに連れてきなさい」

「ほな、弟に連絡しますわ」


 前に進もう。私はこんなところで、停滞したくなんかないから。



◆ ◆ ◆



「――本当にこの部屋にいるんだろ……うっ……!?」

「黙って歩け。でかい声を出すな。何度も言わせるな」

「っ……! わ、わかった……」

「天音、天音!! ここにいるのね!!」


 来た……。全ての元凶、諸悪の根源。決別すべき私の、忌々しい過去(りょうしん)


「ああ、本当に!! 天音!!」

「おお、天音が」

「それ以上こっちに近寄らないで」

「動くな。最後の警告だ、次は足を折る」

「娘と会うのを、何の権利があってお前が止められると言うんだ!!」

「お前達の娘じゃない。赤の他人。それに仮に血が繋がっていたとしても、お前達なんか親じゃない」

「あ、ま……ね……? ど、どうして、そんな酷いことを、言うの……?」


 酷いこと? 何を被害者面をしているの?


「全部知ってる。私が作られた人間だってことも、お前達と血が繋がってないってことも。それに忌々しい過去の記憶も全部思い出した。全部知ってる。全部、覚えてる」

「そ、そんなことはない! お前は騙されているんだ!! 洗脳か!? 洗脳されたんだろう!!」

「天音はこんな子じゃない!! 悪魔、悪魔が取り憑いているんだわ!!」

「アーティフィシャルゴッデス。人造女神計画、知らないとは言わせない。それとも忘れてしまった? 記憶喪失にでもなった?」

「な、いや、違う! それは失敗して、その後お前は母さんから生まれたんだ!」

「とぼけるな!! 全部知ってるって言ってるのよ!!」


 お前達の都合の良いように作られて、お前達の理想の天使として育てられて、性格を捻じ曲げられて、言うことを聞かなければ暴力、暴力、暴力、暴力……!!


「私はもうお前達の天使なんかじゃない! 本当の私を抑圧したって無駄!!」

「この、悪魔……!」

「何、その手は!! また殴る気? 昔みたいに悪魔めって言いながら殴る気? 暴力を振るっても無駄よ!! 私はもう、お前達に屈したりなんかしない!!」

「な、ぐ、あ……!!」

「私が記憶を失ったあの日、お前達は私になんて言った? これは私達の娘じゃないって否定したのは誰? お前達が否定したくせに、今更のこのこ現れて!! 記憶を取り戻したらしいなんてどこからか嗅ぎつけて、真弓と親身にしているからって私が金のなる木にでも見えたか!! ふざけるな!!」

「ち、違うのよ天音、違うのよ、やっぱりお母さん達が一緒にいないと、天音はダメな子だから」

「何が違うの? ダメなのはどっち? 物理的な暴力と言葉の暴力で抑圧して性格を捻じ曲げて育てて、挙句の果てには育児放棄して金を貰って逃げ出したクズな両親と、色々あった辛いことを乗り越えて今日まで生きてきた私の、どっちがダメなわけ?」


 今すぐ目の前から消えて欲しい。黒田さん達に頼まずとも、私のこの手でこいつらをこの世から葬り去りたい。あまりにも身勝手で、あまりにもクズなこいつらを。


「…………竜胆天音は死んだのよ。あの日あの時……大雪の日の物置小屋で、七瀬真弓に私は救われて、お前達の天使は死んだんだ!!」

「燐音さん……」

「今ここにいるのはお前達の天使じゃない。七瀬燐音として、私は新しい人生を歩もうとしているの。だからお前達みたいな足手まといは、竜胆天音の残骸と共にここで朽ちて逝け。私の…………七瀬燐音の人生の、邪魔をするな!!」


 何も言い返せない、か。


「て……」

「て?」


 何? まだ何か言いたいことでもあるわけ?


「手切れ金を、寄越せ……」

「そ……そうだわ。そうよ、手切れ金!! 私達の天音を奪って、こんなのにして! 慰謝料よ!! お金、お金を出しなさい!!」

「は……? は……ぁ……」


 ――――呆れた。こんな奴らに、今まで怒ってたんだ、私は。


「燐音お嬢はん、もうええか?」

「はぁ……。呆れました、もう十分です。後は好きにしてください」

「ほな……。黒田、真弓お嬢はんと燐音お嬢はん連れてってえな。翔吾、仕事や」

「おい、どこに行くん、だ、あ……!? あ、あああああああ!!」

「次は足の骨を折ると最後の警告はした。質問に答えなければ次は反対の足だ」

「あ、あなた!? こ、こんなことをして、ただで済むと――」


 不思議……。全くをもって可哀想だとか思わないし、微塵も心が傷まない。むしろ清々しいまである。それに、なんだか心が軽くなった気がする。


「燐音さん……」

「これでやっと、歩き出せる気がする」

「その、あの……」

「真弓にはずっと、私と一緒に歩いて欲しいなって」

「えっ!? わ、わわわ、わたくしで、よよ、よろしければ……!!」

「ええ? むしろ私がお願いする立場だと思うんだけど、ねえ…………良い、かな?」


 だからね、今日こそハッキリと言葉に出来る気がする。


「え、えっと……そ、その……!」

「真弓、私と…………」

「あ、ちょ、ちょうどいいところに!! すみません、トイレどっちですかー!!」


 はぁ~…………?? もってぃ~…………!?


「栞様、お手洗いは戻って突き当りを左で御座います……」

「すみません、ありがとうございましたー!! あ、え? 僕なんか、邪魔だった……?」

「…………帰れーー!! 帰れもってぃ!! 帰れーー!!」

「帰れですわーー!! 今すぐ太平洋のど真ん中に沈めて差し上げますわ!!」

「え、嘘、あ本当ごめんなさ、お腹痛い……!! お、う、ぐおぉ……!!」

「ちょっと!? ここで本気の腹痛はヤバいから、ほら頑張って!!」

「ご、ごご、ごべ、ん……! ほほ、ほんと、やば……!」

「黒田より緊急連絡。至急バスタオルか身を隠せるような物を私のところまでお願いします。大至急、大至急お願いします」


 どうしてこう、最悪のタイミングで来るかなぁ! 君はぁ!! しかもお腹痛いって、食べ過ぎとわさびが原因でしょ絶対!! あーあ、滅茶苦茶いい雰囲気だったのにさ!!


「ふ、ふふ……あっははは!! あっははははは!! あーあ、でもこういう方がいいのかも。ね、楽しいほうが良いよ!」

「そう、かもしれませんわね! ふふ、きっとそうですわ!!」

「わ、わわ……。笑い事、じゃ、ないんです、け、どぅぉぉおお……!!」

「喋ってないで、トイレを目指してセッセと歩いて!!」

「慣れないものを欲張って食べるからですわよ!! ほら、お尻を引き締めて! いっちにーいっちにーですわ!」

「い、いっち、にぃぃ……! い、いいいいぃぃ!?」

「あっはははは!! ほらしっかり!!」


 ――――この後、もってぃこと栞さんはギリギリで崩壊せず、人間として終了せずに済んだ。ただし、私と真弓の良い雰囲気が代償に終了してしまった。

 それと……私の情報が漏れた経緯についても明らかになった。どうやら、過去に学校で私を虐めていた奴の取り巻きが学校に残っていて、そいつが『雰囲気が変わった』とか『七瀬家に籍を置くつもりらしい』とか、あいつらに情報を売り渡していたらしい。まあアレでも元々ハイソサエティ側の人間、人造女神計画に加担出来る程度の奴らだったし、それぐらいのツテはあるか……。しかし私に会いに来た理由が『事業に失敗して、お金が足りなくなったから』って、本当に金のなる木としか見られてなかったのか。心底呆れるわ。

 情報提供者については、ボディガードの糸杉翔吾さんって人が中野と佐藤って人と一緒に処理しに行ったみたい。ボディガードの慎也さん曰く、その手の仕事は弟が完璧にやるから問題ないって。怖い話だけど、真弓と一緒に歩んでいくのなら、避けては通れない話だから、いずれ向き合う必要があるだろうね。

 さて、と。憂いがなくなったところで!! まだ午後の二時、食べたものも怒りも落ち着いたし、遊ぼーう!! 屋内の施設には巨大なウォータースライダーとか、流れるプールとか、他にもコラボ施設とかコラボ商品もあるみたいだし、いっぱい遊ばなくっちゃね!!

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