534 まずはランチタイム
現代の日本で……いや、世界中のどこも一緒だね。天然物の生魚を味わうことが出来る国は、もはやどこにも存在しない。だから今食べてるお寿司は、正確には昔からあるお寿司とは別のものなんだと思う。だって完全養殖だし、お米だって昔から比べたら品種改良されまくってるだろうし。
「ん~まぁぁ……♡」
「たいしょー。たまご、あといくら軍艦。えっと、海老天軍艦も~」
「あいよ!」
だから不味いだろって? いやぁそんなわけないよね! 真弓がこだわりにこだわった養殖のお魚、それにお寿司に合うお米の改良に次ぐ改良! 見ただけで既に『ああ、美味しいやつだ……』ってわかる、そして食べてみれば想像の何十倍も美味しい……!! 真弓がこだわりにこだわり抜いたお寿司が、不味いわけがないのよ!!
参加したギルドメンバーさんの中には初めて食べたって人もいて、しかもあまりの美味しさに感動して泣き出す人さえもいるぐらいだよ。ちなみに泣いてたのはもってぃだね。あ、本名は望宮栞って言うんだって、なんと二十歳。全然そうは見えなかったけど。
逆に慣れた手つきで食べてたのは國井都子って人。何者なのかなって思ったら、四月朔日組と七瀬財閥の双方に利益が出るようにって色々と橋渡しをしている凄い人なんだって。『早く食べてボートレース行こうよぉ! カジノでバカラやりたーい!』って周りの人を急かしてるけど、お寿司を堪能中だからそれどころじゃないって感じだね。
「リンネ、お寿司好き?」
「え、はい! 特にイカとサーモンが美味しかったです!」
「嫌いなネタ、ある?」
「うーん……。マグロが、ちょっと……苦手です」
「あ、一緒。ねちょってなるの、苦手」
「わかります! 食感がなんだか苦手で……あ、しめ鯖は飲み込むのに一分ぐらいかかりました」
「それも一緒。私、しめ鯖を口に入れたら泣いちゃう」
「わたくしは全部好きですわ!」
「好きじゃなきゃここまでこだわらないでしょ」
「もう並大抵のお魚、口に入らないかも。ハッゲ、大変だ~」
「ここまで美味いのはなあ、流石に食材がなあ……!」
「ふふふ……。大将の腕もありますけれどもね!」
「それはそう。ハッゲは幅広く何でも作れるけど、お寿司……和食に特化してる人には流石に勝てない」
「それは認めるぜ。俺も一流だが、向こうは文句なしの超一流だ」
「褒めてもなんも出ないよ! まあ寿司は出せるがね、へいおまち!」
「たまご~いくら~えっびて~ん」
ユリアちゃんが大事そうにお寿司を口に運ぶ姿、あまりにも可愛い……! お寿司のチョイスがかなり子供っぽいのもとっても可愛い……!! あ、私も子供っぽいのばっかり頼んでるけど、私はまだ子供だから。いいのいいの。
「ナンナ、僕何食べてるのか味がわからないんだけど」
「大丈夫よ猫ちゃん! ナンナもわかんないから!」
「美味しいことだけはわかる。すっごい美味しい、あ……エビください、甘エビ」
「猫ちゃん絶対味わかってるよね!?」
「イヤードウカナー。イッカンダケジャ、ワカンナイナー」
「絶対わかってるじゃん!!」
緊張しすぎて味がわからないって人もいるね……。多分ナンナさんだけかな……? あ、もってぃがわさび多すぎたのか悶絶してる。ああ違うわ、本物のわさびの味が知りたくてわさび直食いしたんだわ。何やってんのあの人……。
「夢乃、お前……箸の使い方が下手だなぁ!? ほれ、こうやるんだよ!」
「はう~……。いつもは食べさせて貰っているので~……」
「じゃあわっちが食わせれば良いのか!? ああ!?」
「お願いしま~す♡」
「は!? あ……まあ、別にいいけど……ほら、口開け」
「あ~んって言ってください。あ~んって!」
「あぁん!?」
「そうじゃないです~! なんか違います~!」
かえでちゃんと夢乃さんは、なんだろう……急に漫才を始めて笑わせようとするのやめて貰っていいですか? 聞いてるだけで面白くて手が震えちゃう、私までお箸の使い方が下手になっちゃうから!!
「う……あああ!! 僕感動した! こんなに美味しいものね、初めて食べた! もう思い残すことはないかもしれない、あ!! すみません穴子煮ください!! あとえんがわとまぐろ食べ比べ全種!!」
「もってぃ、後で食いすぎて腹が痛いとか絶対に言うなよ?」
「大丈夫だよ、多分! にひ~!」
「絶妙に美少女なのがむっかつく……!」
そうなんだよね。向こうでは性別不詳の謎めいた人物って感じだったけど、水着姿になるために流石に諦めて女の子全開で来たんだよね。まあ、後からお昼寝さんの服装を見て『あ、僕もそうすればよかった……』って言ってたから、海のリゾート施設イコール水着って感じで来ちゃったんだろうね。そこまで考え回らなかったかあ。
「へいおまち!」
「ありがとうございます。はい真弓、あ~ん」
「はひっ!? ここ、こここ、ここで!?」
「うん。なんで? 駄目なの?」
「だだ、駄目ってことは、全然ありませんわよ!?」
「お……? いいね、お姉さんとして微笑ましい光景、見守ってる気分。ハッゲは、保護者?」
「これ以上ユリアみたいな娘が増えたら死んじまうぜ」
「ほら、早く。真弓が皆の反応を見てるばっかりでなかなか食べないから、わざわざ頼んだんだから」
「そ、そんな……。い、いひゃだき、まひゅ……」
頂きますって言われてるけど、ご馳走になってるのは私達なんだよね。これだけの人数の飲食代、更には施設内で使える二十万円分のポイントまで用意して、とんでもない金額の出費になってると思うんだけど……。
いや、真弓からしたら私達の『ジュース奢ってあげるよ~』ぐらいの感覚なのかもしれない。前に真弓は、経済をある程度回すためにポケットマネーは積極的に使わないとならないって言ってたし、多分その一環なんだと思うけど……。
「ぺるぺる、顔真っ赤っか。熱中症?」
「ちちちち、違いますわ!! わ~! わ~!! わたくし、ちょっと皆様に挨拶しに回ってきますから!!」
「あ、逃げられた。ぺるぺる、忙しい?」
「恥ずかしがっちゃって~。いつもやってるのに、じゃあ残ってるのは私が食べちゃお~」
「ほら夢乃、次は何が良いんだ!」
「かえでちゃんと同じのがいいで~す!」
「じゃあ茹でずわい、四貫! あ……ゆっくりでいい、で、です……。あああ後、どうすっかな……。松の十貫、ふふ、二人分……!」
「食べたことがある味と見た目が一致するの、楽しいですね~!」
「そりゃ良かったな……」
真弓に逃げられちゃった。はあ~やっぱり、皆でご飯を食べる方が楽しいね。あの広いマンションでひとりぼっち、黙々とお腹に詰め込むだけの作業は少し悲しくなる時があるもん。家族で揃って食べてる人達が、ちょっと羨ましいなあ……。
「黒田、ちっと……」
「はい? ええ、ええ……。はい……あっ……わかりました」
「燐音お嬢はん……お、お嬢様。真弓お嬢様が別室でお待ちになっておりますもんで、そっちにご案内します」
「え? あ、はい。わかりました……? えっと、ごちそうさまでした! 美味しかったです! 皆さん、お先にちょっと失礼します!」
「あいよ!」
「行ってらっしゃ~い。大将、ウニも欲しい~」
「おう! あ、俺もウニ軍艦」
真弓が別室で? そんな素振りはなかったけど、どうしたのかな? まあ、お寿司もいっぱい食べて満足したし、とりあえず行ってみようか! 美味しかった~ごちそうさま~!!
◆ おまけ ◆
【望宮栞】
もってぃやな。海イコール水着しか頭になかったもんで、じゃあどうせだから女の子全開にして行けば逆にバレないんじゃ、と思って参加してきた奴やで。速攻でバレとったけどな。
【國井都子】
もうダメぽ……やな。遊ぶことしか頭にあらへんで。まあ色々な噂のある人物やけど、悪人ではないで。刹那的な人生を全力で楽しんどる女やな。





