533 オフ会だよ、全員集合!
『可愛いからちゅーしてあげよっか、いひひ……ね、ちゅーしよ?』
『へえ!? で、でしたら、ほっぺに――』
わあ……。熱中症で倒れるって、こんな感じなんだなあ~……。これは酷い、あまりにも酷い。まさか施設内のカメラによって録画されていたのが真弓のスピーチのほうではなく、私の醜態の方だったなんて。
「これに懲りたら、日頃の生活リズムは正しく! 健康第一で過ごしてくださいまし!」
「は~い……」
「はあ……それにしても、そこまで悪化しないうちにリフレッシュカプセルを利用出来てよかったですわね……」
「これ凄いね! 簡単な体調不良ならあっという間に治してくれるのね!」
「そうですのよ! 七瀬グループの推し進める医療系プロジェクトの……って! これがあれば多少無茶しても良いかな~なんて思ってませんこと!? 絶対駄目! 燐音さんは今後利用禁止!! 自分で体調管理なさいな、これは応急処置用でしてよ!!」
「はぁ~い……」
ぐぬぬ、これからはちょっと体調悪いと思ったら使おうと思ってたのに、さすが真弓……お見通しでございましたか。まあ、うん。体調管理には気をつけないとね……。
「あ……! そういえば、皆は来たの!?」
「ええ、一番遠いお昼寝さんとエリスさんも既に到着していますわ!」
「北海道だったよね? 早いね!」
「もう11時でしてよ!? 余裕で到着しますわ!」
「それもそっか……。じゃあじゃあ、早く水着に着替えないと!」
「ん、そうですわね……。早く着替えて皆さんに会いに行きましょっ!」
よし、上手く話題を変えることが出来たね。真弓が怒ってる顔をしてると、なんだか昔を思い出しちゃうよ。中学校時代の真弓ってば、ずーっとむすーっとした顔で怒ってるんだもん。綺麗なお顔が台無しだよね、今みたいに笑ってる方が良いよ。
「それと、用意した水着の件ですけれど」
「うん? あ、そうだったよね!」
あ、そうだ水着ー! 真弓が用意してくれてたんだよね、どんなのを……お?
「ワンピースタイプのものをと思っていましたけれど、今回の件にしっかり反省して頂くように、少し派手目のもののほうをお渡ししますわね!!」
「…………え゛っ゛」
え、いやいやいやいや、普通のでいいんだよ!? どうして、今回の件を反省することと水着が派手目のものになるのと関係なくない!? 絶対真弓がそっちを着せるための口実にしたいだけじゃん!! で、でも、ぐぬぬ……! 言い返せない!
本当に嫌だったら断るけど、そこそこいい感じのものだったら拒否し辛い……。こんなことならもっと体調管理に気を使ってればよかった! あ、一応後悔が生まれたから反省を促す効果はちゃんとあるね……? い、いやでも……。
「あんまり、恥ずかしかったら、その……」
「あ、あら? 絶対拒否されると思いましたのに、まんざらでもなさそうですわね? ではやっぱり派手目の方にしましょうね! おーっほっほっほ!!」
や、やられた!! ダメ元でふっかけてきたんだ、派手目な水着の方を!! これじゃますます断りにくい、むしろこの程度で恥ずかしがりますのねーなんて馬鹿にされかねない! き、着てやる……。着てやるぞ、どんな水着でも! かかってこーい!! こっこここ、ここ、こっ、心の準備は出来てるるる……!!
◆ ◆ ◆
「お、来た来た~。凄い、一発でリンネちゃんってわかるわ~」
「ん、向こうのリンネの髪が短くなっただけ。リアモジュ、ほぼそのまま」
「レーナちゃんも人のこと言えないよ~。まあ、エリスちゃんもだけどさ」
「はっはっは!! 全員向こうで会うのと何一つ変わらねえな!」
「燐音さ~ん! 皆さんもうお揃いですよ~! かえでちゃんもいま~す!」
「あ、こら!! オフ会で本名で呼ぶんじゃねえ夢乃!!」
「ごめんなさ~い、かえでちゃ~ん!」
「はっはっはっは!!」
「あっはは……。ユキノさんぐらいかな、結構違う印象なのは」
おお……。お昼寝さんとエリスさん、ハッゲさんにレーナちゃん、かえでちゃんことつくねちゃんに、夢乃さんことユキノさんも、他のギルドメンバーさんの姿もちらほら見える! リアルで会うと印象が変わる人、ほとんど誰もいないわ!!
「お、おまたせしました……。すみません……」
「体調は大丈夫~?」
「はい! 最新鋭の医療マシンで、スッキリしました!」
「リンネちゃん、エリスちゃんが後で日焼け止め塗ってあげよっかぁ……うへぇ」
「エリス、ちょっと手がキモい。燐音、ドン引き」
「もうわたくしが塗って差し上げましたわ!!」
「エリス? リアルだからってギルドのルールの過度なセクハラ禁止が適用されないと思ってるわけじゃないよね?」
「ええ!? されるのぉ!? だって、だって!! 見てよリンネちゃんの、この! 魅惑的なボディ!! 猫ちゃんは手を出さないで我慢出来るって言うの!?」
「あの、もう本名で呼びあったら宜しいのではなくって? なんならわたくし、全員のお名前を知っていますし」
「別に隠すような個人情報でもない。私はユリア、よろしく」
「僕は小春猫里だよ~。ねむちゃんって呼んでもいいよ~」
わあわあ、あっさり本名バラしてきた。それはちょっと、私が一番困るような気がするんだけど~……。ああ~こんな時に念話が使えたら、個人チャットが使えたら!! 真弓に『偽名でいい!?』って伝えられるのに、ぐおお……リアルの不便さよ。
「俺は佐竹秀夫だ。名前でピンと来るやつもいるかも知れねえな」
「うへえ、もしかしなくてもやっぱり? 僕さ、前からロリクラ社の社長じゃないかなって思ってたんだよねえ~」
「エリスちゃんは菊川ナンナ、モデルとLunaTubeで配信業をやってまーす。よろしくねえ~? うっへっへ、エリスちゃんはハッゲのことハッゲって呼んじゃうかも~」
「ん、そっちのほうがしっくりくる。リアルでもハッゲって呼んでる」
「ちなみに、ユリアは俺のとこの従業員だ」
「ぶい~」
ロリクラ社……? 佐竹秀夫さんでロリクラ社っていうと、ロリポップクラッシュの!? ゴスロリ社と姉妹会社の、謎多きデザイン業務を行っている……ゴスロリ社から出る変わり種商品は恐らくここで作られていると噂の、あのロリクラ社!?
レーナちゃんから根掘り葉掘り業務内容を聞き出したいけど、うーん……。流石に失礼だし、業務内容って機密事項だから漏らすわけにはいかないだろうし……。
「燐音、後でお話、しよ?」
「え!? も、もしかして!?」
「ユリア、わかってるだろうが……」
「ん? だって、別に内緒にしなきゃいけない相手じゃない。ハッゲ、知らない?」
「お? それは知らねえ、なんでだ?」
「燐音が自己紹介したらわかる」
「え、えっと……」
どうしよう、言って良いのかな? 半分以上の人は知ってるし、それに真弓も頷いてるし、良いのかな……? じゃあ、言っちゃお!
「七瀬、燐音です。よろしくおねがいします……」
「は? 七瀬って、おいおい……」
「え~リンネちゃんって、リアルでも燐音なんだ~!?」
「本名使って天使になんか言われなかった? あ、そっか! 天使殴り倒してるから、良いんだ~! 良いのかなあ……?」
「最近改名しましたのよ。わたくしはもう御存知の通り、七瀬真弓! 七瀬財閥の長、正真正銘本物でしてよ~!! おーっほっほっほっほ!!」
「…………四月朔日かえで、よ、よろしく、おおお、お願い……します」
「雪村ミートの雪村夢乃です~! 皆さんに会えて嬉しいです~!」
これで全員の自己紹介が終わったね……。お、思ったよりも大事にならなかったから良かった。それじゃあ名前もわかったところで、まずはお昼ご飯からかな……?
「エリス、やっぱり僕達帰ろう? ここには大物しかない、僕たちがここに来たのは何かの間違いだよ。絶対おかしいよ」
「うん、一般人の来るところじゃなかった! 帰ろう、ちょっと怖い!」
「え、いや、私はただの高校生なんですけど……」
「燐音ちゃんが一番の爆弾だから! 一般人枠は無理だから!」
「それだけは絶対無理! さっきはセクハラしようとしてすみませんでした! あ、もしかして死刑? 首が飛んだりしない? ねえ、大丈夫!?」
「大丈夫、大丈夫だから落ち着いてくださいまし!?」
た、多分、私に触ったからって何かがどうにかなるってことはないと、思うんですけど……!
「真弓、お腹減った。おなかぺこぺこのどんたくん」
「いつもなら俺が作るんだが、たまには誰かの作った飯も良いな!」
「ねむちゃん、早くご飯行こ? ナンナも、早く~」
「うへえ~……。ナンナ、もう覚悟を決めよう? 逃げられないんだ、僕たちは」
「うひゃあ~……!!」
「そうですね、お昼ご飯にしたいですよね! えっと、じゃあ……」
「お昼の予約は入れてありますわ! 案内しますわね、黒田! 皆さんをご案内してちょうだいな」
「はい、真弓お嬢様……。では皆様、会場までご案内致します……糸杉さん、後方で警護をお願いします……」
「まかしとき……りょ、了解しーー……しました」
ん、この糸杉さんってボディガードの人は初めて見たかも。なんかちょっとぎこちない感じ、新人さんかな? 後でどんな人なのか真弓に聞いてみようかな?
「小磯、ギルドの皆様に集合連絡を入れて頂戴!」
「はい、事前にお配りした端末にメッセージを送らせて頂きます。皆様の端末にも届くと思いますが、ご昼食のご案内ですのでどうぞ無視してくださいませ」
それよりお昼ご飯! 初日のお昼、期待しちゃうよね~! 何が出るんだろ、これから施設内を回るのに重すぎず、かつ満足感を得られるもので、もてなすのに相応しいものと言ったら~……。
「ね、ねえねえ、真弓ちゃ……真弓様??」
「真弓で結構でしてよ! どうしましたの?」
「え、えっとね? 僕達、何を食べさせてもらえるのかなぁ~……って、あ、あとさ! お金、そんなに持ってないんだけど! 払いきれなかったらどうしようかなーって!!」
「あら? 猫里さんの端末にも20万円分のポイントが入っていますから、どうぞその金額の範囲内でしたらご自由にお使いになられて? とりあえずはそのポイントで施設内のものは購入できますから、万が一足りなければ申し出てくださいな」
「ひぇええ……!?」
「ちなみに、お昼ご飯はお寿司ですわ!!」
「す、すすすす……!? す、し!?」
「おすし~。すき~。たまご~」
「ユリア、寿司でイの一番に出るのがたまごかよ……」
おお~! お寿司、真夏の海のリゾート施設でお寿司とは! なんだろう、真弓の絶妙なセンスよ……! こんな場所でも鮮度が命のものを問題なく提供できるんだぞっていう自信を感じるチョイスだね。
「それでは、行きますわよ~!」
「かえでちゃん、夢乃はお寿司を初めて食べます! 後で食べ方を教えて下さいね?」
「んなもん、手でガッと掴んで食えば良いんだよ! ああ、どんなものかもわかんねえか……。まあ、向こうに到着したらわっちの隣に座れ。いろいろと教えてやるから」
「わ~い! かえでちゃん大好き!」
「暑苦しい抱きつくな!!」
猫里さんとナンナさんは毎秒表情が変わって百面相みたいになって震えてるし、ハッゲさん……あれ、名前なんだっけ……? あ、秀夫さんだ。秀夫さんとユリアちゃんは漫才みたいなボケとツッコミを繰り返してて楽しそうだし、かえでちゃんと夢乃さんはこう、なんだか仲が良いね……! 抱きつくなって言いながら振り払おうとはしないし、良いね……!
「燐音さん」
「あ、うん? どうしたの?」
「水着、気に入ってくださいまして?」
「うん! ちょっと派手だけど……」
「良かったですわ! うっふふ、ふっふふ……」
何より真弓が凄く楽しそう! 真弓が楽しそうだと、私まで楽しくなってくる。あ~あ、レイジさんも来れば良かったのに~……。お仕事が特殊だって言ってたから、仕方ないのかな~。今度オフ会があったら、レイジさんも絶対に来て欲しいね!
◆ 【水着姿の紹介】 ◆
【七瀬燐音】
真弓ちゃんの用意した派手な方の水着を罰として着ることになったらしいで、まんざらでもない様子やな。最初は恥ずかしがっとったけど、今では気にせんようになったな。よう似合っとるわ。
【七瀬真弓】
燐音ちゃんとは正反対のカラーリングって感じやな。自信満々に着とるように見えるが、内心は緊張して心臓がバクバクしてるみたいやで。まあ今は楽しい気持ちが勝ってそれも忘れたみたいやけどな。
【四月朔日かえで】
部下の村井に用意された水着やな。中野と佐藤によれば、用意した村井は『なんでこんなに布面積が小せえのを用意してんだ、死ね! 変態!』ってぶっ飛ばされたらしいで。本人は腹筋が割れてるのを気にしてるらしいから、ワンピースタイプのを買えばよかったんちゃうかと思うな。
【雪村夢乃】
水遊びはちょっとおっかないもんで、水着は控えたようやな。まあその下に着とるのが水着な辺り、実は水遊びがしたくてたまらんのやろなあ。
【シャルノフ・ユリア】
大人のお姉さん感を出すために選んだ水着なんやろなあ。ちんまいから、背伸びしとる女児にしか見えへんけど。改めてみるとほんま細いなあ、ゴスロリで体の輪郭がわからんかったからなあ。
【小春猫里】
自分では一般人って言ってあわあわしとったけど、チャンネル登録者150万を軽く超えとる配信者が一般人かと言うと微妙やと思うで、ねーちゃん。
服は水着っちゅうより、砂浜で遊びたいタイプの服装やな。実は泳げへんのとちゃうんか?
【菊川ナンナ】
ホンマに一般人なのはナンナちゃんだけちゃうか? 参加者の中で本気でドキドキしとるの、ナンナちゃんだけやで多分。褐色の肌が目立つもんで、普段はビーチガウンを羽織っとるで。コンプレックスっちゅうより、悪目立ちしたくないっちゅう理由やろな。
【黒田エトルーリャ】
あ、こいつはオマケや。ボディーガードの黒田、防弾ローブの下は凄いもん着とるで。ちなみにこれは旦那の趣味、旦那はんええ趣味してはるわ。
こんなのを下に着てるもんで、ナンナちゃん並にドキドキしとるで。まあこんなの着とってもちゃんと仕事はするもんで、安心しといてええ。
――――あ? ハッゲとワイ? 別にええやろ、いらへんいらへん。