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531 踏み台

 赦せない、赦せはしない、赦せるはずがない。

 愛を誓い合うなど、ましてや魔族が! 私が得られなかったものを得るなど、赦せない赦せない赦せない赦せない、赦せない!!

 あの奇襲の一撃、間違いなく忌まわしき魔神を葬るだけの力はあった。全く警戒していない、明らかに油断していた、何の苦労もなく一撃で仕留めるチャンスだった。月の女神の転生体さえ邪魔しなければ……。

 ああなんと忌々しい!! 全てが忌々しい!! 滅ぼしてやる、必ず全てを滅ぼす。この世に神は私だけ、私こそが絶対なのだ。

 この世に存在する私以外の全ては、私のために用意された舞台装置。私という名の付いた舞台を彩るための、飾りに過ぎないというのに!! 忌々しい……!! 今すぐあの神木を切り倒したい、今すぐ砂漠にある楽園を名乗る国を滅ぼしたい、今すぐに!! 全て!! 全てを、滅ぼしたい!!


『メルティス様、わたくしで御座います。マルデマーゾで御座います』


 ああ!? ああ……。私の忠実な下僕が、また面白いオモチャを届けに来たのか。こいつは良い、己の役目を弁えている。私の課す無理難題にも柔軟に対応し、望み通りの……いや、それ以上の結果を残してくれる。それにまさか、あの天獄領域の最深層に、たった一人で挑んで八の王も撃破するとは。残す四王を撃破する日も近いだろう、天獄に挑むこいつを見ているのは愉快だ。良き暇つぶしになる。


「何用だ?」

『はっ! 此度は天獄の最奥、十二番目の王デルフェミナを撃破致しました報告を』

「何……?」


 何だと? いつの間に天獄領域に足を踏み入れた? 私の気が付かない間に足を踏み入れるなど、ありえるのか? ああ、忘れていた……。こいつには聖遺物『隠者の隠れ蓑』があったのだったな。私ほどの神力を隠すことは出来ないが、こいつ程度の力であれば十分に隠すことは出来る、か。


「何故に天獄へ隠れて侵入した? 言え」

『は、わたくし流のサプライズとなればと思い、メルティス様を驚かせてみようと考えまして……。こちら、討伐の証である王達の冠に御座います』

「ほう……。間違いなく、偽物ではないようだ……。お前がここまで成長するとはな。面白い、褒めてやろう」

『は! 有難き御言葉!』


 天獄最奥、十二の王の試練を単独で撃破出来るとなれば、あの忌々しき死霊の娘にも並ぶ力を持っているとみて間違いない……。く、くっふふふ……!! あっははは……!! そうだ! 面白いぞ、異界人同士で潰し合わせてやろう!!


「次なる試練を与える」

『は!!』

「死霊の娘、魔神の寵愛を受けるあの忌々しき紛い物の神を知っているな? お前への試練は、紛い物の女神より全てを奪い、殺すことだ」

『……この試練、成し遂げて見せます!』

「此度の試練を突破したならば、お前を法王と認めよう……」

『はっ!! 必ずや!!』


 ああ、忌々しき魔神の手駒が勝つか、私の従順な下僕が勝つか、その衝突の瞬間を思い浮かべるだけでも楽しみだ……。魔神の手駒の持つ配下、あれら全てが失われ、絶望し! 怒り狂う中で絶望していく様を思い浮かべるだけで……っはぁぁ……! 

 早くその瞬間が見たい。しかし常時下界を監視するのは疲れる、神力も消費してしまうしな。衝突の瞬間は莫大な力同士が激しく燃え上がるはず、その瞬間から見れば良い。私は一刻も早くこの体を完全体へと成長させ、天魔大戦の時すらも上回る力を手に入れねばならない。娯楽も程々にせねば、魔神に後れを取るやもしれぬ。

 さあ、今度は私の番だ忌々しき魔神! 二度の大敗の屈辱は、私の忠実なる下僕が晴らしてくれようぞ!! あは、あっは……! あっははははは!!


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「なるほど、ね……」


 クエスト欄にデカデカと表示されているのは『紛い物の女神を滅ぼせ』という文字だけ。あの時メルティスは僕に対して『死霊の娘、魔神の寵愛を受けるあの忌々しき紛い物の神を知っているな?』と聞いてきた。僕はこれに対して返事をしていない(・・・・・・・・)。しかし、紛い物の女神を滅ぼせというクエストは受諾した。この意味が示すものは何か? 答えは簡単、自分の信じる紛い物の女神を滅ぼせば良いということ。


『マーゾ様、メルティス様にまた啓示を頂いたのですね!?』

「ええ、ニフェス枢機卿。たった今、啓示を頂きました」

『おお……!! さすが天獄の踏破者様、つまりこの啓示を見事達成なされば……』

「法王に、と。そう仰っていました」

『おおおお……!!』


 紛い物の女神を滅ぼせ。ふ、はは!! 面白い、笑わせる。本気で自分だけが本物の女神だと思い込んでいるのか? 本当に面白い道化だ、最高のピエロだよお前。

 僕の崇拝する女神は唯一人。天使と聞けば即座にその鎌を振り下ろし、ただひたすらに高みを目指して突き進む至高のプレイヤー。幾多の配下に崇拝され、一般プレイヤーすらもひれ伏すほどのカリスマを持つ、死の超越者!! ンンンンンンン、リンネ様ッ!! 彼女のためならば僕は、彼女の糧になれるならば僕はッ!! 例え貴方に忌み嫌われる存在となろうとも、側にいることは叶わなくともッ!!


 それでいい。僕は貴方の――――踏み台になりたい……。


 メルティス自身が言ったんだ、紛い物の女神を滅ぼせと。殺してくれ滅ぼしてくれと頼んできたんだ。ああ、その願いに応えようじゃないか……。


「ニフェス枢機卿、頼みがあります」

『ええ、マーゾ様の願いでしたらなんなりと……!』

「啓示を達成するにはどうしても必要なものがあります。封印の異空殿より、封遺物を持ち出したいのです」

『封遺物を、ですか!? しかし、いえ……マーゾ様にはこれまで莫大な量の聖遺物を納めて頂いております故、ううむ……!』

『それでしたら、私は賛成致しましょう』

『私も、新たな法王……それも歴代最強ともあろうお方が法王として誕生しようとしているのです。反対する理由など何処にもない』

『セテイナ枢機卿! ジェディ枢機卿まで! うむ、三名の賛同があれば、十分でしょう……。わかりました、して……何を持ち出すつもりなのですかな?』

 

 封遺物のリストは既に手に入れている。封印の異空間に何が眠っているか、どうして封印されたのか、全て理解している。その中でも僕が持ち出して全く問題なさそうで、致命的な大問題へと発展するであろうアイテムは…………。


「滅ぼされし空中都市、メルティナの設計図を頂きたい」

『…………? そ、それだけ、ですか?』

「ええ、それだけで十分。強力な封遺物は無闇矢鱈に持ち出すべきではありません」


 メルティナの設計図。リンネ様がメルティナを攻略しようとしている情報は既に掴んでいる。これがお前達の、破滅への第一歩…………いや!! この僕をメルティス教の中枢へと引き込んだ時既に、お前達の破滅は決定していた!!

 

『メルティナの設計図ということは、あの天空より大災害を齎した機神を……!?』

『おお、なんと……!』

「ええ、そんなところです」


 隠者の隠れ蓑を使えば、メルティスの目すらも欺ける。天獄領域に入ったことすらも気が付いていないのがその証拠、ほんの小さな傷が、ほんの小さな油断が、少しずつ少しずつ、しかし確実に! お前の首を締め付けているんだ、紛い物の女神…………メルティス!! 

 

『――さあ、こちらですマーゾ様。本当に、これだけで宜しいのですか……?』

「構いません。何度も申し上げた通り、ここにある封遺物は無闇矢鱈に外へ出すべきではない。封印されているということは、それだけの理由があるのですから」

『やはり次期法王となられる方は思慮深い。欲深き信徒達にも見習わせたいものですな、セテイナ枢機卿もそう思いは致しませんか?』

『ええ、全くその通りです。ほっほっほ……』


 欲望が腹に表れているお前達が言うか、下衆共が……! 私利私欲のために、一体どれだけの人間を犠牲にしてきた……!! 今はそうして笑っているが良い、最後に笑うのはお前達でもメルティスでもない。僕の崇拝する女神、リンネ様なのだから。

 さあ、行動を開始しよう……。リンネ様にどこで、どう接触出来るか、それは全て運だ……。この運に勝利した時こそ、僕の――――!?


『ワールドアナウンス:プレイヤーの皆様に、お知らせ致します。本日8:00より、大規模なメンテナンスを開始致します。終了時刻は18:00を予定しております。誠に申し訳ございませんが、開始時刻までにデータ保護のためのログアウトへのご協力を、どうぞ宜しくお願い致します。メンテナンス開始時にログアウト頂けなかったプレイヤーの皆様に関しましては、強制ログアウト措置を取らせて頂きますが、その際に起きたトラブル等に関しては一切保証出来ませんことを予めご了承くださいませ』


 メンテナンス、だと……!? これは……これは、チャンスかもしれない!


「メンテ、か……。どうやら今日、異界人は全員が一度元の世界へと強制的に戻されるようです。わたくしも例外ではありません」

『左様ですか……』

『致し方ありませんな。我らに出来ることはマーゾ様の啓示の達成をお祈りするだけ。元の世界にて、異教徒達に襲撃されませんよう、お気をつけて……』


 メンテナンス明け、リンネ様が何処に飛んだかの情報を、掲示板を監視して得れば……あるいは! メンテ明けが勝負、この幸運……掴み取って見せる!


更新が大変遅くなり申し訳ありませんでした。

書籍の執筆がひとまず落ち着きましたので、今日から更新を再開致します。新章もまたよろしくお願いします。

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本作をご覧頂き誠にありがとうございます
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