527 Reginleif・6
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あまりにも臭いし、リンネちゃんならもう絶対倒し終わってると思ってログインしたのに全然戦闘の真っ最中だし、挙句の果てに仕事しろって捕まっちゃうし、僕はただもふもふと遊んで暮らせればそれで良いのに、どうしてギルマスってだけでこんなに頑張らなきゃいけないの……? 面倒くさい、帰りたい、臭い、吐きそう、頭痛い……。
「無力化された緑の呪いは凍らせて運搬して、手が足りない班には余裕がある人が応援行って! そこで暇してるなら運搬手伝ってあげて!」
『わうっ!! (お前も手伝え!)』
「え~!! 僕、指揮官なのに!?」
『がうぅぅ……!! (文句を言うな! 総司令は最前線で戦いながら指示をしている!)』
「力仕事苦手なのに~!!」
僕はリンネちゃんみたいに最前線で戦いながら指揮なんて出来ないよ~……。あ~あ、なんでこんな大変な仕事を押し付けられちゃったんだろ。ログアウトしたい、いや流石に今それをやったらリンネちゃんが二度と口を利いてくれなくなりそうだから無理……。
ところでリンネちゃんは? なんでなんにもしないでぼーっと立ってるだけなの? え~リンネちゃんが働かないんだから僕も働きたくないよ~……。帰ってみんなに抱きついてもふもふを堪能したいんだ、帰らせてくれ~!
ん、あれ? 憑依解除した? 今度は別の子を憑依させてる! 良いな~憑依型、ビーストテイマーも憑依型とか合体型があるけど、僕は連携型だから出来ないんだよね~。憑依型はかなり強いって話だけど、着ぐるみを着てラジコン操作してるみたいな違和感があるって聞いたことあるんだよなあ~。リンネちゃんを見る限り全然そうは見えないんだけど。
『神狐リンネから【神狐の殺気】を受け、全ての最終ステータスが25%減少しました』
「いっ……!?」
『(あ、ごめんなさい。勝手に発動しました)』
めっちゃ見られてる~!! めっちゃ殺気飛ばしてくる~!! 勝手に発動してこれなの!? 最終ステータス25パーセントって、MAGが2万近く減ったんだけど!? 多分これ、MND差とかAARC差とかレベル差で減少量決まるんだろうけどさ、効果量がさあ!!
それより見られてるって、ちゃんと仕事しなきゃ! はい、やってます! やらせて頂いています、軍隊指揮統率! せっせと運搬作業に従事しております、作業は順調であります!!
『ガウッ……? (おい、総司令の様子、おかしいぞ?)』
「え? ああ、憑依する従者を変えたみたいだよ」
『ガウウ!! (そんなの見ればわかるよ!! おかしいのはそうじゃない!)』
「え? え~っと……?」
リンネちゃんの様子がおかしいって、リンネちゃんが普通だった時のほうが少ないんじゃ……。あ、確かにいつもより遥かにおかしいかも。バフの盛り方が尋常じゃないっていうか、殺意の高さが目に見えて…………あ、ヤバい。
「あ、ヤバいなこれ。全員聞いて~! はい、聞いてくださ~い!! 防御、防御陣形!! 回収作業は一旦やめて防御して、急いで~!! なんかヤバい気がする~!!」
『命令失敗:ミーシャの従者が困惑しています』
『ワォオオーーン! (言うことを聞け! ミーシャ様を囲んで防御、死守しろ!)』
『命令成功:ミーシャの従者がモッチリーヌ2世の命令に従います』
僕、要る?
「なんか、リアちゃんが知らない魔術を詠唱してる……? あ、ログ! ログ表示、自分と従者以外のログも表示すれば……!」
『オーレリアが【星に願いを】を発動、願いは通じませんでした』
『リンネが【コープスチャージ・パス】を発動、オーレリアのMPが完全に回復しました』
『オーレリアが【星に願いを】を発動、願いは通じませんでした』
『リンネが【コープスチャージ・パス】を発動、オーレリアの――』
え、なにこれは……。星に、願いを……ウィッシュ・アポン・ア・スター……? 失敗する可能性がある魔術なんてあるんだ、へえ~。しかもこれ、毎回MP回復してるけど、もしかして全MP消費とかそんなやつ? もう何十回もやってるみたいだけど、全然成功する気配がないっていうか……。
『オーレリアが【星に願いを】を発動、願いが星に届きました』
あ、成功した! 良かったね、何をお願いしたのかな~? もしかして、強力なバフをくださいとかそういうのが使えたりして! 流れ星に願い事をするロリっ子、可愛いな~……。
『オーレリアが【滅び】を願いました』
「え゛」
全然可愛く、ないん、です、けどぉ!? 滅びぃ!? 滅びってことは、滅びることなんですか!? ちょっと待って、星に願うクラスの滅びってどんなの!? ねえ、星に願う滅びってどんな……こんな、何十回もかかってやっと成功するようなスキルで、滅び!?
「あ、あ、あ……! ねえ、防御どころじゃないよ! 帰ろう!? 戻ろう!? 死んじゃうよ!!」
『ガウウウ!! (ミーシャの嫁を置いて行けるか、愚か者!)』
「じゃあどうすんの!?」
『ワウウウ!! (お前が考えるんだろうが、指揮官でしょ!)』
「あ、そうだった……。ど、どど、どうしよう、どうする……!?」
『リンネが【ミゼレーレ・ノービス】を発動、オーレリアが【死霊神の慈愛】状態になり、一定時間の間確定幸運状態になります』
『オーレリアが【二打連撃】を発動、次の攻撃が二回連続ヒットになります』
『リンネが【神威】を発動、次の攻撃が特大強化されます』
『オーレリアが【招き猫】を発動、選択した対象を呼び寄せます』
『エリアアラート:【滅び】が呼び寄せられています……』
待ってリンネちゃん、招かないで。まだ何も思いついてない、こっちになんの連絡もないのはどうしてなの!? 僕、死んでもいいってこと!? 仲間もろとも敵もぶっ潰しちゃえってこと!?
「ああ、どうしよう! どうする!? あれだ、とにかく壁! 岩を隆起させて壁を作ろう!?」
「ランドプロテクターしてるから、地面は使えないよ~?」
「無理じゃん……! えっとえっと、氷! とにかく氷、空間でも何でも良いから氷で壁作ってシェルター!! 早く、早く手伝って!! 静謐なる厳冬よ、氷壁となって我らを守りたまえ!! ブリザードウォール!!」
『【ブリザードウォール】を発動、氷の障壁を発生させました』
『……ブリザードウォール、ブリザードウォール』
『名も無き雪女が【クアドラプル・ブリザードウォール】を発動、氷の障壁を発生させました』
『ワォオーン!! (前に出ている奴らを退避させるんだよ!)』
『名を失った忍が【口寄せの術】を発動、お昼寝大好き、エリス・マーガレットが引き寄せられました』
「お? おっ?」
僕、要る……?
『つくねが【ホワイトゼロブレス】を発動、周囲の全てが凍りつく!!』
『ハッゲが【緊急冷凍調理】を発動、氷壁の強度が増加しました』
『レイジが【闘気防御】を発動、闘気が防壁となって顕現します』
「なんやお昼寝消えた思うて来てみれば、リンネちゃんが殺意マシマシやんけ。こりゃ絶対アカンで」
「これ、耐えられると思うか? なんかさっき、滅びとかログに見えたよな?」
「ぜってーヤバい! ユキノ、わっちの後ろに隠れてろよ!」
「は~い!」
あ、あれ、いつの間にか全員集合してる、呼びかけなくても皆揃っちゃった……? あの、本当に僕要らないんじゃ……。
『ミーシャの従者が渋々とは言え従うなんて、なかなか無いことよ。やるわね』
『氷壁で防御する考えは、悪くないと思うわ~。多分そろそろ緑の呪いは完全に復活するでしょうし、そうしたら今度は……なりふり構わず本気でしょうね~』
「ほんき~」
「ほんき~♡ シャーリーね、まだ新しい銃撃ってないよ! リンネお姉さんがね、まだ待っててね~って言ってきたの~!」
「そう、この後仕事があるから。シャルぴょんと、私で」
シャル、ぴょん。あ、このうさ耳の子……? 可愛いなあ~新顔だ、リンネちゃんの新しい従者だっけ? なんか変な違和感を感じるけど、今それどころじゃないんで、後!
「えっと、えっと! 多分この氷壁で耐えられないような攻撃が来るんで! なんかリンネちゃんが滅びを呼び寄せてるみたいなんで、異変を感じたら全力で相殺して自分の身を守ってくださーい!! 全力で、死ぬ気で!!」
『命令成功:ミーシャの従者が命令を受け入れました』
「いよいよリンネちゃんが本気か~。直接見れないのは残念だなぁ~」
「氷のシェルターが破壊されたら見れるで」
「見たいけど、み、見たくない……」
「見たら終わりだと思います~!」
「それはそう。確かにそう」
リンネちゃんが何をしようとしてるかさっぱりわからないけど、とにかくヤバいってことだけはわかる! とにかく、今は生き残ることだけを考えて……ッ!?
『エリアアラート:緑の呪いが完全に再生し、姿を取り戻します』
『エリアアラート:【滅びの隕石】が願いに応え、転移門から姿を現しました!』
「いん……?」
「せき……!?」
隕 石 だ ぁ 。
『緑の呪いが【ハルメテウスセイヴァーストーム】を発動』
『レイジの【闘気防御】が破壊されました』
「早ァ!? もう壊れ」
『アラート:氷壁耐久値が75%を切りました』
『アラート:氷壁耐久値が50%を切りました』
『アラート:氷壁耐久値が25%を切りました』
「ブ、ブリッ……!? ブリザードウォール!!」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ、隕石を呼び寄せてぶつけたんだ!! 氷壁の耐久値がバカみたいなスピードで減ってく、みんなで強化しまくったのに!!
『デロナが究極スキル【龍神大結界】を発動』
『エリスが究極スキル【幻影乱舞】を発動、全員が一定時間【幻影・100】状態になります』
「僕、この攻撃を耐えきったら、帰って皆にもふもふして貰うんだ……」
「アカン! それ死亡フラグや!!」
「大丈夫だよ~! 言わなくてももってぃなら死ぬって!!」
死にたくない、死にたくない、死にたくない……。帰ってもふもふ、帰ってもふもふ、皆に褒められたい、頑張ったねって褒めて貰いたい……だから、だから……!!
『アラート:MPが枯渇しています』
「あ」
あっ、MPが……!?
『アラート:氷壁の一部が崩壊しました』
『クリティカル! 爆風ダメージにより1,750Gダメージを受けました! 貴方は死亡しました』
なんで僕の近くの壁がピンポイントで壊れるのぉ!! しかもなんで爆風が僕だけに当たるのぉ!! 誰か守ってくれても良いじゃん、だってフリオニールさんとか居るんでしょ!? 守ってよぉ!!
あれ、あれ……? フリオニールさん、さっき戦場にいたよね? シェルターの中に……あ……? い、ない……? いない、いなかった! え、じゃあどこに……? まさか、僕より先に安全地帯に逃げた!? くっそぉおお……僕より先に逃げるなんて、あの人抜け目ないなぁ~!! 僕も逃げれば良かったんだ~!!
◆ ◆ ◆
『無駄無駄無駄無駄無駄ダァ、無駄ダァ!!』
『緑の呪いが【斬滅乱舞】を発動、相殺! 相殺! 相殺!』
凄く残念なことに、流れ星の専用スキル【星に願いを】の成功時の願い効果【滅び】は、落ちてくる隕石の種類を選ぶことが出来ない。しかも場所も指定できない。自分の周囲なのは間違いないけど、対象に当たる位置に落とせるかどうかは完全にランダム。
ただし、運を高めて招き猫の効果で位置を指定すれば、ほぼ完璧に狙った位置に狙った大きさの隕石を落とすことが出来る。狙い以外の小隕石がついでに運良く落ちてくることもあるけど、これはおまけだから別にどうでも良い。これぐらいの隕石じゃ防がれるのはわかりきってるから。
『エリアアラート:【滅びの大隕石】が転移門から出現しました!』
『ム、ダ……ァ……!? アアアア!!』
『緑の呪いが究極スキル【エメラルドブラスター】をスタンバイ!』
これだ、この大隕石! この大隕石は幸運を高めて招き猫を使えば、恐らく確実に落ちてくる! バビロン様が使っている魔神の修練場で何度も試したから間違いない。狙い通り、緑の呪いが本気を出さないと対応出来ないサイズの隕石が来た!
『緑の呪いが究極スキル【エメラルドブラスター】を発動! 滅びの大隕石の耐久値が減少しています!』
『ウウアアアア、アアアアアアアアッ!!』
『緑の呪いが究極スキル【エメラルドバースト】を発動!』
緑色のビームの後は、自身の身体を圧縮したものを射出して爆発させる攻撃、大隕石の耐久値が勝つか、緑の呪いの攻撃が勝つか…………。
『相殺! 緑の呪いが【滅びの大隕石】を破壊しました!』
『(お姉ちゃん!! 隕石が!!)』
『(リンネ殿!!)』
『ウ、ア、ハハハハ!! 無駄、無駄、効かナい、ぞ! 全て、無駄ダ!!』
――――それは、重要なことじゃない。
『む、ダ……』
『(本当に無駄かどうか、思い知らせてやれ……)』
「フリオニィィィイイイールッ!!」
本命はこっち、超巨大フリオニールを……くらえぇえええ!!
『フリオニールが【超巨大化】を発動』
『どこ、カラ、まさ、カ!!』
『宇宙からさ!!』
『フリオニールが【バスタースラッシュ】を発動、クリティカル! 緑の呪いが1,220,889Gダメージを受けました。衝撃分散! 緑の呪いが一部の体を犠牲にダメージを逃がしました!』
怪物には英雄をぶつけるって、昔から決まってるんだ!! でも初手での致命傷は避けられたか、だけど本命のおにーちゃんを無傷で!
奇策は成った。この圧倒的有利な状態、全力で利用させて貰う!!
『(リンネ殿、おばけ殿をどうやって、隕石と共に!?)』
『(リアちゃんが招待したのよ、アイツに向けて落とす隕石のところにね! リアちゃん、後は隠れてて!)』
『(あの時の……!)』
『(はいっ!!)』
『【雷神脚】を発動』
お前の相手はその超巨大英雄だけじゃないぞ、私を……いや、私達を忘れて貰っちゃ困るんだよね!! 覚悟しろよ、これが最終ラウンドだ!!