526 Reginleif・5
『ミーシャが【死体安置所】へカーサを納棺、強力な干渉により失敗しました』
『ラージウスが【時空歪曲】を発動』
――怒りを飲み込め、吐き出すな、状況を冷静に分析しろ。
奴は『かかった』と言った。間違いなくカーサさん狙い撃ちにするつもりだったのは明らかで、ミーシャさんが死体を回収しようにも干渉されて失敗する。つまり、カーサさんが最も邪魔であり、なおかつ取り込みたいから攻撃して引き込もうとしている。
そしてこの作戦は半分成功して半分失敗している。ラージウスが時空歪曲を発生させたから、引き込もうとしても引き込めない。例えるなら、カーサさんを引っ張るために真っ直ぐかけられたロープが、時空歪曲でぐちゃぐちゃにされて引っ張れなくなったような状態。つまり、そのぐちゃぐちゃを時間をかけて解消されたら……。
最悪のことを考えるよりも、理由。これだけ大勢の中からカーサさんを選んだ理由。パッと思いついたのは、カーサさんだけが奴を即座に完全無力化が出来るから。
私達から受ける物理的なダメージは修復出来るから問題ない。しかし、呪印を刻まれて肉体の所有権を失ってしまう攻撃は大問題。真っ向勝負ではガードがキツイから、一番油断しているであろう最初の最初……この瞬間を狙ってきた。
――この状況をどうすればいいか、私に何が出来るか…………解は出た。
殴れば良い。余計なことが考えられなくなるぐらい、問題ないと思っていたものが問題になるぐらい、殴れば良い。
『【シャパリュの剛脚】を発動』
『ヒ、ヒ、ヒ、無駄ダ、もう覚え、ました』
『緑の呪いが【ペネトレイトアーマー】を発動、ペネトレイト・???状態になりました』
無駄? 覚えた? 知ったかぶりはいつか身を滅ぼす。お前の場合は、そのいつかが今になる。
『【魔神斬滅驟雨】【魔狼掌底砲】を発動、ハイシールドイレイサー! 緑の呪いのペネトレイトを抹消!』
『ヒト、ツニ……!』
『【死体安置所・18】から【オルヴィスの死体】を取り出しました』
「滅びし肉体よ、最期の輝きを放ちて塵と消えよ!! 死霊爆」
『緑の呪いが【ヒトツニナリマショウ】を発動、【オルヴィスの死体】が緑の呪いに取り込まれました……』
『遅い遅い遅い遅い、ヒヒヒ、ヒヒヒトツに、ヒヒッ』
死霊爆発なんて当然ブラフ、ずっと前に使えなくなったスキルなんだよ。知らなかったでしょ? だから知ったかぶりは、身を滅ぼすんだ。お前は私に…………嵌められたんだよ。
「――取り込んだな?」
『ヒ、ヒ……?』
『【神速の装備変更】を発動、【□天を滅する・魔神の大鎌】と現在の装備を交換しました』
『緑の呪いが【神聖障壁盾】を発動』
お前は他者を取り込み一つになることで、その特性やスキルを獲得することが出来る。戦闘能力に関しても吸収率が高く、一度通用しないと思った行動は繰り出さずに次の手を考える。狡猾な策士、相手のやろうとすることを確実に潰すタイプ。
認めるよ、私の考え方に似ている。相手が嫌だと思う行動を平気でするし、戦いの流れを自分で作ろうと誘導するところも似てる。対応能力の早さもずば抜けてる。死霊爆発の詠唱を聞いただけで、爆弾に使おうとした死体を先に取り込む判断能力も称賛に値する。
でも、それがお前の敗因だ。お前はオルヴィスを取り込んだ。オルヴィスは…………聖属性で熾天使特性を持っている!!
『【魔神斬滅驟雨】を発動、聖属性特効! 天使特効! Weak! クリティカル! 緑の呪いが合計980,780Gダメージを受けました』
『――……ッ……』
木っ端微塵に吹っ飛んだ、でも撃破ログは当然出ない。アレだけの爆弾を食らってピンピンしているのだから当然再生能力も凄まじい。でもね、攻略方法は必ず存在しているはずなんだ、そう作られているのだから。
星が揺れるほどの爆発に耐え、四倍特効に弱点にクリティカルまで突かれても尚死なない、その秘訣がどこかにある。必ずある。どこだ、どこに……!
『ガリャルドが神技【真・アルティメットプレス】を発動、究極の重力波が周囲を押し潰す!』
「うっ……!!」
『このぐらい我慢出来るだ――』
ガリャルドが神技の重力波を使った影響で、周囲の建物や地面が押し潰されて真っ平らになっている。最大出力になる前までは聞こえていた声さえも、重力に押し潰されて私の耳に届かない。この威力、身体能力を特大強化していなかったら、重力に押し潰されてぺちゃんこになっていたかもしれない。
地面に走っていた亀裂はみるみる内に埋まり、強烈な圧力によってマグマ化寸前の場所さえある。地面に潜っていた緑の呪いの一部に居場所がなくなり、押し潰される前にと地上に這い出している。
緑の呪いはこの重力波の影響で再生が遅くなっている。移動ができずに一つになれなければ当然のこと。この中にあるはず、こいつの核になっているような、弱点が……!
『デロナが【ランドプロテクター】を発動、指定範囲の地面の状態が固定されます』
『緑の呪いが【再生】を発動、強力なダメージを受けた影響により再生が遅れています』
「――再生しようとしとる、見てみ!! 鍵や!!」
「あっちにもあるよ~!!」
「鍵だ、リンネちゃん! 鍵が奴の生命線じゃねえかと思う!」
重力波が弱まった! 鍵……? あの、緑色の鍵!! 緑の手の構成員分だけ量産された緑色の鍵が、こいつの核ってこと!? やってみる価値はある!
『やれるだけやったぞ、こっからはお前達の番だろ!!』
『カーサが……』
『やられた奴は気にするな、俺が責任を持って守り抜く。行け!』
『ミーシャ、しっかりしなさい!』
『で、でも……カーサ、カーサが、魂が……!』
「鍵だけは厳重に守られてるじゃねえか!! そんなに大事かぁ!? ぶっ潰れろよぉおおお!!」
『つくねが【叩き潰す】を発動、ブレイク! 緑の鍵が破壊され、緑の呪いの影響力が減衰しました』
「あ! ユキノ、今の気配を覚えました~」
「間違いねえ! 何十個あるんだか、もしくは何百あるかわからねえが……」
「全部ぶった斬ったらええんやろ?」
「リンネちゃんがぶっ飛ばしてバラバラになってる今がチャンスだよー!!」
間違いない、これだ。明らかに各鍵を中心に再生していて、一刻も早く一つに戻ろうと焦っている。偽物の鍵じゃ影響力が弱くなるだけ、本物だ。本物を叩けばこいつを根絶やしに出来る。そうすれば、カーサさんも助かる……!!
『もってぃがログインしました』
「うわ、臭ッ!! やっぱ無理!!」
は……? あ、逃がすわけないよね。
「もってぃ?」
「え? あっ、違うんです。これには理由があるんです。聞いて下さいリンネさん、いや師匠! 神様!! 女神様!!」
「ミーシャさんの軍、代わりに統率して。無力化した緑の呪いを凍らせて運搬、今すぐ! 今! すぐ!!」
「はい!! やらせて頂きます!! 凍らせるのもあります!! みなさーん! みなさん聞いてくださーい!! 今から僕が代わりに指揮をしますから、お願いですから聞いてくださーい!!」
『ミーシャの従者が全員拒絶しています』
「一刻も早く敵を処理し、カーサさんを救出するために、代行指揮官の命令に従って動いて!!」
『ミーシャの従者が命令に従います』
「ドウシテ、ドウシテ……」
どうしても何も、自分の普段の行動を省みるべきでは? 私はそう思うけどね。
『(ミーシャさん、聞こえますか。カーサさんを失うかもしれないショックは私も理解出来ます。冷静な判断が出来ない今、ミーシャさんは一旦退いてください)』
『あ……』
『(千代ちゃん、聞こえる?)』
「――此処に!!」
「うわっ……」
指揮能力が失われているミーシャさんは一旦退かせるしかない。もってぃはこれでも一応ギルドマスター、指揮能力も今まで一緒に戦ってきたのを見る限り悪くはないのはわかってる。これだけの軍、動かせるのであれば動かしたいから、もってぃを信じて任せるしかない。ちょっと不安だけどね。
それより次の手、緑の呪いはさっきも言った通り学習能力が高い。さっきの特大ダメージで再生が遅れているだけで、鍵を破壊し尽くすよりも再生しなおすほうが早いのは明らか。私が加勢してもそれは変わらない。
なら、もう一度特大ダメージを与えて木っ端微塵にするまで。でも間違いなくさっきの攻撃は通用しないだろうから、別の手を考える必要がある。
『(リアちゃん、千代ちゃん、作戦会議よ)』
『(鍵の破壊に行かないんですか?)』
『(今から加勢しても数個、到底間に合わない。それに私が手を出しては次の手にも間に合わなくなる。次の攻撃は、また別の作戦が必要になる)』
『(して、その作戦とは……?)』
逃げ場がなく、弱点も露呈した今、緑の呪いは危機を感じているはず。これまでとは比べ物にならない程に凶悪な攻撃を乱発してくるのは想像に難くない。次の猛攻を凌ぎ、尚且つ強力な一手を叩き込む手段は……。
『(私に千代ちゃんが憑依、リアちゃんの一撃が重要になるよ。箒は特化魔術型の、流れ星を使って)』
『(あの、一番使い勝手が悪い奴をですか!?)』
『(そう、あの箒の出番よ)』
――やっぱり、奇策が一番よ。