519 無慈悲な女神様
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【□ブラックホールボソバー】(消費アイテム・ニューホープエピック)
・作動させると【巨大暗黒球体】を発動することが出来るアイテム……の偽物
・本物は古代系統のアイテムであるため、ニューホープエピックの時点で間違いである
・非常に精巧に作られており、本物と同等のスペックは有しているものの、実際には何も発動しない。高度な鑑定スキルを有していなければ本物と同様の効果が記載される
――ビックリしたでしょ~? 冗談よ、冗談! by大怪盗アルセーヌ
「なんだ、そもそも偽物だったわ」
「投げる前に止めたのに、頑張り損だったね~♡」
急に『お前ら全ロス確定~死ね雑魚ども~』って襲いかかってきたガキンチョがいたから、私とシャーリーちゃんで手に持ってた爆弾を投げる前にとっ捕まえてボコボコにしたけど……なんだ、ジョークアイテムだったわ。
でも本物と同等のスペックは有してるみたいで、中に魔術を詰め込んで閉じ込めてスイッチを押せば、三秒後にその魔術がちゃんと発動するようにはなってるみたいね。結構面白い性能してるから、ありがたく貰っておこうか。
「離せよクソチート!! チートだろ、倍速チート!! 死ねよチートプレイヤー!! 死ね死ね死ね死ね!!」
「おう、こいつ仲間か? 同じアイテム持ってたぜ」
「う、裏沢君! これ発動しないよお!!」
「ああ、冗談じゃなくて本気で発動しようとしてたのね。ギルティ」
『テロリストか? とりあえず処刑だろう』
『テロリストは~処刑だぁ~!!』
『しょーけーいー。しょーけーいー』
『あらあら、おいたが過ぎるわ、ね?』
なるほど、本気でこれで私達を倒すつもりだったんだ。倒せたとしても……誰か倒せるかな? 巨大暗黒球体ならランク5の抹消だろうから、このぐらいは耐性持ちの人しかいないよね。というか今はランク6の強抹消に対しても耐性持ってる人ばっかりだろうし、ティスティス様のお守りの効果で。
こいつらどうしよっかな~。二人だけかな? 片方はこの裏沢って奴の金魚のフンっぽいし、じゃあ~……あっ! 良いこと思いついちゃった。魔神殿でテロリストを捕縛した今なら犯罪者を拘束出来る権限があるからペナルティでログアウトは暫く出来ないはずだし、この時間を有効活用しよう。
「良いことを思いつきました。リアちゃん、そっちの方を追跡して。こっちでチートチート言ってんのは残し」
「あ、ふ~ん……。じゃあ、さよにゃら~またね~」
「やだよ死にたくな」
『オーレリアがエリックスに99Gダメージを与え、撃破しました』
『エリアアナウンス:魔神、及び魔神殿に対して重大な冒涜を行ったプレイヤー【エリックス】――所属ギルド【卍最強裏沢帝国卍】――が、重大なペナルティを受けました。また、ギルド【卍最強裏沢帝国卍】は指名手配となり、身柄を魔神殿に引き渡したプレイヤーには報酬が与えられます』
「あ、近くに復活しましたね。港の倉庫の方、今猫を向かわせますね~」
『オーレリアが【大炎上猫弾】を発動しました』
これは、こいつらの拠点が炎上するわ、物理的に……。まあそれだけのことをやったんだし、未遂とは言えども到底赦される行為ではないよね。
さてさて、ログアウト出来ないことに気がついてぎゃーぎゃー騒ぎ始めたお馬鹿さんは、ちょっと良い使い道を思いついたからこっちに来ようね。
『【魔狼破壊掌】を発動、MISS……。対象に命中しませんでした』
「い゛……!?」
「立て。ここで死んだ場合、君は装備とかアイテムは魔神殿が強制没収、陣営からも追い出されて人間に戻されてレベル1からやりなおし。わかる? エリックス君だったかな? 彼はもう手遅れだけど」
まあどの道君も手遅れだけど。希望をチラつかせたほうが扱いやすいし。
「わかったわかった立つよ!! 他に何すんだよ!! そもそもこのオレを誰だと思ってんだよクソ女!! お前、絶対リアルで特定して親に頼んでぶっ殺して貰うからな!! 顔覚えたぞ、リアモジュだろ? すぐ特定出来んだよバーカ!!」
「おいおい少年。それ、今すぐ発言を取り消さないとヤベえぞ?」
「アカンなあ~脅迫はアカンで~ガキンチョ。嘘ですごめんちゃいって言わんと……」
「誰が取り消すかよオッサン!! ちょっとゲームで強いぐらいでイキってんじゃねえぞ。こっちはリアルで最強なんだよバカが! お前ら今週中に死ぬよ? オレの親父、社長だから。マジで死ぬよ?」
あー……。この手の脅迫って、絶対にやっちゃダメなタイプなんだけど……。本当にこいつ15歳超えてる? バビロンオンラインって一応15歳以下、中学生以下はプレイ禁止のお約束なんだけど……。もしも15歳以下でやってるとしたら、これまた重大犯罪のライセンス偽造になるんだけども……。まあいいや、それより実験したいから。実験実験~。
「ミーシャさ」
『みーちゃん、ね?』
「……み、みーちゃん。とりあえずこいつにサンプルぶっかけて、お昼寝さんで試す前にさっきの方法をこいつで試してみましょう」
『いい考え、ね? 有効活用、だわ』
「おいてめえ、無視してんじゃ――――…………ッ!? ッ!?」
『デロナが【サイレンス】を発動、卍最強冒険者裏沢卍が沈黙状態になりました』
「デロナちゃんありがと~」
「煩かったから、当然だよね!」
『理解。実験と処刑の、同時執行』
『ああ、なるほどな。先程、リンネが言っていた呪物化抽出法が上手く行くかのテストというわけか』
『実験~! 実験大好き~!!』
「皆さん理解がお早いようで。後腐れなく使える、ちょうど良い実験体が手に入ったなと思って。それじゃ、やってみましょう」
まずは最強のなんちゃら君を結界の中に閉じ込めます。次にウーズ化したお昼寝さんから採取した緑の呪いを……なんだっけ……。まあいいや、実験体の結界内部に投入します。結界はグリムヒルデさんの許可があればこっちからは自由に投入出来るから便利ね。投げつけて容器が割れたら感染開始。
実験体にあらかじめサイレンスをしておいたのは正解だったね。結界をバンバン叩いてなんか叫んでるけど、何も聞こえないわ。へえ~手先や足先から溶けるんだ……弱いところから溶けていくのね。いや~これグロテスクな光景だわ、ゴアフィルターありでこれなの……? うひゃあ~……!!
「じゃ、じゃあ、しっかりと緑の呪いに取り込まれたみたいだから、代わりの死体と装備を用意して……」
「その死体と装備の方も結界で塞いだほうが良いんじゃねえか?」
「え、あ~……」
『余裕~。いえ~い』
「す、すみません……。お願いします……あれ? シャーリーちゃんは?」
「ん! それの仲間を連れてくるのに、猫ちゃんを追いかけて行きました!」
「ええ……。まあいっか……」
実験体君の仲間の方は、まあリアちゃんとシャーリーちゃんに任せておけばいっか。とりあえず私は実験を続けようかな。
用意してある死体は、歓楽街の地下迷宮で発生した特殊なモンスターハウス、マッチョハウス産のマッチョキングスペンギンとかの死体で、一応レベルは700前後。皆が持ち込んでくれたから20体はあるからおかわりは可能……。よし、やってみよう。
「それじゃあ」
『――素晴らしい動きでありますシャーリー殿!! 今度一戦ぜひ……』
「――今度一緒に遊ぼ……」
「……今なんか、ニュックスニーニャちゃんとシャーリーちゃんが通ってった?」
『通っていったわ、ね? 実験体も、増えたわ……ね?』
『デロナが【サイレンス】【バインド】を発動、複数の対象に沈黙・拘束状態にしました』
「あ、ありがとう……」
「あ~と~で~、デロナもご褒美欲しいな~っ!!」
「うんうん、後でいっぱいあげるね。本当にありがとう」
やってみようって時に、猛スピードでシャーリーちゃんとニュックスニーニャちゃんが実験体君のとこのギルドメンバーを捕まえて置いて行ったわ。前もそうだったけど、こういう時にギルドって連帯責任を取らされるのよね~。特にギルドマスターが重罪を犯すとメンバーまでペナルティがキツくってね。
恐らくだけど、こんなのと一緒に活動してる時点で同罪だよってことでペナルティを受けるんだろうけど、ここでギルドを脱退するか何か謝罪の為の行動を起こせばペナルティが軽くなるか、もしくはなくなるはずなのよね。それをしないから、同類として扱われちゃうわけで……。
まあいいや、それより実験の続き。緑の呪いは実験体に十分回ったし、抽出実験をしてみよう。使いたい死体をロックオンして、呪いを緑の呪いにターゲット、装備は倉庫から出してきたどうでもいい装備。いくぞーっ!
「じゃあやりまーす。捧げよ」
『アラート:緑の呪いが激しく抵抗しています!!』
「あ、すっごい、かなり抵抗される!」
『捧げよ、ね?』
『捧げよ』
『捧げよ~』
『葬儀屋ミーシャ、呪物師カーサ、反魂師リザが【アニメイト・フェティッシュ】を発動』
私一人じゃ全然、呪いの抵抗がめちゃくちゃ激しいわ!! ミーシャさん達が手伝ってくれた、でも四人がかりで呪物作成なんてやったことないからどうなるか……!! いやーこれ、本当にお昼寝さんが一発目じゃなくて良かったわー!!
『スキルリンク! 【ミックス・カースド・アニメイト・フェティッシュ】が発動します。超級呪物の使用に成功しました!』
『★ドラゴンアーマーが呪われました!』
『★ドラゴンアーマーが変質し、急速にイレギュラー化が進行します!』
『◆◆◆天邪鬼の鎧が完成しました! おめでとうございます!』
「うわ、おお……?」
『あら、余り物がちゃんと残ったわ?』
『暴れん坊な呪いでしたわね』
『四人なら余裕で抑え込めるわね』
『呪いの汚染度、確認されません。かんぺき~』
おお、実験体君がちゃんと残って、装備も出来上がった! 呪いは……完全に祓われてるみたい! この方法なら、お昼寝さんも抽出出来そう……なん、だけ、どっ!!
「……これ、めちゃくちゃ優良装備じゃないですか?」
「鑑定鏡で見てるが、緑の呪いの効果も残ってねえな。完全にねじ伏せられた、負けたって感じだ。装備も……すげえ、マイナスの状態異常を受けると逆に良い効果として反転出来る鎧だってよ!!」
「これアカンやろ、強すぎるで!! あ、良い効果は悪うなるみたいやな……」
「なるほど。まさに天邪鬼、だな」
緑の呪いで出来た装備、めちゃくちゃ優良装備なんだけど!! これは、そうですよね。ミーシャさん達もそう思いますよね。目を合わせたら『うんうん、そうよね』って顔してますもの。
「ミーシャさ」
『みーちゃん、ね??』
「みーちゃん……。これ、もっとサンプルを取って……」
「リ゛ン゛ネ゛ち゛ゃ゛ん゛! お昼寝、早く、も゛と゛ち゛て゛ぇ゛!!」
「あ、そ、そうですね! まず戻して、それからやりますから……!!」
ずっとじーっとしてたエリスさんが、急に動き出したあ! 怖い、怖いです! ちゃんと戻しますから、今の感じなら行けますからぁ!! 落ち着いてください!!
「うん……。お願い……」
「そしたらまず……」
『これだけ強力な呪具が作れるのであれば、錬金術でも転用出来ないか?』
『扱いさえ間違えなければ、すっご~いのが出来そうだよね~! ほらほら、毒も転ずれば~って言うし!』
なるほど……? 緑の呪いを使って、強力なポーションを……。おっ! そうだ!!
「あの、思いついたんですけど」
「リ゛ン゛ネ゛ち゛ゃ゛ん゛!」
「わああ、すみませんすみません!! やってからにしましょう!!」
まずはお昼寝さんを戻してからですよね!? 本当、すみません! 今やります、やらせて頂きます! どうか怒りをお鎮めくださいませ、エリス様!!
『エリアアナウンス:指名手配ギルド【卍最強裏沢帝国卍】のメンバーが全員拘束されました。冒険者様のご協力に感謝致します』
おっ? 愚かにも魔神殿に手を出そうとしたテロリストも捕まったみたい。それじゃあまずは、実験体を増やし……増やす前に、お昼寝さんとめーちゃんを元に戻して! それから、更に実験を繰り返して、緑の呪い産のアイテムを作ってみよう~!!