512 黒き都市
「てめえらの仕業だってことはわかってんだ!! ディアナの仇だ、ぶっ殺してやる!!」
「知らねえって言ってんだろ!!」
「グレゴが殺られた!! 生かして帰すな!!」
――おかしい、何か変だ。
幻龍会が消えた。あそこの狂った兎が北の都市にちょっかいを出して返り討ちにされたと聞いた時は『ありえない話でもない、世界には恐ろしく強い奴がいる』ぐらいに思っていた。しかしレギンまでやられたと聞いた時、我が耳を疑った。
レギンを過小評価している奴らは多いが、私は彼の悍ましい強さを理解している。世界の理を捻じ曲げるほどの力、絶対を覆す力、地下迷宮で一目見た時からやつに逆らうことだけは絶対にやめておこうと本能が警鐘を鳴らした。
そのレギンが、やられた。そして幻龍会は一人残らず、それこそ幻だったかのように消え去っていた。ほんの数時間前までちょっとした小競り合いを起こしたはずの相手が、一人残らず影も形もなく……。
「うわあああ!!」
「くそっ!! くそっ!! またやられた!!」
「誰なんだよ、ハッピートランスポートの幹部!! ディアナをぶっ殺した馬鹿は!!」
「知らねえっての!!」
そしてつい数十分前、憩の宿・トーメントの幹部が毒で殺された。現場にはハッピートランスポートの構成員が身につけているバッヂが落ちていた。そのハッピートランスポートの幹部が更に殺された。現場にはうちの連中が所持している緑色の鍵が落ちていた。更にうちの幹部、まあ私の夫となるはずだった男なんだが……無惨な姿で発見された。憩の宿が拷問に使う手錠が嵌められた状態で、胸を一突きだ。
「姉御!! このままじゃ挽き肉にされちまう!! 一旦ここを離れたほうが良い!!」
「馬鹿野郎!! 本部を捨てる気かてめえは!!」
明らかに何者かに仕組まれている。しかし、幻龍会を含む四大組織が壊滅したところで得をする奴が全く存在しない。アールゲインが崩壊してしまうだけで、その後には何も無い。何故このようなことを? この衝突を望んだ者の真の目的は一体何なのか?
「シェルターまで撤退する。ここにいる20名が緑の手の最後の構成員だ、私に続け」
「て、撤退……! 撤退だ、撤退!!」
「くそっくそっ!!」
「いつか必ず、奴らに復讐し」
「ヒカリとモクを投げろ! その隙に脱出するぞ!!」
今この場にそれを判断できる材料は存在しない。出来ることはこの場を去ること、熱りが冷めた頃合いを見計らって我々緑の手を再結成し、再びこのアールゲインを手中に収め……?
「おい、閃光弾と煙幕はどうした?」
「…………」
「何をぼーっとしているんだ、早く……ッ!?」
倒れる……? 血が、崩れ……ッ!? 死んで……!!
「アッ……!? がっ……!!」
私の、胸……から、剣……!? 片刃、の、ハッピートランス、ポートの奴らじゃ、ない……!! しか、し、フェニックスの……!!
「あ、あ……!? か、え……せ……!!」
いつの間に、盗まれて……!? い、いや、あるじゃないか、私のネックレスにちゃんと……!
「まあ、持っとるわな」
「――ッ……? ッ…………」
「なんや、えらいあっさり終わってもうたな。風魔忍、履修せんとアカンかもわからんなあ。レベルドレインして貰おか悩むなあ」
「まだ息があるようです」
こいつ、らは、どこの……。まさ、か、幻龍会、も……。
「いやいや、さっきので死なれたら逆に困るんや」
「それは……?」
「ああ、これでトドメを刺すと復活を数十分防止出来るんや。今度皆にも作り方教えたろ思ってんねん」
「そのようなものがあるのですね……」
「火力は低いんやけど、その分強力な効果があるっちゅうことやな。さて、お喋りはここまでや」
何が、狙いなの、こんなことをして、アールゲインに未来は…………!? まさか、まさ、か……!!
「お、ま……え……」
「生憎、何も教える気はあらへんで。死んでも情報を渡す方法があるっちゅうのはわかっとるからな。ほな、死んで貰おか」
ここで、終わって、たまるか……!! 緑の手は不滅の
◆ ◆ ◆
「レギンさんの言ってた通りだね。緑の手の女ボスは頭の回転が早い奴だから最初に始末したほうが良いって、死に際にはこっちの計画に気がついてたみたい」
「全部虚無送りにしちゃえば簡単なのに。う~……」
「もう三個も食べたでしょ? 約束より多いんだから、我慢して?」
「美味しいんだもん!」
リアちゃん、空っぽのツニャ缶をぺちぺちしても中身が復活するわけじゃないんだから、もう諦めてツニャ缶ぽいしなさい……。
「それ、美味しいの?」
「美味しいんです! これだけあれば、ずっと幸せなんです!」
「でもお野菜も」
「野菜は嫌いです!!」
「わあ~……!?」
「シャーリーちゃん、リアちゃんはお野菜が大嫌いでね……」
「あ、でもシャーリーも苦いお野菜は嫌い!」
「甘いのも嫌いです!」
「じゃがいも、美味しいよ?」
「じゃがいもは、ぎりぎり……あ! カリカリにした時だけ好きです!」
「フライドポテトね……」
「シャーリーそれ知らない! 食べたーい!」
「今度ハッゲさんに作って貰おうっか。お、なんだか段々アールゲインが静かになってきた気がしない?」
「早く壊したいな~! シャーリーね、アールゲインが嫌いなの!」
「え、嫌いなんだ?」
「うん! 汚いし臭いし我慢することがいっぱいでイライラするの!」
「バビロニクスは綺麗で食べ物もいっぱいで、我慢することもほとんどないですよ。ちょっと暑いのが玉に瑕ですけど」
「暑くても平気だよ~♡ 脱げば良いんだもん!」
「シャーリーちゃん、気軽に他人に素肌を見せるのはあんまり良くないかなって……!!」
「そうなの~?」
「お風呂は放送しちゃうのに、ダメなんですか?」
「ア゛!! 悪い子だ! 悪い子だよリアちゃん、暫くツニャ缶抜きを覚悟しなさいね!?」
「お姉ちゃんが指示不足なのが悪いんです~私は事実を述べただけです~」
「事実陳列罪だよ!!」
「お姉さん、悪いことは悪いって認めなきゃダメなんだよ~?」
「ぐ……!! わ、私が、悪う御座いました……」
後何回擦られるんだろう、私のお風呂放送事故の話……。まあ見えてないから、ほぼ見えてないに等しい内容だから! マリちゃんと千代ちゃんの太ももが水中で映ったぐらい、ほぼ被害ゼロだったからセーフなんだよ!! セーフだもん……。
「それにしても、本当に静かになりましたね~?」
「だね。レイジさんとお昼寝さんから連絡が入ってもおかしくないんだけど……」
「う……! なんか、アールゲインの臭いが、もっと臭くなった気がする~……!」
「うぇ、本当ですね……。なんか腐臭がする気がします……」
なんでこんなに静かになったんだろ? もっとドンパチドンパチやっててもおかしくないような気がするんだけど、もしかしてレイジさん達だけで完全に制圧しちゃったとか?
『全体ギルチャですまん! アカンことになったで!!』
『もうこれは僕達の手に負えないや! 皆~助けて~!』
「え、この状況で応援要請が来た……? とにかく、応援要請が来たから」
「やっとシャーリーの出番だ~♡」
『アカン! 来たらアカン! 闇属性の奴以外来たらアカンで!!』
『早く助けて。早く助けて。早く助けて。ハヤクタスケテ。ハヤクタスケテ。タスケテ。タスケテタスケテタスケテタスケテ』
『お昼寝が感染しとる、このギルチャは乗っ取られとるから言うこと聞いたらアカン! 来たらアカンで!!』
『(リンネ様助けてください。リンネ様助けてください。リンネサマタスケテ。リンネサマ、タスケテ)』
う……!? なにこれ、お昼寝さんとめーちゃんから気持ち悪いメッセージが……!?
「待って! 先行したメンバーの様子がおかしい、何かに感染したって言ってる!」
「カンセン?」
「ティアにゃんは!?」
「今確認する!」
現地に向かってるのはレイジさん、お昼寝さん、めーちゃん、ティアちゃんだけど……。ティアちゃんから何の連絡も入らない、状況を確認しなきゃ!
『(ティアちゃん!? 聞こえる!?)』
『(はい! 聞こえます~! ティアは緑の手さん達が来るのを、シェルターの中で待ってます~!)』
「あ、だから状況がわからないのか……!」
ティアちゃんは属性を闇に変えられたはずだし、そもそも状態異常が効かないし、レイジさんが感染してないで正しいことを言ってるなら耐性はバッチリのはず。どういう状況なのか確認して貰わないと。
『(外の様子がおかしいの。闇の鎧を身に纏って外に出て確認して!)』
『(は~い! え~っと……うわあ~!? みなさんドロドロです~! ぐちゃぐちゃの緑色のスライムみたいになってます~!!)』
「ドロドロになって緑色のスライムみたいになってるって、生物兵器かもしれない!」
「あ!! もしかしたら、緑の手のオバサンかも! 昔会った時に殺そうとしたんだけどビッグボスに止められたんだ~! その時ね、我々は一つになれる、いつでもその扉を開けられる鍵があるって、前に言ってた!」
「うわあ……。絶対それだ……」
最悪だ、最後っ屁に絶対その鍵とやらを使ったんだ。毒属性のお昼寝さんが感染するってことは毒じゃない、闇なら効かないってことは闇属性か不死属性……。不死ならどちらにせよ毒も闇も不死も効かないし、耐えられるはず。
「シャーリー達はこれがあるから、大丈夫かな~?」
「それ、見せてくれる?」
「うん! 全部見せてあげる~! 見ていいよ~♡」
『シャルナーデが貴方に対して装備情報を完全に公開しました』
「そんな気軽に……うわ、情報開示されちゃった……見ちゃうね?」
シャーリーちゃんの装備、気になっては居たんだけど……。ごめん、好奇心に勝てないから全部見させて頂きます!! ええっと……?
【装備】
右手:□ガンナーグローブ+10【ARC+130】
┣44ミリのレクイエム+11
┗11ミリのラプソディ+9
左手:□ガンナーグローブ+10【ARC+130】
┣22ミリのノクターン+10
┗88ミリのスクリーム+10
頭:□■Ms.カラミティ+10【O】
体1:□■Ms.ハートショット+10【O】
体2:□■Ms.クリムゾン+10【O】
足:□■Ms.マリー+10【O】
アクセサリー【指】:□ヒュドラの瞳+10
アクセサリー【腕】:□ヴェスパー+10
アクセサリー【首】:□戦場のマエストロ+10
アクセサリー【他】:□黒兎兵団のコンバットマスク+10
特殊装備【お守り】:□無限フェニックスのお守り+10
┣ARC・AARC+100
┣HP+2000%
┣死亡時、一度だけ死を免れ復活する
┗効果発動後、5分経過で再度使用可能になる
特殊装備:【(SW)兎詐欺カチューシャ】準ワールドアイテム
・頭装備の見た目を上書き
・任意で好きな見た目のウサ耳に変化させる
・ARC+300
・AARC+250
・割合ダメージを全て無効化する
・最大で2秒の誤差が生じる【兎詐欺】状態になる
・擦りダメージをほぼ無効化する兎詐欺判定状態になる
――音速の世界の2秒、誤差とは言うまいな?
あ、はい。ある程度強化済みの超機フルセットです、これ。ということは、アールゲインに超機を強化できる機械とか眠ってらっしゃいませんか? 絶対ありますよね? いや、もしかしたら地下迷宮にあるのかな……?
それよりシャーリーちゃんも行って大丈夫かどうかよね。黒兎兵団のコンバットマスクが着用中は全状態異常無効ついてるし、マスクを付けてる間は大丈夫だと思うけど……。無効貫通とかまであったらもうわからないね、多分大丈夫としか言えないわ。
そしてツッコミどころ満載のお守りと特殊装備よ、セミワールドアイテム……!? 無限フェニおま……HPがプラス2000パーセント!? 見てるだけで目眩がする、本当になんでこんな怪物装備かつ戦闘のスペシャリストみたいなシャーリーちゃんに勝てたんだか……。
「た、多分、大丈夫かな……?」
『(闇の鎧を外しても大丈夫でしたよ、リンネ様~! きっとこれは呪いに近いと思います~!)』
「え゛、あ……大丈夫だって。闇属性なくても、ティアちゃんの近くにいればとりあえず問題ないっぽいから、状態異常系だね」
『(外しちゃったの!? ま、まあ、無事なら良いんだけど……。無茶しないでね)』
『(は~い!)』
「でもでもどうしようね? ドロドロ相手に何をすれば良いの?」
「とにかく現地に確認に行くしかないですね。行きましょう!」
「そうね、とりあえず現地に行こう」
まずは現地に行ってどんな状態なのかを確認しなきゃ、何をするか決めるのはそこからよね。お昼寝さんとめーちゃんもドロドロになっちゃってるんだろうし、救出を急がないと。何かがロストするような最悪の結果になったら大変だし……。あ~あもう、死なば諸共みたいな奴が居るなら先に知りたかったな~……。いや流石に、こんな効果を発揮するアイテムを持ってるなんてわからなかったか。これは仕方ない事故、これ以上被害を拡大しない内にどうにかしに行こう。