510 タイヘン、ヘンタイ
レギンさんと話し合った内容をお昼寝さんやローゼスさんに伝えている間に、めーちゃんとティアちゃん、ついでに黒猫に化けたリアちゃんも同行してアールゲインに侵入して貰った。
めーちゃんの進化具合がまず驚きで、忍術と体術の両方をイイトコ取りした風魔ベースの独自進化が素晴らしいの一言。スピード勝負もパワー勝負も手数勝負も対応出来る上に、影への潜伏や夜系の環境属性を獲得している場合はレギンさんやシャーリーちゃんでも発見がやや難しいと評するレベル。これでまだレベルが400とちょいぐらいなんだからますますの成長に期待が持てるね。
閑話休題。リアちゃんが同行することになった理由は、リアちゃんも周囲のフィールドを強制的に深淵の夜に変更出来るアビスナイトメアが使えるから。めーちゃんの隠遁・月影の効果でパーティ全員が発見困難な状態になるシナジーがあるから、同行して貰ってるのよね。ちなみに報酬『ツニャ缶、プレミアム大トロねこちゃん大満足』。このツニャ缶じゃないと絶対に食べてくれないのよ。こだわりの逸品なの……。
『報告。月光の歓楽街にある地下空間は、アールゲインにある地下迷宮よりも巨大ではあるものの、採掘出来る物資の質はアールゲインには遠く及ばないものと思われます。未だ深層まで調査していないので、この評価は覆る可能性があります』
『驚いた、この短時間でもうそんなに探索が進んでいるのか』
『我々はボスに直々に鍛えられた精鋭ですから。それに迷宮に巣食うモンスターはアールゲインよりも格段に弱く、罠もありきたりです』
月光の歓楽街の地下、ヴァハールさん達が暮らしていた地下空間だね。その地下空間より更に地下には大迷宮が広がっていて、いわば洞窟系の探索型ダンジョンなんだけど、一定周期で道が変化したりモンスターが自動的に追加されたり、事前に聞いていた話ではかなり厄介そうな場所だったんだよね。
興味を持ったエリスさんやゴリアテさん達が黒兎兵団の調査に同行しているんだけど、この報告を聞く限りは大して難しい迷宮でもないのかな~。
「油断してると、大きな地雷を踏んで、どっか~んって皆が死んじゃうよ~♡」
『そう、ですね。初心に戻り、慎重に進めます』
「エーカムさん、報告ありがとうございます。助かります」
『契約ですので。調査が早く終われば、我々の自由も近づくというもの……ん? 通信が……? おい、どうした?』
ねえねえ、大したことないのかな~って思った瞬間に暗雲が立ち込めるのは勘弁してくれない? 私が悪いみたいじゃん! お願いだから良いニュース、大発見みたいな嬉しいニュースが良いなぁ!
『第三班と通信途絶。救助部隊を編成して現地へ向かわせろ、通信途絶箇所の座標を送信する』
『うわ~大変だ~この迷宮は――』
「あああ~……」
「トラブル? トラブル? シャーリーの出番!?」
これは嬉しくないニュース確定! エリスさんからのギルドチャットも途中送信で切断された。ギルドメンバーを確認出来るリストから位置情報を見ようとしても不明なエリアって出るし、歓楽街の地下迷宮は面倒なシステムが組み込まれてることが確定したね……。
『(リンネ様~! アールゲインから黄金回廊を発動しても何も問題ありませんでした~! レギンおじさまが皆さんに一言二言命令したら、一斉に脱出に向けての動きが始まりました~!)』
こっちは良いニュース。アールゲインから夜闇に紛れて幻龍会全員脱出計画は、どうやらかなりスムーズに進行しそうね。
アールゲインから、いやレギンさんから見返りとして提供して貰えることになったのは、レギンさん達がお薬を作る研究をしていた中で生み出された凶悪な爆薬のレシピだったり、より強度が高く靭性も高い金属の作り方のレシピだったりの技術的な面の提供と、もう一つは単純に人の提供。働き手を提供してくれることになっている。
これは黄金の契約書で約束された内容で、お互いに作戦が成功すればこれらの提供が開始される契約になっている。
最初はたかが紙切れ一枚とレギンさんも苦笑いしていた様子だったけど、サインをしようとした手が一度ピタリと止まって、改めて内容を何度も何度も確認して、それからようやく慎重にサインをする程度にはこの黄金の契約書の効力は凶悪だったらしい。最後には『この黄金の契約書に二度と名前を書きたくないね』と言い出す程だった。
「シャーリーちゃんはこの後、アールゲインのお掃除があるからね? 私の従者とギルドの皆が応援に向かうはずだから、それはそっちに任せよう?」
「ん~……。うんっ! シャーリーの兵隊、お姉さん達を信じて任せちゃうね♡」
『(全員聞こえる? 現在重大な任務を遂行中の人以外は全員結集して、急いで地下迷宮の様子を見に行って。恐らく救援が必要な状況だと思う。デロナちゃんは必須、絶対に死守して。単独行動は厳禁、足並みを揃えて全員で挑んで)』
「カーミラさんは私の膝の上から離れないでね」
「ええと、はい……。これは、いつまでこうしていれば……?」
「私がメイドニウム成分を十分に摂取出来るまでかな」
「めいど、にうむ……?」
「必須栄養素なんですよ。シャーリーちゃんのバニウムぐらい必須なんです」
「お姉さんに髪の毛とお洋服弄られるの楽しかった~♡ またシテね~♡」
「うん~するする~!!」
さて、歓楽街の地下迷宮の救援要請に対して、めーちゃん達とカーミラさん以外は全員応じてくれた。どん太がわ~う~わ~う~ってサイレンみたいに吠えて集合~って呼びかけてるわ。私が行けないのは申し訳ないけど、どうかお願いね……。
『通信が途切れ途切れですが、一部音声が拾えました。もんはう、もんはうと聞こえます』
「もんはう~?」
「もんはう、ですか……?」
「おっとおっと、離席してたら緊急事態かい~?」
「あ、お昼寝さんおかえりなさい。なんだか地下迷宮でトラブルみたいで、もんはうって叫んでるみたいです。なんのことでしょう……」
「モンハウ……ああ~モンスターハウスのことだよ。ダンジョン内のモンスターが一部屋にぎっしり詰まってるみたいな、そんな感じ~」
「え、それヤバくないですか……!?」
「場合によってはヤバいけど、どうだろうね~?」
お昼寝さんがちょうどお手洗いに行ってたからモンハウって言われてもピンとこなかったけど、モンスターハウス! そんな要素があるんだ、このゲームの地下迷宮!! なんだろう、凄く面白そう!! 行きたいけど、今は堪えて……!!
『(リンネ様~! レギンおじさまが、幻龍会は移動の準備が出来たと仰ってます~!)』
「はっや!?」
「え~? なんだ~い?」
「え、ああ、幻龍会がもう移動の準備が完了したって……」
「幻龍会はね~ユージノサイニ? 必要な荷物を纏めて逃げられるようにって、徹底的に教育されてるの~♡」
『他の組織からの襲撃、抗争が絶えない街ですから。必須の荷物は最小限、最悪命があればそれでよし。マジックバッグにありったけ詰めて1分以内に逃げられるように訓練されています』
「ほええ……」
もしこのゲームのスタート地点がアールゲインだったら、それはそれで神ゲーだったかも……。治安最低最悪の街で、他の組織との衝突を繰り返して強くなっていくゲーム……。ある意味面白そうかも。
まあでも、この人達の中には信仰系魔術師がいないから復活魔術は使えないし、私達みたいに死んでもリスタート出来るわけじゃない、死んだら一発で終わりの世界だから……こういう訓練は、本気でやっておかないと生き残れないよね。
「死んじゃったら終わりだもんね……」
「お姉さん達の復活魔術見て、シャーリーびっくりしちゃった~! フェニおま、もう要らなくなっちゃうねっ! ね、エーカム!!」
『そうですね、ボス』
「フェニおま……?」
「これだよ~♡ 一回だけ、死ななかったことにしてくれる、すっご~いお守りなの!!」
『部隊員は全員所持しています。これを作れる魔導具師が幻龍会には居ますので』
「…………ほええええ!?」
えええ!? あの、ザ・課金アイテムみたいな顔してるフェニックスのお守りが、作れるの!? いや確かに、課金アイテムを遥かに超える品質と効果を持つ料理だってハッゲさんが作れるんだから、魔導具系だって作れてもおかしくはないんだけど……!!
このゲーム凄いね!? やり込む気になれば、課金アイテムのリストに並んでるアイテム、大体作成スキルで作り出せるんじゃないの!? いや、待って……? だとしたら、あのアイテムもどうにかすれば作り出せるんじゃ……?
「リンネちゃ~ん? リンネちゃ~ん……?」
「お姉さんのお顔、本当に忙しいね~♡ シャーリーね、それ大好き~!」
「む……。どんな顔をしているのか見たいです。降りたいですね……」
『ぴゃう! (凄い怖い顔してるの!)』
「面白い顔してる~!」
安いフリをして何気に金食い虫のあの課金アイテムを作れるなら……。へへ、えへへ……。その分余ったゴールドは全部、ガチャチケに……! ガチャを回した時の演出、当たりの特殊演出、癖になるのよね……。最近は出費が増減激しいから我慢してたけど、その分ゴールドがもし浮くなら、ガチャがいっぱい回せるー!! 自由な時間が出来たら研究しよ、リアちゃんが詳しそうだから一緒に研究しよ。絶対する。しよう。
そのためにはまず、レギンさん達と合流して幻龍会の面々とご対面が先だね。ヤバい顔になってそうだから戻さないと……バビロン様ァーー! ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛♡ よし、戻ったな。
「うわあ、急に真顔に戻った……」
「面白~いっ♡」
『ぎゃう!! (怖い顔から怖い顔になったの!)』
「リンネ様、めいどにうむタイムはおしまいです。わあ、真顔から急に絶望的な表情になりましたね……?」
「いかないで、おりないで……。もっと撫でさせて……」
「駄目です。おしまいです」
そんな、カーミラさんもっと撫でさせて……。メイドニウム、メイドニウムが不足してるの、お願いだから……。あ、そうだ。リアちゃんが帰ってきたら不意打ちで久しぶりのヨウジョニウムを摂取させて貰おう。うん、そうしよう。
「……本当、お顔が忙しいですね。うっふふ、面白い……」
あ!! 今の表情、前のカーミラさんのニヤニヤ笑いにそっくり! いや、本人なんだから当たり前なんだけど、でもなんかちょっとまた見られて嬉しかった! 今のもう一回、もう一回!!
「お姉さんって、もしかして、ヘンタイさんなの~?」
「へ……?」
「うん、リンネちゃんはたまーに、いや結構、変態さんな時があるねえ……」
「きゃ~♡ でもでも、幻龍会のお姉さん達と似てるから大好き~! ヘンタイさんでも、シャーリーは嫌いになったりしないからね~♡」
「へ、変態じゃない。違うんです!」
「皆そう言うんだよ、変態は。ほら、エリスだってそうでしょ?」
違う、違うんです! 変態じゃないんです! そんなことない、最近忙しいから癒やし!! 癒やしが欲しいだけなんです!!
『英雄色を好むと言う。英雄を超え神の領域である貴方ともなれば、好む色も多いのは納得できるというものだ』
「納得しないで!? ちょっと、人を変な目で見ないでください!」
「だから、お風呂シーンを湯けむりモザイクで放送なんてしちゃうんだね~。なるほどね~大胆だねえ~」
「ア゛!!」
死のう、死んだ。お昼寝さんに殺されました。そろそろ忘れそうな頃合いだったのに……!