503 黒い影
カーミラさんとジャンボのレベル上限を解放、更にめーちゃんはアイナさんに伊賀忍として十分な能力があると認められて無事卒業、事前に話を通していた千代ママに弟子入りして今度は甲賀忍の技術を学び始めることになった。
私はその間にギルド掲示板へ『無双不具合機械OH……』を投稿。不具合の原因これかよって困惑する人もいれば、何かツボに入ったらしくてずっと笑い続けてる人、真剣にどういう処理でおかしくなったのかを考えてる人、他のボスでも別の条件で起きるんじゃないかと試し始める人などなど……反応は様々だった。
反応を楽しんでいる間にローレイの魔神殿から出ると、どん太が一緒にあーそぼって出てきてくれたんだけど、残念ながら30分後には異界人は一旦全員元の世界に強制送還なのよって言ったら物凄く落ち込んじゃった。戻ってきたら遊んであげるって約束をしたら、帰っちゃうまで一緒にいるって言うからカーミラさんとジャンボ、どん太と私の四人で行動することに。あ、二人と二匹か。
『わうっ!!』
『ぴゃう!!』
「どん太さんの耳の間がお気に入りの場所のようですね」
「隙間に入るの好きね~お前……」
『わっ!!』
ジャンボは隙間に挟まったのが死因だったのに、隙間に入るのは相変わらず好きなのね。落ち着くのかなぁ……。まあ、今度は霊体だから自由に抜け出せるし大丈夫だろうけどね。
「……あっ」
「え? 手を繋ぐの嫌だった?」
「いえ、ええと……。このままが良いです、ふふっ」
「そっかそっか、じゃあこのまま色々見て回ろうね」
「はい」
カーミラさんと手を繋いで歩くの、何気に初めてかも? わあ、凄くニッコニコしてる! 前のカーミラさんの不敵な笑みとは別ベクトルの破壊力だぁ。あー……何しようかな? 30分で出来るようなこと……あるかな? うーん……。
「ん~……どこ行こうか……」
『わう~? (新しい街は、もう行かなくて良いの~?)』
「新しい街?」
『わうっ! (ホネホネ、いっぱいだったところ!)』
「ホネホネ……ああ! なんちゃらの歓楽街!」
『わんっ!! (そう、多分そこ!)』
あ~ローラちゃん達が酒場とかカジノとか発展させてるエリアかー……。そういえばカーミラさんがドワーフさん達のところに顔を出しに行ったっきり何も進めてないんだよね。どんな状態になってるのかな?
「行ってみようか。カーミラさんも、ちょっと遠出ですけど行ってみますか?」
「はい。どこにでも」
「それじゃ、どん太~乗せて~」
『わ~う~う~ (い~い~よ~)』
「よっこいしょ……。はい、カーミラさんも掴まっ」
「あっ」
「あっ、もう乗ってた!」
「…………乗ってしまいました。惜しいことを」
「ん?」
「いえ、なんでも……ふふふっ……」
あれ、なんか一瞬前のカーミラさんが作る表情が見えたような……。やっぱり根っこの乙女な部分は変わってないから、ちょっとずつ悪いお姉様の顔が出てくるようになってる……!? いけない、やっぱりカーミラさんをなんちゃらの歓楽街に連れていくわけに、うおあっ!?
『わう? (行くよ~?)』
「ま、え、速ッ!?」
「まあ、とても速いですね!!」
『わうわうっ!! (急がないと、時間がないもん! ご主人とお散歩だ~!!)』
お散歩にしてはエキサイティング過ぎるんだよ!! 空中走ってお散歩って言い張る犬はお前ぐらいだよ、どん太ァ!! あ、どん太は狼だった! いやでも犬っぽいしやっぱ犬だよ!! いやそれより速いんですけどぉ! 本気のスピードじゃん、加減しなさいよーー!!
「わぁあっはぁ!?」
「ふふっ、落ちそう、なので」
カーミラさんが後ろからガッチリ抱きついてくる!! 絶対に今後ろで悪い顔してる! 本当は落ちないけど、せっかくなので抱きついてみましたって顔してるよ!!
「…………なぜでしょうか。ずっとこうして、リンネさんを、独り占めしていたいです」
「ええ!? なんてぇ!?」
『わう~!! (もうすぐ到着するよ!!)』
はっやぁ~~!? カーミラさんが何か言ってるはずなのに、風を切るボフボフ音で何も聞こえないねえ!! どん太の声は念話みたいに伝わってくるから聞こえるんだけどねえ!! もう到着するの、三分もかかってないよ! 二分ちょい!!
『わう~っ!! (到着~!!)』
「はあ~……!! 非戦闘状態で、急に走り出されるとね!! 流石に怖いんだよねえ!!」
『わっ! (ここどこ!)』
『わうっ! (新しい街だよ!)』
『ぴゃうっ! (賑やかだね!)』
『わう~っ! (ご主人、楽しかったね! お散歩!)』
「ああ、はあ~……。そうね、楽しかったね。まだまだ楽しいの域かあ、今のスピードは……。はい、カーミラさん掴まって?」
「ありがとうございます、リンネさん」
到着したからとりあえずカーミラさんをどん太から降ろして、さて上空から見た感じは割と復興してる感じはしたけど……インスタントハウスだっけ? カーミラさんが伝承してくれた便利な建築魔術、あれで作ったのかな? それにしては、随分とこう……丈夫に出来てるような……?
『……ん? お、いつぞやの女神様じゃねえか!! おーい、ローラちゃーん! あの最高の酒を持ってきてくれた女神様がいらっしゃったぞー!!』
「えぇ~……? あ、リンネさぁ~ん!! うぇへへ……! 来てくれたんですねえ~」
「あ、ローラちゃん。あれ、バニー衣装じゃないね。軽鎧なんて珍しい」
「リンネさん、こちらは……?」
「あれぇ~? なんだかカーミラ様、小さくなりました~?」
「ああ、うん、カーミラさんなんだけどちょっと事情があってね……? それより、なんで鎧なんて着てるの?」
「ああ~……それが、ちょっとこっちも事情がありましてえ~……」
『アールゲインだ!! 奴ら、ここの匂いを嗅ぎつけてちょっかい出してきやがる!!』
「アールゲイン……?」
いつの間にかドワーフさんがかなり増えてる、となるとこの復興はドワーフさんが絡んでるのね……。アールゲイン、聞いたことないけど山賊とかか何か?
『黒き都市アールゲイン、無法の荒くれ者達の集う巨大なブラックマーケットだ。あの都市は力こそが法、全ては金のために、豊かな暮らしのために動いている』
「あ、え、おっ……!?」
『ダークエルフを見るのは初めてか? 私はダークエルフのローゼス、貴方の噂は色々と聞いている。実に興味深いものばかりだ』
「よ、よろしくおねがいします……? リンネです、死霊の神、です……?」
『よろしく頼む。立ち話もなんだ、まずは本部に来てくれ。そこでゆっくり話をしよう』
「え、あ!! すみません、後20分ぐらいで異界人は元の世界に強制的に戻されちゃうんです!」
『そうか、ではいつ帰ってくる?』
「それが、いつになるか……。世界の管理者が、緊急で修復しなければならない問題が出たみたいで……」
『そんなに大事なのか。致し方ない、では帰ってくるまで別のことをしよう。ゼイルマン! 防壁の点検に向かおう。カーミラ殿との契約だ、この都市は何が何でも守らねばならない』
『おう、わかった! ああ、俺はゼイルマン! ドワーフだ、改めてよろしくな!!』
「え、ああ、よろしくおねがいします。リンネです……」
え、カーミラさん……? 何を、契約したんですか!? 聞いてないですよ!?
「私と同名の方が、大きな契約をなさっているのですねぇ……」
「…………そ、そうですねー」
「私も何か役に立てることがあるでしょうか……あ! つまり、そういうことですね、リンネさん!」
「え? え?」
何を納得したんですかカーミラさん、どうなってるんですか!? カーミラさん!? ちょっと、ほんの少しで良いんで記憶取り戻してもらえませんか!?
「この街を復興し、守るために、私に何が出来るか考えさせるために連れてきてくださったんですね。わかりました、頑張ります! ジャンボ、一緒に出来ることを探しに行きましょう!」
『ぴゃう!』
「ああああ!! ど、どん太! カーミラさんを守ってあげてね!!」
『わ、わうっ!!』
『――ピーンポーンパーンポーン……。こちらは、バビロンオンライン運営チームです。まもなく、緊急メンテナンスの開始時間となります。つきましては――』
あー、あーー!! このタイミングで来るべきじゃなかった、なんだってこんなどうにもならないタイミングで来ちゃったのよ!! こら、ローラちゃん! 私が困って慌てふためいてる様子を見てニヤニヤしてるんじゃないよ!!
「忙しそうですねえ~……えへ、へへ……」
「ローラちゃん」
「はぁい……?」
「これ。着て。神様命令」
「は……? は!? こ、こりぇ、メ、メイド服……!?」
「じゃ、私元の世界に帰るから。また来るね、着てね」
「ひえええ……!!」
なんかローラちゃんを理不尽な目に遭わせないと気がすまなかったから、アバタークローゼットインベントリからいつぞや着せたハレンチメイドを渡してやった! へっへっへ、あの頃の羞恥を思い出すがよい。どれ、早めにログアウトしろって放送ながれてるし、ログアウトしよっか。一応全従者に一言だけ念話入れておかないとね。
『(異界人が一斉に強制送還の時間になったから、先に行くね! 私が不在の間に何かあったら教えてね、あ! カーミラさんがなんちゃらの歓楽街で張り切ってるから、手が空いてる子はフォローしてあげてね!! じゃあね!!)』
この一言があるかないかで、今後起きるであろうトラブルがスムーズに解決出来るか出来ないかが決まるのよ。それじゃあ、ログアウトしようっと……。何時間ぐらいかかるのかな、不安だなぁ~……。