497 素直じゃない
殺魔さんの話は簡単に言うと『救難信号を受信したから駆けつけたら、嘘で塗り固められた魔族が居たから斬ることにした』って内容だった。
どうやら殺魔さん、苦しみ助けを求める人の声が聞こえて、直感で声の方向に向かえばしっかりその人に出会える特殊能力を持ってるんだって。その名も【救世主】、同じ力を持っている人には数人出会ったことがあるらしくて、お互いに顔を見るだけで『あ~こいつ同類だな』って理解し合えるんだとか。
「んやーそれにしても、神様だったとは恐れ入った。神様だから強いんか、強いから神様なんか、どっちもかもしらんが。まさか負けるとは思わなんだ」
「そういえば、狂化の呪印なんて掛かってましたけど……誰に呪われたんですか……?」
「んあ? ああ、自分で自分を呪っとる。強力な力を出せる代償として、狂戦士化する呪印じゃ……おお? 解除されちょる!!」
「生き返らせた時になくなりましたけど……自分で自分を呪うなんて出来るんですね」
「おお! 呪いも使い方次第じゃ! 毒も転じれば薬となるように、呪いも転じれば祝福にもなる!!」
「なるほど、ありがとうございます。知見が広がりました」
「俺も、世の中には真実の姿を悪魔の姿で隠す神様がいるっちゅうことは初めて知った! お互い良い経験になったのう!!」
「え、ああ、悪魔なのは本当です。私は魔神様を崇拝し支え合う神、死霊神ですから」
「はあえ~……。ほいだら、そっちは狐の神、龍の神、猫の神、え~……」
「黄金の女神です! ふふ~ん!」
「いやぁそれは初対面ではわからん! なら、その俺に最後の一撃を叩き込んだ子は、神様見習いなんか?」
「そんなところですね。誤解は解けましたか?」
「いやまっこと、すまんかった! この通りじゃ!!」
「わかって頂ければまあ、今回は非常にタイミングが悪かったということで……」
「ありがてえ!!」
とりあえず殺魔さんの誤解は解けた。聞いた情報と一致した相手が嘘の情報で真の姿を隠しているときたら、そりゃあ私でもとりあえず怪しいから殴るわ……。夜影の秘匿の悪いところが出ちゃった形になったね。
「そもそも、悪者を悪魔と呼ぶのもどうかと思うんですけど」
「悪者は悪魔じゃろ! 良識のある魔族は魔人や魔獣じゃ。悪魔と魔族は別物じゃろ?」
「え、そうなの? つくねちゃん、そうなの?」
「え、え!? わっち!? えええ、えっと、そう、かなぁ……? 一般的な目で見て、悪いことをしてるのは、あ、悪魔って呼ぶ、かも」
「ん~……。確かに、悪魔と魔族は違う、かなぁ……?」
「天使と天族が一緒じゃないのと同じですよ~。天族はメルティス含め天界の全てで~、天使はメルティスの使いじゃないですか~?」
「あ、うん、なるほど。理解できた……つまり私は私の定義した天使のことが嫌いなように、殺魔さんは殺魔さんの定義する悪魔が嫌いなのね」
「まあ、合っちょるな!! ちなみに天使だろうとも人を苦しめ蝕む悪事を働くようであれば、斬る!! 天使の皮を被った悪魔じゃ!! どれだけ嘘を重ねても、俺の心眼は誤魔化せんど!!」
私の勝手な想像だけど、恐らく殺魔さんみたいな救世主NPCが数人存在して、今回みたいなプレイヤーによる悪事が検知されると救援フラグが立って、対処可能かつ一番近い救世主が救援信号を受信して駆けつけるのね。今回は殺魔さんだったけど、別の地域では別の救世主が現れるのかな。他の救世主にも会ったことがあるって言うんだからきっとそうだよね。
「他の救世主の方って、どんな方なんですか?」
「ん~……覚えとらん!! セーナ、覚えとるか!!」
『はい! セーナは数人覚えてます! えっと、放浪する鉄騎さん……名前は聞いてませんでしたね! 後は時雨の修道女ルーテさん、無口で怖い人でしたね! 死の商人パーニェイナ……この人だけは見返りを要求しますけど、確実に前より状態が良くなるって聞きますね! 後は忘れちゃいました!』
「パーニ……ああ、ワイパーニもそうなんだ……」
「た、確かに、つ、つ強そうだったけど、本当に強いんだ……」
「見返りを要求するのは、無償で助けるのは商人の矜持に反するからでしょうかね~?」
「ああ、なるほど。あれ、もしかしてなんだけど、パーニの死の商人って二つ名って……」
「た、多分そう……だね……」
なるほどね、パーニが死の商人って呼ばれてるのは『対価を貰えば悪人を皆殺しにする』のと『困ってる人からでも金を取る』辺りから来てるのね……。あの性格だから『マーチャントヒーロー』とか『救いの商人』とか呼ばれたくないから、わざとそう呼ばせる為にやってるんだろうけど……。素直じゃないなあ、ワイパーニ……。というかワイパーニってなんで偽名使ってるんだろ?
「でもなんで偽名使ってるの?」
『パーニェイナが救世主として、商人としてはワイパーニとして活動しているとか聞きました! 同じ名前で呼ばれると、なんとなく嫌なんだって聞きましたよ!』
「うわ~本当に素直じゃない。捻くれ者ねぇ……」
「ティスティス様の冥府仮面と一緒じゃないですか~?」
「あ、うん、そういえばそうね……。そういうことにしておこ…………いや待って? ティスティス様は冥府仮面じゃないから。冥府仮面は断罪する謎の美女だから!」
「あ! そうでした~! いけないいけない~」
そっか、うん、ティスティス様と同じ理由ってことにしとこ……。たまーにちびティス様が仮面を取り出して被って遊ぶモーションがあって、あれでユキノさんにモロバレしたんだよね……。果たして隠す気あるのかな、冥府仮面……。
「うん、まあとりあえずお互い知りたいことは知れたし、もう大丈夫かな?」
「俺は暫く此処に残る。村のもんに最低限自衛出来る術を教えねば……そうじゃ、今回の非礼を詫びて一つ贈り物をさせてくれ! セーナ、あの魔道具あったじゃろ!! 俺が使えんかったあれじゃ!!」
『えーいっぱいありすぎて困りますー!』
「なんじゃ、俺が魔道具もまともに使えんとでも言うんか!!」
『使えないですよね? マジックバッグですらまともに使えないのおかしいですよ!!』
「キエエエエエエエエ!! つべこべ言わんと、あの変な紋章が刻まれた盾じゃ!!」
『ああ! ありますありますー!! 私達には使えないって鑑定師に言われた魔道具ですねー!』
「え、別にそんな気にしなくても……」
「俺が一生気にする、俺が俺のために贈るんじゃ、受け取ってくれ!!」
この人はパーニに比べて正直すぎね。人の話は聞かないし……まあでも、悪い人ではないからいっか。それにしても盾か、おにーちゃんかエスちゃんぐらいしか使う人がいないと思うんだけど、生半可な性能だったら貰ってもしょうがないんだよなあ~。あれ、でもなんかちょっと今言い回しが変だったような……? 紋章の盾なのに、魔道具……?
『こちらです! 間違いなく世界中を探しても二つとないであろう特級品なのですが、セーナ達の中で使える人が誰もいないんです!』
「えっと、ありがとう……?」
「不用品の押し付けみたいになってしもうてすまん!! これで赦してくれ!!」
『慈愛の乙女、セーナから【■新月の愛】を受け取りました』
「そちらさんにもなんか渡しとき!」
『えー? えーっと、あ! もう読み終わった奥義書なんてありますよ、どうぞ!」
「え、あ、ありが、と、う……?」
「わあ~ありがとうございます~。ついでにそちらのドラゴンさんの鱗だけでも、一枚だけでも~」
『い、嫌じゃ!! 一枚許せば骨まで要求されそうじゃ!! やっぱりやらぬっ!』
「ぶ~……」
「此方にも後でそれを、見せて頂いても?」
「い、良いよ、うん。むしろ読めないから、はい……」
「ありがとうございます。お先に目を通させて頂きまする」
うわ、新月って……うーん、なるほど。盾の紋章が刻まれた石の魔道具なのね。これはなしかなぁ……。一応性能だけ……。
【■新月の愛】(旧神器・エンシェントエピック・魔術盾・空きスロットなし【●】)
・特殊なアップグレードが可能
・【呪】刻印には【邪神の偽り無き愛】が必要
・手に紋章として刻み込まれ、自在に新月の盾を出現可能
・盾による防御や回避成功時、50%の確率で【月影】状態になる
・防御や回避時、相手の重量を一定量無視する。この効果量はTECに依存する
・防御時全カット率90%
・【■邪神ヘルミナカード】
┣見えないものが見えるようになる
┣10秒毎にMPが4%回復する
┗このカードを外した場合、如何なる理由であっても消滅する
――――素直に盾を持てば良いのにって? 私は素直じゃないのよ。 by邪神ヘルミナ
強化不可・被寵愛者【――】・重量なし
凄く困ったことにカーミラさんに必須クラスの装備じゃない!? いやでも、カーミラさんはヘルミナ様には愛されてないし……。同性愛は異常なことだって言ってたし、装備できないか~……。
「カーミラさんにちょうどいい盾だったけど、これは装備できないね」
「その石を、どう使えば良いのですか? 投げつけるのですか?」
「あ、いやいや、本当はこんな感じで左手の甲とかにかざしてさ、甲に紋章が移るのよ。そうすると新月の盾が出せるように」
『カーミラの左手甲に【■新月の愛】が刻まれました。無力化中は別の装備を持つことが可能です』
「え」
「あっ、刻まれましたね……。こう、左手に、盾が出るイメージで、良いのですか? あ、出ましたね。小盾も中盾も、大盾は……ああっ……クラクラします。乱用は厳禁ですね……」
嘘、なんで? 邪神の偽り無き愛が必要って、だってカーミラさんはヘルミナ様に愛されてなんか……。ああ……。ああ……!! じゃあ、そんな!! なんで、どうしてあんなことを!!
「リンネさん? どうしましたか? あ、私が使っては、いけないものでしたか!?」
「ううん、良いの。使ってあげて、きっと盾も喜ぶと思うから」
「そうですか……? では、ありがたく使わせて頂きますね。ありがとうございます、リンネさん」
「ほげえ~……。使えたようで、何よりじゃのう!!」
『巡り巡って、使える人に渡って良かったですね!!』
「まあ、こういう偶然っちゅうのはよくあることじゃ! 運が良かったっちゅうことじゃな!!」
素直じゃない。本当に、ワイパーニも殺魔さんも、それにヘルミナ様も。誰もが皆、素直じゃない。それで良いんですかと聞きたいけれど、これがヘルミナ様の選択なんですね。このことを問いただしても、絶対に答えてくれないか有耶無耶にされるんだろうな……。
「細剣を振るにも邪魔になりませんし、いざとなればほら、細剣を振りながらでも盾が出せます! 便利で、素晴らしい盾ですね……素晴らしい……」
どこまでが嘘で、どこまでが本当だったんだろう。物凄く器用なようで、どうしようもなく不器用な女神様だね……。このことは、内緒にしておこう。はあ……さすが邪神様、とんでもなく困ったお方だわ。まあでも、私はそんな事情は無視して、カーミラさんはまた私に惚れさせちゃうもんね! 素直な方が強いってことを、証明してやるんだから!
「そいじゃ、縁があったらまた会おうぞ! その時こそ、敵同士じゃないことを祈っとる!!」
「あ! また会いましょう殺魔さん! 今度はちゃんとお話聞いてくださいね!」
「時と場合による!!」
「ありがとうございました。これ、大切にします」
「おう、次会う時はもっと強くなっとってくれ!!」
「ええ、必ず。さようなら、また会いましょう」
ジードのことは殺魔さん達に任せよう。これまでのいくつかの村をこうして回ったことがあるんだろうから、不慣れな私達が介入するより慣れてる人がやったほうが良い……はず。それに最後まで面倒見れないだろうしね。
「じゃあ、帰ろうっか。お風呂入って寝よう? あ、上限解放もしないと……」
「おふろ、とは……?」
「ん、行けばわかるから! 大丈夫、良いところだよ!」
「私が髪の毛洗う~!」
「駄目ですリアちゃん! ティアが洗います!」
「デロナのほうが上手だも~ん!」
「此方は先程の奥義書の剣術を、少し」
「あ、わかった! あんまり根を詰めないでね? 疲れたら休憩して、ご飯食べて、お風呂入って寝るんだよ?」
「は、はい……」
「りんねーさま、千代ちゃんのお母さんみたい!」
「お、おか……!?」
「確かに、母上にも同じことをよく言われましたね……」
千代ちゃんがやり過ぎるのはいつものことなんだし、この心配は妥当なものじゃない!? 全然そんな、お母さんとかそんなんじゃないもん! これは普通、普通な反応! 何もおかしなことじゃないんですー! もう、人のことをからかうのが上手な子達ばっかり揃って! ほら早くお風呂、行くよ!!





