493 狩人の夜
カーミラさんが、ウルフ絶滅ガールに転職しました。
さっきまでウルフに襲われて転がったり跳ねたりして忙しかったカーミラさんは何処へ。最初は一撃でって目標が今度は何秒以内にって変わって、最終的には接敵してから10秒以内にウルフを倒せるようにって平原を駆け巡るようになってしまったよ。
恐らく夏季休暇の影響で増えた初心者さんに驚かれたり、セクハラ気味な気持ち悪い勧誘に付き纏われてそれを運営に通報したら向こうがペナルティ受けて退場したり、そしたら仲間みたいなのが来てぐだぐだ言ってくるから制裁したり、挙げ句の果てに大勢で報復に来たから全員しばき倒したり、遂には向こうのギルド総出で来たからターラッシュの南エリアの平原ごと消し飛ばしてやった。大変清々致しました。
そうしたらカーミラさんのお目々がキラキラしちゃって、もっと強くなりたいもっと強くなりたいってはしゃぐから、じゃあ順当にターラッシュの南側にある森に行きましょうかってことで来てみたんだけど……。
『きゃう~……』
「なにこれ……?」
「どうして、こんなことに……」
「小さいどん太さんです!!」
あのね、森に入って暫く西側に来たんだけど、そこにある大きな木の根元が穴になってたのね。そこにウルフが居て、多分寝床にしてたんだと思うんだけど……。
「抜けないの……?」
『わうぅ~……』
「動けないみたいですね……」
どん太よりどん臭いのが居たよ。木の根元の穴に嵌って、動けなくなってやんの。どうしてこんなことに……。なんとなくジタバタしてるのはわかるんだけど、本気で抜け出せなくて困ってるみたいで……。
「出してあげる?」
「え、別に倒しちゃっても……」
『わう~~!』
「そうですね、倒してしまいましょう」
まあ、うん、倒しちゃおう。木を犠牲にするよりウルフを倒したほうが早いし、環境に優しいし。どん太みたいに賢そうには見えないし、穴にハマるぐらいだしね……倒しちゃおう。
「それでは、覚悟してください」
『きゃう~……』
「ちょっと可愛いのが残念ですね……」
『カーミラが【月光穿】を発動、クリティカル! ☆1ウルフに447ダメージを与え、撃破しました』
「あ!?」
「えっ?」
こいつ、レアウルフじゃーん!! もしかしたらもしかしちゃって、満月の夜にここで寝ててレア化して、大きくなった影響で挟まった!? それはもう、とんでもなくどん臭いなんてレベルを超えて、超どん臭いじゃん!!
『【死体安置所・12】に【☆1ウルフ】を納棺しました』
「レアウルフだった!」
「確かに、木の根元に挟まるウルフは、珍しいかもしれませんね……」
「そ、そうなんだけど、そうじゃなくって……」
「ちょっと可愛かったのも残念です……」
うーん、確かに可愛かったよね……。でも、うちにはもうどん太が居るから被るし、要らない……あっ! そうだ、別系統の進化も試してみたいな、しかも今度は実体系じゃなくて霊体系の進化で!
「カーミラさん、さっきの子……霊体で従えてみますか?」
「れい、たい?」
「えっと、体を失って幽霊になって、カーミラさんをサポートしてくれるペットみたいな……」
「霊体なら、もう木に挟まる心配もありませんし、良いですね! 可愛かったですし、欲しいです!」
よし、カーミラさんのサポート役としてこの超どん臭いウルフを下僕にしてやろう。まずは今まで一度も使ったことがなかった機能、霊魂摘出を発動しまーす!!
『【☆1ウルフ】から霊魂を摘出します……』
『【☆1ウルフゴースト】の摘出に成功しました。【☆1ウルフゴースト】は貴方の力を感じ取り、恐れ崇めています。貴方の下僕となることに絶対の忠誠を誓いました。【☆1ウルフゴースト】の魂を掌握しました。生かすも殺すも自由自在です』
『【☆1ウルフゴースト】に名前を授けてください』
わあ……。死霊神になってから初めてアンデッド管理を発動したけど、もはや起きろとかそういうのもなしに下僕になるじゃん……。まあお前は私の直属じゃなくて、カーミラさんのペットになるんだけどね。
「カーミラさん、名前を決めて欲しいんだって」
「名前、ですか……」
「どんどん!」
「どんどんは被っちゃうでしょリアちゃん」
「ぶー」
「体が大きかったようなので、ジャンボでどうですか?」
「ジャ、ジャンボね。良いと思う! うん! それじゃあジャンボ、出ておいで!」
『【☆1ウルフゴースト】に【ジャンボ】の名を授けました。ジャンボが召喚されます』
おー……。なんか、今までの死霊術師のスキルより一段上みたいな不思議な感じだ……。ほんの少しの文章の変化だけど、圧倒的な格の差を感じる……。
『きゃうっ!』
「…………おや、小さいですね」
「あれ、本当だ。かなり大きかったのに、手乗りサイズになっちゃってるわ」
「大きいのが原因で死んじゃったから、大きくなりたくないんじゃないですか?」
「幽霊さんだからしぼんじゃったのでしょうか~?」
「ん~まあいっか。ジャンボ、今日からお前の主人はこの子、カーミラさんよ。カーミラさんには絶対服従、命令は何でも聞いて積極的に手助けをするの。もしも裏切ったりなんてことを考えたら…………」
『ぴぃ~……ぴぃ~……!!』
「目に見えて震え上がっていますね……」
「可愛い~♡」
ジャンボもちゃんと意思疎通が出来るみたいね。どん太も出来たし、テイマー系はテイミングした子達と特別なスキルがなくても意思疎通が出来るようになってるのね。まあそうじゃないと初心者さんが序盤キツ過ぎるか。
「しかし、ジャンボには何が出来るのでしょうか」
「ジャンボ、今すぐ何かサポート出来そうなことは?」
『わ、わう!? きゃう~……!!』
『ジャンボが【憑依】を発動、カーミラが【狼の力】状態になりました』
「あ、そっちから憑依出来るんだ。何か変わった?」
「…………少し、遠くの音まで聞こえるようになった気がします。鼻も良くなったかもしれません。体を動かすのも楽になりました」
ほえ~アンデッドの方から憑依出来るんだ。これは結構便利かも、カーミラさん専用サポートアンデッドのジャンボ……悪くないね。一緒に成長させれば倍で強くなるかもしれないし!
「よし、じゃあ新しい力を試しながら森のモンスターを狩り進んで行こう!」
「頑張ろ~っ!」
「あ! カーミラ様、疲れていませんか? 大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよティアさん。まだまだ元気です」
「デロナが一緒だから、まだまだへっちゃらだよね~!」
「ん、早速モンスターを見つけました。気配がします……」
え、凄いね、気配とかわかるんだ。私は攻撃に対しては敏感だけど、隠れてる相手とか意識の外の相手は発見とか苦手だから、索敵能力はかなり羨ましいかも。
「そこっ!!」
『カーミラが【月光弾】を発動、クリティカル! フォレストゴブリンに699ダメージを与え、撃破しました』
『カーミラがレベル9に上昇しました』
『ジャンボがレベル9に上昇しました』
「おー……」
「これは、とても調子が良いです! どんどん行きましょう!」
わー……。鬼に金棒って言葉があるけど、もしかしてカーミラさんに与えちゃいけないものナンバーワンを与えちゃったんじゃないの、これは……?
『カーミラが【月光弾】を発動、クリティカル! フォレストゴブリンに715ダメージを与え、撃破しました』
『カーミラが【月光弾】を発動、クリティカル! フォレストゴブリンに718ダメージを与え、撃破しました』
『カーミラが【月光穿】を発動、クリティカル! フォレストリザードに774ダメージを与え、撃破しました』
あ~……。あ~…………。なるほど。なるほどね……?
「あ、盾持ちゴブリン!」
「身の丈に合わない盾など!!」
『カーミラが【月光斬】を閃き、発動しました。フォレストゴブリンガーダーに559ダメージを与え、撃破しました』
カーミラさんは近距離戦が強い代わりに遠距離戦が強く、その代償として高い火力と優秀な索敵能力を持つが、無意識の魔力操作による素早く力強い攻撃を繰り出すことが出来るのね。はあ……。はあ……?
え、しかも盾貫通するんですか、その月光斬ってビームソードみたいなスキル。まあ完全防御無視ってわけじゃないみたいだし、マナポイントもかなり使ったみたいだけど、それでも真正面から広範囲をぶん殴れるって細剣の領分を超えてるような……。
ああ、どんどん森を突き進んでる……。もうジードの沼地方面に出ちゃうよこれ、かなり高速で南下してる気がするもん……んっ!?
『ピピピ……。罠感知【殺人トラバサミ】』
「ん!? カーミラさんストップ!!」
「え? ええ、はい……?」
「リアちゃん、トラップ破壊とトラッパーのトラッキング。ティアちゃんは広域殲滅の準備。デロナちゃんは奇襲に備えてプロテクション」
「あ、悪い人がいるんですね! いけ、にゃんこ達!」
罠感知なんて久しぶりに発動したわ、しかもカーミラさんが反応しなかったってことは恐らく高レベル。こんな初心者用のエリアで殺人トラバサミなんてえげつないもの、まさか置き忘れってことはないだろう……これは、初心者狩りだね。間違いなく、いる。
「殺人トラバサミ、1個どころじゃないよっ! 20個も置いてある! トラッパーは今辿ってるけど、まだ見つけてない!」
「随分と初心者が遊びにくい環境にしてくれてるじゃない……。まったく、こういうのは赦せないよねえ……?」
「はいっ! ティアも赦せませんっ!」
「プロテクションは秘匿発動したよ~!」
「これでとりあえずの対策は出来た、後は見つけるだけね……」
「人を狩る人が、いるということですか……?」
「そう、いるのよ。それもか弱い初心者をこうやって待ち伏せして殺すクズがね」
これはもう、私達が標的にされたってことで正当防衛だよね? 一応運営に問い合わせが出来るチャットで確認もしておこうか、この状態はどこまで報復しても問題ないかまで確認しないとね……。
「カーミラさん、これはよく覚えておいて欲しいので、ちょっと残酷かもしれないけどきっぱり言っておきますね」
「は、はい」
「腐った果実を一つ放置すれば、隣にある果実も腐るんです。そして腐ったものを排除すると決めたら、根源から断たねばならないんです」
「根源から、ですか」
「そう、根源から。こんな腐れ外道と付き合いがある奴が居たらそいつも、もしギルドに入っているのならこの行為を容認しているギルド丸ごと。徹底的に断たなければ、腐った果実が増えるだけなので」
「わかりました。肝に銘じます」
さあ、さあ、覚悟しろ初狩り腐れ外道。殺人トラバサミなんてものを初心者の狩り場に設置した罪は重い。その罪、償って貰うぞ。
「見つけた、沼地との境に居るよ!」
「死亡後の転移先の追跡準備は?」
「テレポートトラッキングも準備出来たよ!」
「周囲に一般のプレイヤーが居ないか、隈なく調べて」
「この二人組しか居ないよ!」
二人組、狩人役と警戒役かな。実は死亡後の転送は究極スキルのアルティメットテレポーテーションと同じ扱いだから、これを追跡出来る腕前を持つ魔術師なら追跡が可能なのよ。これはオルヴィスやら無慈悲ダンジョンのボスが使うスキルを研究して得た情報。転送先を炙り出して先回りして殺す戦法をマスターするうちに自然と身についたプレイヤースキルの一つよ。
ちなみに、無慈悲カーミラさんは炙り出しに成功したことがない。転送前に偽座標が大量にばら撒かれるから。転送一つ取っても、カーミラさんは魔術師の最高峰だったから……。
運営から返答が来た。初狩りは悪質行為、これに加担するのも悪質行為。ただし、加担している者に関しては証拠となるものを得なければ、一方的なPK行為と変わらないので注意してください、ね。つまり証拠があればいくらボコっても良いワケだ。
「カーミラさん、よく見ておいてね? 性根の腐った初狩りをどうやって処分するのかを」
それじゃ、始めようか。初狩り狩り、前から一度根絶してやろうとは思ってたんだ。今日がたまたまその日になった、運も道徳も足りなかったね、お前達は……!!





