492 潜在的強者
さあ、やって参りました。世界ランク最下位が居る決戦のバトルフィールド、ターラッシュ南門付近です! 実はターラッシュに来るの結構久しぶりかも、メルティスの異端審問官をぶん殴って逃げた以来? まあ今はメルティス陣営の勧誘もバビロン陣営の勧誘もいない、不可侵かつ中立が暗黙の了解で守られている土地になってるから、宗教的な対立は起きない場所みたいだけどね。
とにもかくにも此処に来たってことは、もう戦う相手は決まってるよね。そう、スライムだよ! スライム!! 過去にはこいつと死闘を繰り広げ、あわや初デスかというところまで追い込まれたほどの強敵、我が宿敵よ!!
「う、動いていますね、気持ち悪くて怖いです……」
カーミラさんが私の後ろに隠れて、スカートをちょいちょいって摘んで怖がってるの可愛い……!! でも怖がってるばかりではこの世界では生き残れないから、ここはぐっと堪えてカーミラさんに戦って貰わないと!
「これがモンスター、スライムです! 私がこの世で初めて倒したモンスター、水色の粘液ボディの中にぶにょぶにょと動いている濃い水色の球体がありますが、あれが弱点です!」
「スライム……初めて倒したモンスター……」
「穿て!!」
『【カーススピア】を発動、スライムに1,120Gダメージを与え、撃破しました』
「えっ……!?」
「んー……」
まずはお手本と思ってカーススピアを撃ったら、爆ぜたね。撃破しましたって言ってるけど、塵も残さず消えたわ。いやあ、そりゃそうか……。
本来レベル差があり過ぎると、低レベルモンスターは本能的に逃げ出したり、相手に絶望して精神異常を起こしたりするんだけど、死霊神の権能をオフにして実力差がわからなくなるスキル【夜影の秘匿】をオンにしておけば、低レベルモンスターがレベル差を認識しなくなって向かって来るようになる。
夜影の秘匿は無慈悲ダンジョンの宝箱のレア枠で、習得書を使用することで発動が可能になるスキル。ティアちゃん以外の全員分がぴったり集まったから、一応全員習得してるんだけど……あ! カーミラさんとめーちゃんの分がないわ! 後で取りに行こうっと……。
あ、今はそれどころじゃないわ。カーミラさんがあまりの出来事に思考停止してる。目が点になっちゃってるよ……。
「凄い……。私も、頑張ります」
「え、ええっと、頑張ってね……?」
「カーミラ様、頑張ってくださ~い!!」
「頑張れ~っ!」
「頑張れ、頑張れっ! あ、次のスライム来たよ!」
ほら、皆も応援してますから! また新たなるチャレンジャーが登場しましたよ、記念すべき初戦! いざ尋常に
「はああっ!!」
『Weak! クリティカル! カーミラがスライムに144ダメージを与え、撃破しました』
しょ……? え? 嘘、一撃? 誰かのバフが入ってるわけじゃないし、基本攻撃力は絶望的に低いし、これが完全に成長なし状態レベル1の火力ってこと!?
「や、やりました! また来ますね、倒します!!」
『Weak! クリティカル! カーミラがスライムに143ダメージを与え、撃破しました』
『カーミラがレベル2に上昇しました』
「これが、モンスターを倒すという、ことなのですね……」
「りんねーさま! ウルフが来ちゃった!!」
「お姉ちゃん、どうする?」
「小さいどん太さん!? いえ、モンスターさんですね!!」
「よし、やってみよう。私もすぐどん太と戦ったんだ、このまま見守ろう」
ウルフも来ちゃった! でも私だってスライム戦の後は即レアウルフと戦ったんだから、カーミラさんだってきっとやれるはず、信じて見守ろう!
『ガウ!!』
「くっ……!?」
ウルフの動きは速い、スライムとは比べ物にならない脅威を感じさせる恐ろしい獣の飛びかかり攻撃、恐怖で足が竦んで動けなくなる人だっている。カーミラさんはどう対処するのか、それとも対処できずにここで初デスを迎えるのか……!!
『ガァッ!』
「速い、でも……!」
さっきまで歩くのがやっとだったのが嘘みたいに、横方向に回避……いや、回避というよりは倒れ込んだと表現するほうが近いけれど、それでも俊敏に動いて距離を取った。もしかしたら武器に記載されていた勇気を与えるの効果が、恐怖心に打ち勝つ手助けをしているのかもしれない。
『ガウ!!』
ウルフはさっきと同じ飛びかかり攻撃、極低レベル帯のモンスターだから攻撃モーションは多くない。それでも低レベルのプレイヤーを狩るには有効過ぎるんだよね、飛びかかり攻撃は。
しかしこの攻撃は隙が大きい。空中にいるウルフは弱点となる腹部を晒している状態、そしてウルフの最大リーチは前足。これよりも長いリーチで正確に攻撃出来るなら、どうぞ弱点を突いてくださいと言っているようなもの!
「ええいっ!!」
『カーミラがウルフに49ダメージを与えました』
『キャウンッ!?』
突いた、でも浅い! 致命傷には至らなかったけど、格上であるウルフを敗走させたのは凄いよカーミラさ
「逃がしま……せんっ!!」
『カーミラが【月光穿】を閃き、発動しました。クリティカル! ウルフに114ダメージを与え、撃破しました』
『カーミラがレベル3に上昇しました』
「ん゛!?」
「わあ~!! 細剣が伸びました~!!」
「魔術的な攻撃にも見えましたね、複合でしょうか?」
「すご~い!! 倒しちゃった~!!」
「え……? ほえ……?」
ん゛ん゛ん゛ん゛……!? 使った本人が驚いてるわ、完全に無意識で発動したスキルだねこれは!! 月光穿、マナポイントを消費して中距離の突攻撃を放つスキルって、ステータス欄には書いてある……。月光穿と細剣のダメージは別計算で、どっちも当てれば更に強力と。
「あ、またウルフがこっちに気が付きましたよ!」
「あ、あ! 倒します!!」
「カーミラさん、落ち着いて構えて。大丈夫、絶対勝てる」
「はい……!」
完全にカーミラさんが戦闘モードに入ってる、いやあ凄い……。勇気を与えてくれる細剣ってだけで、こんなにカーミラさんのリハビリに貢献してくれるの……? これもう神器じゃん。神器だったわ。
「落ち着いて、さっきの感覚を思い出して……。真っ直ぐ、向かってくるのなら……」
『カーミラが【月光穿】を発動、ウルフに63ダメージを与えました』
『キャウンッ!?』
「あ、逃げる!」
「逃さない!!」
『カーミラが【月光弾】を閃き、発動しました。ウルフに64ダメージを与え、撃破しました』
『カーミラがレベル4に上昇しました』
「あ~……」
「や、やりました!! やりましたよ、リンネさん!」
「やった、ねえ……! 凄い……」
わかった、今完全に理解した。なるほど、カーミラさんは近距離戦が強い代わりに遠距離戦が強くて、その代償として火力が高いのね。は? は?? は……??
「ちょっと、この後狩り場変えてみましょうか……」
「もう少し、ウルフ……? でしたか? 確実に、一撃で倒せるようになりたいです」
「向上心の塊じゃん……。よし、ウルフを確殺出来るように頑張ってみましょうか!」
「ティアが周りにいるウルフを誘導して来ます~っ!」
「ん、お願いね~行ってらっしゃい~」
――今気がついたけど、もうカーミラさん自然に歩けてるし、何なら走れてるわ。これは地道に訓練をするより、私みたいに強敵とバチバチ闘争するほうが合ってるかもしれない。とりあえず、ここら一帯に生息してるウルフには特に恨みはないんだけど、絶滅して貰おうか……。カーミラさんの糧になっておくれ……。





