491 更に前進
カーミラさんの歩行訓練の様子は、同盟のギルドメンバーも含め色々な人に目撃された。ほっこりとした表情で見守る人もいれば、たまに転びそうになるカーミラさんを見て不安そうにしてる人もいたり、リアちゃんの召喚した猫ちゃんと一緒に行進する様子を見て心臓がギュッとなっちゃった褐色肌の美人さんもいたり……ああ、ちょっかいを出そうとしてギルドメンバーに木っ端微塵にされてたもっさんもいたね、もっさん……。
でも本当に回復が早い、多分だけど満月の女神の性質は失われてないから、夜の間なら力を得やすいのかもしれない……まあ、勝手な想像だけどね。そもそも昼間にまだ訓練してないから断定は出来ないしね。
「カーミラさん、速く歩くのも上手になりましたね」
「ええ、ええ。まだ走るのは、少し怖いけれど……猫さんと一緒に歩くのが、とても楽しいですから」
「むふ~」
ドヤ顔リアちゃんを撫でてあげると、カーミラさんの周りをくっついて歩く猫ちゃん達も嬉しそうにぴょこぴょこ歩くのが面白い。
いっぱい歩いてて疲れないのかなと思ったけど、デロナちゃんの周囲にいるメンバーを自動回復するスキルが効いてるから、精神的な疲労以外は問題ないのね。ちなみに私はデロナちゃんが隣にいると精神的疲労も回復するけどね。リアちゃんがいてもエスちゃんがいてもめーちゃんがいても回復するけど。誰がいても回復するか。
「…………リアちゃん、石鹸変えた?」
「わ~やだ~くんくんしないで、お姉ちゃん!」
「じゃあ代わりにデロナをくんくんしていいよっ!」
「え、じゃあ吸う……」
「わ、えへ、あはっ! りんねーさま、ちょっとくすぐったい!」
「あ!! やっぱり私のことも吸っても良いです!」
「え、じゃあ吸う……」
「ほひぇ……! あ、やっぱりくすぐったいです!」
後方から褐色肌の美人さんが嫉妬の眼差しを向けてきてる気がするけど、磨きのかかった私のスルースキルを発動すれば問題なく回避することが出来る。あ、カーミラさんが不思議そうな顔でこっち見てる……。こ、これは教育に悪い行動だったかもしれない……。
「リンネさん」
ああ、どうしようね? どうしようねえ!? 完全にこの行動に興味を持っちゃった顔してる、本当にどうしようね!?
「どうして、匂いを嗅ぐのですか?」
「えーっとね、うーん、好きな子の変化を楽しむというか、なんというか……」
「では、私もリンネさん達の匂いを嗅いでも良いですか? 私も変化を楽しみたいです」
おおう、拒否権がないよぉ……!
「ど、どうぞ……!」
「では、失礼します……んっ……」
「りんねーさま、前は頑なに吸わせなかったけど、今は別の方法で吸われちゃったね!」
「あ、本当だ! 吸う違いだけど、吸われてる!」
本当ね、前は吸われたことなかったけど、今は別の形で吸われてるわ……。カーミラさん、記憶を失っても根っこにある行動は変わらないのね……!!
ああ、だからなのかな、根っこにある行動が変わらないって……。カーミラさんの無意識の行動だったのかも、バビロン様を庇ったのって。エクリティスだった時も、カヨコとして活動していた時も、そしてさっきの出来事も……。カーミラさんは、いつも誰かを庇って……。
「カーミラさん」
「はい……?」
「言ってもどうにもならないかもしれないけど、そもそも意味がわからないかもしれないけど、私のことは庇わなくて良いからね」
「ええっと……」
「そうならないように、私が頑張るから。自分を大事にして欲しいなって」
「…………理解できる時が、来るということですね」
「どうかな、私は来ないことを祈ってるけど……」
「お姉ちゃんのことだから、絶対来ますね!」
「りんねーさまは、無理を通しに行くから絶対に来るよね~!」
『わう~!』
「どん太まで……。ま、まあ、そうなったとしたら、慣れてもらうしかないかなって……」
「頑張ってね、カーミラ様~!」
「お姉ちゃんの無茶な行動には慣れるしかないから!」
『わう~!!』
「ええと、頑張ります……?」
そんなに無茶な行動ばっかりしてないよ、こうなったらこうしようって決めて、その先々の手を考えて行動してるもん……。そうじゃないと一手一手が凶悪な攻撃ばっかり放ってくる無慈悲ダンジョンのボスになんて勝てっこないもの。まあ、ソルラーラーペアぐらいなら、どん太が何も考えずに突進してぶん殴るだけで終わるけどさ。
あ、そういや本物の方は今どうなってるんだろ、カーミラさんが管理してたはずだよね……? まあ別に、放置でも良いけど……。カーミラさんのお屋敷に設置したままになってるのかな。宝物庫とかもこのまま放置したら開かずの間になっちゃう可能性あるし、近いうちに整理しに行かないと……。
「リンネ様~! カーミラ様~!」
「お?」
我が家の行動力様が帰ってきたわ。おにーちゃんとヴァルさんが無事なところを見るに、武器の素材にはされなかったようね。うんうん、まさかとは思ってたけど良かった。カーミラさんに合う武器を作る相談役として呼ばれただけだって信じてたけど、ほんのちょっともしかしたらって思ってたから安心したわ。
「出来ました! フリオニールさんと、ヴァルさんと相談して、作ったんです!」
「わー……カーミラさん、ほら! カーミラさんの為にティアちゃんが武器作ってくれたよ!」
「武器、ですか……?」
『ティアラから【◆無雑の細剣】を受け取りました』
「細剣かー!」
「はいっ! 軽くて扱いやすくて、良いと思って!」
なるほど細剣ね、確かにこれなら扱いやすそう。片手剣を扱うには体格と筋力的に厳しそうだし、射撃武器はカーミラさんに向いてなさそうなイメージしかないし、細剣なら魔術発動触媒系を用意してあげれば複合で扱えそうだから、確かに良いかも! ところで、これはどんな性能の武器なのよ。
【◆無雑の細剣】(神器・シークレット・細剣・スロットなし)
・成長型特殊武器
・悪性反動無効
・黄金郷の泉で磨かれ、特別な銀と金から生み出された使い手に合わせて成長する特殊な装備。試練に打ち勝つ勇気を与えてくれる
――これからが楽しみですねっ! by黄金の女王・ティアラ
特殊強化・破壊不可・装備者【――】・重量0.3kg
うん、軽いところと扱いやすいところ、悪性反動無効以外のいいところが何も無いわ。でもこれが良い、これがベスト。転生したカーミラさんが初めて扱うには、これが丁度いいはず。
「カーミラさん、ティアちゃんの想いが篭った武器です。さあ、受け取ってください」
「ありがとう、ございます……。これで、モンスターさんと戦うのですね……」
「はいっ! 戦ってみましょう~!!」
今のカーミラさんは恐らく、このゲームを始めたばかりの私と同じ。世界最弱クラスの性能しかない。つまりカーミラさんが最初に超えるべき壁は、もう決まっていると言っても過言ではないということよ。
「それじゃ、世界ランクを上げに行きましょうか」
「せか、世界、ランク……?」
「そう、まず世界ランク最弱を超えにね! ティアちゃん、お耳貸して~」
「はいっ! お耳さんを貸します! わ、あははっ! えへへ、お耳に息がかかってくすぐったいです~!」
可愛いなぁティアちゃんは……。前はお耳は取れないから貸せないですって言ってたのも可愛かったけど、今度は意味を覚えて内緒話をするのに近づいてきたのは良いけど、お耳に息がかかってくすぐったかったかぁ……。
『(*´∀`*)!』
『うむ、戦いに行くのではあれば我らも』
「あ、おにーちゃんとヴァルさんは駄目。居るだけでカーミラさん強くなっちゃうから。エスちゃんもごめんね」
『(´・ω・`)』
『うぅむ……無念……!』
「残念です。機会があれば行きたいです」
「うん、今度絶対一緒に行くことになるはずだから!」
ごめんね、居るだけで火力が上がる組はちょっとお留守番で……初戦はカーミラさんの力だけで超えて欲しいから。
「ティアは大丈夫ですか?」
「私も行くー!」
「デロナもー!」
「三人は大丈夫」
『わふっ…… (僕は眠いから、信じて待ってるね……)』
「どん太は寝たいだけでしょ。後でカーミラさんのベッドになって貰うからね」
「後でまた、ふわふわさせてくださいね、どん太さん」
『わんっ!! (いいよ! 頑張ってね!)』
どれ、じゃあカーミラさんの初陣、出発してみようか! これだけのメンバーで護衛すれば、何か問題が起きたとしても対処出来るでしょ。それじゃあ早速、行ってみよー!!





