489 重荷
「カーミラさんは、大丈夫ですか……!?」
「カーミラ様……」
『カーミラちゃんの力はとても大きいから、それにすぐに対処出来たから全ては削りきれずに、どうにか魂だけ残せたわよ~……』
『間違いない、メルティスの攻撃。滅びと砕きの槍』
『滅びと砕きの槍、無力化出来たよ!』
『ありがとうカレンちゃん、ジュエリア姉さん。カーミラは、肉体と全ての力を失ってしまったわ。恐らく魂にも相当なダメージを負った、転生させても以前のカーミラと同じかどうかは……』
「どうして、どうしてこんな、カーミラ様……!」
赦せない……赦せない、殺してやる……殺してやる、メルティス……!!
「メルティス……! メルティス……!! メルティーーーーーーーース!! 殺してやる……!! 殺してやる、あのクソ女神……!! 殺してやる!! 塵も残さずこの世から消し去ってやる!!」
『もっと、ワタシが警戒していれば、こんな……会場を、用意なんかしなければ、余計なことをしたから……』
「バビロン様は何も悪くないんです、自分を責めないでください。カーミラさんも、バビロン様にそんな風に思って欲しくて庇ったわけじゃないです、絶対に……。だから、そんなことを言わないでください」
『お姉ちゃん、弱気になっちゃダメ』
『そうよ、バビロンちゃん。これは不幸中の幸い、まだチャンスは残されているもの。きっと大丈夫、きっとこの最悪の状況を打開できる。今までもこうやって、何度も乗り越えてきたじゃない、ね?』
『それは…………』
ああ……。バビロン様がこれまで乗り越えてきた苦難は、そうか、ヘルミナ様が支えてくれていたから、強い心を保ち続けることが出来ていたんだ……。今はもう、居ないから……。
「バビロン様、私に命令してください。私を、私達を頼ってください。今は足元にも及ばないかもしれないけれど、私が……私達が、バビロン様をお支え致します。バビロン様の手足となり、剣となり、盾になります。ご命令を」
『…………リンネに重荷を背負わせ』
「私は!! バビロン様の眷属です!! 全てを共に背負う覚悟で、私はバビロン様を崇拝し、愛しているのです!!」
私が代わろう、私が、私達がバビロン様の支えになろう。ならなくてはならない。これは試練だ、メルティスに打ち勝つ為の試練だと私は受け取った。殺意を決意に変え、目標を使命に変える時は今だ。
「命令を、私にも貴方の宿命を背負わせてくださいませ……!!」
『…………我が眷属、リンネに……』
『お姉ちゃん……』
『やるのね、バビロンちゃん……』
『あっ……!』
覚悟なら、もうとっくの昔に、出来ている。
『魔神バビロンが命ず。ワタシ達地獄の女神と共に光の女神メルティスを、その眷属神を、メルティスを称える者、その一切合切を撃滅し、この世から完全に消し去る為に死力を尽くして戦い、そして完全に滅ぼしなさい』
『【取り返しのつかない重大な選択】魔神バビロン、及び地獄の女神全員から【ワールドクエスト:光の女神メルティス撃滅命令】が下されました。これに同意する場合は――』
「必ずや、メルティスとその眷属、一切合切を滅ぼしてご覧に入れます」
『【ワールドクエスト:光の女神メルティス撃滅命令】を受注しました。この選択を取り消すことは出来ません』
今までと何も変わらない。宙に浮いていた障害物が巨大な壁に変わっただけ。超える、壊す、突破してみせる。
『眷属神リンネを、ワタシ達と同列の神……死霊神リンネと認める』
『死神カレン、承認する』
『冥神ティティエリィ・ティスティス、承認するわね』
『宝神ジュエリア、承認します!』
『ワールドアナウンス:魔神バビロン、死神カレン、冥神ティティエリィ・ティスティス、宝神ジュエリア、及び邪神ヘルミナがプレイヤー【リンネ】を【死霊神】と認めました。新たな上位神格者の誕生です!』
もう、バビロン様の腰巾着なんかじゃない。私はバビロン様達と並ぶ存在、メルティスの命に届きうる刃。しかし今のままでは足りない、この夏……メルティスの首を落とす刃を研ぐ。研ぎ澄ませる。今はそこで胡座をかいて笑っているが良いメルティス、二度と笑ったり泣いたり出来ないように、必ずこの世から、抹消してやる……!
『…………リンネとティアラの結婚式が、台無しね。この後もたっぷり、夜を満喫するはずだったでしょうに』
「バビロン様、大丈夫です! ティアは十分、皆さんにお祝いして貰って幸せです! それに、後はえっと、コウノトリさんが子供を運んできてくださるので、心配ないです!」
『…………え゛』
『それなら良かった、心配ない』
『あ、あら~……? あら~……??』
『え、えっと、子供って、女のひ』
「それより、カーミラ様が心配です……」
『ジュエリアちゃん、ちょっとお姉ちゃまと一緒に、カーミラちゃんの転生のお手伝いをして欲しいから、あっちに行きましょうか~♡』
『む、むぇ、むぁ……!?』
どうしよう、さっきまで殺意と決意全開だったのに、ティアちゃんのおかげで肩の力が抜けちゃった。いやでも、常に気を張りすぎてたらいつか必ずパンクする。ティアちゃんは私に必要な心の余裕なんだ。
「ティアちゃん、カーミラさんの転生を手伝いに行こう。皆で力を合わせればきっと、完璧までは行かないかもしれないけれど、最悪の結果は避けられるかもしれないから」
「はいっ!! カーミラ様の転生、行きましょう!!」
『…………案外、もうコウノトリは既に、来ているかもしれないわね』
『コウノトリ、私達に気が付かない内に来てた? 何者? 凄腕暗殺者?』
『カレンちゃん、ちょっとワタシとお勉強しないといけないわね。ちょっとお部屋にいらっしゃい』
『べ、勉強、嫌い……』
そ、そっか、カレン様は死の神だから、生に関しては無関心……なの、かなぁ……? ただ勉強が嫌いなだけな気もするけど、うーん……。私もいずれ、ティアちゃんに子供がどう出来るかとか、教えないといけないのかなぁ……。どうしようこの、ティアちゃんには純粋無垢なままで居て欲しい気持ちと、いずれは成長して沢山の知識をつけて欲しい気持ちの激しいぶつかり合い……!! ええい、それよりカーミラさんの転生だ、それが心配で落ち着かないのよ!! 早く行こう!!
◆ ◆ ◆
「――以上が、事の顛末です。マザー」
「なるほど、理解出来ました。つまり光の神は魔の神や闇の神の転生体に嫉妬した、ということではありませんか?」
「そのように解釈することも、可能ではあると思います」
光の神が行動を起こしましたか、本来であれば愛の契約を行う結婚式を襲撃するなど蛮行、赦されざる世界への反逆と見なされる行為ですが、嫉妬もまた愛の一つと記述がありました。第三者である私から見れば、これは痴情のもつれとも言えるでしょう。まあ、かなりの拡大解釈ではありますが。
「如何ですか、マザー」
「魔の神の陣営は愛を称え合い、笑顔が多かった。対して光の神の陣営は愛と呼べるものはほぼ皆無であり、上位者が下々の者を道具のように使い、ほぼ家畜のように扱っていた。魔の神の陣営は非常に好戦的で管理よりも侵略、光の神の陣営は好戦的ではないものの侵略よりも管理、争いを好むのは魔の神の陣営である傾向が強いように見えますね」
「我々の目的は天魔の戦に備えること、つまり魔の神の陣営と一戦交えるのは不可避である、ということですか?」
「なぜ、天魔がこれほどまでに手を取り合うことが出来ないのかは未だに謎です。しかし、魔の神の陣営が好戦的かつ侵略的なのは事実。光の神の陣営を根絶やしにすべく動くのは間違いないでしょう。方針は変わらず、戦に備え牙を研ぎなさい」
「はっ」
天魔のわだかまり、その発端が何なのかはわからない。ここまでいがみ合うにはそれ相応の何かがあったはず、しかしその情報は私達のメモリーには残っていない……。
しかし、このままどちらかの陣営と衝突すれば、そのことについて知ることが出来るはず。これは何の計算もなく、ただそう感じた、そう思っただけに過ぎない……予感。機械的な判断ではなく、オカルト的な要素で、私がそう感じたもの。
「私達はきっと、どちらかの陣営と理解し合える。しかしてきっと、どちらかとは理解し合えない。そして確実に衝突は避けられない。確かめたい、私が感じたこの、不確かな感情の正体を……」
私は心の中でこう願っている。ああ、どうか……黒き神と理解し合えたら良いな、と。しかし私に下された絶対命令は戦に備えること、どちらかに肩入れしろというものではない。そして私は心の隅でこうも思っている……黒き神とその仲間達、その全員と……全力でぶつかってみたい、と。
あの時、空中でほんのひと時だけ交戦した時、私がまだ心を持っていなかったあの瞬間に感じたもの、今なら理解できる。あれは間違いなくトキメキ、私は黒き神と戦ったことに喜びを感じた。
この二つの願いと絶対命令を遂行するには、黒き神との衝突は不可避。黒き神と先にこちらに仕掛けて来てくれたのなら、きっと…………。
「…………それはそうとネメシス、頼んでいたものはどうなりましたか?」
「あ!! いえ、ええ、もう少しだけ、待って頂ければと……!」
「忘れずに必ず、絶対に入手しなさい」
「は、はっ!!」
そのためにもまず、愛を深く理解する必要がありますね。ネメシス、早く参考資料を持ってきて欲しいのだけれど……。そんなに入手困難な資料なのでしょうか? あまりにも難しいのであれば、私が直々に遠隔操作をして入手しに行かねばなりませんね。
◆ ◆ ◆
『冥きに黄昏れる魂よ』
「我が黄金の道標を頼れ」
『耳を澄ませ、聞きなさい。お前を求める者達の声を』
「再び色鮮やかなる世界を旅する為に」
『思い出しなさい、お前を求める者達の姿を』
「黄金の時を再び共に刻もう」
『冥より這い上がれ、お前の肉体は此処に在り』
「銀色に祝福されし黄金の女王の名に於いて、再び生命を与えん」
『冥きより再び、来たれ』
「黄金の生命よ、此処に」
信じてる。カーミラさんはきっと、こんなことじゃ消えたり、記憶を失ったりしない。きっと元のカーミラさんに、力は失ってしまうかもしれないけれど、きっと戻ってくれる……。
ジュエリアが扱いきれないリインカーネーションだって、ティアちゃんが代わりに発動してくれたんだよ? 戻ってきてよ、カーミラさん、お願いだから……。
「…………ぁ」
「あ!!」
『はぁ~……♡』
『成功したわ、戻ってきたわ!』
『良かった、カーミラ……起きた……』
『す、凄い、ジュエリアにはまだ、扱いきれない術を……!』
「静かに……! カーミラさん、わかる……?」
戻ってきた、成功した!! でも、でも……ボーッとしてる……。まさか……。
「…………リンネ、さん。バビロン、様は、ご無事で……ティアの、結婚式、が」
「うん、うん……! 大丈夫、大丈夫だよ……! カーミラさんのおかげで、みんな無事だから……!」
「カーミラ様ぁ!!」
『良かった、記憶もしっかり――』
『システム:満月の女王カーミラが【少女カーミラ】として再度従者になりました』
『システム:カーミラのステータスが激減しました。カーミラのスキルがほぼ全てロストしました。カーミラの特殊能力がほぼ全てロストしました』
ああ、良いよ、そんな些細なこと……!! カーミラさんの記憶が、残ってるなら……!!
『システム:カーミラの一部の記憶がロストしました』
「カーミラさん、みんなのこと、わかる……?」
「…………カレン、様。ティス…………ティス、様。ジュエリア、様」
『あら~良かった~。まだ混乱してるけど大丈夫そうね~♡』
『カーミラ、ごめんなさい……。貴方に庇われていなかったら、ワタシ……』
『良かった。ちょっと小さくなったけど、問題なさそう』
『本当に、良かったです!!』
「カーミラ様が戻ってきてくれて、ティアは嬉しくて、うっ……! ううっ……!」
記憶の一部が、ロスト……。何がなくなったのか、わからないのが、怖い……。
『カーミラ、また魔術を自在に使えるように、暫くは練習?』
『そうね、カーミラの為に魔術の訓練が出来る場所を』
「ま、じゅ、つ…………?」
『…………え?』
『ああ、そんな……』
カーミラさんのステータス、開いて。早く。
【名前】カーミラ・ヨハンナ・コーディリア 【レベル】1
【属性】ボス属性・無属性・人間系・小型 【性別】女性
【メイン】なし
【称号】なし 【魔界侵食度】+1,000
【HP】10 【MP】10
【STR】4 【AGI】4
【TEC】4 【VIT】4
【MAG】4 【MND】4
【基礎攻撃力】5
【基礎防御力】0
【ARC】0 【AARC】0
【特殊能力】
月夜の少女
【アクティブスキル】
月夜の力
【装備】
右手:なし 左手:なし
頭:なし 体1:布の服
体2:布の服 足:なし
アクセサリー【指】:なし アクセサリー【腕】:なし
アクセサリー【首】:なし アクセサリー【他】:なし
特殊装備【お守り】:なし
特殊装備【魔石】:なし
「カーミラさんは、ほぼすべての力と、恐らく魔術などに関する記憶を、失っていると思います……」
「リンネ、さん、私は何を、何か、いけないことを、しました、か……?」
「大丈夫ですよカーミラさん、少し今は混乱してるだけです。私とティアちゃんと一緒に、色々な場所を見て回ったら、きっと落ち着くと思いますから。ね? まずは、立ち上がることは、出来ますか?」
「たち、あが、る……? 立ち上がる、は、どう……すれば……?」
ああ、そんな……。こんなに、これは、こんな……。そんなに…………。
「バビロン様、暫くカーミラさんを、預かっても良いですか……?」
『……ええ、ええ。リンネを、信じるわ』
大丈夫、私はカーミラさんのこと、信じてる。きっと元に戻れるから、私が信じてあげなきゃ、カーミラさんは……私がしっかりしなきゃ、私の憧れのカーミラさんを……。今度は、私に憧れさせてあげるから。だから、一緒に頑張ろうね。カーミラさん……!!





