487 ログイン33日目、ご機嫌な夏休み
昨日は疲れたけど充実していて楽しい一日だった。幻想郷用の素材を買い漁って、食材とかも沢山用意してハッゲさんにお願いして……あ、そうだ! カーミラさんのアニメイトフードをハッゲさんが見てイの一番に発した言葉が『食材の下ごしらえも出来るのか?』だったんだよね! 出来上がる料理の質が落ちてしまうのがアニメイトフードの欠点だったけれども、じゃがいもとかニンジンの皮むきとか魚介類の下処理、そこまでの内容なら品質に差が生じなかった。それを見てハッゲさんが『これは使えるぞ、大革命だ』と、アニメイトフード改めプリクックって新しい魔術が完成したのよ。あえて完成している魔術の途中までで終わらせることで新しい用途の魔術が出来上がる、これにはカーミラさんも新しい視点で面白い発見だって喜んでたね。
それから千代ちゃん。千代ちゃんの為に色々なプレゼントを用意したんだけど、一番気に入ってくれたのはまさかのネイルケア用品だった。事前に用意したネイルデザインを形にするだけだったけど、千代ちゃんが一番喜んだのはネイルしてる時だったかな。
そういえば、結婚している相手とプライベートエリアで二人っきりになると専用UIが用意されて、ネイルとかそういうのはちゃんと操作可能だけど、操作不可能な部分に関しては『短めの幸せな時間を過ごす (2時間前後)』『幸せな時間を過ごす (4時間前後)』『長めの幸せな時間を過ごす (8時間前後)』『たっぷりと幸せな時間を過ごす (12時間以上)』のどれかを選択すると、プライベートエリアがノーアクセスエリアに変わって特別なログアウト処理が発生するみたいね。ちなみにたっぷりを選択してログアウトしておいたから、今日はまだログイン出来ないのよね。
「ん~……」
「…………燐音さん、絵もお上手でしたけど、こういったのも得意ですのね」
「時間かかりすぎだし、独学の自己流だから微妙だけど」
「いつからやり始めましたの?」
「運動とかトレーニングとかする時、割れて怪我しないようにってケアするのがきっかけだったかな? 最初は外装甲みたいなものぐらいの扱いだったけど、両親に隠れて出来る唯一のオシャレだと思ったらなんか、燃えちゃって」
「わたくしの、形が変だったり汚かったり、致しませんこと……?」
「最上級品質の真っ白なキャンバスぐらい綺麗」
「ま、まあ、本当!?」
「動かないで」
「失礼しましたわ……」
ログインできないから一緒にいるってわけじゃないけど、日曜日だしそもそも夏休みだし、真弓のところに遊びに行こうかなと思ってメッセージを送ってみたら、『どうぞいらっしゃって! 今すぐ迎えに行きますわ!』って30秒で返事がきたよ。真弓、私のこと大好き過ぎない? 私も大好きだけど。
それにしても本当に真弓の爪は綺麗ね、爪だけじゃなくて手も肌も何もかも綺麗だけど、日頃からしっかりケアしてくれる人が居るんだろうなあ……。その人に今度、正しいネイルケアについて話を聞いてみたいな、というかその人を差し置いて私が真弓のネイルをしてて良いのかな……。その人からしてみれば私って、普段自分が完璧に整えてる環境を興味本位で荒らしに来てる害獣みたいなものなんじゃ……。ネイルを~って言ったらすぐに用意されたこのネイル用品達がそれを物語ってるよね。どれもこれも高級品ばっかりで、私じゃ絶対に手が出せないようなものばっかり。しかもほとんどが新品……あれ? 新品?
「真弓、普段のお手入れって、ここにあるの全部使ってる?」
「オイルとクリームだけですわ!」
「え……? え? オイルとクリームだけで、こんなに綺麗な爪が維持出来るの?」
「ええ、塗ったほうが良いと言われて自分でやっていますのよ!」
「嘘でしょ……」
「本当ですわ!」
「じゃあ、誰かにやって貰ってるわけじゃないの……?」
「自分でやっていますのよ? 本当でしてよ?」
「え、ズルい……ズルい……」
誰かにやって貰ってるわけじゃなくて、自分で……しかもオイルとクリームだけでこの綺麗な爪が維持出来るの!? ズルい、あまりにもズルい。私なんてちょっと激しめの運動をするだけで爪が傷んだりするぐらい爪が弱いのに、あまりにもズルいでしょ……。ズルすぎるから、なにか意地悪したくなってきた、どうしよ、なにかしてやりたい。あ、そうだ。
「ねえ真弓、今手を動かしたら乾いてない部分がズレたり崩れたりするって、わかるよね?」
「ええ、ですからジッとしていますわ!」
「動かしたら私が悲しむって、わかるよね?」
「え、ええ、そう、ですわね?」
「つまり、真弓は今……手をここから動かせないんだよ? わかった?」
「え、そうですわね……? えっと、それがどう……どうして立ち上がりますの!? ねえ、燐音さん!? どうしてわたくしの後ろに回り込みま、あ、ひゃああぁぁぁぁああ……!?」
「つまり、手が机の上から動かせない真弓は、私が真弓の体を隅々までチェックしていても抵抗出来ないってことなのよ。理解できた? ふーー……」
「ひゃうぅぅ……!? 耳に息を、ダメ、ダメでしてよ! イタズラしないでくださいまし!?」
今の真弓は抵抗出来ないから、やりたい放題出来るじゃん。私ってば天才ー! 完璧ー!
「あれ、真弓ってメイクとかも薄い感じ?」
「ほとんどしていませんわ!」
「それでこんなに白くて綺麗なの!?」
「そうでしてよ!」
「え、ズルい……ズルいよね?」
「ダメ! ほっぺをもちもちぷにぷにし、しにゃいれ、くりゃしゃいまひ!! ひゃあおおおお!?」
「真弓、お腹周りシュッとし過ぎじゃない? 結構運動して頑張ってるんだね」
「毎日30分、頑張っていますわ!」
「30分……?」
「どうして!? どうしてお腹をそんなにぷにぷにして、あ、ダメですわ! 脇腹は弱、お、おひゃ、ひっ……!」
私がこの体型を維持するのに、どれだけの運動量と食事制限をして管理してると思ってるの……? この、このチートボディ……! 運営さん、この人チーターです! 即刻チートの利用を禁止してください!! どうしてこの世界には制裁を下す運営もバビロン様もいらっしゃらないの!? こんなの、明らかにおかしいじゃない!!
「胸」
「ひ、おっ……おっ……ふぅ……ほえ……?」
「胸も、重いよね? 肩こり辛くない?」
「辛くないですわ!」
「こ、のぉぉ……!!」
「ダメですわよ! そ、そこを触ろうものなら、今度こそ抵抗しましてよ!?」
「ネイル崩れたら悲しいなあ~。あ~あ、泣いちゃうかも。もうネイルもメイクもしてあげないかも」
「…………うう」
――――抵抗できない真弓を頭の先から足の先まで堪能した結果、真弓と私は恐らく、違う生き物なんだと思う。私の中でそう結論が出た。そうじゃなきゃ、私の日頃の苦労はいったいなんだったのかと説明がつかない。真弓はチートプレイヤー、私は一般プレイヤー。とても悲しくなってきた。真弓が羨ましいって初めて思った瞬間だったかもしれない。
◆ ◆ ◆
「はぁ~……♡」
「あ゛……う゛……」
結局、この日は真弓の豪邸から一歩も出ずに色々なことを堪能することになってしまった。ランチは一流レストランのスタッフを丸ごと呼び出してフルコースを堪能して、私のためにって呼んでくれた有名なネイルアーティストから直接指導――基本的なことは合ってたからアドバイスだけ――して貰ったり、それが終わったと思ったら今度はいつぞや行ったエステサロンがほぼ丸ごと呼び出されてて、たった今施術を受けてるところ……。
「以前よりも綺麗に鍛えられていますね、凄いです……」
「ありが、ふぁぁ……」
「もうちょっと強くしたほうが良いですか?」
「あ、えっと、はい……」
「あ゛、う゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛……」
「真弓お嬢様は、ちょっと体が硬いですね~。頑張って伸ばしていきましょうね~」
「あ゛う゛」
いくらチートプレイヤーでも、筋肉と柔軟性までは伴わなかったってわけ。やっぱり普段からしっかりトレーニングやってて良かったなって思ったし、トレーニャンだったっけ? これを使ってトレーニングをしてて効果出てるのか心配だったけど、セラピストさんから綺麗に鍛えられてると見えてるようでちょっと安心。まあお世辞かもしれないから真に受けずにこれからもバランス良く続けようね。
「お゛……」
「まだ全然伸びてないですからねー。力を抜いてくださいねー」
「燐音様は凄いですね、真弓様と比べて……」
「努力と筋肉は裏切らないので……」
「わたくしの筋肉が、わたくしを裏切っています、わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……!!」
「裏切ってないですよー。そのままの結果が出てるんですよー」
ふっ……真弓……あわれあわれ……。施術以上に真弓のことを見てるほうがなんか気持ちよくなってくるわ。このままもう少し眺めていよう。ああ、高校初の夏休みのスタート、いい感じだわぁ……。





