483 乱高下
「……凄い、カーミラさんにどこも吸われてない」
「同意なしにそんなことはしません。リンネさんは相手が眠っていたら、キスでもなんでもし放題だと思いますか?」
「い、一部の相手には……」
「今度から吸います」
「カーミラさんの前で一人で気絶しないようにします……」
「賢明な判断ですねぇ」
仮死状態から復活するまで20分から30分は掛かったらしい。今の位置的にはルナリエットの西側上空、夕日がバビロニクスに沈んでいく中でカーミラさんにお姫様抱っこをされる形で運搬され中……いや、なんでこの人グレーターテレポーテーションで向かわないのよ。
「どうして転移していないのかと言いたげな顔ですね」
「はい」
「リンネさんと一緒に居られる時間が増えるじゃないですか。それに、どうやって向かうかまでは言われていませんので。むしろ最短経路で向かっているだけ褒めて頂きたいですねぇ」
「……はい。カーミラさん、ありがとうございます」
「どういたしまして、ふふっ……」
こんなところばっかり乙女なんだから、もう……。
「闇の慟哭、夜の怨嗟、月の失墜。怒り、嘆き、苦しみ、それでも尚、我は渇望する」
「…………キリエ・エレイソン、ですか?」
「あら、もうご存知だったとは、恥ずかしい限りです」
「いえ、きっとそうなのかなって。どうして詠唱と魔術陣まで教えてくださるのですか?」
「きっと必要になると思って。これは自分を対象にするか、相手を対象にするかで効果が逆転します。自分を対象にすれば闇夜が貴方に慈悲を、相手を対象にすれば一瞬で絶命させる慈悲を与えます。日に一度のみ、上手に使ってください」
「カーミラさんの専用神術なのでは?」
「私はもう、救われましたから」
『満月の女王カーミラから究極神術【キリエ・エレイソン】を継承しました』
どうしよう、初めてカーミラさんにキュンってしたかも。こんなに純粋な微笑みが出来る人だったんだ、いつも獲物を舐め回すような邪悪さを帯びた微笑みばっかりだったから、新鮮過ぎてちょっと眩し過ぎるかも……。まあそれでもティアちゃんが先なんですけど、結婚。
「キス、しても……?」
「……まだ、太陽が見ているので」
「その後はお月様に見られますよ?」
「月は、カーミラさんですし……」
「あら……。あらあら……」
あ~しちゃうんだ、キスしちゃうんだ私、カーミラさんのペースにどっぷりと流されて、あの夕陽が沈み切るのと同時にキスしちゃうんだ。ティアちゃんが先だって、ずーっと言ってるのになぁ……。あ……そういえば、私……。そうだ、ヤバいッ!!
「あ!!」
「え? え??」
「アイナさんに時間が掛かるって言ってこなかったじゃないですか!! ほらカーミラさんローレイに戻って、グレーターテレポーテーション!!」
「え~……」
「キスはティアちゃんが先! 結婚もティアちゃんが先! ダメ、順番は順番!」
「ええ~……うふふ……でも、そこがリンネさんの素敵なところ。とっても好きですよ」
この流れを断ち切れる私の能力、くぅ~……! ティアちゃん、約束は守れたよ!! 後でティアちゃんにいっぱい褒めて貰おう。危なかった、後数分でカーミラさんの世界に引き摺り込まれるところだったわ。一線を越えたカーミラさんがキスで終わるわけないじゃんっ!!
「今度はキスでは済みませんよ」
ほらね、こういう人なんですよ! そういうところ、そういうところだからね、カーミラさんの悪い子なところ! は、早くローレイにテレポートしてよね! んもうっ!!
◆ ◆ ◆
「えー本当にメルティシア周辺全部更地になってるじゃん、怖ーっ!」
「凄い人だかりだな、皆この光景見に来たのか」
「山がなくなって鉱石とか剥き出しになってる部分あるらしいから、それで人気の採掘スポットになってるっぽいよ」
ジョンス達と噂のスポットに来てみたけど、まあ~本当にポッカリと無くなってるわね~メルティシアが更地ってレベルを超えて巨大クレーターになってるわ。こんなとんでもないことを仕出かしたボスが未だに野放しって常識的に考えてヤバくない? いくら希少鉱石が剥き出しになってて取り放題とは言え、そのボスの気が変わってもうちょっと採掘したいってなったら、うちらも巻き添え食ってやられるじゃんね。
「しっかし、リンネさん達ってこんなことやらかしてるボスと戦おうとしてるわけ? 異次元過ぎるわ」
「まさに神々の戦いって感じだよな」
「ほら、オリハルコンとか剥き出しだよ! 早く回収しに行こう!」
「はあ……」
ナーナが居ないからタンカー居なくて怖いんだけど……。しかもナーナ、いつの間にかレベル600を超えて、リンネさんから家まで貰ってるなーと思ったら家ごと何処かに引っ越して居なくなっちゃったし、良いな~うちらもナーナみたいにリンネさんに引っ張って貰いたかった~。でもリンネさんに見込まれるぐらいのデザイン力っていうか、そういうのがあったから引っ張って貰えたわけで、うちらって見込み無いって思われてるんだろうなあ~……。
「おーい、ここは暁の光が採掘してるエリアだ、別の場所に行ってくれ。さもなきゃ排除させて貰うぜ、それと今拾った物も置いてってくれ」
「は? 取得権のないアイテムなんだから別にあんたらのじゃないでしょ。それに同陣営のPKは禁止……」
「こいつら、レジスタンスだ。PKはNGじゃねえぞ」
「な、なんだ、やる気か……!?」
「早く別のとこ行こう、PKなんて面倒だし……」
「弾け飛べ、エクスプロージョン!!」
『メリアーヌが【エクスプロージョン】を発動、ガイナーンに99Mダメージを与えました』
嘘でしょ舞ちゃん、問答無用で爆裂魔術!? しかも殺しきれてないし、ああもう! ならしょうがない、やるしかない!
『【ホーミングレイン】を発射』
「くそ、マジでやりやがったな!」
『ガイナーンが【バスタースラッシュ】を発動』
『バッズが【剛斬滅】を発動、相殺!』
「ッチ!! おーい!! こいつらに暁の光の力を思いし」
『クリティカル! ガイナーンに277Mダメージを与え、撃破しました。アダマンタイト鉱石の大袋を獲得しました』
「一人殺った!」
「おいおい、あっちのギルメン馬鹿みたいに居るじゃねえか!」
「じゃあ逃げましょうー! あっはははー!!」
「つくねさんにそういうところばっかり影響受けて!! ほらジョンス、何ぼさっとしてんの、逃げるよ!! メリアーヌはウィンドランナー!」
「え、ええ!?」
まだ向こうのギルドメンバーがこっちに来るまでには時間がある。メリアーヌが移動速度上昇の魔術を使えば逃げ切れるはず。恨みは買ったけど、元はと言えばメルティシアは魔神陣営が制圧した場所なんだからハイエナ行為をやってたこいつらの方が悪なはず、はず……? 今はそんなことより逃げよう!!
「風になれ、足取り軽く! ウィンドランナー!!」
『メリアーヌが【ウィンドランナー】を発動、移動速度が大幅に上昇します』
「よし、一気に逃げるよ!!」
「おう!!」
「PvPだなんて久しぶりですねー!!」
「あんたが仕掛けたんでしょうが!!」
全く何を考えてるのよ、面倒事に首を突っ込むどころか全身で突っ込んで行くとか! んも~これじゃただ観光地に来てトラブルを起こして帰っていく迷惑客みたいなものじゃん!!
「あ、あれ……? 誰も、追いかけてこないよ……?」
「え? あっちのギルメン一人殺ってるのよ? 追いかけてこないわけなくない!?」
「いや、マジで誰も来ねえ。どうなってやがるんだ?」
「おかしいですね? まあまあ、今のうちに逃げちゃいましょうよ!」
「場所を取られるから、離れたくなかったんじゃない? まあ好都合ね」
なんだ、誰も追いかけてこないじゃない。それともあっさり一人殺られたから、巻き添えをくらいたくなくて追いかけてこなかった? ん……あれ……? さっきまでかなりプレイヤーが居たはずなのに、静かな気が……?
「待って、静か過ぎる。さっきまであんなに騒がしかったのに」
「…………本当だ、もっと人が沢山居たはずなのに」
「イーグルアイ!!」
『【イーグルアイ】を発動、遠くまで鮮明に見渡すことが可能です』
こんな時こそアーチャー系の遠視スキル、イーグルアイが役に立つんじゃない。さて、まずは私達がPK仕掛けた暁の光の連中はなんで追いかけてこないのかを…………!?
「こ、殺され、てる……!」
「え?」
「何、どういうことだ?」
「巨大な、何かに、やられて……に、逃げなきゃ!!」
「巨大な何かってなんだ!?」
「わかんない!! 土煙で良く見えなかったから!!」
何アレ、何アレ、何なのアレ!? あの巨大な影は何!? 土煙の中で高速で動いてた巨大な影は、何だったの!? 私達がPK仕掛けてから離脱するまでのこの数分で、一体何があったのよ!!
「と、とにかく逃げ……あ…………」
『ジョンスが【勇敢なる者】に引き裂かれ死亡しました。30秒以内に復活しない場合、拠点復活後30分間の衰弱状態になります』
『我は勇敢の名を冠する者、人の子よ! いざ尋常に勝負ッ!!』
な、に……こい、つ……!? 機械……!? 勇敢、勇敢なる者? 意味わかんない、まさかリンネさん達が戦おうとしてる相手って、こいつらなんじゃ……!?
『バッズが――』
『【勇敢なる者】が【不明な攻撃】を発動、バッズが引き裂かれ死亡しました。30秒以内に復活しない場合、拠点復活後30分間の衰弱状態になります』
『【斬滅風圧殺】が発生、メリアーヌが消し飛びました。30秒以内に復活しない場合、拠点復活後30分間の衰弱状態になります』
嘘、構える前に一撃で、しかも風圧でメリアーヌが消し飛んだ……!? 私は運良くバッズの後ろに居たから生きてる、だけ……このままやられてたまるか!!
「は、は……? はっ……!?」
『【アローバルカン】を発動、【勇敢なる者】へダメージを与えるには至りませんでした』
『反撃に出たのは見事ッ! 恐れず勇敢に立ち向かった戦士に敬意を! 勇敢なる戦士に捧げるこの剣技の名を、瞬光連斬!!』
『【勇敢なる者】が【瞬光連斬】を発動、貴方は抹消されました。復活は不可能です。神の存在証明を消費し、重大なロストを含むデスペナルティを防ぎますか?』
『神の存在証明を使用、抹消によるデスペナルティを回避しました。拠点にて復活します』
な、なにこれ、クソゲー過ぎない……? 馬鹿みたいな差、クソゲー……クソゲーだわ!!
『称号【勇敢なる者に見込まれし者】を獲得しました。様々な不利な状況下で反撃に出た場合、攻撃ボーナスが発生するようになります』
嘘ッ!? 神ゲーじゃん!! リンネさんには認めて貰えなかったけど、あんなに強いロボットにちょっと反撃しただけでこんな、ええ!? 良いのぉ!? やったー!! 掲示板で自慢しちゃおー!!





