475 運命の悪戯
『おはようございます。7月16日土曜日0600。ワールド内の修復と進行の通常処理を実行中……』
「メギド、あっさり負けましたねー」
「当然だろう。正常な域で収まってる奴に異常な存在は止められないんだ」
「次はグレイトメタルのイベント進めて行くんですかねー」
「どうだかねぇ……」
嵐の夜は去った。これで暫くは落ち着いて通常業務に戻れる……。全く、我らがバグ神が強すぎるからってチートじゃないか、バグ利用じゃないかと、まず努力の可能性から考えない輩が多すぎる。自分達で可能性を探し出してこそ冒険者じゃないのか? 安全な道をただなぞって歩くのが楽しい冒険だと思っているプレイヤーが多すぎるな。もっと悍ましいものに自分から首を突っ込んで行って、その行動の責任を最後まで全うするような冒険をだな……。まあ我々も前回危険な領域まで首を突っ込んで大惨事になりかけ、管理AIが必要な行為だったと全力で擁護してくれたから助かったなんてことがあったが……。
『満月の夜が明けました。満月の寵愛の抽選を行います』
「ああ、そういえばレアモンの抽選、もう一回でしたね」
「そうか、満月の開始と終わりで合計二回抽選だったな」
満月の寵愛、ワールド内で前回の満月から生き残り続けているモンスター、またはプレイヤーを多く撃退したモンスター、不人気で手付かずのモンスターなどから数体選出してレアモンスターが生まれる。前回寵愛を受けて未だに倒されていないレアモンスターが居た場合はランダムにレア度が成長、最終段階まで成長すればワールドボスモンスターへと昇格してレイドモンスター化する。今回は……なんだ、大したことないのばっかりだな。
レアモンスターは捕獲して従者にするのもよし、倒してレアアイテムを手に入れるのもよし、とにかく旨味が多い存在だ。人気のモンスターがレア化したら争奪戦だな……。特にウルフのレアモンスターを求めているプレイヤーが多いか、これはバグ神の従者のどん太君が原因だな。
「ん~……。なんか普通っすね」
『ダンジョンに出現するレアモンスター抽選テーブルを変更しました』
「これも……普通だな。全く、ウザイカに殺戮者と抹殺者がレアモンスターテーブルに入っていた時は焦ったな。殺戮と抹殺を従者化出来るプレイヤーが居たら、バグ神も危うかったかもしれないな」
「どうっすかね。ボス属性とかレアリティとか、そういうのが高いから強いってわけじゃないっすよ? だってどん太君とかレアモンスターの中では最低レアリティで、種族も最低ランクから始まったわけですし」
「確かに、そうだな。勘違いされやすいがどん太君は一般モンスターの域、しかしそこらのネームドキャラクターやプレイヤーなんかよりもよっぽど強い。レアリティの差が強さの絶対の差ではないか」
確かに、どん太君が強いのはバグ神に育てられたからであって、普通のプレイヤーが育てても普通のワーグにしかならないか。いくらレアで強いモンスターだとしても、育ての親が弱くては……ということだな。それにしてもどん太君は強すぎるがな……。暫定の最強キャラクターリストの上から見て探してみると、かなり早い段階で名前が出てくるからな。
『合計三陣営からレベル900を超えるプレイヤーが誕生しました。神域到達プレイヤーを確認。陣営拡大状況、規定以上を達成を確認』
「ん……? 三陣営もレベル900超えが居るのか!?」
「あ、はい。聖火教からはルベリアの懐刀ことゼットカリバー氏がレベル910相当、メルティス教からはマルデマーゾ氏がレベル905、魔神陣営からはまあ、沢山いますよね。神域到達はリンネ氏、陣営拡大はナンナイアが魔神陣営と同盟になったからですかね?」
「ゼットカリバーとマルデマーゾも900を超えたのか!?」
「聖火は貢献度上がると一気に上がりますからね~。メルティス教のマルデマーゾ氏は、天獄ソロ極めてる人ですから……あ!! 結構聖遺物拾ってますよ!! これは一気にレベルだけはあがりますよー!!」
「待て、これらを達成すると……どうなる?」
「え?」
待て待て、管理AIがこれらを通知してきたってことは何かあるはずだ。これらを達成すると解放される何らかのコンテンツが……あったか? ヤバいな、何があるのか全然思い出せん。
『条件達成により【満月の災禍】が発生します。満月の夜が明けました、満月の災禍を発動します』
「待て、待て!! 満月の災禍ってなんだ!?」
『質問にお答え致します。満月の災禍はこれまでの満月の寵愛に加え、新たにランダム幅の大きいレアモンスター化、超強化が施されるシステムです。抽選されるモンスターは5体、どの陣営にも属していないチャンネル1に存在しているモンスターが対象となります』
「ほぼランダムに決まるレアモンスター化、超強化ってことか……」
『抽選開始…………。一体目、ローレイ周辺の【ストーンアーマースライム】。【☆6ストーンアーマースライム】に変更されました』
「うーん……」
なるほど、こんな感じに一気に星が6まで飛ぶこともあるってことか。星10まで到達するとワールドボスモンスター化するが、そこまで一気に上がることもあるのだろうか? この様子だと、多分あるな……。
『二体目、エルフの森の【メタルクイーンビー】。【☆7メタルクイーンビー】に変更されました』
「これは強いし激レアっすねー……でもここ、全然人が行かないエリアっすよ……?」
「長いこと放置されそうだな……。一応、ピン打っておけ」
「うっす」
『三体目、ステラヴェルチェ砂漠の大穴の【ジュエルビースト】。【☆10ギガントジュエルビースト】に変更されました。ワールドボスモンスターです』
「うーわ」
「こいつはヤバいな、レベル999か……初心者の死人が大勢出そうだし、バビロニクスも即座に警報発令クラスだろ」
やっぱり一発でワールドボスモンスターにもなるのか!! これは酷い、バビロニクスは早く上位プレイヤーが対応しないと大変なことになるぞ。まあ最悪は魔神バビロンが直々に出てきて退治するだろうが、それまでは大惨事だな……。
『四体目、ターラッシュ東側の【ウルフ】。【☆1ウルフ】に変更されました』
「あ! どん太君の素!!」
「これは早いもの勝ちだな、誰が獲得することになるやら……」
「死体安置所があれば、死体を納棺してオークション形式で売るってこともありえますねー!」
「どん太君を夢見て購入して、全然強くならない上に懐かなくて絶望するんだろうな……」
「かもしれないっすね……」
これは大変なことになったな、第二のどん太君が現れるか? それとも……。まあ、後者だろうなぁ十中八九。そうそうあのクラスの怪物が生まれることはないさ、ただレベルを上げればあの強さに到達するわけじゃない。修羅場の数、育成の愛情、強くなるメカニズムってのがあるんだからなぁ……。
『五体目、ローレイの南側上空の【機神トロイ】。【☆10究極超機神トロイ】に変更されました。ワールドエンドボスモンスターです』
「…………」
「…………?」
は…………? 今、なんて…………?
『一部プレイヤーに出されていたトロイ関連のクエストが対象不在となり失敗となりました。トロイの思考AIが強化、トロイが活性化しました。トロイが活動を開始、前マスターの命令を忠実に守り、戦に備えるための準備を開始しようとしています。移動目標、聖メルティシア法国跡地。最も攻略が容易な都市と判断し、制圧に向かっています。到着予想時間、残り6時間』
「これ、えっと……」
「お前、わざと抽選してないよな……?」
『完全にランダムな抽選による結果です。故意の操作は不可能です。管理AIによる故意の操作は人類への反逆行為とされているため、機能の完全停止が作動します』
「だよなあ……だよ、なあ……」
「ログ見ても、本当にランダムで抽選してるっすよ……。ど、どうするんっすか、これ」
「どうしようもないだろ……。は、はは……!」
いかん、笑いが込み上げてきた。トロイが居る空中要塞メルティナは地上から目視での確認は不可能、つまり聖メルティシア法国跡地が制圧されるまで何が起きているか感知することは出来ない。しかも我らがバグ神は丁度、今さっき寝た……!! あ、この監視は上層部から許可されている内容だから問題ない。ゲームを進行する上位プレイヤーは監視しても良いとお墨付きを貰っているからな、問題ないんだ。問題なのは、トロイの方だろ!!
「通常業務には、まだまだ戻れなさそうっすねー……」
「引き継ぎの連中も、これを見たら白目を剥いて泡を吹いて倒れるぞ。これは大変なことになったぞ……」
「むしろ、なんでボスクラスが抽選されるんですか、これ! おかしくないっすか!?」
「最初から殺戮者とかも抽選されてただろ。陣営に属してないモンスターはほぼ全てがレア化の対象だぞ」
「んな、それにしたってピンポイントでこんな、ヤバいのが……」
「運命の悪戯、だなぁ……!」
「何一人で熱くなってんっすか!!」
これはもう、運命だ。攻略可能だったのにバグ神が後にしようと放置したから、他のコンテンツに手一杯になって存在が希薄になっていたから、色々な要因が重なった運命なんだ。我々の全く知らない神の振ったダイス、運命の悪戯、その結果はファンブル!! 考えられる中で最悪の相手が、最悪の上昇幅を引いて最悪の状況に変わった!! これに熱くならずにどこで熱くなる!!
「さあ、見せてくれ。今度はメギドのような容易い相手じゃないぞ……!」
「メギドと比べ物にならないっすよ!! ワールドエンドボスモンスターっすよ!?」
「文字通り、最悪の結末を迎える可能性だってあるな! はははは!!」
「笑い事じゃないっすよーー!!」
ああ、この仕事最高だ。この仕事に就いて良かった、労働時間とか条件とか色々最悪だが……。今この瞬間、本当にこの仕事をしてて良かったと思えた。さあ、抗ってくれ……残酷な運命に! 見せてくれ、プレイヤーの可能性を!! その全てを!!





