472 ムーンライトソナタ
ドワーフのイメージと言ったら? そりゃあもうヒゲモジャで身長低めで筋骨隆々のおじさんですよ。本当にイメージ通りのおじさんが、そこにはいらっしゃいました。どなたがドワーフさんですか? なんて聞くまでもありません。広場でお酒を樽で飲んでる方がドワーフさんです。やっぱりお酒が、好きなんですねえ……。
「お、噂をすれば。我らの魔神様が愛する眷属神が来たじゃないか、ねえ! ローラ!!」
「あっはははははは!! リンネさんだ、お胸でっかー!! あっははははははは!!」
『おおう本当にでっけえなあ!? ついこの前までこの世の終わりみたいな有様だったが、今じゃ楽園だなこりゃあ!! 本当に女神様も居るんだもんなあ!! がっはっはははは!!』
ローラちゃんが酔い過ぎて色々と終わってます。ねーさんが酔い過ぎて職務を放棄してドワーフさんと飲みまくってます。ドワーフさんは酔ってるように見えて、実はテンションが高いだけで酔ってません。だって状態異常表示出てないもん……。この程度のお酒じゃ酔えないと、なるほどね。
「めーちゃんお酒詳しい?」
「お酒は、あの、すみません……」
「マリちゃんとティアちゃんは~……」
「我はお酒はあまり」
「あ! お酒と言ったら剛烈さんでも酔って倒れるお酒です! 千代さんの故郷にありますよっ!」
「お~……」
意外にもティアちゃんがお酒に詳しかった。あれかな、女王様になってから大人びた容姿になったけど、趣味嗜好も大人っぽくなってたり? ティアちゃんもお酒飲めちゃうのかな……。酔っ払ってとろーんとしたティアちゃん……。うん、ありだね。絶対可愛いよ。
さて、せっかくここまで来て頂いたのに酔えないお酒ばっかり出されてはドワーフさんも本気で楽しめないことでしょう。あの剛烈さんが酔って倒れる程のお酒なんだから、それは絶対ドワーフさんにウケるはず。ちょっと加賀利まで取りに行こうっか。
「ギルドポータルを~……」
『ティアラが【黄金回廊】を開きました』
「ふっふふ~!」
「…………んっ!! 早い、可愛い、偉い!! じゃ、ちょっと忘れ物したんで取りに行ってきます」
「ええ? なんだい忙しいねえ~ゆっくりして行けばいいのに」
『なんだ、挨拶もなしかい』
その挨拶を今取りに行くんですよ。待ってなさい、ギャフンと言わせてあげますから。
「じゃあ、観光がてらもうちょっと色々見て回ろうか。世界は広いのよ、めーちゃん」
「は、はいっ」
「行きましょ~!」
「なるほど、確かに手ぶらで挨拶は良くないか」
『【黄金回廊】にて【加賀利城・広場】に転移しました』
さてさて、加賀利でお酒と言ったら飲兵衛城主。そして城主の師匠よね。久々に会うなぁ~……元気にしてるかな? 加賀利の復興で大変だろうけど、こんな夜遅い時間でもプレイヤーがわいわいやってるぐらいだし繁盛はしてそうだね~。
「中に入るより、直接執政室に行こ」
「お外から行ったらお行儀悪いですよ~?」
「え、わあ……。き、綺麗……」
「めーちゃんの髪と同じピンク色の花がね、綺麗なんだよ~加賀利は。今度ゆっくり見て回ろうね」
「不思議な雰囲気の場所です……! 世界は広いです!!」
メルメイヤちゃんは黒き都市アールゲインって、巨大なブラックマーケットみたいな国……国と言って良いかわからない場所の生まれ。今まで世界の汚いものばかり見てきて、メギドの命令によって敵の存在ばかりに注意して目を奪われていたから、世界には綺麗なものが沢山あるってことを知らない。
「メルの髪は、気持ち悪くない、ですか……?」
「え? 綺麗だし可愛いよね? ねえ?」
「はいっ! お花みたいで可愛いです~!」
「我と違ってふわっとしているし、気を使って手入れしているのがわかるな」
「マリちゃんお風呂入った?」
「入った。それもちょっと前に入った。アルテナの自動浄化装置があるから問題ないのに……」
「…………屍肉のようで、気持ち悪いって、言われました」
「そいつの目が腐ってんのよ。お前なんてカビまみれのホコリまみれで不潔だって笑ってやりなさい」
「はい……はい!」
私が先にこの子を拾いたかったなあ……。真っ黒い絵の具で塗られた白いキャンバスから、絵の具をバリバリと剥がして白く戻っていく様をみるのは楽しいけど、話を聞く度に憎悪が湧き上がってくるよ。
ヘルミナ様は、こんな子が幸せな暮らしを手に入れたところから再度ドブ底のような場所に落ちていくのを見るのが好きなのかな……。やっぱり理解できない、それでも心にチクチクと刺さって残り続けて私を悩ませ苦しめる……。切り替えなきゃって思ってるのに……。
「あれあれ~? リンネさん、こんな時間に珍しいですね~?」
「あれ? え、ユキノさん?」
おろろ、ユキノさんが加賀利に居るとは予想外。なんでこんな夜遅くに加賀利に居るんだろう? いや、ここに居ちゃ駄目ってことはないんだけど、予想外なところに居てびっくりしちゃった。
「ここに居たんだ、びっくりしちゃった」
「加賀利の夜の灯りに照らされる桜の木が綺麗なんですよ~。お肉で桜と言ったら馬肉、馬刺しは生まれて一度しか食べたことがないお肉ですが、また食べてみたいですね~……」
「お肉、好きだね~……」
「大好きですよ~! 丹精込めて育てた子達を、ああいつか食べる日が来ちゃうんだ~って思うと悲しくなりますが、それ以上にどんな味がするんだろうって……えへ、えへへ……! 寂しく悲しい気持ちでさようならを伝えた後に、私のためにお肉になってくれた子達に感謝しながら命を頂くのは、この上ない幸せなんです~……。あ、また誰にも理解されないお話をしちゃいました! リンネさん、ユキノのことを嫌いにならないでくださいね?」
――――似てる。これか、これなんだ。ヘルミナ様の破滅する瞬間が美しいって感情は。
「少し、理解出来た気がする。あのね、ユキノさん……会ってお話をしてみて欲しい御方が居るんだけど」
「わあ~理解だなんて! 嬉しいですね、それでどなたでしょう~?」
「邪神ヘルミナ様。旧ルナリエット跡地、これからヘルミナスティって都市に変わってここに邪神殿が建つんだけど、もしかしたら話が合うかもって……。あの御方に必要なのは、手綱を握れる理解者だと思うから……」
「…………リンネさんが紹介してくださる方は、いつも間違いないですから~。会ってみようと思います~! ありがとうございます、リンネさん!」
「うん、もし気分を悪くしたら、ごめんね。先に謝っておくから……」
「きっと大丈夫です。では、そろそろ焼き鳥が出来上がる頃なのでこれにて~。さようなら~」
「またね、ユキノさん」
ヘルミナ様の言っていた破滅は、本当に失礼だけども畜産に繋がるところがあるなって……。丹精込めて育てた鶏、豚、牛、馬、羊、それこそ我が子のように育てた子達を、最後にはお肉にするために殺さなければならない。お肉にするために愛情を注いで育てた子供達を、お肉にする瞬間の破滅、終焉。悲しみと喜びが同居する瞬間。ヘルミナ様の破滅は、スケールが巨大な畜産なんだ。
「リンネ、さっきより少しスッキリしたような顔になったな。悩みは解決したか?」
「うーん……。顔に出ちゃってた?」
「いつもと雰囲気が違うからすぐに判る。全ては解決していないだろうが、区切りというか踏ん切りが付いたように見える」
「ちょっとヒヤッとしててツンツンしてたのが、ほわっとしました!」
「ま、まあ、そういうことだ。ほわっとした」
「まだ違いが……」
「リンネは結構何も考えていない直感タイプに見えて、深く物事を考え込む思慮深いタイプだ。苦労性とも言うな。これからもちょくちょくこの顔を見ることになる、覚えておくと良い」
「はい、わかりました!」
そんなに何も考えてないタイプに見えるかな……? いや、その方が気が楽っちゃ楽だけど……。
「ちなみに、ユキノさんと別れた後に結構長い時間考えていたのには気がついているか?」
「え? えっ!?」
「珍しく考え込んでいましたね~! だから、先に欲しがってたお酒を貰っておきました!」
「酒に弱い奴は飲むと死ぬらしい。匂いだけでも危険だから本物の酒飲みだけに渡せと言われたそうだぞ」
「異国の文字で、見たことがないです……。なんと書いてあるのでしょうか?」
そんなに長い時間考えてた!? いやうん、ありがとう……。挨拶もなしに、良いのかな。
「ああ、もう城主殿も麒麟殿も寝ているぞ。挨拶は今度でいいだろう」
「リンネ様、むしろ向こうが挨拶をしに来る立場ですよ? 神様なの、忘れないでくださいね!」
「あ、ええ、あ、そっか。じゃあ今度……これは、なんて読むんだろう」
「行政官さんが、ホウキボシって言ってました!」
「ホウキボシって読むんだ……」
「ホウキボシ、ですか……。お星様と関係があるお酒なのですか?」
『【□葬鬼星酒・特大樽】を入手しました』
ニューホープエピック!? これ、そんなにレアリティが高いお酒なの!? うひゃあーー……。これは今度何かお返しを持ってこないと、絶対やおちゃんに殺される奴だよ! 絶対お返しを持ってこよう……。
【□葬鬼星酒・特大樽】(消費アイテム・ニューホープエピック・酒)
百萬力の大鬼さえ葬るとされる清酒を超えた星酒。星空を映して一口呷れば、酔うことを忘れた酒豪でさえも忽ち極楽浄土へと誘うと言われている。酔いを忘れた酒豪の夢を叶える星酒、ホウキボシはここにあり。
不思議なことに成人に満たない者が飲むと、忽ちただのおいしい水に変わる。空を見上げて星に願うなど、未成年にはまだ早いということなのかもしれない。
ほえ~凄いお酒なんだこれ……。本当に渡して大丈夫かな、いやいや……! ギャフンと言わせてやろうと思ってここに来たんだから、これを出しちゃおう。さあ、ギャフンと言い給え! これが私からの挨拶だよドワーフさん!!
『――こ、これが、魔神の眷属神の、挨拶…………!!』
「それじゃあたしも一口…………」
「え、えへ、飲んじゃう。あっ…………」
ええっと……。月光の歓楽街に戻って皆に挨拶をぶちかましたら、全員が夜空を見上げたままとろーんとした表情で固まってしまいました……。あれだけ大騒ぎしていた酒飲み一同が、全員酔って眠ってしまったのですが、これは私が悪いんでしょうか。皆寝ちゃったらイベント進まないじゃないですか、やだー……!!





