470 理解不能な巨大ななにか
最後のチュートリアル項目が、今ようやく埋まりました。専用装備の強化についてという項目です。神器の強化についてという項目じゃないんです。私がさっき受けたダメージはおよそ25パーセント、今残りの75パーセントを受けて無事死亡しました。
「お姉ちゃんよしよ~し♡ 沢山頑張ったのにやっとスタートラインで大変ですね~♡」
「りんねーさまよしよ~しっ! ここからが本番なんですね~」
「リンネ様、よ、よし……よし……。あの、本当に、撫でて良いんでしょうか……」
「墓の王すらも容易く討ち滅ぼすリンネ様が恐れ打ち拉がれるキョウカ……! お、恐ろしい……」
「さあ、此方の耳を好きなだけわしゃわしゃしてくださいまし……!!」
「わしゃわしゃわしゃわしゃ~……あ~……」
「あ、あ、あ~♡」
「リンネは強化に勝てん。これは世の定めだ、覚えておくと良い」
「はいっ! いつもズタボロなります、かわうそう!」
『ワオーーン!! (ファブ焼肉最高ーーっ!!)』
どん太は良いなあ、自由で悩みもなくて……。お肉食べてりゃ幸せだもんね……。
『わうっ!! (ご主人も食べたら元気になるよ!!)』
「それで元気になるのは腹ペコ勢だけだよ……。どん太はどん太で引き続き勲章昇格があるしなあ……」
「それでリンネ、どのぐらいの費用がかかる見込みなんだ?」
「…………未だに素材を1個しか発見してない」
「は? え、お金で解決出来る問題じゃないのか!? それ以前に、素材そのものが未発見なのか!?」
『俺はさっき素材の名前を聞いたが、どれもこれも聞いたこともない名前だった。これがとりあえずの欲しい物リスト、だそうだ』
「どれどれ……? 本当だ、聞いたことないのばっかりだな、神器に将器に超機に宝具、合計四種の強化機を作らなければならないのか。そもそもこれの設計図からなのか……。強化に必要な鉱石や宝石などの素材も……聞いたことがないな」
『(´;∀;`)』
まずどん太、どん太の強化は【破壊神勲章】だけ。これを強化すればアーケインが一気に10とか20とか上昇するけど、素材を与えただけじゃ当然強化できない。これはレベル950を迎えた辺りから開放されてたコンテンツだったんだけど、無慈悲モード、及びアイアン無慈悲のボスを撃破してようやく対応するボス素材での強化が開放される。
つまりどん太は、真ソル真ラーラーの強化素材を使って勲章強化をしたかったら、まずは対応してるボスを倒してからねってこと。最初はどん太が一番強化簡単かもーなんて思ってたけど、無慈悲モードにアイアンマンモードがあるのを知って、それも別個に強化があるのに気がついて吐きそうになった。
ちなみにアイアンマンモードは基礎ステータス99パーセント減少とか、スキル制限とかを自分で決めてから挑戦するやつね。制限したものによって点数が決められてて、合計15点以上になると最大報酬に到達する……らしい。それ以上は自己満足の世界ね。見ないふりしてたものの一つだけど、やらないとね……。
「そもそも開放されてるダンジョンが少なすぎると思う……。まだまだダンジョンいっぱいあるはずだもん……」
「フリオニールさんが好きな宝物殿にある、電源が入っていない筐体のことだな。確かにまだまだ沢山あったということは、見つけていない場所が大量にあるのだろうな」
「頑張って探さないとね~っ! ね、お姉ちゃんっ!」
「撫で撫でしてぇぇえええ……!!」
「いい子いい子、お姉ちゃんは頑張ってる! 偉いっ!」
「運営は悪い子だ、運営は悪いやつだ……!! 強化は悪いやつなんだ……!!」
「りんねーさまは、強化になんて負けないよね~?」
「負けない……負けないから、今は撫で撫でしてぇえ……!!」
「ん~~♡ いい子いい子、りんねーさまはこれから沢山頑張る凄い人!」
私が世界の管理者から受けた説明は"専用装備化した究極神器の強化"についてだけ。つまり従者が使っている他のジャンルの装備、究極将器が千代ちゃんとおにーちゃんとヴァルさんとエスちゃんとメルちゃん……メルちゃんは保留、仲良くなるのが先。
究極超機はマリちゃん、そしておにーちゃんのオモチャ……。人数的に後回しにしたいと思うのは三流以下、強化機とか他にも必要な機械を作れるのはマリちゃんだから、ここが最優先なんだよ!! 人数が一番少ないのに、最優先……。しかもマリちゃんを神域に上げなきゃそもそも駄目だからぁあ……!! うわあああああ!!
宝具、宝具はデロナちゃん、もしかしたらメルちゃんも……? メルちゃんは保留、パートツー。回復役、最後の頼みの綱がデロナちゃんだからここを太くしないといつまでも即死全滅の脅威から解放されない。
そして神器、私とリアちゃんとゼオちゃんだけ……。そうなんです、どう見ても優先度が一番低いんです。困りましたね? 困りました、困りすぎてゲロ吐きそう。
「リンネさ~ん!! 何処で何してるのかと思ったら、戦場のど真ん中で皆さんに囲まれて何してますの~!?」
「あ……ペルちゃん……。撫でて、撫でるの。頭撫でて。ねえ」
「は、はい!?」
「さあ、ペルセウス様こちらへ。リンネ様がペルセウス様の撫で撫でをご所望です」
「撫で撫ですれば良いの、良いのね!? ほらリンネさん、何があったかわからないけれど立ち直ってくださいまし!!」
そうだ、痛み分けしよう。ペルちゃんも地獄に落とそう。
「神域到達したら、一度着用した究極装備は専用装備になるよ。交換出来なくなって、性能はそのままに強化値が全部ゼロに戻って、専用の強化機を作って専用素材でランダム強化が始まるんだよ……あは、あはっ!」
「…………素材って、どこで」
「無慈悲モードのレアドロ」
「ヒュリエスさんだったかしら、お膝を貸してくださらないかしら? ちょっと、立ち上がれそうにないですわ」
「まずはスタートラインに立ちませんと、立ってすらいませんペルセウス様」
「あ、心が!」
「ふっ……ペルセウス、破れたり……」
よし、ペルちゃんの心を折ったことでちょっと元気になった。悪い奴だよ私って奴は……!!
「でも更にコンテンツが沢山あるとわかって楽しみになってきましたわね! 早くスタートラインに立ちに行きませんと!!」
「え、復活早っ!!」
「さすが、リンネ様の大親友にして異界でのパートナー様ですね。心がお強い……!」
「お姉ちゃんはまだ立ち直れないかにゃ~?」
「りんねーさま、そろそろ現実を受け止めないと!」
「くう、ペルちゃんに負けられない……。立ち直った! 復活!!」
口ではなんとでも言えるわ! 全然立ち直れないわ!! ペルちゃんの10倍ぐらいの作業量があるんだよ、こっちは!! いやいや待って? なんで私は一人でこの強化機とかの素材を集めるつもりで居たの? ギ!! ル!! ド!! ギルドの皆の力を借りる時、今!!
「ねえペルちゃん、必要素材を掲示板に貼り出して、ギルドの皆で集めてギルド資産にしようよ、強化機……どう……?」
「え、そんなに作るのが大変なものですの? お金で解決は出来ませんの?」
「よし、戻って全員に説明しよう……。それと、無慈悲モードで突っかかってる人居たらサポートしたり、レベリングのススメとか作ったりしよう……? 毎回皆に説明してたら大変だもん」
「そうですわね! それがいいですわ~っ!!」
「じゃあ戻ろう……。あ、メルちゃん? リアちゃんが持ってきたアグニの心臓は馴染んだ? 危険因子だった心臓と緊急で交換したけど……」
「は、はい! 大丈夫です、メルは頑張ります!!」
「そっかそっか、それなら良かった……」
まずは皆のところに戻ろう……。それにしても、メルちゃんの心臓はメギドに握られてて危険な状態だったから、なんとなーくリアちゃんが持ってきたアグニの心臓に取り替えて正解だったわ。死体安置所の中で『従者の持ち物を取り上げる』ってコマンドで心臓を取り出すなんて初めて使ったけど、こういう時に使うものなのね~。まあ許可なしに取り上げると好感度激減する可能性があるから注意が必要なんだけど、今回は使って大正解だったね!
しかしまあ、リアちゃんの猫ちゃんムーブがどんどん顕著になってきたわね……。オモチャに飽きたらプイッと見向きもしなくなったり、気分次第でじゃれてきたり、倒した獲物を私に届けてくれたり、熱い飲み物が苦手になったり……。でも私がどうしてもって時はワガママを認めて受け入れてくれたり、可愛い過ぎて困るんだよね。可愛い。信じられないぐらい可愛い。でもアグニの頭と心臓をニッコニコで持って来た時はちょっと怖かったよう……。
ああ、そうだ! せっかくだから倒し残しがないかチェックしながら歩いて戻って、その間にやることリストを作っておこうか~……。
「敵の倒し残しがないかチェックしながら歩いて戻ろう? その間やることリスト作るから……」
「あ!! お姉ちゃん、頼みたいことがあります!」
「あら、なになに~? なんでも言って?」
「暗黒騎士のオリジナルさんのお墓が作りたいです」
「お墓…………?」
え、敵のお墓なんて、リアちゃんらしくない……。なんでわざわざ、しかも暗黒騎士のオリジナルだけなんて……?
「メギドは魂のない死体からでも、その肉体が培った技術や残留している魔力は利用出来るって聞きました。だから、暗黒騎士が戦っていたのを見て、その……」
「あっ……」
まさか、ステラヴェルチェの…………! そうだ、私が起こせなかったリアちゃん以外の白骨死体……確認してないけど、もしかして……。
「リアちゃんがそうするべきって思うなら、そうしよう」
「はい……」
『(´・ω・`)』
『わう~ん……』
「ティスティス様に、二度と誰も手を出せないところに送って頂いては如何に御座いますか……?」
「あっ! そう、します! 魂はなくても、体をもう絶対誰にも使われないように……」
やることリストの最上位に書くことが決まったね。暗黒騎士の遺体をティスティス様に冥界へ送って頂く、他のことはそれからだね。それじゃあ、回収しに行こうっか……。
◆ ◆ ◆
【やることリスト】
・暗黒騎士の遺体を冥界に送る――済
・ギルドメンバーへの諸々の事情説明――済
・レベリングに意欲的なメンバーの募集――済
・レベリング用の無慈悲ボス撃破解説動画撮影――順次開始
・マリアンヌの究極超機10点セット作成――進行中・優先度高
・メルメイヤと親睦を深める――進行中・好感度は非常に高いを超えそう
・専用装備化のメカニズム研究――済
・神域到達条件の確認――済
・ヘルミナ様にグナの死体を届け、バビロン様から出てもらう――追い出し済、良かった。本当に。
・グナの霊体の処分――済
・他、随時記入予定……。
◆ ◆ ◆
『遂に、追い出されてしまいましたね……。自分だけの肉体……! ああ、なんとも清々しいような、少し寂しいような』
『…………リンネ、言いたいことがあるんじゃないの?』
ヘルミナ様にグナの死体を届け、バビロン様から抜け出し再臨して頂いた。私が感じていたヘルミナ様への違和感、バビロン様は"悪癖だから"と慣れてしまっていたけど、私にはどうしても看過出来なかったヘルミナ様の大問題。
「……破滅する瞬間が、そんなに美しいですか?」
『美しいわ!! それまで信じていた全てが打ち砕かれる瞬間!! 絶望に染まる表情!! その者が持つ本質が丸裸になるあの瞬間、溜まらないの!! でも私が直接手を下した破滅じゃ駄目、愛し子に沢山沢山支援してあげて、それでも足りなくて破滅するのが好きなのよ!!』
「……バビロン様にも、破滅して頂きたいのですよね。その為にここまで、育てたのでしょう?」
『素晴らしい、私をこんなにも理解してくれるなんて! 今からでも私の愛し子にならないかしら?』
「嫌です、絶対に。バビロン様達は、貴方の望む破滅に至ることはないでしょう。私がそうさせません」
『怖い顔をしないで? 言ったでしょう、愛し子に沢山尽くして最後は破滅するのが好きだって。応援することはあっても、私は手を下したり邪魔したりなんてしない。だってその破滅は美しくないの、私の嫌いな破滅なのですよ』
バビロン様は魔を司る神だから魔神、カレン様は死を司るから死神、ティスティス様は冥界と冥きを司るから冥神。そしてヘルミナ様は邪神、真っ黒な新月の女神だ。邪神には邪神と呼ばれるだけの理由がある。私が勝手に"良い女神様、可愛らしい御方"と思い込んでいただけ、その実情は……ドス黒い闇。邪悪なる女神。
この悪癖以外は本当に愛情深く、良識のある女神様なのだろう。でも致命的、あまりにも致命的な部分が絶望的に"終わっている"と言わざるを得ない。
「その上で、自分を一番に愛して欲しいだなんて、おかしいですよ」
『私を愛してくれたから愛を返したのに、私に愛がなくなったら愛を返して貰うのは当然でしょう? バビロンちゃん、おかしいことかしら?』
『ん~♡ ちょっとその度合がおかしいと思うことはあるわね~……♡』
『あら、バビロンちゃんまで。バビロンちゃんだってリンネが他の子に取られて結婚したり子供を作ったりしたら怒るでしょう?』
『リンネはもう結婚してるわよ? その上でワタシも愛してくれる、そもそも愛に順位をつけないタイプで好きよ? それにワタシはメルティス派でなければ多神教を認めているもの♡』
『理解できない。私は私が一番が良いのです。なるほど、これがバビロンちゃんが私を切り離すことに成功した理由ですか。なるほどなるほど……』
ヘルミナ様がバビロン様の中に存在する限り、バビロン様が窮地に立たされた時に必ず破滅へと導く。その美しい瞬間を見るために、後先を考えずに必ずそうする。メギドと戦っている時にヘルミナ様が行った支援、あの時そう確信に至った。
「尊敬はしています。感謝もしています。でも、共感することだけは出来ません。だから眷属神として、バビロン様に提言しました。こうするべきだ、と」
『眷属神でなければ生意気なことを言うなとやっつけられたのに、眷属神になって大義名分を得てしまっては、しかもバビロンちゃんも納得しちゃうし……』
『だって、やめてって言ってもラブレターを渡そうとするし、あれも同性愛者とバラして破滅させたかったのよね? 今思えばそうだなって、実際被害があったし、将来致命的な破滅に繋がると思ったら~……こうするべきだと思ったのよね♡』
『私の力無しでメルティスに勝つつもりなのですね? それがバビロンちゃんの選択なら、私は引き下がりましょう』
私の世界では同性愛は普通のことだから気にもしてなかったけど、この世界では同性愛は結構特殊なこと。千代ちゃんの故郷、加賀利では大昔に女性同士でも子を成す術が編み出されてたみたいだけど、一般化していないってことはそれだけ特殊ということ。敵側にも今まで女性同士、男性同士という関係は見たことがない。私の周りが特殊なだけ。
ヘルミナ様は私に対して理解を示していない。むしろ死王ルートを蹴った時からこうなることは確定していたようなもの。ヘルミナ様はあの時親切心でラブレターをバラそうとしたんじゃない、破滅が見たくてラブレターを渡そうとしてきたんだ。今になってみれば、なんと邪悪な行為だったんだと。
『……ルナリエットに邪神殿を建てるわ。そこに住んではどうかしら』
『あら、追い出す先まで決めてくれるなんて嬉しい』
「敵対は、しないんですね」
『敵対だなんて! 何度も言うように、私は美しく破滅する瞬間が見たいだけ。邪魔したり寝返ったりするのは違うのよ、美しくないでしょう? だからあのメルメイヤという子が破滅しなかったのは、ああ、虫酸が走る……!! 何もかも諦めて哀れに散れば、美しかったのに……!!』
『体から離れてようやく実感してきたわ、ちょっとどころか相当悪趣味ね~……♡』
『同性愛だってそうでしょう? 悪趣味だわ』
『じゃあどうしてエクリティスお母様と子供を作ったりなんてしたの!!』
『女神同士の間に出来た子供達が、どのように歪んで育つのか見たかったからに決まっているでしょう!! でも、まさかメルティスがあそこまで嫉妬に狂い、殺戮の女神になるとは予想外でした。メルティスはどうしても子供が出来なかったのでしょうね。全く、私にまで刃を向けるとは……』
やっぱり、ヘルミナ様は……邪悪だ。新月のように真っ暗で、致命的なところにポッカリと穴が空いたように狂っていて、邪悪な女神様なんだ……。他者に破滅を願うこと以外は正常だから、なおさらたちが悪い。
「……バビロン様、お話を聞き入れてくださってありがとうございました」
『またいつでも来なさい♡ ワタシの眷属神なんだから、遠慮なんて要らないわよ♡ じゃ、後はこちらで片付けておくわね』
『さようならリンネ、新しい体をどうもありがとう』
「さようなら、ヘルミナ様。また来ます、バビロン様」
思うことはある、理由は最低なものだったとしても、それでもバビロン様達を育ててくださったのは真実。はあ、なんだろうこの、なんなんだろう……。怒りでも悲しみでも憎しみでも、どの感情も当てはまらないモヤモヤした気分……。虚無とか空虚、ともまた違う……。ん~……!! わかんない、親って、なんなんだろう!! わかんないよ、親ってなんなんだろう、なんなんだろうね!! 私にはわかんないよ……。全然わかんない……。





