467 ぶっちぎりでイカれ過ぎた女・7
全盛期同然の力を取り戻して尚、未だに傷ひとつ与えられない。いったいこの若さで、どれだけの修羅場を潜り抜けてきたと言うの……!? 私はこれまで、数々の悍ましいモンスターを退治し、凄惨な戦場を無傷で潜り抜けてきた。だから相手の力量は当然わかる……目の前の少女は取るに足らない程に脆弱だと、そうはっきりと感じられるはずなのに……!! 直感が感じる脅威と実際の実力の差が、大きすぎる!!
『ガウゥゥウウ!!』
「ぐ、ああ……!!」
「癒しの手よ!!」
あの魔獣も、見た目通りの実力ではない……! 目で追えない程のスピードに、地を蹴り上げた時の反動すら殺せるその技量、土埃一つ上げずに、全く脅威を感じさせずに、確実に相手を死に追いやる一撃を放ってくる……! それでもメギドが傷つき倒れれば私が回復してあげれば問題ないと、最初はそう思っていた。しかしそんなことをしたらあの少女は私の隙を見逃してくれるはずがない。
「うっ……!?」
無言で、一切の無駄なく、あの少女の大鎌が振り下ろされる。命を刈り取るという概念が具現化したような大鎌が、黄金の残光を帯びて振り下ろされる。私の直感に、何の脅威も感じさせることなく。
この一撃を止めることは容易い。聖盾ハルメイナを構え、受け止めるだけで防げるのは既に実証済み。しかし、構えられない。この大鎌が果たして本当に振り下ろされるのか、それとも形状を変化させ突如大槍に変わるのか、はたまた攻撃を止めて左腕を狼に変化させての噛みつき、斬撃なのか、もしかしたら突如術を使うかも知れない。そしてそれら全てに対して全く――――脅威を感じることが出来ない。
防御可能なはずの攻撃が、防御出来ない。自分でも何を言っているか理解できないけれど、目の前の攻撃はそう、防御できるはずなのに防御が出来ない! 攻撃される度に脳内がパニックを起こし、逃げる以外の選択を取ることが出来ない。
『逃げられない』
「……ッ!」
こんな些細な一言に、次はどうすれば良いのかわからない。私だって数々の修羅場を潜り抜けてきた、対人戦だって何度だって、何十何百何千と、救いようがないのであれば鉄槌を下すことだってあった。
そしてなにより、大鎌という形状が良くない。剣での攻撃を試みたら最後、巧妙に受け流されて引きの一手で背中を狩られる。今度は背中に注意して聖盾を背に発生させれば、大槍に姿を変えて腹を突かれるか、大杖に変えて脳天を割られる。戦闘のセンスが何倍も、私より遥かに上……! 身体能力は間違いなく私が勝っているはずなのに、一対一の戦いでこの少女に勝てる確率が…………極めて低い。
「っだぁあああ!!」
一か八か、聖剣ハルメテウスの力を解放して、この窮地を切り抜ける! 聖なる光の剣ハルメテウスは、例え相手が聖なる力を無効化出来る悪魔であっても、吸収できる力を持っていたとしても、それらを無視して即死させる力を持つ!!
「ハルメテウスセイヴァー!!」
そして何よりもこの力の解放から繰り出される斬撃は、目で追うことすら不可能、感知不能な一瞬の斬撃!! この、一撃で!! 狙うは……!!
『なるほど、速い。でも、ただそれだけ』
『ガオウゥゥゥウウ……』
「…………え」
魔獣を、狙った一撃だった、のに……。どうして、魔獣にこの光の剣が、受け止めきれるの……? は、離しなさい……! この剣に、魔獣が噛みつくなど……!!
『ワウッッ!!』
「く、だけ、た……。グナの、聖剣、ハルメテウスが……!?」
「え……。え…………」
『レプリカと一緒か。耐壊属性が付いていない使い捨ての聖剣、どん太の破壊神スキルの前には、そこらの棒切れ同然ね』
「ぼう、きれ……?」
聖剣、ハルメテウスが、棒切れ……? 棒切れ、ですって……?
『早く剣を再生させたら? それがハルメテウスの能力でしょ? そもそも壊れない性能だったら、イチイチ剣身を再生させるとかしなくていいのに……。無駄機能ばっかの名ばかりのナマクラだわ、ほんっと』
「ハルメ、テウス……!!」
違う、この剣は私の覚悟の象徴……! 幾多の戦場を、何度心が折れそうになっても支えてくれた、私だけの聖剣!! お前なんかに、何がわかるというのですか!!
『ここまでの防御と回避の判断の早さは、ん~……。無慈悲ゼオちゃんが100点としたら、50点ぐらいかな。まあまあ強い』
『ワウッ!!』
『攻撃のほうは10点ぐらいかな、弱い。まさか今の攻撃が切り札じゃないでしょ? 満月の力で強化されて、まさかこれだけ? レベルはお飾りだったのかな、やっぱり原初のマナを取り込んで、無理やりレベルと身体能力を上げてただけだったんだ』
今、私のこれまでの人生を、その全てを…………踏みにじられている。まるで、私という商品に、値札を付けているかのような……!! その上で"微妙な商品"として、見られている……!!
「…………はぁああああああ!!」
今度は先のことを考えない、手加減なしの本気よ……! 今まで使ったことがない領域まで魔力を高めて、この攻撃に全てを集中させる!! 正真正銘の必殺の一撃!!
『やっと本気? じゃあこっちも、本気を…………出さないとねぇええええええ!! 主よ……!! 私を憐れみ給え……!! 私の罪を受け入れ給えぇええええええええええええ!!』
「ば、ばけ……もの……!!」
今やっと、どれほどの脅威なのか、理解出来た……。この少女が力の解放すると共に、私の目にはっきりと…………。勝てるはずがない、こんな、馬鹿げているほど巨大な魔力…………。メギドの何倍? 何十倍? はたまた何百……? 最初から、勝ち目なんてない戦いだった……。それでも、それでも……!! それでも、戦わなければならないの!! 戦わなければ、生き残れない!!
「ハルメテウス、私に力を!!」
「く、冥き闇の力よ……と、時の道標よ……!!」
『ガァァアアアアア!! ワォォオオオオオオオオオオオオオオーーン!!』
『くたばれぇえええええ!! 幾千幾万の犠牲となった者達に、永遠にあの世で詫び続けろォォオオオオオオオオオオオオオオオーー!!』
――――ああ、ああ…………。月が、綺麗…………。
◆ ◆ ◆
『どん太が【一打全力掌】を発動、空の器・メギドが崩れ落ちました……』
『…………わう? (なに、これ?)』
面白い。どこまでもどこまでも私を怒らせてくれる超ド級の屑野郎、これだから屑は底が知れない。ここまでやるか、こうまでするか。そんなにも生き延びたいのか。本当に、本当に面白い。
『(あーっ! 逃げられちゃいましたーっ!!)』
「逃げられた」
『わうっ!? (逃げたの!?)』
「死術を舐めていた。自身は死ぬ直前に肉体を捨てて、スペアの肉体に乗り移ったみたい」
『ガウッ!! (探してこようか!)』
「そしてこのための時空魔術か……。自分達だけ時空魔術が使えるようにしてたのは、万が一のために自分だけ逃げ出せるようにしてたんだ。グナは時空魔術で転移させられ逃された。追跡にはその道のプロが必要ね。リアちゃんを呼ぼう」
時空魔術を制限していても、死体安置所が使えたのはさっき確認済み。恐らくメギドと近い力のこのスキルは制限から外れていたんだろうね。強制納棺からの召喚で呼ぼう。
『【死体安置所・にゃ王様】に【オーレリア】を強制納棺します』
『【死体安置所・にゃ王様】から【オーレリア】を召喚します。10分間のクールタイムが発生しました』
「はにゃ? あれ? 凄く怒ってますけど、私なにかしました?」
「ここから時空魔術を使って逃げた屑がいる。地の果てまで追いかけ回して確実に殺す。追いかけられる?」
「にゃっふふ~ん。私を誰だと思ってるんですか~。ちょっと集中するので、5分だけ! 時間をください……」
「お願いね……その間に、八つ当たりしてくる」
「八つ当たり……? あっ……」
『(あっちで、グランディスっていう人が怪物になってて苦戦してるみたいですっ!)』
「どん太、グランディスのとこ。走って」
『わうっ! (落ちないように掴まっててね!)』
「ん」
逃さない。追いかけて、追いかけて、どこまでも追いかけて必ず殺す。スペアのボディ如きで逃げ切れると思わないことね。
『【ネクロチャージ】を発動、【死体安置所・15】の【真聖女ラーラー】を消費してMPを完全に回復しました』
「絶対に逃さない……。お前だけは……」
その前に、八つ当たりに行こう。まずは怪物になったグランディスって奴から始末するとしよう。





